カナン「あれ?何してんの?」
視線を送った先にいたのは、カナン。
この辺に住んでいるわけでもないのに、何故こうばったりと出くわすのだろうか…。
主人公「…それは、こっちのセリフのような気がする。」
主人公「どうしてここに?」
カナン「あー、私は今日休みだし…。」
カナン「それと、友達の誘いで、こっちの大学生の合コンに…。」
主人公「友達といってくるの?」
カナン「いや、その友達は行かないけど…って。」
主人公「そっか。」
ふーん…。
たしかに今日の彼女の恰好は、おめかしした風でいつもよりさらに魅力的に映った。
カナン「っていうかさ。」
カナン「あなたこそ、どうしたの?」
主人公「…え?」
カナン「こんなところで、そんなに身震いしながら…。」
カナン「何かあったの?」
主人公「…ちょっと、ね。」
カナン「ははーん?ひょっとして、チカと喧嘩でもしたな〜?」
主人公「…。」
カナン「図星…かあ。」
カナン「それでここにきて、不貞腐れてたって訳だ。」
主人公「…うん。」
相変わらず彼女は僕のことを見透かしているかのように言い当ててくる。
カナン「いつも思うけど、なんで水族館なの?」
主人公「なんでって…なんで?」
カナン「私と喧嘩した時も水族館に行ってたでしょ。」
主人公「ああ、うーん…。」
主人公「…なんでだろ。」
カナン「あらら…。」
あんまり考えたことないや。
自然と足が向かう先がこういうところだったりするだけなんだけど…。
カナン「やっぱり水族館が好きだから?」
主人公「それもあるとは思うけど…。」
主人公「魚に…慰められたいから、かな。」
カナン「…ふーん。」
カナンは神妙な表情でこちらをジロジロと眺めながら歩み寄ってくる。
カナン「部屋、飛び出してきたんでしょ?」
主人公「…。」
カナン「やっぱり。」
彼女はショルダーバッグから携帯用の防寒着を出して、僕の背後に回ってくる。
主人公「…カナン?」
カナン「今日は寒いっていうからさ、念のために持ってたの。」
主人公「いいの?…っていうか、君は寒くないの?」
カナン「まあ、大丈夫だよ。」
そういって彼女は僕の肩に防寒着を羽織らせて、それを着せようとしてくる。
主人公「う…うん、でも自分で着られるからさ…。」
カナン「ほら、袖通すよ。」
主人公「…はい。」
ーー。
カナン「これでよし、あったかいでしょ?」
主人公「ありがとう。」
カナン「あなたは…寒がりだって、私は知ってるからさ。」
主人公「そうだっけ?」
彼女は嬉しそうな表情で僕の隣にやってくる。
カナン「ふふふ。」
カナン「何でチカと喧嘩したのかは知らないけどさ。」
カナン「どうせ、あなたが一方的に叱られただけでしょ?」
主人公「うん…。」
カナン「まあ、たまにはすれ違っちゃうときもあるよ。」
カナン「あなただって、悪気があってのことじゃないんでしょ?」
主人公「悪気はなかった…って言うのかな。」
主人公「僕がぼやぼやしてるから。」
主人公「結果的に、チカちゃんを不安な気持ちにさせちゃったせいで怒られて、ここに…逃げてきちゃったんだ。」
カナン「…。」
主人公「僕が無神経なことするから、怒られたんだっていうのにね。」
主人公「僕はチカちゃんに怒られたことに、むしろ腹を立てて…。」
主人公「そんなに言わなくてもいいじゃん…なんて思っちゃってて。」
主人公「自分が…嫌だなってモヤモヤしはじめたら、チカちゃんと向き合うのが怖くなっちゃった。」
主人公「僕は…。」
さわ…。
言葉を遮られるように、カナンの手が僕の頭を撫でる。
カナン「よしよし、わかったわかった。」
主人公「カナン…。」
カナン「悪かったって思ってるんだったらさ。」
カナン「後で素直に謝ればいいじゃん。」
主人公「…うん。」
カナン「ふふふ。」
カナン「あなたって、やっぱりいつまでも変わんないね。」
カナン「…そういうところ、やっぱり私は…ほっとけないな。」
暖かい手、優しさに包み込まれるような心地がして…。
慰めてくれるカナンの優しさが、すごく嬉しくってーー。
ひしっーー。
カナン「ひゃっ?!ちょっ…ちょっと!?」
主人公「…。」
ーーーダメだって…。
そう思いながらも、僕は彼女に抱きついていた。
抱きしめる腕の中に彼女の感触と温もりが…、彼女の匂いがする。
その懐かしさに、僕は安心して彼女に甘えてしまう。
カナン「…。」
カナン「…もう、全くあなたは、甘えん坊さんなんだから。」
彼女の手が、僕の後ろ頭を優しく撫でる。
カナン「よしよし、あなたの気がすむまで、好きにしていいよ。」
ああ、またチカちゃんに言いにくいことができてしまった…。
そんな風に感じながらも、僕はカナンの優しさにしばらく甘え続けた。
チカちゃんに叱られた原因は、カナンとの関係にあるというのに…。
それをわかっていながらも僕は、偶然カナンと居合わせたその瞬間から、カナンに対して警戒心を抱くどころか、胸躍らせるような気持ちがあって…。
ああ、僕はやっぱり…カナンのことが好きなんだって、再確認してしまったーー。
ーー。
抱きしめていた腕の力を抜くと、それを察して彼女の手が下げられる。
実はもう少し甘えていたかった…でも、そろそろやめなくてはと、微力な自制心がやっとの思いでブレーキをかけた。
主人公「…ごめんね、いきなり。」
カナン「ううん、気にしないで。」
なぜか僕の服の裾を握りしめたまま、彼女は上目遣いに見つめるように、頬を紅潮させて満足気な表情を浮かべる。
なんだか…彼女と付き合いはじめた頃を思い出すみたいで、彼女が愛おしいと思う気持ちに…歯止めが効かなくなりそうだった。
主人公「ねえ、カナン。」
カナン「何?」
主人公「もしも…。」
主人公「今日みたいに、僕が落ち込んでしまうことがあったら…さ。」
カナン「うん。」
主人公「君のこと…君の優しさを、僕の…拠り所にしても…いいかな…。」
何言ってんだろーー。
カナンは一度、口を緩めかけて、しばらく俯き悩んでから、今度は口をきっと結んでおもてをあげると。
腕をバツ印にして。
カナン「ブッブー、イケマセーン。」
主人公「…カナン?」
カナン「2度目はアリマセーン。」
唖然とする僕に向かって、くすっ、彼女は微笑んでから優しく諭すように言う。
カナン「今日は今日で、…仕方ないとしても。」
カナン「そういうのは本来、チカの役目でしょ?」
主人公「う、うん。」
カナン「ま…まあ?チカと喧嘩したっていうときには…」
モゴモゴとしりすぼみに言葉を言いかけて、彼女はわざとらしく咳払いする。
カナン「んんっ!!」
カナン「…とにかく、早く仲直りして、甘えるのは…いっぱい…チカに甘えればいいんじゃないかな?」
主人公「うん。」
カナン「大丈夫だよ。」
カナン「チカはちゃんと話せば、わかってくれる…。」
カナン「何が悪かったのか、それがわかってるんだったら大丈夫。」
主人公「…うん。」
カナン「ちゃんと謝れば、許してくれるよ。」
カナン「きっと。」
主人公「ありがとう、カナン。」
何が悪かったのかーーか…。
僕の背筋を冷たい指がなぞるような気がした。
その後ろめたさに、背を向けるつもりで彼女を後に。
主人公「…じゃ…じゃあ、僕はそろそろ…。」
カナン「うん…またね。」
歩きだした、その束の間。
カナン「主人公君。」
声をかけられて、つい振り返ろうとしてしまうが。
自制心は警鐘を鳴らす。
ここで振り返ったらーー。
主人公「…何?」
背を向けたまま返事すると、しばらく間をおいて。
カナン「…ううん、なんでもない。」
カナン「バイバイ。」
主人公「…バイバイ。」
何事もなかったように再び歩み出したーー。
…。
水族館を出た頃に、ほっと胸をなでおろして自分の心臓の鼓動を確認する。
まだ…ドキドキしている。
きっと、あのまま振り返ってしまえば、カナンから離れられなくなっていたのではないか…。
そう感じる自分がいた。
チカちゃんへの後ろめたさを感じながら、僕は。
背徳感に、悦びを感じているのだろうか…。
ーーー。
彼がいなくなった後。
彼がいた場所に居座って同じように水槽を眺める。
はあ…。
最近、ため息ばっかり。
この後は合コン…でも、会場へはここから電車移動をする必要がある。
地元からこちらに出てくると、何故か無意味に水族館に足を運んでしまうんだ。
それは、ひょっとすると彼に偶然会えたりするのかもしれない…と思う、そんな淡い期待感のせい。
でもまさか、本当に会えることになるとは、思いもよらなかったのだけれど。
…彼とは、2人きりで話ができれば、それだけで良かった。
私にとっては、ただそれだけで得られる幸福感さえあれば、それで十分だと思っていた。
それなのに彼は、急に私のことを抱きしめて…甘えてきて。
私はその瞬間、心臓が止まってしまうかと思ってしまうくらいーー嬉しかった。
彼女じゃない私でも、頼りにしてくれるんだ…って。
彼に求められていることが…つい嬉しくて、彼のことを甘やかしたくなってしまった。
でも、たとえそんな甘い夢を見れたとしても…私はあくまでも彼の”彼女”にはなれないんだ…。
ふつふつと湧き上がってくる彼への劣情に、覆いかぶさる蓋のような自分の立場が…理性がのしかかってくる。
彼の彼女は今、私じゃなくて…チカだからーー。
ああ、なんてーー恨めしい。
胸が苦しくなる…。
求めてはいけない、彼の存在が…もどかしい。
はあ…。
カナン「…今日の合コン、ドタキャンしちゃおうかなあ。」
そう呟いて私は、スマートフォンを手に取った。
ーーー。
外の雨はいつのまにか本降りになっていた。
僕はビニール傘を買って、自宅までの道を行く。
秋の長雨…になるのだろうか。
サーッと音を立てて降り注ぐ雨は、冷たく物悲しく。
まるで何かを予感するかのようで…僕は少し憂鬱な気分を浮かべていた。
マンションの近くまでやってきて、曲がり角を曲がる、その先…エントランスの灯りの側に、人影。
物悲しげに佇む1人の女性が…。
主人公「…え?」
主人公「チカ…ちゃん…?」
彼女に近寄ってみると、髪から服まで全身ずぶ濡れで。
その手を握ると、氷のように冷たくて…。
チカ「…おかえり、主人公君。」
主人公「チカちゃん…。」
彼女はーー微笑む。
あまりの衝撃に、僕はチカちゃんの手を握ったまま立ち尽くした。
一体…何が…?
彼女は小さく息を吐き出してから、僕に問いかける。
チカ「どこ行ってたの?」
主人公「え…?」
主人公「えっと…、ちょっと気分転換に…。」
チカ「どこ?」
主人公「す…水族館…。」
後ろめたさが…引っかかる。
チカ「へえ〜。」
チカ「1人?」
不意を突かれるような問い…。
僕は思わず、反射的に。
主人公「…うっ…うん。」
ーー嘘をついた気がした…。
チカ「ふふふ。」
チカ「そっか〜。」
不気味な笑みを浮かべる彼女は…冷たい体を僕にすり寄せるように、腕に抱きついて。
近寄せた、唇を…僕の耳元で…。
チカ「うそつき。」
ーーー。
彼女はフラフラと歩いて、僕から遠ざかっていく。
その後ろ姿を、目線で追うこともなく…、僕はただ呆然と立ち尽くして。
震えた。
ーー冷たい。
背筋が凍るという感覚を、僕は初めて実体験した。
ーーー。
ピピッ!
ガチャッ…。
バタン。
…ポタッ…ポタッ。
玄関に雫が滴り落ちる。
冷たいーー私。
チカ「…ふふ、あははは…。」
チカ「…っ…っぐ…。」
フラッシュバックする景色。
仄暗い室内…大きな水槽…2人の…人…抱き合う人…。
知ってしまった。
2人の密事を…私は覗き見てしまった。
ドンッ…。
玄関の扉へともたれかかる。
私の瞳から滲み出る雫は、全身を濡らした雨と混じり合って、ポツポツと零れ落ちる。
似たような悲しみは以前にも…だけど。
…また、それとも違う。
彼は…私を選んでくれたんだって。
そう信じることができたから、今まで彼との関係を続けられることができた。
なのに…なんで…?
チカ「わからないよ…っ、あなたのことが…。」
彼が何を考えているのかが、わからない…?
…。
ううん…違う、本当にわからないのはーー。
チカ「なんで…私、あなたのことが…好きだったんだろう…?」
あなたを信じた私がわからない…。
私は…あなたのことを…なんで?
チカ「わかんなくなっちゃった…っ、あはは…自分の気持ちなのに…。」
チカ「…っ、ううっ…ああっーーー。」
ーーー。
三者のすれ違いと邂逅は、大地に芽吹いた不和を順調に育てていった。
力強く根を張ったその芽の先には、小さな小さな膨らみを見せ始めており。
いずれ訪れる、開花のその瞬間までを、カウントダウンするように。
静かに揺れていた。
つづく。
あけましておめでとうございます。
そんな時期の更新になったのですが、まったくめでたくない話ですね〜(
やはり今回のテーマは、いつもの妄想しやすいシチュエーションとは異なるため、台詞回しだとかいろいろ根回し考えるのに、時間がかかりますね。
比較的エキサイトしてくる場面なんで、チャチャっとかけるかと思ってたんですけど、そうも行かないみたいです(笑
何度でも言いますけど、やっぱ難しいですねー。
なんとなく言葉回し?各々の人の感情論からは、やっぱり主人公君を少し悪者っぽくしてやろうと…(
割と衝動的に彼が動いていくような様子があったり…そんな感じです。
今回まで…-3と-4で不和の増長というか、-1と-2で芽生えた感情が尾を引き、成長していくような話になっています。
この先はあともう少しで前半戦終了という予定なので…またまたしばらく更新かかると思いますが、お待ちいただければ幸いです。
非常に私ごとではありますが、1月前半?か1月中は猛烈に忙しいかもしれないので(笑
…映画だって、通わないといけませんしね…!?(
ということです。
では今回はここら辺で…。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
また本年も宜しくお願い致します。
[数日間のみこっそりアンケート]ep2やっぱり…
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消したほうがいい
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残しておいて欲しい
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書き続けて欲しい
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筆者の好きにすればいい