うずまきメンマ物語   作: サキラ

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第5話

『……おい。メンマ少しおかしいぞ』

 

メンマが森で巻物に書かれた最初の忍術の練習をしている中、ふと九喇嘛が話しかけてきた。

メンマは返事をせずにチャクラを練りながら九喇嘛の言葉に耳を傾ける。

 

『里の方から強い悪意がしてきている。しかも一つや二つじゃない。数え切れないほどにだ』

 

九喇嘛の言葉を聞いてチャクラを練るのを止めるメンマ。

 

(もしかして勝手に持ってきたのバレちゃったってばね……?)

 

顔を青くしてメンマは尋ねる。

結局借りる事の出来なかったメンマは火影の屋敷に忍び込んで勝手に巻物を持ち出してきたのだった。

勿論、悪い事だって意識はあった。

だけど覚えきれなくとも朝になれば返すつもりだったし、なによりどうしても卒業したかったのだ。

 

『十中八九そうだろうな』

「ど、どうしよう私…どうしたらいいの!?」

 

メンマは見るからに動揺していた。

嫌われる事を極端に恐れていたメンマは今まで悪戯や人に迷惑をかける事をしようとした試しがない。

そんな少女が初めて悪事を働いてしまったのだ。

小刻みに体が震え、のしかかる罪悪感に呼吸がどんどん荒くなっていく。

 

『いいから落ち着いて深呼吸しろ!この場所を教えたのはミズキだろう?朝になりゃアイツが来るんだしアイツに火影へ事情を説明してもらえばいいだろうが』

(え…?う、うん…)

『あと里の中にはかなり殺気立ってる連中もいる。念の為ミズキが来るまで隠れとけ』

(分かったってばね……)

 

九喇嘛の言う通りに近くの茂みに隠れるメンマ。

その胸中には数時間前の自分の行動に対する後悔が渦巻いていた。

きっと今ごろ里は大騒ぎだ。沢山の人に怒られて謝っても許してもらえないかもしれない。

卒業どころかもう二度と忍者になれないかもしれない。

覚えの悪い頭でなんとか暗記した忍の掟も、居残ってまで練習した手裏剣術も、ようやく習得した数少ない忍術も……。

今まで必死にやってきた全てが無駄になってしまうのだ。

忍者になれなかった私には何も残らなくなってしまう。

 

そうなったら自分の生きてる意味は何処にあるのだろうか?

 

修行をしていて火照っていたメンマの体は夜風に晒されていつの間にか冷え込んでいた。

寒い……、寒い…、寒い、寒い、寒い。

歯をカタカタ鳴らしながら自分の体を抱きしめるように腕を回し蹲ってじっと朝が来るのを待つ。

 

(大丈夫、きっと大丈夫だってばね…)

 

震えながらじっとメンマは自分に言い聞かせる。

朝が来ればきっと先生が来てくれるはずだ。朝が来れば……。

…………本当に朝は来るのだろうか?

 

頭の中に絶望的な問いが芽生えた瞬間、遠くから微かに足音が聞こえ人影が走ってきてるのが見えた。

咄嗟に息を殺して身を縮めるメンマ。

そこにやってきたのはミズキだった。

思いの外早くやって来たミズキを見てメンマはすぐさま茂みから飛び出してミズキの前に出る。

 

「メンマちゃん!?姿が見えなかったから心配したよ……」

 

突然茂みから出てきたメンマに驚いた声を上げたミズキだったが直ぐに安堵したように息を吐いた。

 

「先生!ミズキ先生ぇ!ごめんなさいっ!!あの…私…私、火影様から巻物借りれなくて、朝になって返せばって…お屋敷から……とって来ちゃって…」

 

最初こそ不安から解放され言葉が溢れ出していたメンマだったが話していくにつれ罪悪感が膨らんでいきその声は次第にか細くなっていく。

 

「そっか……。君にそこまでさせちゃったのは僕のせいかもしれないね。火影様には僕から事情を説明しておくから安心しなさい。もう気に病むことはないよ?」

 

ミズキの顔は月が雲に隠れていて見ることが出来ない。

もしかしたら酷く怒ってるのかもしれないし失望した表情を浮かべているのかもしれない。

それでもその優しげな声色を聞いてメンマは思わず泣き出しそうになってしまった。

 

み、ミズキせんせぇ…

 

辛かった。不安だった。ずっと独りで生きてきて誰も味方なんてしてくれないと思っていた。

だからこそ親身になって聞いてくれる人が居た事がメンマには嬉しかったのだ。

 

月は徐々に雲から見え始めミズキの顔を映してゆく。

月の明かりがミズキの顔を映した瞬間、メンマの身体中に強い悪寒が瞬時に走った。

 

「…だって君はここでもう死ぬんだから」

『メンマ逃げろ!!』

 

ミズキの言葉を理解するよりも早く頭の中で檻越しに九喇嘛が叫ぶ。

しかしその言葉に反応するよりも早く、ミズキの蹴りが無防備な脇腹に入り、骨の折れる音ともにメンマの身体が蹴り飛ばされ受け身も取れず木に激突した。

 

えっ…な、なん…で…?

 

何が起こったのかメンマには理解出来なかった。

何かの間違いだとも頭によぎった。

しかし顔を起こしてミズキを見るとその顔は先程と変わらずいやらしい笑みを浮かべている。

 

「ったく、ガキはこれだから嫌なんだよ。言う事聞かねーしピーピーうるせーし頭悪ぃーし」

ヒッ…なさい…ごめんなさぃ、ごめんなさい…!

 

ミズキに里の大人達以上に冷たい目で睨まれメンマは慌てて謝り出す。

 

(きっと先生は凄く怒ってるんだってばね…私があんな事したから…反省が足りないって。だから…もっと謝って許してもらわなきゃ…)

 

ご、ごめんなさい…ごめんなさい…ごめッケホッケホッ……ヒッ!?

 

掠れた声で謝り続けてたメンマの口から血が溢れ出した。

自分の手の平にベッタリと着いた血を見たメンマが思わず短い悲鳴を上げる。

自分が吐き出した血を見てようやく理解が追いついてきたのか途端に身体中に痛みが広がり始めた。

 

な、なんで…?やだ…いたい、いたいってば…せんせ、ごめんなさい…いたいよ…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさゲホッゴホッ!

 

言葉を続けようとした矢先にメンマは再び吐血した。

必死に謝り続けるメンマを見てミズキはしばらく目を丸くしていたがやがてその身体がプルプルと震え出す。

 

「ク…ククク…アーハッハッハ!オイオイマジかよ!?謝ったら助けて貰えるとでも思ってんのかぁ!?テメーはここで死ぬんだよォ!」

えっ…?な、なんで…?私っ…反省してるってば!二度とこんな事しないし、勉強だって頑張る!アカデミーもサボったりしないから!」

 

突然豹変したミズキにメンマは必死で謝り続ける。

訳が分からなかった。嫌われてるなんて思いたくなかった。

ミズキ先生は本気で怒っているだけできっと許してくれるはずだと信じたかった。

しかしミズキは謝り続けるのメンマを見て一層バカ笑いを大きくする。

 

「ギャハハハハ!!おめでてーガキだな!まだ状況が理解出来てねーのかよ!?俺の目的は初めからテメーの持ってる巻物で卒業試験ってーのはな!テメーに巻物を盗み出させるための口実なんだよ!」

 

「ぇ…?」

 

ミズキの言葉がメンマに突き刺さる。

言ってる意味が理解できなかった。

ミズキの言葉をそのまま受け止めるなら自分はバカ正直に利用されただけだ。

不安を煽られ、善意に欺けられ、信頼を裏切られ、謝罪を嘲われ、

その果てに分かったことが誰も本当に自分の味方になってくれる人など居ないということだけだった。

 

メンマの呼吸が再び荒く、不規則なものになっていく。

 

「そしてテメーはもう用済みだ」

 

今にも過呼吸を起こしそうなメンマにトドメとばかりにミズキが冷たく言い放って言葉を続ける。

 

「俺が巻物を持ってると知られるワケにもいかねーしな。利用するだけして始末してから、里にはテメーは巻物を持って里外に逃げたと報告したらいいだけだしよ」

 

ミズキが話は終わりだとばかりに背負っていた巨大な手裏剣を手に取る。

 

「だからまぁ安心して死んでいいぜ?化け狐!」

 

ミズキが手裏剣を振りかぶった。

その時、今まで黙っていた九喇嘛が大声でメンマに呼びかける。

 

『出来るだけ回復はしておいた!逃げろメンマ!!』

 

九喇嘛の言葉に促されメンマは我に返った。

すぐさま木の上に飛び移り一目散に森の奥へと逃げていく。

放たれた手裏剣はメンマには当たらず彼女がへたり込んでいた木の幹に深く突き刺さった。

それを見てミズキは一度舌打ちをするも直ぐにニヤッと口元を歪める。

 

「……まぁいい。せいぜい長めの走馬灯を見ておくんだな」

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

走る。走る。走る走る走る。

 

間一髪ミズキから逃げ出したメンマはがむしゃらに木の葉の森を走っていた。

メンマは普段の食材調達から森での動き方を熟知している。

一見バランスの悪そうだけど安定した足場、強くしなり遠くへ押し出してくれる枝、ぶら下がっても切れない蔓などを利用して猿のようにスムーズに森を駆け抜けていく。

 

しかし追ってるミズキは中忍

 

しかも本来なら忍者は追跡されないように痕跡を残さないように移動するものだがアカデミー生な上に手傷を負ってるメンマにはそんな余裕はない。

今は出来るだけ、体の動くだけ逃げ続けてミズキとの距離を稼ぐしかない。

 

だけど追跡速度も能力もミズキの方が上だ。

どんなに遠くに逃げても必ず見つかるだろう。

 

「ッ!…ゲホッゲホッ!」

 

その考えが頭によぎった瞬間、口から再び血が溢れ出した。

 

『……回復が間に合ってねぇな。傷が開いたみてぇだ』

「ッ!」

 

九喇嘛の言葉を聞き流しつつ別の木の枝に飛び移ろうとしたメンマだったが着地の瞬間、身体に激痛が走り足を滑らせ落下する。

 

『おい!大丈夫か!待ってろ今治してやる!クソが!こんな檻さえなけりゃ!』

 

九喇嘛が苛立ちと焦りの交じった声をあげる。

尾獣と呼ばれる莫大なチャクラを持った九喇嘛なら傷を治すくらいわけないのだが封印のせいで思うようにメンマにチャクラを与えれないのだ。

 

「……もう、いいってばね」

 

二重に掛けられた檻の中からなんとかチャクラを渡そうとする九喇嘛を横目にメンマは投げやりに答えた。

その言葉に九喇嘛は目を丸くする。

 

『なに言ってやがる!?早くしねーとあのクソ野郎が追いついて来ちまうだろうが!』

「だからもういいってば……どうにもならないんだってばね」

 

きっとどんなに頑張っても逃げきれない。

それに里の忍達もメンマを殺すつもりなのだ。

運良くミズキから逃げきれてももう里には戻れない。

自分の味方なんてどこにもいないのだ。

それならばもう全てを諦めてしまった方が楽に決まってる。

 

『ざっけんな!お前が死ねば俺まで死ぬだろうが!』

「九喇嘛は少ししたら復活するから別にいいじゃん…」

 

遠くから木々を蹴る音が近づいてくる。

しかしメンマに動き出す気配はなかった。

 

『そういう問題じゃねぇ!クソこうなりゃ強引にでも俺のチャクラで!』

 

九喇嘛から紅いチャクラが溢れだす。

二重にある檻のせいで九喇嘛からチャクラを受け渡す時には大量の精神エネルギーを使わざるをえない。

その結果メンマの体には耐えられないほどのチャクラを渡してしまうため九喇嘛は極力チャクラを渡したくはないのだ。

 

「そんな事しても余計に里の人達から狙われるだけだってばね」

 

九喇嘛のチャクラは膨大だ。

以前里の外れの森の中でほんの少しだけ九喇嘛にチャクラを渡された事があったがそれだけで感づかれ大騒ぎになった事もある。

 

「それに…もう疲れたんだってばね……」

 

卒業試験に落ちて、里の人間に追われ、ミズキに騙されメンマはもう限界だった。

今までの事を思い出してもあるのは辛い記憶ばかり。

これまではそれでもなんとか忍になろうとやって来たが今回の件でその道も閉ざされた。

 

「身体中が痛い…お腹も、背中も、腕も、足も、胸も……どこが痛いのかも分かんないくらい痛いんだってばね……」

 

もうこの先、辛いだけの日々をただ生きて苦しむだけならばいっその事ここで死んでしまった方が楽だろう。

 

『…………』

 

檻の中の九喇嘛はなんの言葉もかけられなかった。

メンマが自殺を試みた事は以前にもある。

前回は見ていられなくなった自分が踏みとどまらせたが今回ばかりはどうする事も出来なかった。

これまでの経緯を分かってるからこそ九喇嘛は無責任な言葉をかけれない。

生きていくのが辛いと口にする彼女の気持ちを理解してしまうのだ。

 

全部諦めたメンマは身体を丸め蹲る。

その瞬間、目の前に誰かが降り立つ気配があった。

 

「おい」

 

その声にビクッとメンマの身体が揺れる。

 

……来た。

 

泣かない。何をされても絶対に泣かない。

これまでどんなに辛くても涙は流さなかったのだ。

誰も認めてくれなくても自分で自分を認めるために耐えてきたのだ。

最後の最後でも誇りを守るためにこれだけは譲れない。

深く深呼吸をして唇をメンマは噛み締める。

 

「こんな所で何やってんだ…ウスラトンカチ」

 

その嫌に耳に残る蔑称を聞いてメンマが顔を上げるとそこに居たのはミズキではなく、荒れた息を吐きながら自分を見下ろすうちはサスケの姿だった。

 

 

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