メンマが目を覚ましたのはアカデミーの医務室だった。
寝ぼけ眼のまま時計を見るととっくにアカデミーは終わっている時間になっている。
早々に医務室から立ち去り、荷物をまとめて帰路につく。
(あーあ、やっちゃったってばね)
卒業試験間近だっていうのに残りの授業を受けれなかった。
このままじゃまた留年してしまう。
一人焦燥感に駆られながら歩いてると頭の中で同居人が話しかけてきた。
『おいメンマ、過ぎた事でうだうだ言っても仕方ねえだろ』
(分かってるってばね……でも)
『授業つってもお前は何度も落ちてるから内容も分かってんだろ?』
(確かにそうだけど九喇嘛にはデリカシーってものがないってばね!)
プンスカと怒りながらメンマは歩を進めていく。
九喇嘛とはある時からメンマに話しかけてくるようになった頭の中の同居人だ。
九喇嘛と会話する時はだいたい頭の中で大きな檻越しに会話している。
その姿は九本の尾がある大きな狐だ。
メンマは九喇嘛から自分が里の人間に差別されてる理由や親がいない理由を聞かされている。
九喇嘛はメンマが産まれた時に木の葉の里を襲った九尾の妖狐だ。
その時に九喇嘛は里に甚大な被害を及ぼしメンマの両親は命と引き換えにメンマに自分を封印したと九喇嘛は語っていた。
それからというもの九喇嘛はメンマの親代わりになっている。
『んな事より今日は野草を取りに行くんじゃなかったか?うだうだしてると夜になるぞ?』
「あっ!」
九喇嘛に言われ思い出したメンマは思わず声を上げた。
そうだった。今日の放課後は森へ食料調達に行くつもりだったのだ。
(ありがと九喇嘛!だけどもっと早く言って欲しかったってばね!! )
九喇嘛に礼を言いメンマは道具一式を取りに家に向かい走り出したのだった。
▼▼▼▼▼
うちはサスケは今日も修行をしていた。
あの日の夜、全てを失った日からサスケは兄を殺す力を手に入れると誓って毎日欠かさず修行をしていた。
素早く印を組みチャクラを練り上げる。そしてそのまま息を大きく吸い込み、
「火遁・鳳仙火の術!」
一気に口から吐き出した。
しかし放たれたのはいくつかの小さな火炎で数秒で小さく萎むように消えていく。
火遁の術だけに火を見るより明らかな失敗だった。
「チッ……」
小さく舌打ちして再びサスケは巻物に目を落とす。
理屈では理解出来ているのだが実際にやってみると結果は全然だった。
サスケは兄に対してコンプレックスがある。
幼い頃からなんでも出来た兄。うちは一族始まって以来の天才、神童と呼ばれていた兄は幼い頃は憧れの対象だったのだ。
その兄が女、子ども関係なく一族の全員を、父や母すらも手にかけうちは一族を一夜にして滅ぼすまでは。
そして一族の中で唯一、兄は自分を残し里を抜けていった。
残された自分には一族の仇討ちと復興を遂げる義務がある。
だからこそ一つの失敗が大きく心を焦らせる。
恐らく兄はこの術も難なく習得してみせたのだろう。
そう思えば思うほどサスケの心に焦りと苛立ちが募っていく。
そもそもこの術を覚えようとしたのも一つの失敗からだった。
昨日サスケはアカデミーの組手でペアになった落ちこぼれに文句を言った。
普段のサスケならいちいち他人の弱さに口を出す事はしない。
しかし彼女……うずまきメンマは別だった。
彼女の境遇は自分に近いものがある。
里の皆に白い目で見られ家族もいない彼女はサスケにとって唯一完全に他人とは言い難い存在だった。
しかし当のうずまきメンマは弱さを容認している。
落ちこぼれだと馬鹿にされてるというのに何もせずその侮蔑に甘んじている。
その事にサスケは何故だが無性に腹が立ったのだ。
自分と似た境遇の人間が弱さを容認している。
弱くてもいいと言ってるように感じてしまうのだ。
だからこそサスケはうずまきメンマを否定したかった。
孤独を知る者は強くなければならないとサスケは思っている。
だからこそサスケはメンマを急き立てた。
彼女が強くなれば里の人間に疎外されるのを見ても自分が苛立つ事は無くなるだろうとサスケは考えたのだ。
サスケの脳裏に昼間の組手がよぎる。
自分の得意忍術を破り奇襲を掛けてきたメンマの姿を思い出し思わずサスケは歯噛みした。
確かに彼女が強くなればいいと考えていたサスケだったがあの結果は完全に予想外だった。
それに強くなればいいとは言っても負けていいとは思ってない。
組手にこそ勝ったものの豪火球が破られた時点でそれは敗北と同じだった。
もう一度巻物に目を通す。
巻物にはうちは一族に伝わってきた忍術や手裏剣術が記されている。
チャクラの練り方や息の出し方を読み返しているとふいに近くの茂みがガサゴソと揺れ始めた。
「誰だ!」
懐からクナイを取出し茂みに投げる。
そこからは出てきたのは野ウサギだった。
興味を失せたかのようにサスケが再び巻物に目を落とすと……
「見つけたってばねー!!」
いきなりサスケの頭上から声がして野ウサギの前方に手裏剣が刺さった。
そしてそのまま怯んだウサギに覆いかぶさるように人影が降りてくる。
「このっ暴れんなってばっ!んのっフンッ!……やったってばねー!!これで今夜はウサギ鍋だー!」
ウサギと一頻り格闘し、だらんとしたウサギを片手に身体を大の字にして勝利と夕飯の宣言をした人物こそ先程までサスケの脳裏に浮かんでいたうずまきメンマだった。
▼▼▼▼▼
「おい、こんな所でなにやってんだウスラトンカチ!」
「うぇぇぇ!?う、うちはくん!?なんで!?」
しばらく呆気にとられていたサスケだったがハッと我に返りメンマに詰め寄る。
一方メンマもサスケの存在に気づいてなかったようでサスケの顔を見るや明らかに動揺し出した。
「聞いてんのは俺の方だ!ここは俺の……うちは一族の森だぞ!部外者が入ってきてんじゃねぇ!」
声を荒らげてサスケが怒鳴る。
サスケにとってここは特別な場所だった。古くから代々使われてきた一族所有の森。
今は亡き一族が遺したサスケにとって特別な場所に他人が無神経に立ち入る事すら気に入らないのに、よりにもよってあのうずまきメンマがここにいる。
「あっご、ごめんなさい!し、知らなくて!食材探してたらいつの間にか……」
怯えながら語るメンマの言葉にサスケは眉をひそめる。
確かに彼女の言う通りメンマの背には大きな籠が背負われておりその中には野草や木の実が入っていた。
「そんなもん商店街で買えるだろ。なんで態々森の中で採集する必要がある?」
「その……私、あそこに行くと、怒鳴られて売って貰えなかったり、無視されたり……するから」
俯いてポツリポツリと口に出す言葉にサスケは息を飲んだ。
この少女が里中に白い目で見られている事は知っていたがそこまで忌み嫌われてるとは知らなかった。
そしてまたそれでも尚、弱さを受け入れているメンマを見てサスケの胸に苛立ちが積もっていく。
「……とりあえずここは俺の修行場だ。お前がどこで飯探しするかは勝手だがこの付近には近寄るな」
「う、うん」
頷いたメンマはそのままトボトボとサスケから離れて森の奥へと消えていく。
その寂しげな背中をサスケは睨んでいるとチクリと胸に何かが引っかかった。
「チッ……」
舌打ちをしてサスケは再び巻物に目を落とす。
胸中に残る何かをかき消すように日の落ちるまでサスケは修行に没頭した。