ちかなんとーーー。   作:黄昏虎おじさん

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ep2-3 Independent Future - 不安

 

ーーー。

 

カーテンを閉めたままの室内。

淡い光が隙間から差し込む、外は恐らく晴れているんだろう。

静まり返った部屋には、カチッ…カチッ…と時計の音が鳴り響く。

 

仰向けに床に寝転ぶ、昼下がり。

…そういえば今日は、まだ何も食べていない気がする。

朝起きて、ベッドから落ちて…そのまま。

 

むくり、起き上がって周囲を見渡すと。

座卓テーブルの上に無造作に置いたままのコルクボード。

手に取ってみるそれに、ピン止めされた写真。

写っている笑顔の3人。

 

…。

 

何も考えないつもりでそれを眺めていると。

無意識の内に一本の押しピンを片手に取っていて。

写真に写る人の顔へと狙いを定め。

振りかざしたーー、その手を…反対の手で制する。

 

ーーっ…ぅう…。

 

何、考えてるんだろう…。

そんなことをしても、何かが変わるわけでもないのに。

誰が悪いって、そんな風に決めつけたいわけでもないのに…。

寝ぼけて忘れたつもりに隠していた憎悪と愛情が、行き場をなくして自身を内側から蝕むように、ズキズキ…と。

 

痛い…痛い…、苦しい…。

ーー。

 

しばらくしてから落ち着いた私は…、もう戻る事のできないかつての関係など、ーーにするつもりで。

コルクボードからーー。

 

 

ーーー。

 

チカ「こんちかー!」

主人公「こんにちは。」

チカ「んん〜!いい香り!」

主人公「ふふふ、もうちょっと待っててね。」

チカ「はーい。」

主人公「ーーー。」

 

その日は主人公の部屋にチカが訪れていた。

 

主人公「はい、出来たよ。」

 

主人公はチカに”お昼を一緒に食べて、おしゃべりしようよ”と話しを持ち掛けたのだ。

9月末。

 

窓の向こうの曇り空を眺めながら、チカはボーっとしている。

 

主人公「ここしばらく、天気がすぐれないね。」

主人公「たしか、今日は昼過ぎから雨が降る予報だっけ?」

チカ「うん。」

チカ「お空がどんよりしてると、気分も落ち込んじゃうよね…。」

 

物憂げな表情でチカは言葉を漏らしてから、頬をパシッと叩く。

 

チカ「んっ!よし!」

チカ「お昼ご飯ありがと、おいしそ~!」

チカ「いっただきまーす!」

主人公「いただきます。」

 

主人公はここのところ不機嫌そうなチカのことが気になっていた。

チカとの付き合いも2年が経過し、一時期の熱に比べるとお互いの理解と共に、2人の関係は落ち着いてきたと感じていたのだが。

今のチカの様子は…過去にはあまり見たことがない。

買い物をしているときや、2人でテレビをみているような、そんな何気ない日常のひとときの中で、少し冷めた様子にも見える表情を浮かべて、ぼーっとしている姿がよく見られる。

何かあったのだろうか…?

主人公が今日の話を持ち掛けたのも、そんなチカを元気づけられれば…という思い付きだった。

 

ーー。

 

チカ「ごちそうさまでした!」

 

いつもの彼のごはんーー。

 

主人公「ふふっ、ごちそうさまでした。」

 

私が食べ終わって満足げな表情を浮かべると、それにつられて彼は微笑む。

いつも見せてくれる、好きだったその表情。

 

私たちは食器を各々に持ってキッチンへ。

いつも通り手際よく、後片付けを済ませて、それから座卓へ集まる。

 

主人公「さて…と。」

主人公「いろいろあったね~、今年の夏も。」

主人公「既に9月末だから、夏って言うのはちょっと変かもだけど…。」

 

そう言いながらマグカップを持ってカーペット上であぐらをかく彼。

 

チカ「うん、そうだねえ。」

チカ「今年の夏…かあ~。」

 

いろいろ…あったなあ~。

いろいろーー。

思い返される記憶の景色を少し頭に浮かべつつ。

一瞬ーー脳裏をよぎったその不安感を避けるように、無難な話題を選んだ。

 

チカ「主人公君にとっては、”学生最後の夏”だったんだよね。」

主人公「うん、終わっちゃうなあ~…って感じだね。」

チカ「主人公君の就職先もすんなり決まったから、とりあえずは一安心だよね~。」

主人公「あとは無事卒業すれば…だからね。」

チカ「はあー…それに比べて~。」

チカ「わたしの進級危機はあ…いつものことだけど、はあ…。」

主人公「ははっ…、まあ、毎年何とかなってるんだから、大丈夫…じゃないかな~。」

チカ「うん~…。」

主人公「今年もなんとかしようね、僕も協力するからさ。」

チカ「いつもありがと、主人公君。」

チカ「はあ、今年の夏休みも終わり…かあ~。」

 

曇り空のせいかな…、なんだか頭の中に雲がかかっているみたいで、あまりいい出来事が思い返されない気がする。

そんな中で、私は他愛ない話の延長線上…この先の未来のことを少しだけ、自分の中で想像してみた。

…これから、私たちはどうなっていくんだろう?

 

主人公君は今学期で学生を卒業し、4月からは晴れて社会人の仲間入り。

そうすると私は、一人大学に取り残されてしまう。

それは、一人きりになってしまうというわけでは、ないのだけれど。

そうなってしまえば、少しは寂しかったりもするのかな…なんてちょっと考えた。

ーーけど。

私の中で、その空想はあまりリアリティを帯びなかった。

…なんでだろう。

 

ここ最近感じている、言い表しがたい…倦怠感にも似たような感覚。

体が疲れているわけじゃない、だけど…うーん…。

 

チカ「はあ…。」

 

こうやって、よくわからないことばかり悩んでいると、自然とため息が漏れてくるのだ。

 

主人公「…。」

主人公「チカちゃん。」

チカ「?」

 

ぽんぽん。っと彼は自分の膝を軽く叩いて見せる。

あ~…、膝枕してくれるって言ってる…?

気遣い…かな。

でもその合図に、私はそそられることはなくって。

 

チカ「あはは、大丈夫だよ~。」

 

断った。

少しだけシュンとしてる彼を見ると、少し申し訳ない気持ちが湧いたような気もしたけど。

特にそれを、私は気に留めることもなかった。

冷めてるのかな…。

 

チカ「…。」

主人公「チカちゃん…その。」

チカ「うん?」

主人公「最近少し、…機嫌が悪かったりするのかな?なんて。」

主人公「ちょっと思ったりするんだけど…。」

 

彼の目に、今の私はそう映っているらしい。

なんとなく私自身、あまり自覚をしていないその感情を言いつけられたことが。

心に釘を刺されたように…留まって。

 

チカ「機嫌が悪いって…そんなこと、ないよ。」

主人公「そ…そっか、ごめんね。」

チカ「う~…ん。」

チカ「進級できるかどうかを…心配しすぎちゃってるせい…かなあ~。」

チカ「あははは…。」

 

つい口をついて出てきた言葉、語調の強いそれに彼はたじろいでしまって。

私はとっさにはぐらかした。

なんか私、変だな…。

彼は私の態度に、少し怪訝そうな表情を浮かべつつ。

 

主人公「…きっと、大丈夫だよ。」

主人公「いつも通りやれば。」

チカ「うん。」

 

なんだか私の顔色を伺っている。

心配かけちゃってる、彼に。

笑顔でいなくっちゃ…。

 

ーー。

 

主人公「…あ、そうだ。」

主人公「いいもの用意してきたんだ。」

チカ「いいもの?」

主人公「うん。」

 

そう言って彼がおもむろに1つの小さな紙袋を取ってきて、中身を出す。

 

主人公「じゃん。」

チカ「あ、この間のダイビングのときの写真!」

主人公「うん、3人で撮ったやつ。」

主人公「めずらしく僕も写ってるからさ、思い出写真になるかなって思って。」

 

3人ウエットスーツ姿で、主人公君がセルフィーで撮った写真。

2枚刷っていたうちの1枚を私にくれた。

 

チカ「ふふふ、確かに。」

チカ「ありがとう!主人公君!」

 

私が喜ぶその顔をみて、主人公君は微笑む。

 

主人公「よかった、喜んでもらえて。」

チカ「なんだか今日は、主人公君からもらってばっかりだね〜。」

チカ「また今度、色々とお返ししてあげなきゃね!」

主人公「気持ちだけで十分だよ。」

チカ「だめだよ〜?そういうのは不公平だよ。」

チカ「嫌って言ってもお返ししちゃうんだから!ふふふ。」

主人公「覚悟しとくよ。」

 

2人笑顔を交わすように、和やかなムードの中で談笑を続ける。

 

チカ「うーん。」

チカ「思い出写真か〜、どうやって飾ろっかな〜。」

主人公「色々あるよね、フォトスタンドとか、コルクボードとか。」

主人公「今度一緒に買いに行ってみる?」

チカ「うん!いいねー。」

チカ「あ〜それだったら、今までに撮った写真からも何枚か印刷してみようかな〜。」

チカ「データばっかり持ってて、あんまり写真って飾ったりしなかったし。」

主人公「なかなか印刷しないもんね、写真を撮っても。」

チカ「うん。」

 

私はスマートフォンの中の写真をサッと流し見する。

 

チカ「いっぱいあるよ〜写真。」

チカ「あ!この写真いいな〜、これもいいし…。」

主人公「たくさんあるんだったら、アルバムにしてみるのもいいかもね。」

チカ「そうだね!それもいいね、楽しそう!!」

チカ「ーーー。」

 

わたしが印刷したい写真を選んでいるのを横目に、主人公君は手元の3人の写真を眺めながら。

不意に呟いたーー。

 

主人公「これ、カナンにもあげたら、喜んでくれるかな?」

 

一言。

気に留めるほどの言葉でもないはずなのに。

その言葉を聞いた私は、先ほどまで浮かべていた表情を強張らせてしまい。

ふと、ーーあの日の出来事を思い出してしまった。

 

チカ「…うん、きっと喜ぶよ。」

主人公「ふふふ、そっか。」

主人公「そうしたらもう一枚もチカちゃんにあげる。」

主人公「カナンに会う機会はチカちゃんの方が多いもんね。」

主人公「渡してあげてよ。」

チカ「…うん。わかった。」

 

嬉しそうな、笑顔ーー。

なんだか、そんな彼を見ていられない気持ちになって、俯いてしまう。

視線の先、渡された写真を凝視する。

それに写った3人の様子は、とても微笑ましいものだと思う。

でも、じっと眺めていると…なんだか複雑な気持ちが湧いてきて。

 

チカ「…。」

チカ「主人公君って、やっぱりカナンちゃんのこと…好きだよね。」

 

ぽつり…。

ふと零れ落ちた、私の戯言は…あの日の不信感からーー。

 

写真の中の彼が、スマートフォンを持っていない方の手。

その手が触れていたのは、彼の肩に乗せられた…私のではなく、カナンちゃんの手だった。

 

主人公「そういう言い方…しないでよ。」

チカ「…違うの?」

 

ぽつり…。

口をツンと尖らせて言葉を漏らす主人公君を問いつめるように。

 

主人公「”違う“って、そういうのは…言葉の綾だよ。」

主人公「カナンのこと、嫌いっては言えない。」

主人公「好きだけど、でもそれは友達として…。」

チカ「本当に、そこまでだって思ってる?」

 

ぽつり…。

 

主人公「え…?」

 

少し動揺するように、彼の表情がーーわかりやすい、彼。

 

チカ「私は…不安だよ、主人公君のそういうところが。」

主人公「…。」

主人公「…っ…気持ちは…わかるけどさ。」

主人公「僕は、君に…ずっと一途なつもりだよ。」

チカ「”つもり”って何?」

チカ「曖昧な言葉…好きだよね、そういうのも。」

 

ぽつり…。

私の酸っぱい言葉に、彼の小さなため息が聞こえてくる。

 

主人公「…僕は君のことを一途に愛してるよ。」

チカ「やめてよ…。」

チカ「言い直したりしないでよ、まるで上辺だけの気持ちみたいじゃん。」

主人公「じゃあ、なんて言って欲しいの?」

チカ「そういうことを言って欲しいんじゃなくて…。」

チカ「私は…。」

 

…不安なだけ。

取り留めもない感情をぶつけているだけだってーー。

つい言葉の応酬の中で勢い余ってしまったのだと、気づいた。

自戒の気持ちと、高まる彼への不信感が…矛盾して、悲しくてーー。

瞳がわずかににじんでくる。

 

チカ「わたし…は…。」

主人公「…。」

主人公「カナンのことはさ、友達としか思ってないから。」

主人公「それ以上の関係なんて、僕は望んでいないから…安心してよ。」

 

安心ーー?

そんなあなたの言葉でーー。

 

チカ「じゃあ、なんで…?」

チカ「この間のカナンちゃんへの態度は、何だったの?」

主人公「この間…?」

チカ「この前のダイビング…片付けの後のことだよ…。」

主人公「それは…。」

チカ「…私がいないうちに、2人きりで何かしてたんじゃないの!?」

主人公「…あの時は。」

 

言葉を濁す彼は視線を外して、まるで後ろめたいことでもあるかのように振る舞う。

…そういうところがーー腹立たしく思えてくるんだ。

 

チカ「私に…後ろめたいことでも隠してるんでしょ!?」

主人公「…っ」

 

わなわなとした彼は、しばらく俯いて黙り込んでから。

すっくと突然立ちあがって、握りこぶしを固めたまま、突然玄関のほうへと向かう。

 

チカ「主人公君!?」

 

ガチャッ!

バタン!

 

ずっとそっぽを向いたまま彼は、そのまま玄関の外へと出て行った。

 

唖然。

一人、彼の部屋に取り残された私。

 

チカ「…なにそれ。」

 

噛みしめた奥歯でギリリと軋む音がしたような気がした。

わからないーー、わからないよ。

ーーー。

 

 

滴り落ちた不信感は大地を濡らして、後追いを歩みだそうとする彼女の足取りの邪魔をする。

一歩、踏み出したその時、まるで泥濘に足が取られたかのように、ひやり…気持ちの悪い焦燥感が彼女を襲ったような気がした。

 

ーーそんなのはきっと妄想、だけど…何故だか嫌な予感がする。

それでも二歩三歩、足を前へと進めていくその原動力は、怖いもの見たさとでも言うのだろうか。

確信を求めるその好奇心を、彼女はーー。

 

 

ーーー。

 

 

水色の塊。

その中をさまざまな色形を持つものが、自由自在に遊泳する、水の中。

眩しいライトが、水面の波紋をゆらゆらと投影したその床に、僕は1人居座る。

気晴らしに水族館に来ていた。

目の前の大水槽は本日の給餌ショーをすべて終えた後。

観覧席にもなっているそこに居座るのは、僕を含めて数人程度。

 

外は予報通りで小雨が降り始めていた。

部屋を飛び出した勢いで、僕は薄めの部屋着のまま、傘もさすことなくここまでやってきた。

今日は異常気象で冬並みの気温らしい、道中雨に濡れたこともあり、とても寒くって。

身震いする体を固く締めるように腕を抱いたまま、何をするでもなく、ただただ無心に水槽を眺めて、ひたすら無意味に魚を目で追い続けた。

 

…。

なにやってるんだろう…僕。

チカちゃんのこと、元気づけたかったつもりだったのに。

それどころか、喧嘩して…逃げてきちゃって。

…情けない。

喧嘩というより、一方的に僕が怒られただけなんだけど…。

ーーー。

 

ため息を吐き出しながら、呆然とアクリル越しの魚を眺め続ける。

叱られて逃げてきて、不貞腐れて…まるで小さな子みたいじゃないか…。

そんなことを考えていると、さらにどうしようもない気持ちがのしかかってくるようで、ため息が増えた。

 

はあぁ…。

そんな時。

 

ーーゆらり。

水槽に反射して一瞬映った。

青髪のポニーテール。

一瞬イルカの尾鰭のようにも見えたそれを、僕は目で追うようにして。

振り向いた、ーーその先。

 

「…あれ?何してんの?」

 

…なんでだろう。

こんなにタイミングよく姿をあらわす。

彼女はーー。

 

つづく。





難しい…。

プロットは大雑把にできて、全体の構成はあらかた仕上がりつつあるのですが。
なにぶん喧嘩させる?とか、そういうやりとりを考えるのが下手くそですね。
今回のチカちゃんとの口喧嘩を考えるのに1週間かかりました((
その割に納得してるような、そうじゃないような出来ですが…(
慣れないですね〜。
意図したものがちゃんと伝わる形でかけているのやら…。

そして、この話は少し長くなる〜と以前も言っていましたが、もっぱら本編より長くなるのでは?と、プロット書いてて(
結構、嫌〜な雰囲気の話をこれからもネチネチと続けていくと思います(笑

なんか改めて読み返しつつ…口喧嘩シーンはアクが足りないよう気がしますねー(
というか、圧が弱いのに、主人公君が折れるのが早すぎるような…(笑
あんまりクドクドしてしまってヒステリックに見えてくるのが嫌な気もしたんですけど…。
ちょっとその辺は書き足すか…直すかするかも?ですね。

さて、長々とあとがき書いても仕方ないのでここいらで…。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

[数日間のみこっそりアンケート]ep2やっぱり…

  • 消したほうがいい
  • 残しておいて欲しい
  • 書き続けて欲しい
  • 筆者の好きにすればいい
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