『ログ・ホライズン』 幻獣記   作:Kaisu

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角端を人化させる意味をカケラも感じられなかったため、完結まで角端は獣のまま。





強行開始

 早朝に〈燕青大飯店〉を引き払い、索峰(さくほう)らは街の門のすぐ手前の広場まで歩いた。

 

 燕都(イェンドン/北京)外部の村落や集落で金目のものを大量購入する予定なので、崔花翠(さいかすい)と2人でかなり多めの金貨を分けて持ち出している。もし索峰と崔花翠がどちらかでもPKで大神殿リスポン送りにされた場合、かなりの経済的出血を伴う。

 郭貂麟(かくてんりん)王燁(おうよう)にも、欲しいものがあれば概ね買える程度には金貨を渡している。

 さすがに、プレイヤースキルでも装備性能でも劣る2人に大金を持たせるのはリスクが高すぎた。

 

 PKされると非常に困る上に、予定ルートではどうしても数カ所で気の抜けない高レベルモンスターゾーンを通過するので、全員本気の装備で固めている。

 崔花翠は〈幻想級〉の斧を装備しており、索峰もユニークスキルを付与した〈秘宝級〉装備で全身ガチガチに固めてある。

 2人とも生半可な高レベルゾーンなら単独で切り抜けられるだろう程に。

 

 

 索峰は〈赤騎狐〉呼び出しの竹笛を、崔花翠と郭貂麟は〈駿馬〉〈軍馬〉用の角笛を、王燁は玲玲(れいれい)に〈ファンタズマルライド〉で一足早く騎乗済み。

 王燁を除く3人は騎乗用生物はぶっつけ本番である。本当は練習が必要かと思っていたのだが、王燁が「体が勝手に対応した」というありがたい経験則をもたらしてくれたのだ。

 昨日も王燁は街中に合わせて小さくなった角端(かくたん)に鞍を載せず手綱もつけず、裸馬状態のまま横向きに座っていた。それでも尻を痛めることはなく、時に跨り角端を駆けさせたが乗りこなしていた。

 

 ほとんど同時に召喚笛を吹いたからか、3頭の騎乗用生物がまとまって門の外から駆けつける。その中で〈赤騎狐(せっきこ)〉だけが「ちゃんと乗るんだろうな」と訝しげな視線を索峰に向けてきていた。

 〈赤騎狐〉が背負っている鞍は1人乗りだが、〈駿馬〉は鞍を2人乗りにすることも可能だった。

 もっとも、ゲーム時代の中国サーバーは1人最低1頭の騎乗用生物所持が当たり前だったので、2人乗りはそうそう見るものではなかったが。

 

 

「どう? なんか異常あるかしら?」

「こっちは大丈夫です、多分ですが」

「並ぶと〈赤騎狐〉の体高低いな。乗り心地は特に異常はなさそうだが」

 

 日曜乗馬教室といった感じで、それぞれ思い思いに歩かせて様子を見た。

 ちゃんと手綱を握り鐙をしっかり踏んでいれば、走り出した途端に転げ落ちるなんてことはなさそうだった。

 

「索峰、そろそろ行かない? 早い方がいいんでしょ?」

 数分間試しただろうか、崔花翠から声がかかった。

「それじゃま、行きますか、振り落とされない程度に、なるべく速度出して」

 時刻で言えば午前6時ぐらいだろうか。まだ出歩いている大地人(一般NPC)の数は少なく、プレイヤーは輪をかけて少ない。

 

 索峰は燕都を出た直後と帰りに燕都の周りで待ち伏せされることを最も警戒した。対プレイヤー戦はなにが起きるかわからない。

 ある程度燕都から離れてしまえば、ゲームを下敷きにできるモンスターを相手取ることになる。こちらの方が(くみ)し易いと見ていた。

 

「準備完了です、索峰さん先導お願いしますね」

「おうよ」

 

 先頭及び最後尾は相対的に火力と耐久力のある索峰と崔花翠で受け持ち、その間に郭貂麟と王燁を並走させる。

 引き撃ちの名手である崔花翠は最後尾を任せるのにちょうどいい。

 ルート選びは索峰がしばらくは選ぶ。燕都周辺だけは頭に道を叩き込んであった。

 

「はやく行こー」

 既に角端に乗り慣れている王燁にとって、索峰らの慣らし運転は暇な時間だったようだ。

「じゃあ、出発!」

 崔花翠の号令で、索峰は〈赤騎狐〉の横腹を蹴った。

 

 

 最初は緩やかな坂を下る自転車程度の速度だったが、横腹を蹴り続けることですぐに疾駆に移行する。

 体は難なく上下の揺れに対応し、前しか見えないというほどは没入していない。

 全方位の警戒とまではまだ慣れていないが、後ろで崔花翠と郭貂麟が驚嘆の声を上げているのには気付く余裕がある。

 

「速いな!」

 速度計がついていないので正確なところはわからないが、時速30〜40km/hぐらいは出ているのではないだろうか。体高が低くて地面が近く、上下に視線がブレるので迫力がある。

 南門から出て南西の、現実の中国であれば河北省の石家荘市にあたる街へ向かい、そこから時計周りに北上して村を巡りながら西門から燕都に入る予定を立てている。

 

 

 ご近所の天津、ゲーム表記〈津鎮〉は燕都の人口分散地扱い。

 有り体に言えばコピー都市のため、燕都で出来ることの多くが可能な代わり、索峰が求める新たななにかがある可能性は低かった。

 

 加えて既に津鎮には自主的なプレイヤーの流出が始まっている。

 元来燕都と津鎮の間には運営によって意図的に低レベルゾーンしか設置されていない。

 これら2都市を行き来させて新規や低レベル期のプレイヤーの育成を捗らせる設計で、ドロップアイテムも低レベル帯では有用なものが多く、初級者用育成ゾーンとして有名だった。

 

 そんな場所なので、燕都と津鎮の間の陸路移動はよほどのことがない限り事故は起きない。それはこの世界でも同様だったようで、転移後3日経たずに単独往復を達成したプレイヤーが現れ、対モンスターに関してはほぼ安全に移動できると証明された。

 現実の直線距離だと、北京と天津は名古屋から京都、北京から石家荘には名古屋から東京といったところか。

 

 燕都で地図を漁った感じでは燕都から街道が整備されているようで、地球を1/2スケールで再現している「ハーフガイア・プロジェクト」がこの世界でも生きていると仮定すれば距離はその半分。

 燕都津鎮間であれば名古屋と滋賀の米原ぐらいの距離だろうか。

 強化されたこの身体能力なら、単独往復も不可能ではないだろう。

 

 

 一方で燕都と津鎮の間は、今最もホットなPKの狙い所でもある。

 ルートは確立され、モンスターは弱く、1番最初に開拓された新天地ということで燕都に飽きたプレイヤーの行き来も予想される。

 更に、大多数のプレイヤーにとっては現状唯一と言っていいほどの燕都を出る理由にもなりうる。

 新たなエリアが解放されたと聞けば、たとえそれがプレイヤーにとって既知の場所だとしても行ってみたくはなる。

 

 待ち伏せするなら格好の条件が整っている。

 索峰には、津鎮への移動はハイリスクローリターンに見えた。

 

 そのために選択した石家荘方面。燕都(北京)から見て天津(津鎮)はほぼ真東。石家荘は南西なのでほぼ真逆。

 多少距離はあるが、うまく行けば日没までには、遅くとも道中1泊で着くと踏んでいた。そのぐらいなら、まず耐えられるはず。

 王燁は体力と集中力に不安があるが、この世界での陸路移動がどうなるかわからないので休憩は意識して多めに取ろうと決めていた。

 

 

 それでも燕都を出るときだけは手を緩めるつもりはない。

 全員のやる気と集中力が続く限り、なるべく燕都と津鎮から距離を稼ぎたい。

 

「最低でも1時間は疾駆状態耐えてよ!」

「が、頑張ります」

「ちょ、長くないそれ!」

「モンスターより人の方が怖い! 間違いなく!」

 

 援護歌〈瞑想のノクターン〉で常時MP回復を行いながら、時々〈ディゾナンスソナー〉で索敵を行う。

 行きは待ち伏せよりも、いるかもしれない追っ手の方を注意した。モンスターであれば正面に出ない限り行動速度を低下させれば振り切れる。

 

 警戒を密に10分ほど南へ疾走し、そろそろ西へ向かう大きな別れ道が見えてきてもいい頃か、と頭の中で地図を確認した時だった。

 角端が大きく(いなな)いた。

 

 〈赤騎狐〉がうすぼんやり輝きはじめ、声の主を見ると角端から細く青い光の線が3本伸びて〈赤騎狐〉〈駿馬〉〈軍馬〉を繋いでいた。

 猛然と角端が加速し先頭に出た。それにつられて〈赤騎狐〉も速度を上げている。

 

「王燁ちゃん! これなに!?」

 突然速度が上がり、崔花翠が悲鳴を上げた。

 

「たぶん〈強行軍〉です! 玲玲が勝手にー!」

「どういう特技よ!」

「一定時間自分を含むパーティ内の召喚生物の行動速度アップー! 玲玲止まってー!」

 王燁が必死に角端の手綱を引いている。しかし全く意に介さず、むしろ首を落として更に速度を上げ始めた。それに追従する3頭も更に速度を上げた。

 

「索峰なんとかしなさいよー!」

「考えるからちょっと待ってっておい! 角端そっちじゃねえ! 逆だ!」

 小さな丘を登ると左手に村が見えその横に西へ向かう大きな別れ道があった。地図ではここを曲がって行くはず。

 それを角端は直進し更に南へ向かうルートを選んだ。

 光の線に引っ張られるように〈赤騎狐〉たちもそれを追う。

 

「パーティ解除したら効果切れるんじゃ!?」

「それだ!」

 ほとんど〈軍馬〉の胴体にしがみついている郭貂麟が献策する。

 

 行動速度強化が入ってもともとの全速力の更に上、索峰も体の慣れが許容限界を超え始めているのを感じた。狐尾がバタバタと音を立てている。

「王燁ちゃん、パーティ解除したら即行動速度低下のデバフかける! ダメージ少し入るけどごめん!」

「わかりましたー!」

「翠姐パーティ解除のタイミング合わせて! 貂ちゃんゆっくり5からカウントダウン!」

 王燁も暴走している角端をなんとかしようとして、手綱を体に巻きつけて引っ張り減速を試みている。

 

「カウントいきます、5、4、3、2」

 楽器武器の弓型音叉を背中から外し、角端に狙いをつけてそのまま特技使用欄を開く。

「1!」

 角端のすぐ後ろまで移動させた〈赤騎狐〉の頭を下げさせ、両足で腹を締め付けバランスを取り地面少し上の鐙で踏ん張り立ち上がる。

 

「ゼロ!」

「解除!」

「〈のろまなかたつむりのバラッド〉!」

 解除の声を聞き、即座に特技使用をタップする。

 着弾した相手とその周囲に小ダメージと鈍足効果を与える〈吟遊詩人〉のメイン攻撃スキルのひとつ。

 

 音叉から視覚化された黄色の楽譜の波が飛んでいく。

 〈のろまなかたつむりのバラッド〉は角端をすり抜けた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 崔花翠(さいかすい)は半ばパニックになりながらパーティ解散のボタンを連打していた。

 にも関わらず、全く反応がない。パーティが解除されない。解除できない。

 

索峰(さくほう)、パーティ解除できない! なんで!?」

「嘘だろ!?」

 パーティが解除できなければ、味方に攻撃は当たらない。

 物理攻撃なら当たるが、ダメージも入らなければ追加のデバフも与えられない。ただ当たるだけ。

 

「止まって! ねえ止まってったら! 玲玲(れいれい)! 止まってよ!」

 泣きかけになりながら王燁(おうよう)ちゃんが必死で角端に呼びかけている。

 角端(かくたん)は足を止めない。

 

「召喚解除は!?」

「できませんー!」

「〈軍馬〉も無理ですー!」

「そりゃ降りなきゃ消せないからな!」

 (てん)ちゃんの悲鳴で、〈駿馬〉の召喚笛を取り出して帰還の音を出したが当然反応はない。

 

「飛び降りるか!?」

「無理です!」

「できるわけないでしょ索峰のバカ!」

 悪態を吐き捨てた。速度はどれぐらいだろう、60km/hには達しているだろうか。

 

 飛び降りることは不可能ではない。しかし現実の体なら大怪我確実、死も見える状況。

 こちらの世界で身体能力が向上しているとはいっても怪我をしない保証はないし、なにより勇気は据え置き。

 絶対安全が保証されていたとしても間違いなく尻込みする。

 きっとこれを飛び降りるのは安全の保証がないスカイダイビングかバンジージャンプ。勇気の使いどころは確実にここじゃない。

 

「止まって玲玲(れいれい)〜! ねえ! 言うこと聞いて〜!」

 王燁ちゃんが本格的に泣き出した。

 あたしだって泣きたい。

 なにが起きているというのか。

 

 

 なおも疾走する〈駿馬〉はなにか疑問を持っているのだろうか。

 あたしは疑問よりもバランスを取ることに苦労し始めた。

 向かい風なのか吹き付ける風の抵抗がシャレにならないレベルになっている。

 

「索峰、せめて〈強行軍〉だけでもどうにかならない!?」

 木立が飛ぶ飛ぶ。笹葉型のエルフ耳が風を掴んでうるさい。

 ダメージを受けるわけではないが、ただただやかましい。

 ヘルメットか帽子か耳あてか、耳を覆う何かが欲しい。

 

「〈瞑想のノクターン〉切ってください! 王燁ちゃんのMP無くなれば〈強行軍〉切れるんじゃ!?」

「その手があったか!」

 王燁ちゃんのステータスを凝視する。

 聞いていた通り角端は王燁ちゃんのMPを吸って特技を発動しておりMPは少しずつ減っている。

 この4人の中で貂ちゃんが1番冷静なのかもしれない。

 索峰は即座に援護歌を切った。王燁ちゃんのMPの減りが少し加速した。

 

「で! 索峰どーするの!?」

「知らん!」

「無責任な!」

「わけわかんねえんだよ! 角端が止まるのを待つしかねえんだよ!」

 

 索峰は怒りを隠そうとしていない。これでは考えもまとまらないだろう。

 ここまで大混乱している索峰はゲーム時代を含めても久しぶりに見た。

 その索峰の混乱ぶりを見て、頭の血が下がっていくのを感じる。

 

「貂ちゃん! どっちの方角向かってるかわかる!?」

 最も思考に余裕がありそうな貂ちゃんに、もしかしたら行き先の検討がつくかもしれないと進行方向の問いを投げた。

 こちらの世界の地図はおぼろげにしか覚えていないが、現実世界をベースに都市や街を配置している以上都市があるかはわかるかもしれない。

 

「えーと、えーと、太陽はまだ左後ろで、大きく曲がりもしなかったから、ほぼ真南、かな?」

 貂ちゃんはしばらく空を見上げて、答えた。

 

「えー、えー、真南は……徳州? 索峰、徳州ってなにか街設置されてたっけ?」

「ゲーム時代たぶんなかった! こっちの地図にも特に記載はなかったと思う!」

 

 角端が途中で方向を変える可能性はあるが、沿岸部重視のコンテンツの多さからなにか目的があるとしたら西へ向かう可能性は低いのではないかと思う。

 そうなると徳州の更に南は済南。そこから東へ行けば青島(チンタオ)。どちらの都市も運営によってゲームイベントが実装されていた地域と記憶している。

 

 済南はなにがあるか覚えている。済南そのものよりも、たびたびイベントが開催されるレイドゾーンの泰山の存在として。

「徳州じゃないとしたら、真南は泰山だけど!」

 

 泰山周辺は燕都一帯のギルド戦争の統治範囲から外れ、ギルド戦争のひとつの終着点であった。

 〈封禅の儀〉と呼ばれるギルド戦争の覇者が報酬を得るための神殿がそこにあり、また覇を唱え直すための防衛地点でもある。

 またの名を泰山地獄。泰山の地下に存在するとされる大空洞は、モンスターが湧いたり、ダンジョン化することになったりと、たびたび一般コンテンツとしてもイベントの用地になっている。

 

 ギルド戦争の終着点、ハイエンドコンテンツも集まる場所なので、モンスターの平均レベルもかなり高い。

 あたしや索峰クラスの廃人が6人集まって進めるような難易度設定で、この4人ではその地域を通過するだけでも荷が重すぎる場所。

 

 

「まさか泰山行くつもりじゃないでしょうね!?」

「バルォーン!」

 返事は、明快だった。

 角端は減速してまで首を上げ、角を空に突き上げその先端から電光を煌めかせた。

 そうではない、と否定するような動きと鳴き声とは思えなかった。明らかに喜色が混じった鳴き声だった。

 

「いやいやいやいや、なに考えてんだよマジで!」

 行き先が泰山だと理解した索峰も、遅まきながらパーティがデッドゾーンに突撃し始めていることを理解したようだ。〈赤騎狐〉の腹を蹴って角端に並走しようとしている。

 索峰とは何度も一緒に泰山でのイベントに参加したことがある。深部モンスターの嫌らしいほどの強さも知っているだろう。

 

 

「えっと、翠姐さん、泰山ってどういうところなんですか?」

「超敵が強いところって思っていいわよ。あたしや索峰と同じ以上の戦力集めて進む感じの」

「うわぁ……」

「玲玲、それは無理だよー!」

 

 あたしと索峰の装備は、泰山の戦闘にも耐えうる性能がある。

 しかし戦闘に慣れているとは言えず、泰山の強力モンスターを相手にするには戦闘補助アイテムが致命的に足りない。

 特殊な状態異常回復薬や属性抵抗薬も当然準備していない。対ハイエンド戦用の消耗品は燕都(イェンドン)のアイテムボックスサービスに放り込んだままだ。

 

 

 王燁ちゃんのMPは残り3割を切っている。あと数分もすれば尽きるだろう。そうなれば〈強行軍〉の光の線による牽引も止まるはず。

 そう、思っていた。

 しばらくの後、王燁ちゃんのMPは尽きて〈強行軍〉は終了し光の線も消えたが、相変わらず角端がパーティを牽引している。

 何度かパーティ解除を試み先導を取り替えそうともしたが、パーティは相変わらず解除できない。

 〈駿馬〉を持ってしても角端を追い抜くことはできず、騎乗生物たちは角端を追っていく。追ってしまう。

 

「索峰、打つ手はあるかしら?」

「思いつかん!」

「そこを考えるのが仕事でしょうが」

「もう知らん。泰山ついてからどうやれば大神殿送りにならないか考え始めてる。全滅したらアイテムと金が惜しい」

 我らが頭脳担当は状況を予定に戻すことをもう諦めたらしい。

 次善の策を講じる方が有意義と悟ったようだ。

 

 

「あの! 前! 前!」

 悲鳴のような声で貂ちゃんが前方を指差している。

 蛇行していた道の先に〈小鬼〉と思しき群れがバリケードを組んで道を塞いでいた。角端もさすがに減速し並足で駆けている。

 

「索峰右側頼むわよ! 左はあたしが!」

「矢当たんのかこれ!?」

 どうにかバリケードを迂回するか〈小鬼〉を全滅させるかの2択。

 騎乗で2挺斧は使いにくいが飛刀か〈トマホークブーメラン〉なら打てるか。

 

 その心の準備も、無駄になった。

 角端が再加速して一騎突出し、蜘蛛の巣のような目の細かい円形のアーク放電を角から放出して突撃していく。

 泡を食ったのは〈小鬼〉らの方で、当たったら黒焦げになりそうな紫青の雷撃から逃げ惑い、道の横へ逃れていく。

 

「玲玲危ないって、やめてって、チリチリするから!」

 

 角端の背にしがみついている王燁ちゃんが喚いているが意に介さず、角端はバリケードにタックル。

 たやすく破壊した上で、周囲に雷撃を見舞ってその一部を炎上させる。

 バリケードには縦列で進めば余裕で通れるだけの大穴が空いていた。

 

 それを通り抜ける際に〈小鬼〉が手を出してくることはなかった。ちらと見た彼らのレベルは40そこそこ。相手側から避けてくるレベル差はあった。

 すれ違い様に見た顔は愕然といった様子で、あたしは僅かばかりだが、同情した。




角端の謎行動については、作品完結時には全て、説明と理由付けをできているはず。たぶん。




解説
ハーフガイア・プロジェクト

ゲームフィールド作成のために現実の地球の地形情報を距離スケール2分の1で再現したもの。
「エルダー・テイル」の根幹を担う部分であり、現実の地域とゆるくリンクしているためその土地に応じたイベントが用意される。
営利企業が絡むため地域によってイベントに特色が出るが、それゆえに提供されるコンテンツの量も地域によって大きく偏りがある。
中国であれば太平洋側に面した都市部にイベントが多数あるが内陸部には乏しい。
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