うずまきメンマ物語   作: サキラ

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第7話

「カハッ!」

 

短い悲鳴が木々の間に吸い込まれるように消えていく。

夜の空気はいっそう冷え始め先程までそこにあった熱をいつのまにか散らしていた。

その中を一つの足音が静かな怒りを伴い進んでいく。

 

「テメェ…何のつもりだ…」

 

木々に背を預けミズキが呟いた。

その手には既にクナイはなく代わりに蹴り飛ばされた自分の鼻頭を抑えている。

 

「は、鼻血が出てやがる…ふざけんな!ふざけんなぁ!!ぶっ殺してやる…下忍にもなってねぇ分際で教師を蹴りやがって…八つ裂きにしてやる…うちはサスケェ!!」

 

木を支えにしてフラフラと立ち上がりながらミズキは吠えた。

 

「フン。威勢の割に随分といいカッコじゃねえかよオイ?」

 

ニヤリと笑ってサスケは身構える。

その口許は笑っていたが額からは一筋の汗が流れた。

 

「なんで…」

 

その様子を我を忘れて見つめていたメンマが呆然と口を開いた。

メンマはサスケを逃す為に死ぬつもりだった。

しかしクナイが刺さる直前、横からサスケがミズキの顔を蹴り飛ばしたのだ。

 

「なんで…」

 

逃げなかったのだ。

サスケを逃す為に囮になる。

それがメンマにとってせめてもの償いだったのに。

 

「なんで…」

 

助けたのだ。

割って入ったサスケにミズキは完全に激昂してる。

もうサスケは逃げられない。

ミズキは確実にサスケを殺すだろう。

 

「なんで…」

 

自分は無力なのだ。

やれる事は全部やったというのに結局はこのザマだ。

状況は悪化しただけで解決策はない。

 

落ちこぼれで何も出来ない自分がますます嫌いになっていく。

いくら謝った所で巻き込んでしまった罪悪感は募るばかりだ。

自分の想いも汲まず状況を悪くしたサスケへの苛立ちも沸いてくる。

だけどそれ以上に、

 

「なんでっ…!」

 

───嬉しくて仕方がないのだろう?

 

来てくれた事が嬉しい。

心配してくれた事が嬉しい。

逃げずにいてくれた事が嬉しい。

助けてくれた事が嬉しい。

 

無意識にメンマは震える小さな手を胸元でギュッと握りしめる。

 

これがいけない感情だという事は分かってる。

何も出来なかった自分にそんな想いを持つ資格がないのも分かってる。

なのに必死に抑え込もうとしてる感情はとめどなく溢れてしまうのだ。

 

分からない。メンマにはもう自分がどうしたいのかも、何をしなければならないかも分からなかった。

ただ自然と本人も気づかないまま視線はサスケから逸らすことが出来なくなっていた。

 

 

ミズキが元の調子を取り戻すのを待つこともなくサスケはポーチから手裏剣を放った。

 

(パワーもスピードも勝ってる相手に接近戦出来ねぇ…ダメージが残ってるうちに遠距離から隙を作り短期戦でケリをつける!)

 

夜闇に紛れた手裏剣を判別するのは難しい。

サスケの放った手裏剣は弧を描いてミズキの首に向かっていく。

 

「見えてねえとでも思ってんのかぁ?テメェの腕の振りと僅かな反射光で手裏剣の軌道とタイミングくらい読み取れんだよ!」

 

しかしミズキは難なくクナイで手裏剣を弾いた。

それでもサスケは再び手裏剣を構える。

通用しないというのは先ほどの一投で分かった。

馬鹿正直に狙っても簡単に弾かれるだけだろう。

だが一つは弾けても二つなら、二つは弾けても四つなら、四つは弾けても八つなら。

サスケは左右の手に四つずつ計八個の手裏剣を一斉にミズキに投げる。

 

サスケの放った手裏剣は一つ一つ異なった軌道と速度でミズキに迫っていく。

 

「おいおい的当てが上手いだけで忍者になった気でいんのかぁ!?」

 

しかしその手裏剣は先ほどと同じく全て弾かれた。

地面に散らばった手裏剣を見てミズキは得意気に嗤う。

 

(手裏剣が残り少ねえ、クソ…こんなことなら普段から一式持ち歩いておくべきだったぜ)

 

一方サスケは残り三枚になった手裏剣を見て小さく舌打ちをした。

元々修行をしていたサスケの手許には必要最低限のクナイと手裏剣しかない。

ミズキから仕掛けてくる様子は今のところない。

恐らくサスケの技を全て見切って優越感に浸りながら仕留めるつもりだろう。

 

(なら尚更今のうちに決めねえとな!)

 

両手に最後の手裏剣を構えミズキに向かって放つ。

その手裏剣は二つ。一つは左に大きく弧を描き、もう一つは正面からまっすぐミズキに迫っていく。

 

「苦し紛れってかぁ!チンケな手裏剣術なんざ掠りもしねーって言ってんだ──なにぃ!?」

 

一つ二つと手裏剣を弾いたミズキが苦し紛れに倒れながら身を逸らした。

 

「影手裏剣だと!?小賢しい真似しやがって…!!」

 

倒れた自分の真上を通過し勢いよく木に突き刺さった手裏剣を見て苛立ち気にミズキが吐き捨てた。

影手裏剣の術。

一振りで二枚の手裏剣を投げ一枚目の影に二枚目の手裏剣を隠して攻撃する手裏剣術だ。

ミズキは最初の手裏剣を弾いた時、腕の振りと反射光で軌道とタイミングは読めると言っていた。

それならば同じ腕の振りで一枚目の影になるように手裏剣を投げれば反射光は見えずミズキはタイミングを測れない。

 

だからこそサスケは本命の手裏剣を隠せる影手裏剣を使ったのだ。

だが影手裏剣にも弱点がある。

そもそも影手裏剣の利点は相手の虚をつく事だ。隠した二枚目の手裏剣がバレてしまえば意味がない。

だからわざわざ弾かれると分かっていながら手裏剣を投げていたのだ。

勿論、当たるに越したことはないのだが当たらずともミズキが調子に乗って躱してくれればそれで良かった。

注意力が散漫し、手裏剣の影にもう一つの手裏剣が隠れているなど思われずにいれば影手裏剣は確実に相手の虚を突ける。

 

「けど残念だったなぁ!当りゃしねえんだよ!下忍にもなってねえ奴の手裏剣なんてっ!?」

 

嘲笑うミズキだったがサスケを見て言葉が止まった。

確かに結果的に見ればサスケの影手裏剣は外れた。

だがそもそもサスケの狙いはたった一つの手裏剣をミズキに当てる事などではない。

ミズキが隙を見せればよかったのだ。

起き上がろうとしたミズキの視線の先には既にサスケが寅の印を組んで不敵に笑っている。

 

「火遁・豪火球の術!」

 

サスケの口から巨大な火球が放たれた。

渾身のチャクラを込め大人一人は楽に飲み込めるほど巨大になった火球は真っ直ぐにミズキへと向かいその体を丸ごと焼き尽くす。

 

「ぐっ…ガァァァァァァ!!」

 

炎に包まれたミズキは叫び声を上げ暫くのたうち回っていたがやがて力なく地面に倒れた。

動かなくなったミズキを見てサスケがホッと息を吐き倒れ込むように地面に腰を下ろす。

 

「だ、大丈夫!?サスケ君!」

 

気づけばメンマは咄嗟にサスケに駆け寄っていた。

 

「……重症なのは俺よりお前の方だろうが。骨とか大丈夫か?」

「わ、わたしは大丈夫…昔から傷の治りとか早いし」

 

顔を赤くしてメンマが言う。

これまで人に心配された事が無かったからかどういう反応をしたらいいか分からない。

そっぽを向いて頬をかくメンマを見てサスケは小さく溜息をして口を開いた。

 

「で?なんでお前は里の奴らに追われてんだ?それにミズキの野郎も…何があってんな事になってんだよ」

「うっ…それは…」

「まさか今さら関係ないとか言うんじゃないだろうな?」

 

なおも渋っていたメンマだったがサスケの言葉に言い返せず項垂れて目を逸らしながらポツリ、ポツリとこれまでの経緯を話していく。

 

「なにやってんだお前は…」

 

メンマから事の経緯を聞いたサスケは思わず口をこぼした。

 

「だって…だって、卒業したかったんだってばね…」

「かといって普通火影屋敷の巻物盗むかウスラトンカチ」

「ウスラトンカチってゆーな!」

 

バカを見るような視線を向けられ反射的にメンマは言い返した。

なぜか分からないがサスケにウスラトンカチ呼ばわりされるのは気に入らない。

 

「ウスラトンカチにウスラトンカチって言って何がわりーいんだウスラトンカチ」

「あっまた言った!ウスラトンカチって言った方がウスラトンカチなんだってばね!」

「そういうことならやっぱりお前がウスラトンカチだろーが」

「回数で言ったらサスケ君の方が多く言ってるってばね!!」

 

睨み合うメンマとサスケ。

しかし程なくしてどちらかともなく笑い出した。

 

「あのねサスケくん」

 

ひとしきり笑い合ったあとメンマがサスケの隣に腰を下ろし口を開いた。

 

「助けに来てくれてありがと。すごい嬉しかった…今までで一番嬉しかった」

 

青い瞳を僅かに潤ませメンマはサスケに微笑みかける。

 

「な…なに大袈裟に言ってんだ、当然の事しただけだろ」

 

少し顔を赤らめたサスケがぶっきらぼうに言う。

けれどメンマは首を横に振って言葉を続けた。

 

「当然?ううん当然なんかじゃないってばね。私を助けてくれたのはサスケ君が初めて。だから凄く…嬉しいんだってばね」

「……そうかよ」

 

メンマから視線を外しそっぽを向くサスケ。

 

「どうしたのサスケくん?」

 

突然そっぽを向いたサスケに首を傾げメンマはサスケの顔を覗き込むように身を寄せた。

 

「っ!おいこらひっ付くな!このウスラトンカチ!!」

「むぅ、また言った」

 

反射的に仰け反って叫んだサスケをジト目で睨むメンマ。

正直メンマ自身もサスケに抱いてる感情の正体は分かっていない。

彼と話す時に訪れる心地よい胸の高鳴りも、少しでも近くに居たいと思う感情も彼女には初めての経験だった。

だから知らず知らずのうちに探してしまうのだろう。

少しでも多く自分の胸の内に抱く想いを少年に打ち明けて抱いてる気持ちの答えを見つけたいのだ。

 

「んなことよりも今は今後どうするかだろ。里はバカ正直に戻れる空気じゃねえんだぞ?」

「うっ…そうだけど、もっと話しておきたいってばね…」

 

そんな場合じゃないっていうのは分かってる。

だけどサスケと話している間は嫌な事を忘れてられるのだ。

 

「バカ言ってねえでまともに頭働かせろ。まぁミズキを連れてきゃ状況の説明くらい……」

 

そこまで言ったところでサスケの口が止まった。

あるはずのものが無い。確かにミズキに豪火球は当たった。

奴が倒れるのも見た。なのに何故倒れたはずのミズキの姿がない。

 

「やっと気づいたのかよ?」

 

暗い木々の間からその声は聞こえてきた。

 

「メンマ逃げ…ガッ!!」

 

咄嗟に叫んだサスケだが言い終わるより早く目の前に現れたミズキによって蹴り飛ばされる。

 

「どうやらチャクラはもうねえみたいだなぁ?体に力が入ってねえぞ?うちはく~ん?」

 

嗤いながらミズキは倒れたサスケに近寄っていく。

 

「のんきに寝てんじゃねえぞ!ちやほやされて調子にのりやがって!自分が中忍の俺よりも強ぇーとでも思ってんのかコラ!!」

 

ボールを蹴るかのようにミズキは倒れたサスケを甚振っていく。

 

「や、やめてッ!!」

 

思わずメンマはミズキに掴みかかった。

 

「ッ!!…このっ鬱陶しいぞ化け狐がぁ!!」

「キャッ!」

 

右腕に纏わりついたメンマを振り払うミズキ。

 

「…そんなに先に死にてぇなら望みどおりにしてやんよ化け狐…」

 

サスケはもういつでも殺せると判断したのか青筋を浮かべたミズキがメンマに向かっていく。

 

「………化け…狐?」

 

そのミズキの足を地面に倒れ伏したサスケの一言が止めた。

 

「あぁそうか、そういや知らなかったな…おめぇらは!!」

 

メンマを見下ろしたミズキが愉快そうに哂う。

その視線でミズキの言おうとしてることがメンマには直感的に分かってしまった。

 

「や、やめてっ!!」

「なんだテメェは知ってたのかよ?まぁそりゃそうだよなぁ?自分自身の事だしよぉ?」

 

メンマの顔が青ざめる。

それはサスケにだけは知られたくなかった。

 

「や…やだ…やめて……お願い…」

「なんだ?何を知ってる…?」

「おいおい愛しのサスケ君は気になっちまうみたいだぜ!?助けに来てくれた恩人に教えてやらねえでいいのかよ?」

「それは…っ」

 

続く言葉は出せなかった。

説明出来るはずがない。

言葉に詰まるメンマを見てミズキの顔がさらに愉快そうに歪む。

 

「言えねぇってなら教えてやるよ!!うちはサスケ!お前が必死なって庇ってたのはなぁ!12年前、四代目火影を殺し、里を壊滅させた九尾の化け狐なんだよ!!」

 

その言葉は深い森の中に狂笑と共に響き渡った。

 

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