うずまきメンマ物語   作: サキラ

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第1話

「それではうちはサスケ、うずまきメンマ。忍び組手はじめ!」

 

担任のうみのイルカの声がアカデミーの校庭に響く。

声と同時に対戦相手のうちはサスケが猛然と走ってきた。

 

「へ……?わっ!?やっ」

 

対するうずまきメンマは完全に出遅れていた。

気付いた時には掌底を構えたサスケが目の前に居てガードする間も無く……

 

「へぶぅっ!」

 

顎に衝撃が走った。

 

(空が青いってばね…)

 

なんて呑気な事を思ってしまったのも束の間、後頭部に先程とは比べ物にならないほどの衝撃が襲いメンマの意識は呆気なく闇の中へ消えていった。

 

 

「ほら、メンマ起きろ。和解の印だ」

「うーん……ん?」

 

イルカに叩き起こされメンマは目を覚ました。

周りを見ると呆れた様子のイルカにクスクス笑う他の男子生徒、サスケに対し黄色い歓声を上げてる女子生徒達、そしてさっさとしろ。と言いたげなサスケの視線。

途端にメンマは自分がとても惨めな気分になった。いまにも逃げ出したい思いで素早く土を払って立ち上がる。

 

「よし、それじゃ和解の印だ」

 

イルカに言われサスケに手を伸ばす。

しかしサスケと指が重なりそうになった瞬間、メンマは咄嗟に腕を止めた。

理由は単純だ。サスケは女子に人気がある。そんなサスケとは対照的に自分は嫌われ者だ。

その人気者に嫌われ者な自分が触れたりなんかしたら授業の一環とはいえ女子グループからの仕打ちが怖い。

考え直したメンマは伸ばした手を引っ込める。

 

「さっさとしろ、ウスラトンカチ」

「へ…?」

 

しかしその手はふいに伸ばしてきたサスケの手によって掴まれた。

メンマが唖然として固まっている中、サスケはさっさと和解の印を済ませなんでもない様に生徒の輪の中に戻っていく。

戻ったサスケを女子生徒達が囲んで口々に褒めていたがサスケはそれらの声を全て無視して男子生徒の中へ消えていった。

 

「はいはいお前ら静かにしろ。いよいよ来週は卒業試験だ。お前らが下忍になれるかがかかる大切な試験だ。各々しっかり準備して望むように。特に―――おい聞いてるのかメンマ!」

「は、はいぃ!?」

 

未だに呆けていたメンマはイルカに怒鳴られ素っ頓狂な声を上げてしまう。

その様子を見てまたクラスメイトからクスクスと嘲笑の声が上がりだした。

 

「全くお前という奴は……しっかりしないと今年もまた留年するぞ」

 

呆れたように言うイルカにメンマは正直勘弁して欲しかった。

留年の辛さは誰よりも分かってる。

今のだってそうだ。既に知られている事だがこうやって話題に上がる度に周りにバカにされる。

クラスメイト全員がいる前で留年した事を叱られるなんてまさに最悪としか思えない状況だった。

 

イルカの言葉に無言で頷いてメンマはクラスメイトの中に逃げるように戻っていく。

小バカにした視線を感じ、居心地の悪そうに女子生徒達の奥に隠れるように引っ込んでいくメンマの姿を一つの鋭い視線が睨んでいた。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

結局、今日もメンマは誰とも話さずにアカデミーを終えた。

 

無駄に居残っていじめっ子達に絡まれる前に早々に帰路につく。

すれ違う人達は皆、メンマに気づくとコソコソと何かを話しながら足早に去って行った。

 

それは見慣れた光景だった。

自分は里のみんなにも煙たがられてる。肉屋も魚屋も八百屋もどんな店だって自分には何も売ってくれない。

大人達は自分を見ると遠巻きに嫌悪感を持った目で睨んでくるし、子どもも関わるなと言われてるからか誰も自分と友達になろうとはしない。

 

その理由もなんとなく察しはついてるしもう慣れてしまったはずなのだが夕暮れ時のこの時間帯だけは嫌でも寂しい気持ちになってしまう。

 

メンマは物心ついた時から両親と言える人間が存在しなかった。

だからこそすれ違う帰りがけの親子連れを見るたびに羨ましくて仕方なくなってしまう。

手を繋いで貰いたい、今日あった事を聞いて欲しい、大きな手で頭を撫でて欲しい。

視線の先で繰り広げられるそうした光景を目にする度にどうすることも出来ない寂しさに小さな胸が締め付けられる。

 

夕暮れの帰路をトボトボ歩いてると河川敷まで差し掛かった。

ふと川のほとりに目をやると見覚えのある背中が見えた気がして足を止める。

 

(もしかしてアレってサスケ君かな…?)

 

だが内心思ってもわざわざ話しかけにはいかない。

メンマにとってサスケはただのクラスメイトでしかないのだ。

だけど殆どのクラスメイトがメンマを馬鹿にして笑い者にしてる現状、サスケはそうした連中から一線退いていて誰とも関わろうとしない。

何を考えているかはわからないが自分に無関心でいてくれるだけでよっぽどメンマには有難いクラスメイトの部類だった。

 

(……それに今日手を繋いでくれたし)

 

頭の中で『アレは和解の印なだけだろう?』とお節介焼きの声がするが無視を決め込む。

確かにただの形式的なものだったとしてもそれでも今まで誰も自分に触れようとすらしなかったのだ。

それだけでメンマにとってうちはサスケは充分に特別なクラスメイトに思えていた。

 

『ハァ……でどうすんだ?話しかけてみるのかよ?』

 

頭の中でまたお節介焼きの声が響く。

メンマは少し悩んでから、

 

(……やめとく、向こうは私の事なんて眼中にないってばね)

 

ポツリと呟いてから再びメンマは歩き出す。

眼中にないのなら今のままで充分だ。わざわざ話しかけて嫌われたくない。

 

そしてそのままサスケの後ろを通過し去っていこうとした時に、

 

「待てよ」

 

ふいにサスケが声を発した。

突然の事に少し驚いて足を止めたメンマだったがすぐに自分の事じゃないだろうと思い再び帰路につこうとする。

サスケとの接点なんて一つもない。ただ一つ共通点があるとしたら彼もまた家族が居ないという事くらいだった。

メンマはそのことに多少のシンパシーを抱いているものの優秀なサスケと落ちこぼれな自分との差を考えると悔しい以上に情けなくなってくるので普段はその思いを胸の深くに潜めて感じないようにしている。

 

「待てって言ってんだろウスラトンカチ」

 

再び声が聴こえて今度は振り返る。

見るとサスケも立ち上がってメンマの方を見上げていた。

周りをキョロキョロと見回して見るも他に人影は居ない。

恐る恐る自分を指さすとサスケはしかめっ面でこっちに来いと顎で促してきた。

ウスラトンカチ?と首を傾げつつメンマがオドオドと近寄っていくとサスケは苛立ちを含んだ声様子で口を開いた。

 

「お前、昼間はどういうつもりだ?」

「へ?」

「昼間の組手だ。なんだアレは?やる気あんのか?」

 

サスケに言われて昼間の組手を思い出す。

そういえばあの時は九喇嘛にいきなり話しかけられて気を取られていた最中に組手が始まってしまい気がついた時には終わっていたんだ。

 

「え、えっと……あの時は少しぼーっとしといて」

「なんだそりゃ。お前がヌケてんのは構わねえが練習相手にすらならねえ奴の相手すんのは時間の無駄なんだよ」

「……ごめんなさい」

 

そんなの仕方ないじゃないか。

サスケに謝りつつメンマは内心で毒づく。

サスケの成績はアカデミートップなのだ。いくら相手が居なかったとはいえビリでダブってる自分に彼の相手が務まるはずがない。

ああいうのは先生が指名して少しでも実力が近いもの同士でやらせるべきなのだ。

 

「私が相手じゃうちは君には迷惑だもんね……先生には私が言っておくから気にしないでいいってばね」

「はぁ?誰もんなこと言ってねえだろ」

「えっ……?」

 

驚くメンマにサスケは顔をしかめる。ついうっかり口を滑らせてしまったようだった。

一方メンマの方はサスケの言葉が信じられないようだった。

 

「チッ……ようは気を抜かず真面目にやれつってんだ。ウスラトンカチでも運動神経だけはいいだろ」

「えっ……あ、うん」

 

サスケの言葉に空返事気味に答えるメンマ。

本当に分かってるのかと不安になる返事だったがサスケは構わず言葉を続けた。

 

「あとさっきのは借りを作りたくなかっただけだ。誰に対してもな」

「?さっきの?」

「お前が先生に言っておくとか言っていたやつだ」

 

それだけ言ってサスケはその場を去ろうとする。

 

「あのっ……!」

 

その背中を咄嗟にメンマは呼び止めてしまった。

サスケが足を止め迷惑そうな顔で浮かべて振り返る。

 

「あ……ありがとだってばね」

 

オドオドと礼を言うメンマにサスケは一瞬、驚いたように眉を上げたがすぐに怪訝な目をして口を開いた。

 

「…………なんのつもりだ?」

「……誰に対してもって」

「ハァ?」

「さっき、うちは君が言ってた『誰に対しても』って。私を他の皆とおんなじに見てくれてるのが嬉しくって」

「…………わけ分かんねえ」

 

俯いて顔が見えないがそう呟いてサスケは去っていく。

その背中を見えなくなるまでメンマは見つめていた。

 

 

▼▼▼▼

 

 

翌日、サスケとメンマは再び対立の印を組んで向かい合っていた。

連日の忍び組手。卒業に向けアカデミー側も実践的な訓練を増やしてきているのだろう。

 

「それではうちはサスケ、うずまきメンマ。忍び組手はじめ!」

 

昨日と同じく先に仕掛けてきたのはサスケだった。

サスケの掌底をメンマは大きく後ろに跳んで躱す。

メンマは抜けてはいるが運動神経が悪いわけじゃない。

チャクラコントロールが下手くそで分身の術一つまともに出来ないが体力と身体能力でいえばアカデミーでもトップクラスなのだ。

距離をとったメンマにすかさずサスケは四つの手裏剣を取り出し追い打ちをかける。

微妙にタイミングをずらし退路を断つように投げられた手裏剣を躱せないと判断したメンマはクナイを取り出し自分を捉えている二つの手裏剣を弾いた。

四つの手裏剣がカランカランと音を立てて地面に落ちたのを確認したメンマは再びサスケに視線を移す。

視線の先のサスケは顔の前に虎の印を組み不敵に笑っていた。

 

「火遁・豪火球の術!」

 

大きく息を吸い込んだサスケの口から大人でも丸焼きに出来るほどの大きな火球が発っせられる。

躱せる規模でも防げるような術でもない。

咄嗟にメンマは懐から数本のクナイを取り出し豪火球に向かい投擲する。

起爆札の巻かれたクナイは炎に飲み込まれた瞬間、爆発を起こし豪火球を掻き消した。

 

サスケの顔に驚きの色が浮かぶ。

その瞬間、爆煙の中からメンマがクナイを片手に飛び出してきた。

咄嗟にサスケもクナイを取り出し攻撃を受け止める。

 

ギリギリと鍔迫り合うクナイにサスケは顔を顰める。

メンマはトップスピードで奇襲を仕掛けてきた。反応の遅れたサスケは体格で勝ってはいてもどうしても勢いを殺しきれず押されがちになってしまう。

 

「チッ!」

 

このままじゃ押し切られると判断しサスケは逆に全身の力を抜く。

 

「わわっ!」

 

勢いあまって倒れ込んできたメンマの腹に足の裏を着け倒れ込みながら巴投げの様にそのまま後ろに蹴り飛ばした。

 

「ぐっ!」

 

無理な姿勢で蹴り飛ばしたサスケはろくな受け身も取れずそのまま地面に倒れ落ちた。

一方、蹴り飛ばされた方のメンマは空中で器用に三、四回転しながら難なく着地する。

そのまま顔を上げると視線の先ではサスケはまだ起き上がれずにいた。

メンマはチャンスとばかりに駆け出していく。

そして取り出したクナイがサスケの後頭部に触れようかとした瞬間、サスケが突然起き上がりあっという間に押し倒されいつの間に奪われたのか自分の持っていたクナイを目の前に突きつけられた。

 

「そこまで!勝者うちはサスケ!」

 

イルカの声が上がりクラスの女子たちの黄色い声が響いた。

馬乗りになっていたサスケが何ともなかったかのように涼しい顔で立ち上がる。

 

(やっぱりどれだけ頑張っても結果は変わんなかったってばね……)

 

一方敗れたメンマは自分ではかなり頑張っただけに酷く気落ちしていた。

こんなんでアカデミーを卒業出来る日が来るのだろうか?

もう自分はこのまま一生忍者になれないんじゃないか?

ずっと誰からも認めて貰えないんじゃないか?

そういった不安が胸中に溢れだしメンマの顔を曇らせる。

 

「おい」

 

ふいに頭の上からサスケの声が聞こえてきた。

そうだ、和解の印だ。

咄嗟に顔を上げるとサスケが掴まれとばかりにメンマに手を差し出している。

 

「……え?」

「意外にやるなお前」

 

恐る恐る手を掴むとぐいっとサスケはメンマを引っ張りあげた。

慣れない加速と追いつかない思考にのせいでメンマは勢いあまって前のめりにフラついてしまう。

そして目の前にはサスケの顔が。

 

「〜〜〜〜〜〜っ!?!?」

 

ボフッ!!と音がしてメンマが倒れる。

続けざま起こった予想外の出来事に完全にメンマの思考回路はショートしてしまっていた。

 

 




他作品が詰まってるので息抜きです。

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