海辺に佇む女性。
短い髪の彼女は、その腕に抱えたものを愛おしそうに眺めながら。
唄を…唄っていた。
ーーー。
ブー…ッブー…ッ。
放り投げていたスマートフォンが振動しているのに気づいて慌てて手に取る。
電話だ…。
主人公「もしもし?」
「もしもーし。ーーです。」
「おつかれさまでーす。」
主人公「おつかれさまです。」
バイト仲間からだ。
主人公「どうかしました?」
バイト仲間「あー…えっと、バイト以外のことなんで…。」
バイト仲間「お節介なんですけど。」
主人公「お節介?」
バイト仲間「主人公さんの彼女さん。」
主人公「うん?」
バイト仲間「今日、偶然見かけたんですけど…。」
主人公「あ…うん。」
バイト仲間「雨の中、傘もささずに歩いてて。」
バイト仲間「なんか怖い顔してたから、ちょっと声掛けにくくって…。」
バイト仲間「その…大丈夫っすか?」
主人公「えっと…あー…。」
いや、大丈夫じゃないんだけど…。
主人公「あ…ははは、えっと…。」
主人公「大丈夫…、大丈夫ですよ。」
主人公「これから彼女のところ、いこうとしてたところ…ですから。」
バイト仲間「えっとお…。」
バイト仲間「…。」
バイト仲間「…ま、いいっす。」
主人公「…う、うん。」
嘘ーー。
見透かされている気がする…。
バイト仲間「もし、困ったこととかあったら…相談とか。」
バイト仲間「自分じゃ、頼りないかもしれませんけど…。」
主人公「…すみません、心配かけちゃってるみたいで。」
バイト仲間「い、いえー…。」
バイト仲間「こちらこそすんません、勝手に首突っ込むみたいで…ただのお節介ってつもりなだけだったんで…。」
バイト仲間「それだけっす、じゃ…失礼します。」
主人公「ありがとう。」
ツーッ…ツーッ…。
主人公「…。」
チカちゃんのことは当然、心配…だけど。
今は、無理かもーー。
スマートフォンを握ったまま、僕は床に寝そべる。
真っ暗闇の室内で、目を瞑って…。
…。
“うそつき”
僕の中に、微かな残響がいつまでも鳴り続ける。
あの言葉の意味は、間違いなく…”見られていた”ということ。
チカちゃんから逃げて、偶然出くわしたカナンに甘えた僕の行動は、チカちゃんに対する紛うことなき、裏切り。
それを自覚しながら、僕はその悪事を働いた。
当然の報いなんだ。
頭の中で鳴り続ける声に耳を塞いで、その声が…止むのをひたすら願って、自責の念に苦しみ続けた。
裏切りの代償は、一夜にわたって、僕に深いトラウマとして刻まれた。
ーーー。
ふー…ふー…。
朝、目が覚めた…だけど。
頭がぼんやりして、まるで夢の中にでもいるかのようで…。
ふー…ふー…。
天井を見上げると、まるでくるくる回っているみたい。
手を、自分のおでこに当ててみると…とても熱くって。
チカ「ケホッケホッ…。」
…。
風邪、引いちゃったかあ…。
昨日はずっと、傘もささないでいたのだから…当然のことだろうけど。
チカ「ふー…ふー…。」
チカ「も~お~。」
チカ「馬鹿とチカは風邪ひかないって、みとねー言ってたのに~…。」
独りぼっちの部屋の中で、不満を空中に漏らしても、返事をするものは何もない。
チカ「ケホッ…ゲホッ。」
荒い息と、咳が止まらない。
あったかくしているはずなのに、体に走る寒気が、独り暮らしの不安を増長させるみたいで。
心細いなあ…。
ベッドサイドで充電中のスマートフォンに目線を向け。
誰かーー。
…思い浮かべた顔、抱きかけた期待感に、私はーー目を瞑って。
とりあえず安静にしていることにした。
ーーー。
昨日に引き続き、今日も雨は降り続ける。
シトシト、弱く冷たく、寂しげに…。
今日は少しだけ用事があって大学に出てきていた。
フリースペースで人待ちをする僕は、窓の外を眺めながら、いつものようにボーッと、考え事をしていた。
…あ、来たかな?
足音がしてくる方向に顔を向けると、知らない人が…こちらに向かってくる。
「あ、あの~…。」
主人公「はい?」
「タカミチカちゃんの彼氏さん…?」
ん?
主人公「え…ええ、そうですよ。」
「あー!よかった、ですよね!?」
キャッキャと喜ぶ様子の女学生に、僕は首をかしげて。
主人公「チカちゃんの…友達とか?」
女学生「はい!そうです。」
女学生「で!ちょっと聞きたいんですけど…。」
主人公「はっはい?」
女学生「彼女…寝てました?」
主人公「???」
どういう…意味だ…?
女学生「…あれ?」
主人公「もしかして、チカちゃんと会うはずだったのに、来てない…みたいな?」
女学生「そう!そんな感じです!」
女学生「お二人仲睦まじいからてっきり、もう同棲とかしているものかと思って~。」
主人公「ああ~、ははは…残念ながら。」
女学生「そうでしたかー。」
主人公「チカちゃんと、何か約束?」
女学生「はい、今日は夏休み最後の勉強会の予定で…。」
女学生「まあ、いつまで待っても彼女が来ないので。」
女学生「メッセージ入れても反応ないし、電話かけてもなんともないから…スマホの電源でも落ちてるのかな〜って思って。」
主人公「ははは…。」
女学生「それで、もう帰ろうかと思って、廊下歩いてたら…あなたを見かけたので。」
主人公「そっか。」
主人公「っていうか面識…ないよね?よくわかったね僕のこと。」
女学生「2人とも有名人みたいなものですし…。」
主人公「え?」
女学生「まあ、そういうことなので。彼女に宜しく伝えてください。」
女学生「スマホ見ろ~!って、ふふふ。」
主人公「あ…うん、わかったよ、ごめんね。」
手を振って女学生は帰っていった。
チカちゃんどうしてるのかな…。
”音信不通”、僕はそのことがすごく気になった。
寝てる…のかな…。
でも時刻は大方昼前、いくら寝坊助しているにしても、もう起きていてもいいんじゃないかと。
ザワザワ、胸騒ぎがするみたいな気持ち。
昨日、冷たい雨の降る中で、彼女は僕を待っていた。
そこまでの道中も、きっと彼女は傘もささずに…びしょ濡れになって。
寒かっただろうに、風邪とか引いてなければいいんだけど…。
そんな心配事と矛盾して、彼女と会うことを恐れる自分がいた。
どんな顔して会えばいい、僕と…会ってくれるのかな?
「おーい、主人公君お待たせー。」
主人公「あっ、はい。」
「ーーー。」
ーー。
用事が済んで大学を後にし、外を歩いていると何故だか自然と彼女のマンションへと道を歩んでいた。
チカちゃんの部屋の前…。
ピンポーン。
何の躊躇いもなくチャイムを鳴らした。
…。
しかし待てども待てども、降り続ける雨音以外に何も…反応がない。
居ないのかな。
サーッ…ゴトッ。
…今、微かに物音がしたような。
もう一度チャイムを鳴らしてみる。
ピンポーン。
主人公「寝てる…のかな…。」
あんまりここで待ち続けているのもよくないだろうし。
あんなことがあった後に、勝手に押し入っていくのも気まずいから、ひとまず…帰ろうかな。
そう思いかけたとき、ポケットの振動に気づいた。
スマートフォンを取り出すと、ロック画面に表示された通知…。
[新着メッセージ:タカミ チカ]
…。
その表示を見て、僕はいまさら怖くなった。
今まさに彼女に会うためにここに来ているというのに…。
恐る恐る、スマートフォンのロックを解除して、メッセージを見る。
チカ[もしかして来てるの?]
なんて返事しようか…しばし頭を悩ませてから、震える指先をスワイプさせて文字を入力していく。
主人公[うん]
主人公[ちょっと心配になって]
チカ[帰って]
…まあ、そうだよね。
昨日の今日でいきなり顔を合わせるなんてーーー。
やっぱり帰ろう。
サー…ッ…ゲホッーー。
扉から離れようとしたその時、雨音に紛れて扉の向こうからの音が聞こえる、咳…?
やっぱり、ただ眠っていただけではないみたい。
どうする、どうしよう?
ーーなんて、考える余地もなかった。
主人公「チカちゃん、入るよ。」
ピピッ!
ガチャッ…。
持っていた合い鍵で扉を開ける…ドアチェーンがかかってない。
部屋の中には、ベッドの上でしんどそうにスマートフォンを握ったままの彼女。
主人公「チカちゃん大丈夫?」
チカ「…こないで。」
歩み寄っていく僕を拒否する彼女の言葉、気にしていたら立ち止まったかもしれないけど。
僕はそんなことよりも彼女のことが心配で仕方がなかった。
チカ「ケホッ…やめ…ケホッ。」
隠れようとする彼女の布団を軽く引き剥がして、多少強引に彼女のおでこに触れる。
すごい熱い…。
やっぱり昨日の雨で冷えて、風邪を引いたんだ。
そこまで確かめてから、睨みつけてくるようにこちらへ目線を送る彼女と目が合ってしまって、つい固まってしまう。
どの面下げてやってきたんだ…ってね。
言いたいことはわかるよ、でもね。
主人公「ごめん、会いたくないって気持ちはわかるし。」
主人公「僕に…言いたいこととかもたくさんあるって、だいたいわかってるけどさ。」
主人公「今だけはそういうこと、ナシにしてくれないかな…?」
主人公「僕の身勝手なんだけど。」
主人公「今はチカちゃんのことが心配だよ。」
チカ「…。」
チカ「勝手にしてよ…。」
そう言って再び布団に隠れる彼女。
ーー良かった、完全に拒絶されてしまわなかったので、僕は少しだけほっとした。
主人公「じゃあ、僕のことは…お医者さんだとでも思って…。」
主人公「とりあえず、問診させてください。」
主人公「…症状とか、どこが苦しいとか辛いとかありますか?」
チカ「…。」
チカ「ーーー。」
ーー。
彼女の風邪症状はとても辛いみたいで、あまり屋外を歩ける体力もなさそうなので、僕は1人外へ行き必要なものを買って帰ってきた。
主人公「ただいま。」
彼女は荒い息をしながら横になっている。
その彼女の肩あたりを軽く叩くようにして。
チカ「…?」
主人公「これからお昼ご飯用意するよ。」
チカ「…ありがと。」
主人公「それでね、お粥とおうどん…どっちがいい?」
チカ「ーーー。」
ーー。
主人公「チカちゃん、ご飯できたよ。」
チカ「うん。」
昼食を持って座卓へ置くと。
彼女はベッドからゆっくりと上体を起こして布団から出ようとする。
主人公「そのままでいいよ、食べさせてあげるから。」
チカ「…。」
チカ「…いいよ、自分で食べられるから。」
主人公「…そっか。」
チカ「ありがとう。」
主人公「…うん。」
お互いに少し目をそらしながら喋る。
今はまだ、彼女に深入りしない方がいいのかな。
チカ「…おいしい。」
小さな声で彼女がつぶやく。
主人公「よかった。」
主人公「欲しかったらまだあるから、言ってね。」
チカ「うん。」
ーー。
昼食を食べた彼女は薬を飲んで安静にしている。
眠る彼女、まだ少し苦しそうな様子で、今日、明日くらいは風邪で辛いんじゃないかな…。
その彼女の呼吸する音に耳を傾けながら、ベッドにもたれかかって本を読んでいた僕は、ふと思い立って立ち上がる。
彼女を起こしてしまわないように、静かに外に出てエントランスへ。
確かあの人は、今日はーーじゃないから…せっかくだし。
スマートフォンを手にとって電話をかける。
呼び出し音が数回鳴って。
主人公「もしもし。」
「もしもーし。」
主人公「ーーー。」
「ーーー。」
主人公「…うん、相談というか、ひとつ頼みたいことがあって…。」
「ーーー。」
ーーー。
真っ暗闇。
目が覚めたけど、明かりはなくて、とても静か。
寝そべったまま、ベッドサイドの方へと顔を向けると。
そこに居たはずの人が、居なくなっていることに気づいた。
流石に帰ったのかな…主人公君。
寝る前までずっと傍にいてくれた彼を、私はいつもより頼もしく感じられた。
1人…、そこに居てくれるだけで、温かくて、寂しくなくって、すごく嬉しくてーー。
ああ…、彼のことをこんな風に感じられるのは、すごく久しぶりかもしれない。
2年が経った彼との関係は、いつの間にか当たり前になっていて
特にここ最近は、彼とのことを不安に思うことが多く。
彼のこと…疑う気持ちで目くじらを立てる様になって、イライラして。
溜まりに溜まったその気持ちを、昨日はぶつけて…。
あんなところを、見てしまってーーー。
チカ「…っ。」
…色々考えていると、少し頭が痛くなってきた。
症状は少し軽くなったように感じていても、まだまだ風邪ひき。
それと、少し喉が渇いたみたい。
座卓テーブルに置いてあるペットボトルを取るために、上体を起こしてベッドを降りようとした時。
ベッドの側に、人が横になっていた。
主人公君ーー。
少しだけにやけてしまうような気分で私は、めくれていた彼を覆うブランケットを静かに直して。
チカ「ありがとう、主人公君。」
起こしてしまわないように、静かにそう呟いた。
つづく。
残すところ、あと1話で前半終わりです。
…といってもあんまり締まった展開というか、そんなしっかりした終わりにはしない予定ですが。
ここに書くこともあまり、思い浮かばなくなってきました。
…というのも、話をほぼ書ききってから確認する作業を長い間続けていたので、あまり執筆にあたって思うところを書き連ねるというのが思い浮かばないということです(
結局のところ、落ち着ける時とかでなければ、あんまり確認作業も捗らないので…なんて。
そんなことをいいながら、本当に意図していた物語を正しく書けているのかは、実質よくわかってない状態で「えいやー!」ってゴーサイン出してますけど(笑
まあ、そんな感じで毎度博打を打つみたいに更新しています。
前半ラストの執筆も、これから始めていこうかと思いますので…。
また引き続き、読んで頂ければ幸いです。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
[数日間のみこっそりアンケート]ep2やっぱり…
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消したほうがいい
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残しておいて欲しい
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書き続けて欲しい
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筆者の好きにすればいい