私は、人の子として扱われなかった。
人には見えない何かが見える子
この世界では、そのような人は、人では無いと扱われる。
物に似た存在として
私を産んだ親が事故で死んでから親戚となのる人たちに盥回しにされ、遂に来た場所で古来から続く生け贄の儀式の材料として、贄とならされた。
逃げることも出来ず、私は、高い橋から深い滝壺へと突き落とされた。
深い滝壺に突き落とされた私は浮くことが出来ないように重石を付けられていた。
水中で取り込む空気が無く、溜め込んでいた空気を吐き出して、身体に冷たい水が浸み込んでくる。
もがき苦しんだのも束の間、いつの間にか苦しさも寒さもなかった。
すごく透明で、朝日が差し込んでくる滝壺を見ながら私は瞳を閉じた。
最後に見た光景が、こんなにも美しかったなんてと思いながら
私が飛び込んだ数日後、その町に災厄が降り立った。
日本で今までに起きなかった異常気象であった。その町を中心に突如として発生した超巨大積乱雲が激しい雨を引き起こした。
丁度中部地方を完全に覆い尽くすほどの積乱雲の真下は豪雨と霰と雹、ハリケーン並の暴風に雨のように降る雷、突如出現し急発達したスーパーセルを止められる者は、例え魔法師でさえ不可能だった。
どうすることも出来ない。ただ嵐が過ぎるのを待つしか人間には出来なかった。
その嵐の中、深い滝壺のある滝で巨大な水柱が数時間にわたって立っていたという。
そして、今回の天災の原因となった祀は無条件で禁止になり、滝壺に沈んだという少女の引き上げ捜索が行われたが、滝から先の河川全ての捜索が、警察・消防・軍・ボランティアを含めて5000人態勢で行われたが見つかる事はなかった。
滝壺から水柱が立ったという目撃情報や、その水柱から少女が何者かによって連れ去られたという情報もあったが、それ以外にこれと言った有力な情報もなく、少女の姿は完全に掻き消えたのだった。
ある明階の者がその町で祀が行われた後に言った。
「その贄に捧げられた少女、海神の加護を受けし海神に愛された者。
その者を贄に捧げられた事、大変お怒りだ。
彼の者、他国の神より祝福されし者、その怒り買いし者は全て天災を受けることだろう。
そうなった時、未曾有の大災害を齎すだろう。」
と、その明階の者は嵐が起きる直前に、衰弱死した。
表と裏の境界
「まったく、なっとらんわ。」
「我らが御巫女を贄とは・・・」
「まだ、眼、覚めないね。」
「人の身だ。そう簡単には覚まさないだろう。」
「だが、良かったのか?これでは・・・」
「元々、クォーターだよ。この子は、しかも先祖返りの」
「多くの血筋を受け継いでいるな。少なくとも、皇家の血も、御三家の血も、」
「それはよく有る話しだ。が、本当に人間は変だ。」
「はぁ、その話は何時まで行っても平行線ですよ。」
「それもそうだ。だが、今この国に置いておくのは危険すぎる。狙う組織などゴマンといる。」
「なら、イギリスにいるあ奴はどうだ?」
「確かに、あやつなら問題無いが・・・大丈夫か?」
「ほとぼりが覚めるまで、ゆっくり暮らしていた方が良い。」
「奴には誰から話を通す?」
「私が行くわ。ずっと見て来たし。彼女の行く末、まだ見てみたいし。監察者として、傍観者として、彼女と距離を置きすぎた私にも責任はある。」
「それは・・・」
「分かっておる。だから、せめて戻って来るその時までワシらがあの屋敷を管理し続ける。彼女が進む道を見届けることが儂らに出来る贖罪じゃ。」
「そうだな、それが俺達に出来ることだな。屋敷周囲に結界張って来る。」
「私は、畑の様子を見て来るわ。最近はあれこれ妖精たちも来ているみたいだし。大分多国籍化しているし。」
「じゃあ、天候の操作の方見てこよう。」
神々が動く。たった1人の少女の為に
半神も動く。祝福を受けた者としていつか出迎える為にも
人でありながら人ならざる者も動く。少女を守る者として
タマヨリヒメが少女を抱き抱えて姿を消した。
境に誰も居なくなった時、その境は消滅した。
イギリスの最北西に位置する森を超えた先に佇む1件の家
そこに、1人の来訪者が現れた。
家のチャイムが鳴り、一人の少女が家から顔見せる。
「はい、どちら様でしょう?」
「エアリスはいるかい?」
「タマヨリ」
「知り合いですか?」
「ああ、智世の出身地日本の海神の娘だ。」
「えっ?」
「中に入れて貰ってもいいか?」
「・・・智世、居間に案内してやりなさい」
「はい。」
智世と呼ばれた少女が、タマヨリを居間へと案内する。
「それで、今回はどのような案件で?」
「なにも、依頼するわけじゃないよ。まあ、依頼になるのだけど。」
「?」
「この子の療養っと言ったところかしら。」
毛布でくるまれた丸太のようなものから出て来たのは智世とは違った髪色をした日本人だった。
「この子は?」
エリアスが聞いて来る
「生け贄として捧げられた神々の祝福を受けた哀しき少女よ。」
「えっ。」
智世は唖然とした表情をし、エアリスは表情が読めないものの呆れて何も言えない様子
「もしかしてだけど日本で起きた大災害、君らの仕業?」
タマヨリヒメが少女を膝に乗せて
「そうね。この子は海の神は基より水に関する全ての神から祝福を受けているわ。それ故に、皆キレたわ。神と言っても普段は人間界に身を潜め観察している傍観者だけど、流石に怒らないわけには行かないのよね。今回の場合」
「だから、暫く家に居させてくれと?」
「智世にとってもいいんじゃないかしら?」
「智世に?」
エアリスは、ふと見た時タマヨリヒメの膝の上にいたはずの少女が智世の膝の上に移動しており、智世自身、その少女を見ながら身体を温めていた。
「エアリス、この子。冷たい」
智世に言われ、その少女に手を当てると非常に冷たくなっていた少女。
まるで生きている事すら不思議なぐらいだった。
「ミカハヤヒノカミが温めた時はもっと冷たかったわ。この子は滝壺に突き落とされ、這い上がる事が出来ぬように重石を付けられ、底に沈んでいたのだから。」
「死んだのか?」
タマヨリヒメが手を顎に置きながら
「そうね、生と死の境を彷徨っているというべきかしら。彼女の魂が三途の川に来た時、偶々そこをうろついていたハデスとワルキューレが連れて来たのよ。丁度、傍観者として彼女の行方を見失った頃にね。」
「それじゃ・・・」
「ええ、生きながら死んでいるという状態かな。けど、意志は生きたいって思っているみたい。」
そんなことが、と智世が漏らしながらも眠っている状態の少女を見ている
「時折、君たちは此処を安息地と思ってないかい?」
「そう?私から・・・いいえ、私たちからすれば其処の日本人を、人間を、手元に置いておこうとする貴方に興味があるのだけど。」
「はぁ、それでどうする気だ?」
「今現在、神や精霊の祝福を受けた者は何かしらの加護の元守られなければならない。
智世の場合、貴方という存在がいるから問題無いけど。
今回の事案は、神々で大きく話し合われる事よ。少なくとも、日本ではいつか戻る日の為の準備が始まっているわ。」
「そんなに動く事かい?」
「世界で複数の神々から祝福を受けた人は、ほんの一握り。10人いるかいないかというもんよ。それを世界は狙うわ。スレイ・ベガを持つ智世と同じくね。」
「それは・・・。まあいい。この子は此方で預かるよ。」
「話が早くて助かるわ。年齢的には智世と同年代かな。」
「なら、こっちの事も手伝ってもらうとしようか。」
「構わないわ。元よりそのつもりで来たし。
ああ、そうそう。智世さん。この子をベッドか何処かに寝かせる時これを額に貼って下さいね。」
そう言うと、1枚の呪符を渡した。
「これは・・・呪符?」
「そう、現代日本では漸く魔法が根付き始めた。それにより、陰陽道も進化して、神道も進化した。この呪符は、対象の体温を平熱温度まで上げる為の呪符。ただそれをするには、ベッドとかソファーとか下が柔らかくて温かくなれるものを被せないといけない。この子は碌に服も無い。だからこのローブで身を包んでいるのさ。
ささ、お願いするよ。」
そう言って、少女を智世に託した。
智世はエアリスに視線を送るも、任せるっと言った状態だ。
仕方なく、シルキーに引っ張られて空いている部屋に入り、その少女をベッドの上に寝かせ、言われた通り額に呪符を貼った。
智世は少女の顔を見ながら、よしよしヾ(・ω・`)と頭を撫でつつ部屋を出た。
少女の顔が心なしかリラックスしていた。