「見つけたぞガキ共…」
しばらくしてミズキが二人の前に現れた。
その体には汚れや傷が前回逃げだした時よりも増えてミズキ自身の息も切れている。
足止めで残した影分身が意外と奮闘したのだろう。
「ハッ!…手なんか繋いで嫌われ者同士仲良しごっこかよ」
ミズキの挑発に二人は一言も返さない。
ただこちらを見据えて身構える二人にミズキは「へぇ?」と笑って口を開いた。
「片方はチャクラ切れ、もう片方はたった数体の分身しか出せねーのにやろうってのか?」
コキコキと左右に首を鳴らして試すように見下すミズキ。
その言葉は事実だった。
けれどサスケもメンマも互いの手をしっかりと握り、ミズキを見据える。
((なぜだろう…))
重なった手のひらから互いの心音が伝わってくる。
(メンマとこうしていると…)(サスケくんとこうしていると…)
不揃いな二人の心音は徐々に早くなっていき、次第に不揃いだった脈動が揃い始める。
(力が湧いてくる…!)(すごく安心する…!)
脈動がハッキリと重なった瞬間、サスケとメンマは互いの顔を見合わせた。
それを合図に双方を押し出しながら手を離し、弾けるようにミズキを左右両側へと周り込む。
「こい!八つ裂きにしてやんよ!!」
左にサスケ、右にメンマと挟み込んだ二人は既に印を結んだ状態だった。
「火遁─」「多重─」
術を使おうとする二人にミズキは咄嗟に身構えるもすぐにニヤリと口元を緩ませる。
(ハッタリだ!こいつらにチャクラはもう残ってない!この距離からなら手裏剣でも投げるのが関の山だ!)
「鳳仙火の術!」「影分身の術!」
クナイを取り出して左手に構えるミズキに対しサスケとメンマは同時に術名を叫んだ。
「なっ、なんだとおおお!?!?」
思わずミズキは驚愕の声を上げた。
ぼふんっという音と共にチャクラがないとタカをくくっていた彼の左からは十を超える火球が、右からは煙と共に現れた十人以上の影分身が同時に迫ってくる。
ミズキの顔が驚愕から焦りの色へ変わる。
理由は右手だった。
その手は最初にサスケと戦った際に火傷を負っており、メンマの影分身の攻撃を受けきれる状態じゃない。
また左手で迫ってくる火遁を受けると戦える手がなくなってしまう。
ならば上と跳ねて逃げようとしたミズキだったがその動きが一瞬止まった。
「ぐっ!?」
その隙にいち早く駆けつけた影分身がミズキの顔を殴りつける。
そして怯んだ彼へ目がけ、十を超える火球と分身がなだれ込んだ。
「ぎゃああああああ!!!!」
お互いの術で発生した爆煙の中から爆発音と打撃音がしてミズキの悲鳴が上がる。
ほどなくして音が止み煙が晴れるとそこには両腕に火傷を負って顔の至る所に青あざを浮かべ鼻血を出して気を失っているミズキが倒れていた。
倒れているミズキを見て、サスケは肩を下ろしてふー…と長く息を吐いた。
ようやく修行の成果が出せた喜びと安堵感で体の力が抜けていく。
すると突然正面からどんっという衝撃が走った。
「やった!やった!!ほんとにほんとに倒せちゃったってばねーー!!」
衝撃の正体はいつの間に駆け寄ってきたメンマだった。
飛びつくように抱きついて勢いそのままにぴょんぴょんと跳ねメンマは喜びを爆発させる。
「すごい!すごい!ほんとに倒せちゃうなんて!!」
「わ、分かったから離せ!こらくっつくな!」
しばらく呆然としてたサスケだったがハッと我に返って顔を赤らめながら引き剥がそうとするも当のメンマはピタリと頬をくっつけ一向に離れようとしない。
それでもなんとかもがいていると近くの木の上から人影が一つ降り立った。
「二人とも見事じゃった」
突然声をかけられた二人は驚いて弾けるように離れて同時に声の主に目を向けた。
「三代目…」「火影様…」
現れたのは三代目火影だった。
影装束のままに追ってきた老忍は優しく微笑みながら二人に近寄っていく。
「見てたの…?」
「ちょうど二人が術を使ったタイミングでの。もちろん危険になったら割って入るつもりだったが…うむ、実に見事な連携じゃった」
呆気に取られたままのメンマの問いに三代目火影は優しい声色で答えた。
「よく言うぜ。あの時、ミズキの動きが一瞬止まったのはアンタが頭上から手裏剣なげてたんだろ?」
問いかけたサスケの視線の先には伸びているミズキの足元に手裏剣が刺さっていた。
否定をしてこない三代目を見てサスケは続けざまに問いかける。
「…事情は知ってんのか?」
「うむ、おおかたの」
メンマを庇うように手で三代目を遮るように立っていたサスケだったが三代目の言葉を聞いて手を下ろした。
「しかし一つだけ分からないことがあってのう。さてメンマよ、なぜお主は巻物を盗ったりしたのじゃ?」
「あっ……」
三代目火影が身をかがめ同じ目線で問いかけるとメンマは咄嗟に目を伏せた。
「お主がただイタズラにこのような事をしないのは分かってる。だからこればかりは本人に確認したくてのう。説明してもらえんか?」
俯いたメンマの頭にぽんぽんと優しく手を乗せ再び三代目は問いかけた。
思いのほか優しく告げられた声色に戸惑いを覚えながらポツリポツリとメンマは事の顛末を伝えていく。
「なるほどのう。そういった次第じゃったか」
時折サスケに助けられながらもたどたどしくメンマが伝え終わると三代目火影はチラリと伸びてるミズキに目を向け呟いた。
「あ、あのっ…!本当にごめんなさいだってばね」
頭を下げるメンマに三代目火影は困ったように眉間に皺を寄せた。
本来メンマのした事は許されることではないのだが大人のそれもアカデミー卒業試験管に騙されて行ったことだ。
メンマはこれまでに何度も卒業試験に落ちている。
特殊な身の上を考慮し早い時期から訓練させ彼女を狙う驚異に備えておくべきと判断して同世代より早くアカデミーに入れたことが裏目に出た。
自分より2歳、3歳と離れた子達との競走に勝てるわけもなく自信を失わせてしまった。
そのコンプレックスは同世代の子らが入学してきた後も変わらずに落ちこぼれのレッテルを貼らせてしまった。
今回の件は彼らの子だからと楽観視して入学させた自分にも責任の一端はある。
どうしたものかと悩んでいるとメンマが背負っていた巻物を下ろし差出してきた。
「おお、すまんのう」
巻物を受け取った三代目火影は改めてメンマの様相に目を向ける。
全身は土埃や切り傷だらけでボロボロだというのにたった今手渡された巻物は火影屋敷で保管しておいたままの状態だった。
三代目に巻物を渡したメンマは俯いて震えていた。
自分のやった事は許されるようなことじゃない。
卒業どころかアカデミーを退学させられてもおかしくないのだ。
すごい忍になって皆から認められる。
きっかけはそんな夢見がちなものだった。
けれど現実は厳しくて、何度も挫折して、それでも諦めきれずに足掻いて、挙句悪い事までして縋ろうとして終わらせてしまった。
仕方ない。仕方がないことだ。悪いのはぜんぶ自分だから当然の事なのだ。
納得させるように必死に言い聞かせるも目元に涙が滲み視界が揺れる。
「そうじゃ。代わりと言ってはなんだがこんな巻物よりもよっぽどいい物をあげようかのう」
突然三代目が口を開いたかと思えば俯いたメンマの揺らぐ視界の中にそれはいきなり入ってきた。
「うずまきメンマ。木ノ葉隠れ三代目火影の名においてお主に忍者アカデミー卒業を命ずる」
差し出されたのは木の葉の額当てだった。
「えっ…?へ…?」
状況が飲み込めずに咄嗟にメンマは顔をあげる。
三代目火影は優しい微笑みを浮かべながらメンマに額当てを差し出してた。
「ほら、受け取りなさい」
優しい笑みを浮かべたまま口を開いた三代目に促され震える手でメンマは額当てを受け取る。
ずしりとした重みが手に伝わり、磨かれた鉄版は月明かりに照らさせて鏡のようにメンマの顔を映し出した。
そして浮かんだ虚像に一つ、二つと雫が落ちていく。
「あれ…ヒッグ…なんでまた…ヒッグ…こんなに……」
目元を手のひらで拭うも青い瞳からは止めどなく涙が溢れてくる。
「今までよく頑張ったのう」
かけられた言葉はずっと誰かに言って貰いたかったものだった。
いつも独りだった。必死に努力して認めてもらおうとしても上手くいかずバカにされ、仲間外れにされ続けた日々が胸の内から溢れてくる。
「ぅ……ぅぅぅぅ…うわあああああああん!!!」
もう抑えることなんて出来なかった。
一度漏れだした嗚咽は次第に大きくなっていき遂にはその場で泣き崩れる。
顔をぐしゃぐしゃにして大きく口を開けて人目をはばからず泣き続けるメンマだったが額当てだけは両腕でしっかりとその胸に抱きしめていた。
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「すまんのう、お主も疲れているというのに」
夜の森を歩く三代目火影が共に進むサスケに謝まった。
サスケの背には泣き疲れて眠ってしまったメンマがおぶさっていた。
ちなみに三代目火影の背には巻物が背負われている。
「本当に良いのか?儂も影分身を使えばお主もおぶられて帰れるんじゃよ?」
「……そんな小っ恥ずかしいことできるか。コイツ軽いし平気だ」
メンマを背負ったサスケがぶっきらぼうに答える。
背負うと言い出した手前弱音を吐けるはずもなくいたって平静を保たねばならない。
三代目はサスケの背ですやすやと寝息を立ててるメンマを確認して口を開いた。
「四代目火影はこの子を、メンマを英雄として見て欲しかったんじゃ」
「……いきなりなんの話だ?」
「お主はメンマに九尾の妖狐が封印されているのを知ったからのう。きちんと説明しておかねばなるまい」
無言で言い返さないサスケを見て三代目火影は続きを語り出した。
「メンマは里を襲った九尾を産まれたばかりでありながら封印し救ってくれたのじゃ」
「なんで、こいつだったんだよ…」
絞り出すように返したサスケの言葉に三代目は答えていく。
「九尾の力は強大でのう、普通の者には封印出来なんだ。けれどこの子は適合出来た。出来てしまったんじゃ…」
「それでメンマに」
「……うむ、儂にも里の他の誰にも出来ぬことよ。この子に九尾を封印できなければ今の木の葉はなかったからのう」
そこで口を止め、三代目火影は一呼吸置いて眉にシワを寄せ言葉を続けた。
「けれど里の大人達はメンマの事を憎んだ」
三代目の言葉にサスケの顔が曇る。
そして沸々と怒りが湧いてきた。本来ならばメンマは憎まれるどころか感謝されるべきなのだ。
だと言うのに事情を知っておきながら里の連中はメンマを目の敵にしてる。
彼女自身は何も悪くないというのに。
本来は賞賛されるべきだと言うのに理不尽に憎まれているのだ。
「みな理屈では分かっていても感情が許さないのじゃろう。それほどに九尾襲来は里の者達に辛い記憶を与えてしまったのじゃ」
サスケの脳裏にミズキの言葉が蘇る。
九尾襲来の犠牲者。まだ赤子だったサスケには当時の里の人間が負った傷は知りようがない。
「メンマはそんな里中の者達からの憎しみを物心着く前からずっと浴びせられて来たのじゃ」
三代目に告げられサスケは背中ですやすやと寝息を立ててるメンマに意識を向けた。
里中の憎しみを向けられてきた彼女の身体はとてもそうとは思えないほどに軽かった。
胸中の怒りはいつの間にか悲しみに切り替わっていた。
理屈で納得出来ないことは誰にだってある。
もしかしたら兄の凶行はなんらかの理由があったのかもしれない。けれどサスケにはいかなる理由があったにせよ兄のした事は許せる事ではなかった。
「……なんで俺にそんな事言うんだよ」
胸中に渦巻く悲しみから逃げるようにサスケは問いかけた。
三代目はメンマを背負って歩くサスケに目をやり、
「それはサスケよ、お主がこの子の事を案じ守ろうとしてくれたからじゃ」
優しい笑顔で言葉を続けた。
「これまで1人きりだったこの子の世界に初めて繋がりを持ってくれた。その繋がりが窮地を脱し立ち向かう力を与えたのじゃ」
サスケの脳裏にメンマと共にミズキに立ち向かった時の事が蘇る。
チャクラ切れでお互いボロボロだったのにも関わらず何故か力が湧いてきたのだ。
そして修行で一度も成功しなかった術を出すことが出来た。
「のうサスケよ、人というのは大切なものを守ろうとする時にこそ本当に強くなれるものなのじゃよ」
三代目の言葉にサスケの歩みが止まった。
先程の戦いから心辺りがないと言えば嘘になる。
けれど自分は復讐者だ。憎しみを力に変えて一族の仇を取るため歩いて行かなければならない。
「……信じられないといった様子じゃの」
立ち止まって顔を伏せるサスケの様子を見て三代目が言葉を続けた。
「わしの知ってる強い者らは皆そうじゃった。譲れないものや己の信念といった大切なものを守るために修行を積み強くなっていったのじゃ」
懐かしむ様に言った三代目の顔を確認する様にサスケは横目を向けた。
そのまま顔色を伺いつつ更に三代目に問いかける。
「……そいつらはどれくらい強くなったんだ?」
その問いに三代目は笑みを浮かべて口を開いた。
「そうじゃのう。彼らは皆、火影になったんじゃ」
その迷いのない答えにサスケは呆気に取られてしまった。
三代目は初代、二代目、四代目とこれまで木の葉を治めてきた火影達全員を実際に目にしてきたらしい。
その彼が言うのだから間違いないのだろう。
気付かぬうちにサスケの口元はほころんでいた。
背中に預かった重みがなんとも心地よい。
それはこれまで自分が背負っていた冷たさとは対照的な暖かい温もりだった。
(火影か……)
一度体を揺らし背中の少女を背負い直すサスケ。
「んん…っ」と耳元から寝苦しそうな声が響く。
呑気なものだ。と呆れるように息を吐いて、顔を上げサスケは再び歩き始めた。
ひとまず一章完です。
メンマのイメージ画像をカスタムキャストで作成しました。
背は低め、胸は歳の割にはある感じです。
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