太陽が頭上を過ぎて日時計のオブジェが昼過ぎを示した頃。
廃墟となったビルに巻き付き侵食した巨木を登り屋上階で昼食になった。
大切な話があると
5階建てのビルと思われそこそこに見晴らしはよく、そうそう誰かに見つかることはないだろうと思った。
登ってから気づいたことだが、
巨木登りも冒険者の体では楽なもので、高さからくる恐怖はあれど、非常階段のようにビル側面に食らいついた巨木は出っ張りも枝も幹も多く登るに不自由はしなかった。
1番困ったのが
が、ビルの横穴から1階に入り込むと脆くなっていた天井を突き崩して穴を開け、その穴を跳躍して上の階に登ってくる、誰も予想しなかった荒技で屋上に上がってきた。
「こんな方法もありだったんですね」
「脳筋だなあ」
せっかく先ほど綺麗になった毛並みがコンクリート粉やホコリでまた汚れて、王燁ちゃんに怒られていたが。
翠姐さんが魔法の鞄から引っ張り出してきた敷き布を申し訳程度に敷いて、索峰さんが出した果物を齧りながら、索峰さんが言うところの「大切な話」を聞いた。
ギルドウォーシステムが残っていること、領主不在のこと、それを踏まえた今後のこと、とりあえず必要と思える準備のこと。
それに対する翠姐さんの意見と〈
成人組2人に共通しているのは、燕都に居続けると面倒なことになりそう、燕都にいる限り生活は悪化はしてもすぐに良化はしないだろう、という認識だった。
私は乏しい知識ながらなんとか話についていったが王燁ちゃんには難し過ぎたようで、時々質問を行っていたがそれでも理解したか怪しいところだった。
むしろ角端の方がしっかり耳を傾けていたような気がする。
「
「〈軍馬〉ならありますよ。翠姐さんが入手クエストに連れて行ってくれました」
「翠姐グッジョブ」
「いろんな場所に連れて行くのに必要だったもんね」
〈軍馬〉は中国サーバーにおける、騎乗用生物の中でも最もポピュラーな召喚生物のうちのひとつ。と、以前聞かされた。
1日の召喚時間は現実時間で8時間、そこまで長時間の連続ログインをすることがなかった私には必要充分な使用時間だった。
「王燁ちゃんはそういうのなにか持ってる?」
「持っていません。でも、〈ファンタズマルライド〉で代用できます。父様が経験値稼ぎのためにもそうしろと」
「あー、なるほど。なら4人とも大丈夫かな」
「翠姐さんは上級の〈駿馬〉持っていましたけど、索峰さんはなにか持ってるんですか? 見たことない気がしますけど」
「〈
「狐さんなの? 見たーい!」
退屈そうに見えた王燁ちゃんが、目を輝かせた。
「見せてくださいよ、索峰さん」
騎乗用生物の知識も豊富とは言えず、私も興味があった。
狐に狐の取り合わせに面白さも感じたというのもある。
「見せてあげなさいな。この世界で呼んだらどうなるのかあたしも興味あるし」
そのひと押しで索峰さんは竹笛を取り出すと、静かにひと旋律吹いた。
ビルの屋上階である。どこから出てくるかと辺りを見回すと、階下を何かが駆ける音が聞こえて、先ほど角端がぶち抜いた天井の穴から熾火色の大きな狐がするりと登ってきて、索峰さんの横に腰を落ち着けた。
体高は低いが大きくも華奢な体は、いかにも軽やかな走りをしそうだった。
「触っていいー?」
「好きにしてくれ」
王燁ちゃんが恐る恐る、といった感じで〈赤騎狐〉を撫で始めた。
なかなか勇気あるなあと思う。ビビッドな色合いをした気難しそうな狐に郭貂麟はちょっと腰が引けていた。
「ねえ貂ちゃん、角端が拗ねてるよ」
翠姐さんが振った先、角端が誰にも目を合わせずどこか憮然とした感じで景色を見ていた。
主人を〈赤騎狐〉に取られ拗ねた、という表現が確かに正しそうだった。
「案外独占欲強いんですかね」
「そうみたい」
そんな角端を見てか、〈赤騎狐〉がすいませんといった感じでだらりと前脚を投げ出し頭を地につけたのは果たして偶然だったのだろうか。
「それにしても、角端もそうでしたけど、しっかり生き物ですね、この狐も」
「すぐに索峰が乗らないってわかったのか、暇そうね。王燁ちゃんが触るために呼び出されたのもわかってるのかしら」
「さあ……?」
思えば、ゲーム時代に用もないのに〈軍馬〉を呼び出して、結局なにもせずに呼び出し解除したことも何度かある。ちょっとした罪悪感が今更湧いた。
どことなく面倒そうに〈赤騎狐〉を呼び出していた索峰さんは実際に見て思ったより興味を惹かれたのか、遠慮の壁を取り払い王燁ちゃんと2人で脚を持ち上げたり尻尾を立たせてみたりベタベタと触っている。
さすがに〈赤騎狐〉の顔は嫌そうに見えた。
「ねえ索峰と王燁ちゃん、そろそろ話戻していいかしら」
「えーと、どこまで言ったっけか」
「全員の騎乗生物があるか、というところまででした」
「あー、はいはい思い出しました。だったらあとは寝具の問題だけだなとりあえずは。
なるべく野宿は避けて、
「キャンプみたいです!」
「概ね間違ってはいないと思うわよ」
体が小さくはなったが、郭貂麟の身体能力は大きく向上し元の人間の肉体に比べると超人と言っていいほどの動きができる。
それでも行動を繰り返せば気疲れはするし、眠気も来る。
肉体的疲労に関しては正直あまり感じない。最初の晩の索峰さんを思うとその気になれば無視できるのかもしれないが。
それよりも、MPを一気に大量消費すると虚脱感が辛い。
胃液を吐き出すような、気力を絞り出されるような感覚に囚われる。
翠姐さんと索峰さんには一気にMPを使ってもそんな感覚はないらしい。
ゆっくりMPが減っていくようなペースで特技を使ってもそんな感覚は襲って来ない。理屈がわからない。
翠姐さんには、装備が整ったら絞り出される感じも緩和されるかもしれないと言われた。
「テントか幕舎かモンゴル式ゲルになるかわからんが、そういうものもひとつ要るかな。調理器具は、まあ、あの味だしいらないかな……」
「小分けにできる袋があればいいでしょうね」
「大きめの水筒と、塩と砂糖と蜂蜜ぐらいは用意したいわ」
塩、砂糖、蜂蜜。
果物ではないが、調味料もまた、味のするものだった。
野菜に塩を振りかける、ぐらいでは素材それぞれの味があるが、焼いた野菜に塩、となると、焼く段階で炭か謎のゲル状の物体である。
砂糖は精製過程で加熱していると思うが、なぜか味がする。どのような区別なのか。
果物にも甘みはあるが蜜の甘みはまた別で、蜂蜜も味がするとわかった時に熊さながらに舐めてしまった。それほど味という方向では飢えている。
塩もまた同様で、果物では絶対に代替にならない塩味は口直しになる。
喉が渇いたとなると、現状水気の多い果物を摂取するのが味のある水分補給だが、水分補給のために果物を食べるほどの手間と時間をかけられない時もまた多く。
すると飲み物ということになるが、コーヒー紅茶烏龍茶と、口当たりと色は違えど例によって味は安物ミネラルウォーターで均一。
さすがにそれでは厳しく、郭貂麟はミントを口に含むことでなんとか誤魔化した。微妙な清涼感が加わるのでないよりはマシ程度の風味になる。
「あとは酒だ」
お酒も味はしないそうだが酔うことは何故かできていた。酔いは長続きしないそうだが。
「どんなリスクあるかわかりませんから、ほどほどにしておいてくださいね」
「王燁もお酒臭いのイヤ!」
「現実では大酒飲みじゃなかったから大丈夫、多分」
「あ、お酒はギルマス権限で却下させてもらうわ。教育に悪い。それに飲まなくても生きていけるでしょ、こっちでは。あたし飲まないし」
「んな殺生な」
「頭脳担当が酔っ払っている間になにかあったら、自慢じゃないけど対応がどうにもならないのよこっち3人は。よってある程度落ち着いたら解禁。それまでは禁止。飲みたかったら状況を落ち着けること」
「うっそぉ……」
そんなに酔いたいのか、と未成年の身からは不思議にすら思える。
索峰さんが酔っ払っている間に有事が起きれば、間違いのない対応ができるかは自信ない。王燁ちゃんはなおのこと無理だろう。
大局を見た上で1番正解を導き出しそうなのは、索峰さんだ。
「そうは言いますけど、翠姐さんも、もうちょっとしっかりしてくださいね。仮にもギルマスですから」
「前向きに努力します……」
油断していた翠姐さんにも水を向けておく。
プレイヤー単体での戦闘能力で〈翠壁不倒〉最強は翠姐さんである。
〈幻想級〉武装の力を借りた机上火力は中国サーバーの〈
索峰さんも〈
管理する事柄の多い〈吟遊詩人〉への理解は非常に深く、戦闘やゲームへの知識的な深さでいえば翠姐さんを上回るだろう。
この2人に比べれば、郭貂麟と王燁の戦闘能力はまるで話にならない。
角端の戦闘能力は全容を見せていないが、王燁本人の戦闘能力は角端の
〈
スキル構築を角端に非常に大きく依存しているそうで、それが命令無視の独立行動という断絶を起こし相当な数の死にスキルを発生させたようだ。
「話だいぶ戻りますけど、騎乗生物じゃなくて、馬車買うのはどうなんですか? 荷物たくさん積めそうですけど」
安くはなかったが索峰さんなら買えない額でもなさそうだった。
「買ってもいいかなとは思った。でもあまり道を外れられないから無しの方向で。道がどれだけ整備されてるのかもよくわからないし、移動速度も落ちる。
プレイヤーにしろモンスターにしろ、襲撃された時に馬車守るのが面倒くさい。守りにあまり向いてない職しかいないから。後衛に王燁ちゃんも増えたし」
「壁役いないものねえ」
積極的に前に出て行ける能力を持っているのは、実質翠姐さんだけだ。
もしかしたら角端も前には出られるかもしれない。
索峰さんも一応武器攻撃職だが、基本的に弓兵であり接近戦にはあまり加わらない。
その状態で馬車を防御しろ、というのは確かに難しそうだ。
誰も敵の突撃を正面から食い止める術を持っていない。
「改めて考えると、守りにく過ぎますね……」
防御を考えると私の存在が足を引っ張りそうだった。角端抜きの王燁は連携面でも戦力面でも技術面でも期待できそうにない。
「馬車があれば、雨の中でも移動できたでしょうけど」
「そもそも風邪引くんですかね? この体」
「ゲーム時代には疫病って状態異常あったわよ。だから病気そのものはこっちでも存在してると思うわ」
「大雑把なくくりですね、疫病って」
「どこまで病気が細分化されるかなあ、未知のウイルスや細菌は普通に居そうだし。そもそも医者ってどうなんだこの世界。いてもおかしくはないだろうが、どの程度の医療レベルなんだろ」
「なるべく病気の元になりそうなことは予防しておいた方がいいのかしら」
「そうなると、果物ばかりというのも栄養偏りますけどね」
「肉のみ魚のみ穀物のみよりはバランス良いでしょ、果物食は」
「ねー、テント買いに行かないのー?」
またしても王燁ちゃんを置いてあまり話が進んでいた。
皆とうに昼食を終え、腹も落ち着いている。
昼休みとしてはちょっと長すぎるぐらいの時間が経過していた。
「ならキャンプ用品探しに行くかね? あるのか知らんけど」
「そうしましょそうしましょ。無くても布加工して作るぐらいの気概でなきゃ」
「またそれは豪快な……」
索峰さんが〈赤騎狐〉に乗らない旨を伝えたらしく〈赤騎狐〉はどこか悲しそうに木をするすると降りて街角に消えていった。
角端もやっと話が終わったかと言わんばかりに体を震わせた。
***
各々の野宿用寝具を整え調味料を買い揃え
明日はどこかで1泊する覚悟で南西へ向かうそう。道中自生している果物があれば採集も考えているという。
サンフランシスコで働く父様とはボイスチャットを介して会話しながら遊ぶことが常だった。
北京は真夜中もいいところだが、サンフランシスコは真昼。たまたま休日が一緒になったのと新規アップデートが重なったので、父様が母様を説得して夜更かしを許可してもらった日だった。
いつも父様は〈
あの日メールで「ちょっと遅れる」と連絡があり、王燁は先にログインしてボイスチャットの呼び出しを待っていた。
王燁がギルドの部屋に閉じこもったのも、父様が迎えに来てくれるかもしれないと考えていたのだ。
しかし、1週間が経過しても父様のプレイヤー名は暗転しており、中国サーバー管理範囲内に不在である、と表示されたままだった。
拾ってくれた〈
「すぐには無理だろうな。国外のサーバー管区に飛べる〈妖精の輪〉の乱数ってそこまで多くなかったし、今乱数がどうなってるかもわからない。
計算ソフトも無しに飛び込むのは、1人じゃリスクが高すぎる。どっか変なところに飛んでリスポン固定されて孤立無援に陥ったら最悪だ」
「私達でもまだ街からあまり出られていませんから。現状把握が精一杯だと思います。旅行だって地球半周もするならある程度予定立ててからですから」
「もし運良く中国サーバーの範囲に飛べたとして、念話で無事を確認できたら良い方だと思うわ。燕都の近くに飛んで来るとも限らないし、そこから1人旅はあたしでも厳しい」
「現実的なところで、なんでもいいからアメリカを脱出したい人、もしくは中国に戻りたい人を集めるところから。すぐに国外脱出は難しいと思うよ」
その返事は芳しいものではなかった。
こちらから父様を探しに行くのはどうかとも聞いた。
「それはやめた方がいいわよ。仮にアメリカに飛んだとして、お父さんがログインしていたかどうかの確認がこちらから取れないもの。もしかしたら向こうも移動中の可能性がある。
親としては8歳の娘が自分を探してアメリカに来るとは普通思わない。このゲームの知識も乏しいならより一層。王燁ちゃんの性格はまだよく知らないけど、冒険心と行動力に溢れる子だったかしら?」
「…………いえ」
「だったら、王燁ちゃんは中国内にいる方がいいわ。どうしてもアメリカに行きたいなら、そういう人を集めるしかない。悪いけど、ウチは国外まで王燁ちゃんを護衛する理由はないの。国内ならまだいいけど」
当然といえば当然の宣告だった。
もし父様がアメリカにいると確証があれば、親子合流のゴールが存在する。
その確証が持てていないのでは、父様が巻き込まれていない、ゴールそのものが存在しない可能性があるのだ。
仮に父様がこの世界にいるとしても、連絡を取るまででも相当時間がかかるはず。そういう結論だった。
父様にも会いたいが、それがすぐには実現しないことは確からしい。
それでも、王燁は一晩泣いた。
淡い望みを改めて他の人の口から難しいと告げられて、理解してしまった。簡単に割り切れるほど心を制御できない。
泣いたのは、わけがわからず1人が怖かった最初の夜と、家族と離れたと実感した2日目、そして今晩の3回目。
この世界に落ちてから3日目には気持ちが塞ぎ、それからはあまり時間の感覚がなかった。
そのまま1週間近く誰とも会わず話もせず、ということは初めての経験で、そんなに経っていたのかとすら思う。それだけ衰弱しない体になったとも。
いないかもしれない人探しに出会ったばかりの人が協力してくれるほど都合のいい話はない。
国内移動なら協力してくれると、出会ったばかりで言ってくれているだけでも相当な幸運に恵まれている。そのことを噛みしめるのに時間をかけた。
アメリカに父を探しに行くというのも、王燁は塞ぎ込んでいた間に密かに期待していた考えではあった。
しかしこの世界での対プレイヤーファーストコンタクトは、初回から襲撃された。
運良く助けてくれた人たちにもアメリカ行きの浅慮を咎められ、その意欲も萎えてしまう。
明らかに不安定な状況で頼れそうな人が3人はいかにも心細いが、王燁自身にはツテがない。
自分で新たに仲間を探してアメリカへ向かうという方向は、絶望的なファーストコンタクトのせいで恐怖がある。
出せる対価も能力もないので、どうしても王燁は養ってもらう立場。
誰かにお世話になるにしても、今より良い待遇になる保証はどこにもない。
知り合い皆無なスタートで王燁の人となりを理解しようとしてくれている人たちに巡り合っていることすらも幸運側に寄っているのかもしれない。
どうすればいいか、判断はつかない。
床に寝そべっている
玲玲の耳がピクリと動いたが、目を開けない。
「玲玲はなにしたいの?」
おそらく王燁よりこの世界のことを深く知っている幻獣は、答えない、動かない。
「昨日、素直にあの人たちに従ったってことは、玲玲にとって好都合な出来事だったの?」
昨日、王燁を背に乗せたまま猛然と駆け出した時と戦闘中は、鬼気迫るものがあった。
今日はどこか悠然と構えていて、なにをするのか観察する、もっと言えば見守るような感じすらあった。
昨日の様子が焦って見えるほどに。
「お腹空いてたわけじゃないんでしょ?」
玲玲は林檎が好きらしい。
毎食、
差し出されるものは王燁以外の手からは食べようとしない。
「なんで言うこと聞いてくれないの?」
〈
〈戦技召喚〉で短時間能力を行使する場合はMPを消費する。〈従者召喚〉した生物とリンクしている〈戦技召喚〉を使うと、MP消費量は軽減される。
玲玲の場合は〈従者召喚〉で、きっちり王燁のMP上限値は削られている。
ゲーム時代と削られた量に差はないが、玲玲単体の戦闘能力はゲーム時代よりも格段に上昇していた。
代償として王燁の持つ角端関連の〈戦技召喚〉は壊滅状態になった。
その代わりなのか、玲玲が〈戦技召喚〉にカテゴライズされていた特技を自分で勝手に発動させて王燁を守った。
その際王燁のMPを横取りして消費しながら戦闘を続行していた。
ただ、ゲーム時代に玲玲を〈従者召喚〉した状態で関連する〈戦技召喚〉を使った時よりも、MPの消費量は更に少なかった。
そうそう長時間は遊べなかったので、最初に父様が用意した装備が汎用構成に寄っていたのも災いしている。
召喚生物に関係ない特技もあるが、習熟度はほとんど上げていない。
バフ、デバフ、範囲攻撃、単体攻撃、範囲回復、単体回復、ほぼ全て角端の能力で賄えてしまっていたからだ。
「たてがみむしっちゃうよー?」
脅しにも玲玲はピクリともしなかった。
翻弄しておきながら問いに対しては我関せずを貫く玲玲にちょっと腹が立った。
ベッド脇で床に座っている玲玲のたてがみに手を伸ばし、本気でいくらか抜いてやろうと掴んで引っ張った。
玲玲の毛根はその態度同様がっちり根を張っていた。
毛質もしっかりしていて、力を込めて引き抜こうとしたがこちらの手の皮の方が裂けそうだった。
まとめては無理かと、たてがみ数本を指に巻きつけて引っ張った。
小癪なことに、たてがみも毛根も、強化された王燁の力を上回る強度だった。
頑として抜けず千切れることもなく、指が痛くなるだけだった。全くもって腹立たしい。
一応、痛いことは痛いのか玲玲もさすがに目を開けたが「なにをしているんだこいつは」とばかりに、一瞥をくれただけだった。
しばらくたてがみを抜こうと試みたが遂に1本も抜けず、飽きたので王燁は毛布を深く被ることにした。
〈従者召喚〉〈戦技召喚〉の解説
大元のこととして、ゲーム時代の『エルダー・テイル』には召喚獣自体がある程度の自動戦闘AIを搭載されていた。
〈従者召喚〉はお供として半永久的に召喚状態を維持し、ある程度の自動行動で召喚主をサポートさせる。
直接戦闘補助であったり術者や周りに支援効果を撒いたり召喚するモンスターによって方向性は異なる。
〈戦技召喚〉は短時間召喚。
召喚生物が持つスキルを使わせる命令とも言えるもの。
行動後に召喚生物は消えるが、別の召喚生物が既にいても使えるメリットがある。
〈従者召喚〉で召喚済みの召喚生物に関連した〈戦技召喚〉を行なった場合は、召喚と消滅が省かれるぶん要求されるMPは低くなる。
〈ファンタズマルライド〉は幻獣種を〈従者召喚〉中にのみ使用できる召喚術師の騎乗移動スキルである。