にんまりと微笑む男の子がいた。
私はその子の笑顔がとても好きだった。
優しくて、温かくて。
目の前の男の子は突然そっぽを向くと、急に淋しそうな顔をして私の元を離れて行こうとする。
「待ってーー。」
思わずその手を掴んだ。
すると男の子はこちらを向いて…また笑顔を見せてくれた。
…よかった。
私はそのままゆっくりと前へ向かって歩いて行く。
男の子も私に手を掴まれていることを嫌がることなく、私についてくるのだけれど。
少し歩いては後ろを振り返って、何もないところを何故か見つめる。
何度も繰り返すその行動に、私は首を傾げながら、一緒に歩いていると。
「ーーー。」
誰かが誰かを呼ぶ声がした。
その声につられて振り向く私たち。
そこには人影。
知っている人、女性ーー。
男の子は私の手から抜け出して、女性の方へと向かって行った。
私に見せたことがないくらいの笑顔で、まるでその人を…今まで待ち続けていたかのように一心不乱に。
私は、その様子に声もかけられず…ただ、呆然としたまま立ち尽くして。
「そっかーーー、うん、いいんじゃないかな…それで。」
そんな言葉を自分に言い聞かせるようにして、納得したつもりになっていた。
俯いた私はそのまま後ろを向いて、2人から離れていこうと思った。
その手を…何者かが掴む。
振り返った私の目の前には、男の子。
男の子は何かを伝えようとしてくる、一生懸命。
何を伝えられたのかは分からなかったけど、それに嬉しくなった私は。
男の子の手を引いて、また前へと歩みだした。
遠巻きに見ていた女性の手も引っ張って。
3人で、一緒に笑いながら。
どこまでも…そのまま歩んでいけると思っていた。
「うわっ!?」
私の視線は、突然何もない地面に向かって落っこちた。
繋いでいた手は咄嗟に離していたから、私1人転けてしまっただけみたい。
よかった。
視線をあげると、わたしの鼻先には…花。
その向こうに、2人。
男の子と女性。
2人は手を繋いだまま。ゆっくりと歩いて私を置いていこうとする。
「待ってよ…。」
立ち上がろうとする私の足には、植物の根のようなものが絡みついて私を捕縛する。
ーー目の前の花。
まだ蕾だったそれはゆらゆらと揺れながら。
突然、その動きを止めて。
私に見せつけるみたいに…じわじわとーーー。
ーー。
チカ「…。」
…夢。
目が覚めてもまだ周りは暗かった。
ハッと思い出したように感じた不安に、私は上体を起こしてからベッドの側を覗き見る。
…良かった、居る。
そこには静かに寝息を立てている主人公君。
ホッと一息ついてから、時計を確認して、少しだけ身震いする。
寒い、体が寝汗でビショビショになっているからかな…。
枕元に置いていたタオルで体を拭いてから、布団の中へと潜り込んで、再び眠りにつく。
午前2時。
ーーー。
ゴッ!
「…あいたっ!いったたた…!」
突然の物音に、僕は思わず飛び起きた。
体を起こして見た先には、転げたチカちゃんが…。
主人公「…大丈夫?」
チカ「いたた…うん、大丈夫。」
チカ「足が痺れてうまく歩けなくって…えへへ〜。」
主人公「お水でも欲しかったの?」
チカ「うん、喉乾いちゃったから。」
主人公「取ってきてあげるから、ほら。」
こけたままのチカちゃんを抱きかかえてベッドへと戻す。
チカちゃんは…笑顔。
チカ「ありがと。」
主人公「具合はいい?」
チカ「おかげさまで、だいぶ良くなったみたい。」
チカ「ケホッ…ケホッ。」
咳き込む彼女のおでこを撫でるように、熱を測る。
主人公「まだ熱もありそうだし。」
主人公「今日一日は安静にしておこうか。」
チカ「うん。」
素直に返事をしてくれる彼女の表情は、昨日に比べてとても柔らかく。
いままでの…いつもの、チカちゃんに戻ってくれたみたい。
よかった、ひとまず安心。
主人公「はい、お水。」
コップに注いだそれを手渡そうとすると、カレンダーを凝視するチカちゃんが心配そうに呟く。
チカ「…ねえ、主人公君。」
主人公「ん?」
チカ「今日、バイトじゃない…かな?」
ああ、そういうこと。
主人公「代打を立ててるから大丈夫だよ。」
主人公「まだチカちゃんの具合も良くないだろうからと思って。」
チカ「…ありがとう。」
チカ「ごめんね、心配かけちゃって…。」
申し訳なさそうなチカちゃん、でもチカちゃんが風邪引いたのは。
一昨日、僕を待っていたから…。
主人公「ううん、それは…謝るのは、僕の方っていうか…。」
チカ「あ、うっ…えーっと、ご飯!」
主人公「?!」
チカ「お、お腹空いちゃって〜あははは。」
話題をそらされた、なんでだろう。
でも、まだ触れて欲しくないってこと…なんだよね、きっと。
主人公「…。」
主人公「うん、わかった。」
主人公「お腹、空いてるんだったらどうしよう、ちゃんとした物なら…。」
主人公「また昨日と同じレパートリーになるけど。」
チカ「昨日のおうどん、美味しかったから、また食べたいな。」
主人公「ふふっ、じゃあちょっと待ってて。」
ーー。
主人公「おまたせ、チカちゃん。」
座卓テーブルにお皿を置いてから座る。
チカちゃんは上体を起こしたまま、指を遊ばせてモジモジ。
主人公「どうかしたの?」
チラチラ、はにかみ顔でこちらを見ながら。
チカ「…あのね。」
主人公「…うん?」
チカ「その、よかったら。」
チカ「ご飯…食べさせてほしいな、…なんて。」
昨日とは打って変わって…甘えたがりなチカちゃん。
どうしたんだろう、ふふふ。
なんだか僕は、ついつい嬉しくなって。
主人公「うん、わかった。」
座卓テーブルをベッドに寄せてから、僕たちは朝ごはんを一緒に食べた。
ーーー。
食器を洗う主人公君を眺めながら、私はベッドの上で安静にしていた。
風邪の症状は、昨日に比べると随分楽なので、少し退屈な気持ちの方が勝るような、そんな気分。
…。
一昨日のこと…。
主人公君…気にしていた、当然だろうけど。
どうしよう、私はーー。
その日は、裏切られたという思い、怒りや悲しみで、心はいっぱいいっぱいだった。
だけど…。
今感じているのは、彼との関係に抱く、気持ちの悪い焦燥感。
彼の気持ち、彼の目に私は…どう映っているのだろう。
そんなものはわからない…。
取り留めのないこと、考えれば考えるほどに、私の心は不安定になっていく。
そんな中で私は、ひとつの思惑を浮かべるようになっていた。
それは、今の私を保つための…ひとつの願い。
約束。
それを、彼に願ってしまえば…今の3人の関係は、壊してしまうことになる。
…そんなこと、許されるのかな。
カナンちゃん。
ブッブー…。
私の近くでスマートフォンが振動した、これは…主人公君のだ。
持って行ってあげよう、そう思って主人公君のスマートフォンを手に取ったら。
[新着メッセージ : マツウラ カナン]
見えてしまった…その通知を凝視しながら。
主人公君の元へと持って行った。
チカ「主人公君、メッセージきてるよ。」
ーーー。
主人公「あ、ありがとう。」
手渡しされたスマートフォンのロックを解除して、内容を確認する。
カナンから…か。
カナン[貸した防寒着はまた機会がある時に返してネ]
そっか、危うく忘れるところだった。
次会った時にでも返せるかな…。
とりあえず返事も打たずに、スマートフォンから視線を外して、ポケットへと仕舞おうとしていると。
隣に来ていたチカちゃんが、俯いたままこちらを向いて止まっていることに気がついた。
主人公「チカちゃん?」
チカ「…えっと。」
チカ「メッセージの相手、見えちゃったの。」
ひやり…。
主人公「…うん。」
チカ「見せてっては言わないけど、ちょっと…気になるなって。」
主人公「…。」
少しだけ躊躇った。
でも、チカちゃんの部屋に来た段階で…それらの覚悟はできているつもりだったから。
ゆっくりと深呼吸してから、僕は。
主人公「一昨日のこと…。」
スマートフォンのメッセージをチカちゃんに見せながら。
主人公「防寒着をカナンから借りちゃったから、それを返さなきゃって話。」
チカ「…うん。」
主人公「えっと…。」
主人公「チカちゃん、その一昨日のこと…なんだけど。」
チカちゃんのこと、真っ直ぐ見つめて。
しっかり頭を下げる。
主人公「ごめんなさい。」
主人公「君を…裏切るようなこと、してしまったこと、反省してる。」
チカ「…うん。」
ーーー。
深々と頭を下げた主人公君はしばらくして面をあげて。
少し俯き加減にこちらを見ている。
私の返事を待っているみたい。
私は少し躊躇いながらも、湧き上がっていた思い…願いをひとつ。
チカ「主人公君。」
チカ「ひとつだけ、お願いしてもいい?」
主人公「うん。」
チカ「できれば…。」
これを言ってしまえば、もう。
あの頃の3人には、戻れなくなってしまうかもしれない。
だけど私の意思に、そんな迷いは生まれることなく…。
チカ「カナンちゃんには、あんまり会わないでほしいの。」
淡々と、告げてしまった。
主人公「…。」
チカ「酷いこと言ってるっていうのはわかってるの、でも。」
チカ「そうでも言ってくれないと、私…信じられない。」
あなたを…カナンちゃんを…私自身を…。
チカ「…。」
チカ「あなたの気持ちがまだ、私に向いてくれているのなら。」
チカ「それだけ、約束してほしいの。」
チカ「他の言葉も、何も…要らないから。」
チカ「私だけのあなたであって欲しいから。」
チカ「だから…。」
ああ、ーーー。
主人公「…。」
主人公「…うん、わかった。」
主人公「約束するよ。」
主人公「カナンとは…会わない。」
戸惑いを見せながらも、彼はしっかりと返事をしてくれた。
チカ「…ありがとう、主人公君。」
チカ「…。」
私の願いに、彼は応えてくれた。
それは、嬉しいことのはず…なのに、胸がズキっと痛んだ。
ーー。
”約束”は、これから…私を縛り付ける新たな足枷になって。
私の中で花開いた不和の感情は、ーーー。
…今思えば、彼を思う感情はすでに、義務感に等しかった。
彼と付き合っているのだから、その関係を保たなければいけない。
私の頭の中は、そんな考え方で、彼との関係を続けていた気がする。
彼を思う、純粋な気持ちは、いつのまにか…。
その関係が、幸せだったということと共に、忘れていたのかもしれない。
ーーー。
揺れ動く、私の目の前で開花したその花は…。
黄色いバラのようだった。
前半おわり
後半へつづく…。
やっとこさ更新です、お久しぶりです。
一応これで前半終わりになります。
後半も同じくらいのボリューム…になるのかどうかは、また描き進めていかないとちょっとわかりません。
長いことひとつのテーマで書き続けていたので、すこし合間の休憩を入れようか、とか思いつつ。
おそらくこれの次の話は、またしばらく時間をおいて、更新するではないかと思います。
その際は前半をまた見返して、いろいろ辻褄合わせとかで、文言だったり流れだったりを少しいじるかもですね〜、その辺はかなり気分次第です。(
まあ、何分なれない物語展開に、頭の中がごちゃごちゃになっているので、結構すでに書いてる文も、変なことになっているのではないかと思いつつ…ですね。
また後半開始の際には、前書きにいろいろ書こうかと思うのですが。
今までの話の展開的にも、原作乖離もさる事ながら、かなりキャラクターの関係だったりをヒン曲げていたり、衝突させるようなことがあったりするので、[アンチ・ヘイト]タグをつけた方が適切ではないかな?とか思ってます。
この話に限って言えば、”ちかなんと”なんて銘打っておいて、ちかなんちゃんが衝突しちゃう話ですからね(
とんでもない((
なので、タグ付け云々とかもまたまた見直して行こうかな…と。
その辺のマナーは結構、蔑ろにしているつもりはないのですが、疎いので「こうした方がいいですぞ!」みたいなことがあれば、是非教えていただきたいです。(笑
思うところは…色々あるのですが。
だらだら書いていると、下手すると本文を超えてしまうという、ブログ感覚のあとがきをつけてしまうので。(既になってますけど
ここら辺で終わりにします。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
また後半を読んでいただけたら幸いです。
[数日間のみこっそりアンケート]ep2やっぱり…
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消したほうがいい
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残しておいて欲しい
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書き続けて欲しい
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筆者の好きにすればいい