うずまきメンマ物語   作: サキラ

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第3話

 

翌日、アカデミーの靴箱でメンマは足を止めていた。

視線の先の靴箱の中にあるのは自分の上履きではなく紙パックやお菓子の空箱などのゴミが詰まっている。

 

「ハァ……」

 

短く溜息を吐くメンマ。

外履きのまま廊下へと上がり近くのゴミ箱を持って再び靴箱の前に戻る。

 

『ずいぶんと久しぶりにやられたな』

(まぁ生ゴミじゃないだけマシだってばね)

 

頭の中で九喇嘛と会話しつつ靴箱の中を片付けていると次第に周囲からの好機の眼と嘲笑が聞こえてきた。

 

『……犯人。教えてやろうか?』

(……いい。なんとなく分かる)

 

恐らくアカデミーのクラスメイトだろう。

思い当たる節としてはサスケファンの一部だ。

ここ数日、サスケとは組手のペアになっている。

それが彼女達からすれば気に入らなかったのだろう。

 

(そんなに好きなら自分から組みに行けばいいのに)

『まったくだな』

 

内心でぼやいてるメンマと九喇嘛。

産まれてこの方友達など居たことの無い少女と人間嫌いの九尾の狐。

共通の好きな人を取り合う女子グループの駆け引きなど分かるはずもない。

 

『上履きはどうすんだ?』

(どうせもう卒業だし探しても見つかんないだろうから今期はもう来客用スリッパでいい……)

『卒業できんのか?』

(うっさいってばね!)

 

ゲラゲラと可笑しそうに言う九喇嘛に文句を言いながら来客用スリッパに履き替えアカデミーの教室に向かう。

教室に入ると女子のグループがニヤニヤとした嫌な視線をメンマに向けてきた。

 

「あっれー?うずまきさん上靴どうしたのー?」

 

女子グループの中心的存在の山中いのがわざとらしく聞いてくる。

 

「……別に。ちょっと無くなっちゃっただけだってば」

「えー?なにそれーかわいそー!あっそれじゃ放課後私たちが手伝ってあげるよー!」

 

今度はいのと同じく中心的存在の春野サクラがニヤけた笑みを浮かべながら言ってきた。

募る苛立ちを抑えつつメンマが口を開く。

 

「気持ちだけ受け取っとくってばね。迷惑かけちゃ悪いし」

「は?なにそれ。私たちが迷惑だって言いたいの?」

「……とにかく放課後。忘れないでよね?」

 

いのの言葉にどう文脈を理解したらそういう解釈になるのかと言い返してやりたかったがサクラが一方的に話を切り上げ再びグループ内で談笑……もといメンマの悪口を言い始めた。

 

『行くのか?』

(行きたくないけどたぶん掴まる。出来るだけ今日はうちは君に関わらないようにしないと)

 

これ以上下手に女子グループを刺激しない方がいい。

気が重くなるだけの一日を思いメンマは机に突っ伏して寝た振りを始めた。

 

 

▼▼▼▼▼

 

結果的にメンマは午後の授業をバックレることにした。

女子グループは授業中だろうがお構い無しに消しゴムのカスや紙くずやらを投げてくるし、休み時間はあえて悪口を聞こえるように言ってくる。

一時はこういう事を毎日やられていて本人なりに耐性が着いたと思っていたが久しぶりにやられると全然そういう事はなく耐えきれなくなり午後の授業を無断で抜け出してきたのだ。

 

夕方の河川敷の小さな桟橋に独り座り、メンマは水面に映る自分の顔を見つめている。

メンマは自分の顔が嫌いだった。

悪目立ちしかしないボサボサの赤髪も、頬から左右対称に三本ずつ伸びる猫のようなヒゲも、外の里の人間のような青い瞳も、なにもかもが嫌いだった。

もしも自分が普通の人のような身なりで、普通の人みたいに家族がいて、普通の成績だったなら普通に友達が出来ていたのだろうか?

そんな思いを抱えながら水面に映る自分の顔を搔き消すように小石を落としていく。

 

「おい」

 

そうしていると頭上から声を掛けられた。

小石を落とす手を止めメンマが後ろを振り返り見上げてみると坂の上にはうちはサスケが立っていた。

 

「なんで今日午後からの授業に出なかった?」

「……うちは君には関係ないってばね」

 

メンマの返しにサスケは「あ?」と小さく声を上げる。

見るからに機嫌が悪そうなサスケだったがメンマは話は終わりとばかりにサスケに背を向けた。

サスケは小さく舌打ちをしてメンマの後ろまで移動する。

 

「組手のペアは俺だろうが。関係ないとは言わせねえぞ?」

「ちょっと体調が悪かった。それだけだってば」

 

誰とも話す気になれないメンマは素っ気なく答える。

だから敢えて九喇嘛とも話さずにいるのに自分が再び苛められる原因になっているサスケと話なんてできるはずもない。

見向きもしないメンマの背中をサスケは黙って見つめている。

 

サスケだってバカじゃない。

それにここ数日は妙に接点があったからか本人も無自覚のうちにメンマに注意が向いていたのだ。

だから今日アカデミーをサボった理由もサスケにはある程度察しがついてる。

それでも逃げ出したメンマをサスケは認めることが出来なかった。

 

「アカデミーの奴らに、里の連中に見返してやりたいとは思わなねーのか?」

「……別に。そんな事したって無駄だってばね」

「……今のままでいいってのか?」

「どうしようもないことをなんでそんなに頑張らなきゃなんないんだってばね……」

 

今までメンマに対して漠然と感じていたことを本人の口からハッキリと告げられサスケの表情が固まる。

胸の内から怒りが沸々と込み上げてくる。

目障りだ。

うずまきメンマの存在は孤独と闘って生きていかねばならないサスケにとって目障りだった。

 

「……お前、そういうとこウザいよ」

 

冷たく言い放ってサスケはその場を去ろうとする。

それはサスケの決意の表れだった。

今後、うずまきメンマを気にかける事は二度としない。

諦めて立ち止まってる彼女とは絶対に相容れないとハッキリ分かった。

夕陽に照らされ去っていくサスケ。

その影が落ちてく陽の明かりを遮りメンマの体をすっぽりと覆った。

 

「ならどうしろって言うんだってばね……」

 

震えた声でメンマはポツリと言葉を漏らした。

その一言にサスケの足が止まる。

立ち止まったサスケに振り返りメンマは言葉を続けた。

 

「話しかけても無視されてっ!忍術も上手く出来なくてっ!親切しても嫌がられてっ!どんなに頑張っても誰も認めてくれなくてっ……どうしろって言うんだってばね!?」

 

一度胸から溢れた想いは遮ることも出来ずに口から濁流のように止めどなく出てくるだけだった。

 

友達を作ろうと努力した事もあった。

流行り物を色々調べて、ボサボサなくせっ毛をなんとか綺麗に整えて小綺麗な服を苦労して見繕って思いつく限りの嫌われる要素を消して勇気を出して話しかけても無視された。

 

それならば優秀な生徒になって認めてもらおうとした。

毎日、予習復習をして遅くまで居残って忍術や手裏剣術の修行もしていたけど結果は出ずに周りから置いていかれるばかりで落ちこぼれだと馬鹿にされ続けた。

 

ならせめて困っている人を見過ごさない親切な人になって少しずつでも好かれようかと試みたこともあった。

だけどお年寄りの荷物を持とうとしても無視されたり泥棒扱いされ、

倒れた人を起こしてあげようとした所を逆に突き飛ばされ、

迷子を送り届けても親に「うちの子に近寄るな!」と怒鳴られ、

誰にも関わらずに出来ることを探した結果、里のゴミ拾いをしてみたけれど返ってきたのは侮蔑と嘲笑だけだった。

 

「うちは君なんかに私の何が分かるんだってばね!?何も知らない癖にっ!私の事なんにも知らないうちは君なんかに!なんでも出来て、みんなに認められて、女子から人気者で!私よりよっぽど恵まれてるうちは君にっ!落ちこぼれでっ…誰からも認めてもらえない…嫌われ者の……私の気持ちが分かるはずないってばね!!!」

 

立ち止まったままのサスケを追い越してメンマは走り去っていく。

溢れそうになる涙を必死に堪える。

絶対に泣かない。どんなに苦しくて辛くても涙だけは流さない。

メンマにとって泣くことは孤独に負ける事と同じだった。

だからどんなに心が傷もうが耐えて耐えて悲しみが薄らぐのをひたすらに待つ。

それだけが無力な少女に出来るたった一つの小さな闘いだった。

 

▼▼▼▼▼

 

メンマが走り去ってからもサスケはその場から動けずにいた。

脳裏に先程の少女の慟哭が焼き付いていて離れない。

『私の何が分かるんだ!』

そう訴えてきた彼女に何も言い返せなかった。

上辺だけで判断して詳しい事情も知らないまま感情に任せ責め立ててしまった。

 

サスケにも他人に触れられたくない過去はある。

例えば他人が何の配慮もなしにあの日の夜の事に踏み込んできたら自分だって激昴するだろう。

そういった事情を鑑みずに刺激するような事を聞いてしまったのは完全に自分の落ち度だ。

 

しかしそれでもサスケは素直に悪いと思うことが出来なかった。

 

事情を鑑みなかったのはメンマにしても同じ事だ。

確かにサスケはメンマの様に落ちこぼれなわけでも里中に忌み嫌われてるわけでもない。

だが恵まれているという点だけは納得がいかなかった。

 

実の兄に家族を一族を皆殺しにされたサスケが恵まれてるわけがない。

大好きだった母、憧れだった父、誇りだった一族。

当時のサスケにとって世界の全てと言っていいものを兄に奪われたのだ。

 

(繋がりがあるからこそ苦しいんだ。それを失う事がどんなもんかアイツなんかに……)

 

けれどそう思えば思う程にサスケの心に罪悪感が積もっていく。

分かってしまう自分がいた。恵まれてると言われた事への苛立ちが大きくなればなるほどにメンマに言ったことへの罪悪感も膨らんでいく。

 

サスケの視界にはもう既にメンマの姿はない。

落ちてく夕陽はどんどん小さくなり夜の空気が周囲を冷やしていく。

一度、深く深呼吸をしてサスケは歩き出した。

 

(見えなかった……いや、見ようとしなかったんだ)

 

彼女と自分の境遇を重ねていたからこそ彼女の苦しむ姿を見ないようにしたんだろう。

もしかしたら自分も……、と思ってしまい目を逸らしたかったのかもしれない。

だとしたら本当に弱いのは……。

 

サスケの拳がぐっと握られる。

罪悪感はいつの間にか未熟な自分に対する苛立ちに変わっていた。

帰路の道を進んでるさなかふと視界の端で一組の仲良さげな兄弟とすれ違う。

その瞬間、サスケは足を止めて振り返った。

 

(もしかしたらイタチにも……)

 

思い出すのは仲のいい兄弟だった頃の記憶。

自分もよくあの様に兄と家路に着いていたものだ。

もしもあの少女と同じように兄にも何か事情があったのであれば……

そこまで考えて兄弟から視線を外し足下に落とす。

馬鹿な考えだ。どんな事情があったにせよイタチは許されない事をしたのだ。

 

短く息を吐き再びサスケは歩を進め出す。

今はもう誰も待つ者のいない場所へ向けて。

 

 

 

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