うずまきメンマ物語   作: サキラ

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第4話

 

メンマの卒業試験は散々だった。

試験内容は分身の術。メンマが一番苦手な術だ。

毎回この術で落ちてるだけに相当な練習を積んで望んだメンマだったが結果はぐでんと伸びてる自分の分身体が出来ただけ。

囮には使えるかも。なんて期待したメンマだったが担任のイルカの評価はそんな甘い訳がなく不合格と一言でバッサリ切り捨てられただけだった。

 

試験日のアカデミーは授業がなく午前中だけの半休になっている。

校庭にはこの日の為に生徒の親が集まってきておりメンマの目の前にはそこかしこで合格を喜ぶ親子の姿があった。

 

「よくやった!さすが俺の子だ!」

「おめでとう!今日はごちそうを作るからね!」

「ねぇ額当て似合ってる!?写真撮って!」

 

その光景を一人、校庭の端のブランコに座ってメンマは眺めている。

もしも親がいれば一緒に練習して試験に挑めたりしたのだろうか?

合格したら祝ってもらえたのだろうか

そんな思いが徐々に胸の中に積もっていく。

 

「ねぇあの子……」

「例の子よ。一人だけ落ちたみたいだわ」

「フン!いい気味ね」

「あんなのが忍になったら大変よ!火影様は一体何を考えて……」

 

ブランコの持ち手をぎゅっと握りしめるメンマ

けれど自分に向けられる言葉はどれも冷たいものだった。

里の人間は誰一人としてメンマが忍になる事を望んでいない。

それでも忍になろうとしてるのはそれがメンマにとって最後の希望だからだ。

忍者になって里に貢献すればきっと皆認めてくれると思っているからだ。

 

「メンマちゃん。ちょっといいかい?」

 

アカデミーから出てトボトボと一人で帰路についてるとふと後ろからメンマに声がかけられた。

 

「あっ……ミズキ先生」

 

そこに居たのはアカデミーの教師の一人ミズキだった。

そういえばミズキはイルカと一緒に卒業試験の試験官をしていた。

今日の試験でも彼はイルカに「合格にしてあげれば」と勧めてくれたのだ。

 

「試験、残念だったね」

「……あんな内容じゃ仕方ないってばね」

「はははは…確かにね。だけど誰にだって苦手分野と得意分野はある。君はあのうちは君と組手で互角にやりあったらしいじゃないか。実力は申し分ないと思うけどね」

 

ミズキのフォローは素直に嬉しかった。

だけどいくら自分に喜んでくれる親が居なくても、里の皆は自分が忍になる事を望んでなくても、それでもメンマは……。

 

「……でも卒業したかったってばね」

 

沈んだ顔のメンマの口からポツリと本音が漏れた。

その様子をミズキは黙って横目で見つめていたがやがて観念した様に口を開く。

 

「……仕方ない。君に秘密の卒業試験をしてあげよう」

 

その一言にメンマの目に光が宿る。

その様子をミズキは薄い笑みを浮かべて見つめていた。

 

▼▼▼▼▼

 

夕方メンマは火影邸の前に立っていた。

付近に行きかう人々の視線に居心地の悪さを感じながらも何度も躊躇ってようやく屋敷の呼び鈴を鳴らす。

 

「はーい。少々おまちください…………何の用かしら?」

 

出てきたのは割烹着を着た中年女性だった。

木ノ葉隠れの火影はかなりの高齢で妻はずいぶん前に亡くなっているのでおそらく使用人か何かだろう。

彼女はメンマを見るやいなや顔色を曇らせてあからさまに不機嫌な口調で尋ねてきた。

 

「あっ……あの、いきなり訪ねてきてすみません。火影様に頼みたい事があって、その……今いらっしゃいますか……?」

 

俯いて怯えながらも失礼な言葉にならないように要件を言うメンマ。

 

「はぁ?あんたねぇ……人様にモノを尋ねる時は目を見て話せって教わらなかったの!?」

「ひっ……」

 

片手で頬を抑えられ強引にメンマの顔が上げさせられる。

必死に目を泳がせるメンマだったが自分に向けられる憎悪のこもった視線が目に入りカタカタと歯が鳴り始めた。

怯えたメンマの姿を見た使用人は舌打ちして言葉を続ける。

 

「火影様はまだ仕事中!あんたなんかに構ってる暇なんてないのよ!」

 

突き飛ばすように手を離され尻餅をついたメンマの目の前で玄関の扉がピシャリと閉められた。

中から「この忙しい時間帯に!ほんと常識のない奴ね!」と苛立った声が聞こえ足音がどんどん遠くなっていく。

 

視線を落としたままメンマは立ち上がり服についた土埃を払う。

一度だけ閉められた玄関に目をやるも再び視線を落として踵を返して屋敷から立ち去った。

 

『……どうする気だ』

 

屋敷から去ってあてもなく歩いていると九喇嘛が見かねたように声をかけてきた。

 

(もう一回もっと遅い時間に行けば火影様もいると思うから)

『またあの使用人に会うかもしれねえぞ?』

 

九喇嘛の言葉を聞いたメンマの表情が曇る。

それは声にこそ出さなかったが冗談じゃないと言わんばかりの反応だった。

 

『そもそも儂はあのミズキとかいう男の事も信用しておらん』

 

ミズキは火影様の家には凄い術の書かれた巻物があってそこに書かれている術を明日の朝までに覚える事が出来れば滑り込みでも合格してあげられると言っていたのだ。

しかし火影の家にまで行って得たのはメンマの心の中にある『もう二度と会いたくない人リスト』の新規メンバーだけだった。

それでもこのチャンスを逃したくないメンマは九喇嘛の言葉に揚げ足を取る様に言い返す。

 

(……九喇嘛はそもそも誰も信じてないじゃなかったってばね?)

 

九尾の妖狐である九喇嘛はメンマにこそ気を許してるが基本的には人間を誰一人として信用していない。

 

『そりゃそうだがアイツは悪意を持ってお前に接してたぞ』

 

九喇嘛は人の悪意に敏感だ。

昔から人の悪意に晒されてきた九喇嘛は向けられた悪意だけで個人まで特定出来る。

そしてその影響で九喇嘛と仲良くなったメンマも向けられる悪意をなんとなくだが感じ取れるようになってはいるのだが……。

 

(そもそも里の人間で私に悪意を持ってない人間なんて居ないってばね……)

 

メンマの言葉に九喇嘛は押し黙る。

確かに彼女の言う通りだった。

九喇嘛の影響で多少は悪意を感じ取れるようになったもののそれは決していい事ではなく、自分が里中から疎まれているということが分かっただけだった。

 

『そういう事じゃなくてだな……あー!とにかく上手く説明出来んがアイツは信用ならねぇんだよ!』

 

もどかしそうに言う九喇嘛がちょっと可笑しくてメンマの口元が僅かに綻ぶ。

 

(ありがと九喇嘛……でもやっぱり卒業したいってばね)

 

メンマが今回どうしても卒業したいのには理由があった。

自分は火影の計らいで通常よりも早くアカデミーへ入学している。

そのせいで今まで歳上の生徒に囲まれてのアカデミー生活で出来なくても当たり前だと言い訳をしてきたメンマだったが今年は違う。

いよいよ同年代の生徒達が卒業していくのだ。

今までは年下だからと自分を慰めていたメンマだったが今年はもう言い訳できない。

来年度から一つ下の生徒に囲まれてアカデミーを過ごすと思うだけでメンマの心に焦りが積もっていく。

 

『……忠告はしたぞ』

 

そういったきり九喇嘛は話かけてこなかった。

メンマの横を任務帰りの小隊がすれ違う。

口々に任務の成果を讃え合う姿を見てメンマは小さな手を強く握りしめた。

 

▼▼▼▼▼

 

うちはサスケは里の大通りを一人で歩いていた。

とっくに日の落ちた大通りは昼間とはまた違う喧騒に包まれている。

そこかしこから聞こえてくる大人達の酔っ払った声。

その喧騒を避けるようにサスケは出来るだけ落ち着いた雰囲気の定食屋に入った。

 

サスケは試験終了から今まで丸一日修行をしていた。

卒業試験の結果が良くないというわけではない。

分身の術も7人に分身してみせた。

その時の試験官の反応を見るに首席卒業は間違いないだろう。

 

にも関わらずサスケは試験終了後家に帰る事もせず修行をしていたのには理由がある。

 

火遁・鳳仙火の術

 

先日から修行していて下忍昇格までには覚えるつもりだった術が未だに完成していないのである。

今は夕食をとりに里に戻っているが勿論この後も森で修行だ。

幸いな事に説明会は明後日なので今日は徹夜覚悟でサスケは修行するつもりだった。

 

定食屋の中では数人の忍がそれぞれ別の卓に着いて食事をしていた。

サスケは適当な定食を注文しカウンターに座る。

すると不意にピィーっという甲高い笛の音が外の大通りから響いてきた。

 

(緊急招集?なんだってんだ一体……)

 

今の笛は火影屋敷から緊急の呼出しの笛だ。

滅多に鳴るものではないがこの笛がなったら里にいる中忍以上の忍は全て緊急事態として火影屋敷に集まらねばならない。

 

笛の音が響く中、周囲から溜息が聞こえてくる。

 

「マジかよ……こんな時に」

「まだ飯来てないってのに勘弁してくれよ……」

「やっと長期任務が終わったってのに……」

 

店内にいた忍達はそれぞれ思い思いに不満を口にしながら席を立って外へ出ていく。

 

「大変だねぇ忍の皆さんは」

 

出ていく忍達を見送りながら店のおばさんがポツリと呟いた。

 

「はいこれ。さっき出てった人達が同じ注文してたから」

 

そう言ってサスケの前に頼んでいた定食が運ばれる。

火影の出した緊急招集の事を気にしつつサスケは定食を口に運んだ。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

ほどなくして食事を終えたサスケが定食屋から出ると大通りには先程までとは打って変わった騒がしさが満ちていた。

多くの忍びが忙しなく動き回り情報を交換している。

 

「居たか!?」

「この通り周辺には居ない!奴の家は!?」

「帰って来てる痕跡はなかった!ちくしょう!どこ行きやがった!!」

 

(誰かを探してやがんのか?)

 

忍達の会話は切羽詰まったものだった。

どうやらある人物を探し回っているらしい。

気になったサスケは物陰に隠れて忍達の会話に聞き耳を立てる。

 

「巻物が盗まれて四時間は経つ。既に里を出た可能性も高いから日向の者は里外に向かわせているが……」

「四時間!?いつ妖狐の力が出るか分かんねぇじゃねーか!」

「それに他里に人柱力が渡ってみろ!?下手したら戦争になるぞ!」

 

(ようこ?じんちゅうりき?何を言ってやがるこいつら)

 

それは聞き覚えのない単語だった。

しかし忍達の焦りと恐れを含んだ会話が事態の緊急性を物語っている。

 

(待てよ……妖狐?)

 

サスケの中である事件が引っかかる。

 

九尾襲来

 

それは里の者なら誰でも知っている事件だった。

自分が生まれて間もない頃に起きた木の葉屈指の大事件。

どこからともなく九尾の妖狐が現れ里に甚大な被害を及ぼし当時の四代目火影が命を賭して里を守ったと言われている事件だ。

 

(探してる奴はあの事件の関係者なのか?)

 

しかしあの事件は天災と言われているはずだ。

関係者がいるという話は聞いたことがない。

 

「くそっ!やっぱり殺しておけば良かったんだ!!」

「ああ!殺るなら妖狐の力が出る前だぞ!!」

「どのみちろくな奴じゃねーんだ!見つけ次第殺るぞ!!!」

 

次第に会話はヒートアップしていき誰かが言った言葉に周囲の忍達は一斉に大声で同意の声を上げた。

そのただならぬ雰囲気に気付かぬうちにサスケは息を飲む。

 

(九尾事件に関する重罪人でも脱走したってのか?)

 

そんな人物が居たなんて話は知らないが大人達の様子はそうとしか考えられない。

その時、一人の忍がやって来て会話の中に加わった。

 

「うずまきメンマの最後の消息が掴めました!夕刻頃裏通りを歩く姿が目撃されたそうです!」

 

その名前が耳に入った途端、サスケは咄嗟に走り出していた。

 


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