…。
暗闇の中。
部屋の中…。
でも僕の意識はまるで、海の底にいるように…。
無音…唯一こだまする呼吸の音と一色に塗りつぶされた視界。
孤独の世界に入り浸っていた。
そんな暗闇の海の中をなにかが通り過ぎる。
魚…。
いや、人魚…?
闇一色の世界の中にわずかに見えるコントラストの輪郭を目で追う。
しなやかに舞うその物陰は人。
ーーポニーテールをたなびかせて…。
パチっ
はっと気がついた時には瞬きをしていた。
いつのまにか眠っていたのだが…辺りはまだ暗い。
呼吸を整えてから、一言漏らす。
主人公「今日は…楽しかったな…。」
時計を見てから「昨日か…」と心の中で言い直す。
針は天井の方を指していた。
主人公「…。」
夢…。
ここしばらくよく見る夢がある。
それを見るたび僕は、いかに自分が彼女に依存していたのかがよくわかるような気がして。
少しだけ嫌な気持ちになる。
彼女は帰ってくる…いつか。
そう思うからこそいつまでも女々しく思うのだ。
…いっそのこと忘れられた方が良いのだろう。
彼女のこと、彼女を想うこの気持ちを。
彼女にはまた会える、きっと会える。
そうしたら、仮に彼女を忘れていたとしても。
きっとーーー、また恋をする。
彼女の名前を声に出すようにして口を動かす。
また会えた時に呼びたい名前を、声に出すことはできなくて。
もどかしさが募る。
主人公「はあ…。」
ため息を吐き出してから体を動かす。
明日の支度もまだしてない。
今度はちゃんとベッドで寝よう…。
ーーー。
大学の中。
主人公はフリースペースのベンチに座ってぼんやり外を眺めている。
チカ「こんにちは!」
主人公「こんにちは。」
チカ「昨日はありがとう♪」
主人公「あとはプレゼント渡すだけだね。」
チカ「うん!」
チカはいつものように笑顔全開だった。
昨日少し…変ーーに思ったけど。
特に変わりない様子で主人公は安心した。
チカ「そういえば、いつもここにいる時って何してるの?」
主人公「え?」
主人公「ん〜…」
特に意味はないー。
ただボーッとしているだけ。
その通りを言うのも面白くないので。
主人公「日光浴?」
チカ「え?」
窓の外はどんよりと曇っている。
主人公「あー…光合成だったかな。」
チカ「主人公さんって植物だったんだ…。」
チカ「って!おかしいでしょ。」
主人公「ははは。」
主人公「曇ってるね〜。」
チカ「うん、雨降らなきゃ良いんだけど…。」
主人公「そろそろ梅雨だし降るんじゃないかな?」
チカ「えぇ〜降ったら困るよ〜。傘…」
そう言いだした途端にザーッ!
ゲリラ豪雨なのか突然雨が降り始めた。
チカが呆然とする。
チカ「持ってきてないのにい!も〜!!」
主人公「…どんまい。」
チカ「ううう…今日は大学でお泊まりだあ…。」
主人公「傘くらい購買で売ってるでしょ。」
チカ「だよね〜。」
さっきまで轟音を立てていた雨は途端に収まってゆき。
ポツポツ…弱い雨がわずかに残って空から滴る。
ここのところの天候というのは本当に読めないものだと思わされる。
主人公はそんなことをぼやきながら持ってきていたバッグを手にして。
主人公「じゃあチカちゃん、僕はこれで。」
チカ「あ、私も帰るところなんだ。」
主人公「そっか。」
チカ「一緒に帰りませんか?エヘヘ♪」
嬉しそうにしているチカちゃんを見ては断れない。
…断る理由もないのだけれど。
主人公「いいよ。じゃとりあえず購買?」
チカ「ん〜でもこのくらいの雨なら…。」
主人公「一緒に濡れて帰ろう…って?」
チカ「なんでそうなるの?」
チカ「それをいうなら…相合傘〜♡でしょ?」
主人公「ふふっ。相合傘か、したことないな。」
チカ「…する?」
主人公「遠慮しとこう。」
即答されたそれにチカが食いつく。
チカ「え〜!?年下の女の子と…相合傘♡だよ!?」
主人公「相合傘♡…って言ってもね。」
主人公「そういうのはカップルがするものだよ。」
チカ「そうだよねえ…。」
微妙な空気が流れる、なんとなく言葉を拾いにくくなった主人公は外を見てから。
主人公「あ、でも晴れ間も見えてきてるし。もう降らないかもね。」
チカ「ホントだ。」
チカ「私が帰ろうとしたからだね。」
チカ「私、晴れ女だもん。」
なぜか得意げに話すチカを適当に宥めながら、屋外の方へと向かって歩みだす。
シトシト…ほんの僅かな水滴。
主人公は手を伸ばして外に出して、ほとんど濡れないのを確認してから、歩き出した。
敷地内から出てしばらくして、自分の家路を歩んでいた主人公はふと。
主人公「そういえば特に気にせず僕の帰り道を歩いてるんだけど。」
主人公「チカちゃんはどの辺住んでるの?」
チカ「私はあっちかな。」
指差したのは進行方向と真逆のーー。
主人公「…逆じゃない?」
チカ「そっか…。」
…。
チカ「そうだね。」
主人公「うん。」
まさかの企画倒れ。
どうしよう…と思いながら。
主人公「僕ん家行ったって仕方ないからね…ははは。」
チカ「え、行ってみたい!」
チカの返事に反応して、主人公はおもむろにバッグからノートを出して。
表紙の面を軽くチカの頭の上に乗せるようにして。
パスッ
チカ「…?」
主人公「…そういうこと言わないの。」
主人公「人によっては…あまりにも軽率だよ。」
チカ「なんで?」
主人公「…。」
この子、本当に大丈夫だろうか…。
やれやれと思いながらノートをバッグにしまっていると。
ポツ…ポツ…ポッポッポ…サーー。
すぐに折りたたみ傘を出して開いて。
やばいかも…。
とっさの判断でチカちゃんの手を取って手繰り寄せる。
チカ「えっ?」
ザーッ!!
再び轟音を立てるように降り始めた雨。
ゲリラ豪雨。
傘からはみ出る肩が一瞬にしてビショビショになる。
周囲を見回して、屋根のある方へ。
チカが離れないようにしっかり肩を抱いて歩いて。
ーーひと段落。
主人公「ごめんね急に。」
主人公「危うく2人仲良くビショビショだったね。」
主人公「濡れなかった?」
背を向いてだんまり…。チカちゃんが静かにしていると不安になるーー。
顔を覗き込むようにするとそっぽを向かれ。
主人公「チカちゃん?」
チカ「び…」
チカ「びっくりしちゃった〜あはは♡」
ホッとしたところで周囲を見渡すと、近隣にコンビニ…。
主人公「チカちゃん、ちょっとここで待っててくれる?」
主人公「まだ雨やまないだろうし、やっぱり傘買ってくるよ。」
歩み出そうとした主人公のシャツの裾が何かに引っかかる。
おっと、と一歩下がって後ろを見るとチカ。
チカ「えっと…」
主人公「どうかした?」
チカ「その…」
チカは俯いたまま、なにかを言いたそうにモゴモゴとーー。
とっさに掴んだ彼の裾、手に触れるシャツがとても冷たい…。
あれ…?ビショビショ。
さっきまで言おうと思っていたことが抜けてしまってーー。
チカ「主人公さん…。」
主人公「ん?」
チカ「びしょ濡れ…。」
チカは主人公の裾をいじりながら。
主人公「うん。」
主人公「折り畳み傘は小さいしね、仕方ないよ。」
チカ「…大丈夫?」
主人公「濡れるくらいどうってことないよ。気にしないで。」
主人公「…ところで。」
チカ「?」
主人公「いつまで握ってる?僕の裾。」
言われてついハッと離したけれど。
もう少し掴んでいたかった…。
裾…できれば、手をーーー。
チカ「…あっはは、ごめんね。」
主人公「ううん。それじゃ傘買ってくるからーー。」
待ってーー。
歩み出そうとする彼の裾を私は再び掴んだ。
主人公「おっと…また掴むんだ。」
チカ「エヘヘ。」
チカ「えっとねーー。」
私の中に今、衝動的に燃えている感情がある。
先日から燻りを感じていたそれは、先ほどの彼の唐突な行動によって燃え盛るようにーー。
まだ知らない情熱が、私を…不安定にする。
喉元まで出かかってる思い、言葉。
理性と衝動が喧嘩しあって、それをなだめる気持ちで指をクルクルと遊ばせる。
やがて行き場を失ったそれを吐露するようにして、彼にーーをこぼす。
チカ「傘は…買いに行かないで。」
チカ「その、一緒の傘に…入れて欲しいの。」
2人の間に沈黙が流れる。
困った表情のままで固まっている主人公は言葉を失って。
チカが慌ててその場を繕う。
チカ「ーーなっ…なんちゃって?」
チカ「あははは!ごめん!なんか変だね、私。」
顔を真っ赤にしながらごまかしつつ、心の中では不意に飛び出した衝動に自責の念を唱えていた。
なぜ言葉にしてしまったのか。
言ってしまったのか。
恥ずかしい。
気づかれた、間違いなく…。
主人公「…それすると僕、もっとビショビショになっちゃうな。」
チカ「だよね〜…。」
主人公「…。」
主人公「…そんなに相合傘したい…?」
チカ「えっ…いっいや…その。」
タジタジ、いざ返されるとどうしようもならなかった。
本当はしたい…。
あわよくば手を繋いで…一緒に帰りたい。
折れかけた心を持ち直して、勇気を振り絞る。
チカ「うん、…したい。一緒に帰りたい…。」
主人公「…。」
主人公「仕方ないな…、いいよ。」
チカは思わずそっぽ向いて返事する。
チカ「う…うん。ありがとう…。」
主人公「チカちゃん家、どの辺?」
チカ「えっと…、ここ。」
地図アプリで場所を見せて。
主人公「ちょっと遠いね。」
チカ「ごめんね。」
主人公「ううん。」
主人公「よし、それじゃ行こっか。」
主人公は傘を開いてから、手のひらをチカの前に差し出して。
優しくエスコートする。
チカ「えへへ♡」
チカは満面の笑みをこぼして。
いつもより近く主人公に擦り寄るように。
並んで歩くーー。
ポツポツ。弱まった雨脚に、電線や街路樹に溜まった雨粒が、リズムを刻むように楽しく降り落ちる音がして。
遠くの空からは晴れ間がのぞき、光の梯子と虹の橋がかかる。
水が…青く輝かしい雨天。
まるでそれはーーー。
ーー。
シャワーを浴びて一息。
流石に背の高さが違うから、傘の下に居たって濡れてしまってーー。
ちょっと寒かったような気がしたんだけど…。
くふふ…♡
ニヤニヤ含み笑いをしてベッドの上を転がる。
彼は頭が良くて、優しくって。
私の激しい性格を理解してくれて。
わがまま聞いてくれてーー。
チカ「優しい…お兄ちゃんができたみたい…。」
だけど…胸を焦がすこの情熱は、兄弟や姉妹には当てはまらない。
特別な関係を望んでる証…。
でも私にはそれがまだはっきりとは理解できないらしい。
きっとそれは、今の関係から一歩先へ進んだところにあるのかもしれない。
チカ「わたしにも…できるのかな…。」
チカ「なれるのかな?」
遠くにあるものだと思っていた。
わたしには謎に満ちていて。
一歩引いて感じていた感情。
チカ「待っててね…。」
それに答えられる日まで…。
ーーー。
音の変化は季節の移ろいを顕著に表した。
少し前までケロケロと可愛い鳴き声が聞こえていたと思っていたが。
今はミーンミーン、ジージーと…。
なんとなくこっちは不快感がある気がして、苦手だったりする。
風情がある、と言ったりするものだろうが。
夏のアスファルトから煮え立つように立ち上る熱気を、増長するかのように思えて仕方がない。
炎天下を汗を流しながら歩く。
夏の暑さは嫌いではない…でも、好きでもないのかもしれない。
そんな昼前。
隣にはいつも以上に上機嫌なチカちゃんとーー。
チカ「♪〜」
主人公「元気だね〜チカちゃん。」
チカ「うん♪夏、始まりましたー!って気がして嬉しいんだ〜♪」
8月1日。
主人公「そっか〜。」
主人公「僕は今にも〜溶けちゃいそうだよ…。」
チカ「ふふふ♪」
ーー。
主人公「もうすぐそこ。ほら、あのビルだよ。」
チカ「うわ〜高っ!」
チカ「あんなところに水族館…?」
主人公「うん、にわかには信じがたいよね。」
主人公「でもあんな高いところでも、本格的な水族館があるんだ。」
主人公「僕も気に入ってて年間パスポート作っちゃったくらいだし。」
チカ「へー、よく来るんだね。」
主人公「しかもここには水族館だけじゃなくて、プラネタリウムも併設されてるし。」
主人公「下のほうの階には色々お店もあるし。至れり尽くせり…って感じ。」
チカ「プ…プラネタリウム〜!!」
主人公「いってみる?」
チカ「うん!行きたい!」
今日は二人で水族館。
僕はもともと趣味として水族館巡りをするのだが。
数週間前。偶然にも一人で水族館に来ていた僕が、友達と3人で来ていたチカちゃんと鉢合わせて…。
その日は「邪魔しちゃ悪いから。」とすぐ、別れて行動したのだが。
翌日からチカちゃんの”一緒に水族館行きたい”アピールが始まり…。
今日に至るわけだ。
あの傘の一件以来、こういったことは以前にも増して、よくお願いされるようになった。
僕も特別断る理由がない限りイエスマンになっているのだが。
そうして彼女と会うたびに、彼女の中に時折見え隠れする特異な感情がーー。
僕はそれを思い違いだろうと、見て見ぬ振りをするようにして目を背けてきた。
でも、もしその予兆が思い違いではないのならーーー、その時は近いのかもしれない。
僕は彼女に、救われていると思う。
彼女が隣で楽しくしてくれるから、今こうして笑顔でいられる自分がいる…そう感じている。
彼女のことは当然嫌いじゃない…、でも一歩踏み込んだ関係として、彼女を好きになれるのか…愛せるのかと考えると。
彼女に対する僕の感情にはまだ、そのようなものは芽生えてはいない。
多分今でもーー、そこには”元”彼女の存在があって、それを上書きすることを許さないのだろう。
…我ながらいつまでもネチネチとしつこいのだと思う。
こんなことを思うのも、もう何度目になるのか、思案するごとに自己嫌悪を積み重ねてはーー。
変化は恐ろしい…でも。
変われたのなら…楽になるのかな…。
チカ「いよいよだね〜。」
エレベーターが最上階をさして止まり、扉が開いてすぐに南国のようなエントランスルームが広がる。
チカ「うわ〜!もうオシャレ!」
主人公「ふふふ。」
主人公「水族館はこっち。」
入場し、館内を順路に従って回る。
仄暗い空間に水槽が、水の揺らめきによってキラキラと光ってとても美しい。
チカちゃんもまた、小さい子のように目をキラキラと輝かせながら魚を眺める。
チカ「わあ〜♪」
チカ「広くて水槽もたくさんあって…本当に、すごいね〜!」
主人公「うん。」
主人公「あ、その魚ーーーって言うんだけどーー。」
チカ「へ〜。」
チカ「やっぱりよく行くだけあって、魚に詳しいんだね〜。」
主人公「これ、受け売りなんだけどね。」
主人公「僕はもともとボーッとして魚を見てるのが好きなだけだったから。」
チカ「たしかに眺めてるだけでも、十分癒されるよね〜。」
チカ「〜♪」
ジーっと小さな魚の動きを目で追っかけて楽しそうにしている。
主人公「チカちゃんがこういうの好きってのはちょっと意外だったかも。」
チカ「そうかな?」
主人公「もっとアクティブな事を好みそうかな?って勝手に思ってたから。」
チカ「う〜ん、たしかに体を動かすのも好きだけど。」
チカ「ちっちゃい頃から水族館へはよく行ってたし。海に近いところに住んでたからかなあ。」
チカ「魚は友達?みたいな♪」
主人公「ふふっ。」
主人公「海に近いところ…か。」
主人公「…。」
他愛ない話をしながらとりあえず一通り回った、2人は再入場スタンプを手に押してから、一旦水族館を後にしてプラネタリウムへと向かう。
チカ「初めてのプラネタリウムだよ〜。」
主人公「僕も初めてかな?」
チカ「そうなんだ〜。」
主人公「水族館は1人で行けても、なぜかこっちには入れなかったなー。」
チカ「たしかにこっちの方が1人では行きにくそうだね…。」
天井を仰ぎ見る為にリクライニングしたシートは、まるでベッドにいるみたいでゆったりと。
隣に顔を向けると主人公さんの横顔が近くにーー。
なんとなく見とれてしまっていると、視線に気づいたのかこちらを向いて。
主人公「ん?どうかした?」
目線が合うとちょっと恥ずかしくなって、天井の方へと顔をそらした。
チカ「…なんでもないよ、エヘヘ。」
ドキドキ…。
とても特別な空間にいるような気分になれる。
そうしているとアナウンスが始まり、照明が消灯されて行く。
中央に鎮座する巨大な投影機に明かりが灯って、何もなかった天井が突然宇宙空間に変わった。
チカ「うわあ…♪」
今回の上映内容は”七夕物語”。
織姫様と彦星様のロマンチックで切ない恋物語が星空の解説とともに語られる。
ふと横目に主人公さんを見る。
真剣な顔して…なんだかとっても、淋しそうな目で遠くを眺めている。
初めて出会った時からそうーー。
彼はなぜか時々、淋しそうな表情をする。
1人でぼーっとしている時や、私と一緒にいる時でも…。
そんな時の彼の視線を追うと。
遠くにある何かを見つめるように虚を眺め、こちらを見ていても私に焦点が合っていない。
まるで何かを重ねられているように…。
彼の視線の先、たぶん何か…誰かがいる。
私の知らないそこに居ない誰かーー。
私が変に思い込んでいるだけなのかもしれない、でも。
彼が好きーー、その気持ちを抱いてから彼だけを見つめているのに。
まるで彼の目には、私は映っていないかのように感じるその瞬間が嫌だった。
胸が痛い、嫉妬心のような彼への独占欲がーー。
心が渇望する、彼が欲しい。
私だけを見て、笑顔でいて欲しい。
彼の心…全てをわたしだけのものにしたい。
恋心は心地良いだけではなかった、知れば知るほどに切なくて苦しくなる。
…吐き出したい、私の想いはもうーー。
友達のままではいられない、特別になりたい。
ーー。
上映が終わって席を立ち。
ゾロゾロと移動する人混みの中を抜けて、再び水族館へと入って行く。
チカ「楽しかったね〜、プラネタリウム。」
主人公「うん、星空の映像がすごく綺麗だったね。」
チカ「だねー♪」
屋外展示のテラス。
いつのまにかすっかり夕暮れ色に染まった空を仰ぎながら。
チカ「ここらからでもさっきみたいな星が見えるのかな?」
主人公「ちょっと周りが明るすぎて、あんまり星は見えないかもね。」
チカ「そっか…。」
テラスはライトアップされていて、とてもロマンチックな空間が演出されていた。
チカ「綺麗だね。」
主人公「うん。」
視界を覆うように壁から天井に伸びた水槽の中をペンギンが浮かぶ。
ぷかぷか。
ーー雰囲気のいい空間。
まったりとして、時間が過ぎて行くのを忘れていると。
いつのまにか空は藍色に染まっていた。
チカ「あ、いちばん星。」
遠く光る輝きに…主人公はぼんやりと視線を送る。
チカはその様子を見て、何かを決心するようにしてーー。
チカ「あのね、主人公さん。」
主人公「?」
チカ「いつも色々とありがとう。」
チカ「私のわがままに付き合ってくれて。」
主人公「急にどうしたの?改まって。」
チカ「あはは、いつもちゃんと”ありがとう”って言えてない気がして。」
主人公「ふふっ、どういたしまして。」
主人公「でも、それだったら僕も言いたいな。」
主人公「いつもありがとう。チカちゃんのおかげでとても楽しい日々を送れている気がするよ。」
チカ「えへへ♪」
チカ「主人公さん、優しいから…私ね、出会った頃から思ってたんだ。」
チカ「なんだか、お兄ちゃんができたみたいだって♪」
主人公「ふふっ。」
チカ「主人公さんと話したり、一緒に居たりするとなんだかとっても、あったかい気持ちになれるな〜って。」
2人は微笑みあって、少し間を置いてからチカは言葉を続けた。
チカ「…でもね、最近はちょっと違うの。」
チカ「主人公さんのことを考えると…胸が苦しくなる。」
チカ「主人公さんのこと、もっと知りたい…一緒にいたいってーー。」
チカ「ーーー。」
この流れは間違いないーー。
これから始まろうとするチカの言葉を主人公は予測した。
ーーその時が来たんだ。
どうしよう、僕は…。
「ーーー私を覚えとけよっていうんじゃないんだからね。」
「もし、君が…」
”元”彼女の言葉、別れ話のときに僕に言ってくれたその言葉がふと頭をよぎり、一息吐き出してから呼吸を整える。
チカ「…その。」
主人公「チカちゃん。」
チカ「…?」
言葉を遮られるようになって少しオロオロとし始める。
そんなチカを宥めるように主人公は。
主人公「やっぱり、チカちゃんから”言わせる”ってのはなんだか、カッコ悪いかなって思って。」
チカ「…え?」
主人公「見栄、張らせてよ。」
「他の人を好きになったのなら。」
チカちゃんは僕の…笑顔の恩人だから。
「君の好きになった人とーー。」
…邪かな、それでも僕は…あの子に依存したままの生活から変われるのならーーー。
君の好意に、応えたい。
主人公「僕も、君と同じ気持ちなんだ。」
主人公「僕も君のことをもっと知りたい、一緒にいたい…それで、2人で笑顔でいたい。」
主人公「チカちゃん僕は、君のことが…。」
好きだーーー。
そこにまだ、愛はないのかも知れない。
でもいつかきっと芽生える…そう信じて。
少しの間、沈黙が流れる。
チカ「…。」
グスッ…。
俯いて鼻をすする音がする…。
泣いてる…?
主人公「チカ…ちゃん。」
チカ「ごめんね…。」
あれ?まさか…。
独り相撲っーー!?
そうだと思うと突然慌て始めて、つい先走る。
主人公「えっあっ…ああ〜。そ、その…気にしなくて〜いいからね。」
主人公「ご、ご…ごめん。僕の方こそなんか…ん?勘違い?してたのかなあ?ははは…はははは!」
途端に恥ずかしくなって誤魔化そうとする。
泣くほど嫌だったのかな…、ああ…これはまずい…。
チカ「…ううん。違うの。」
主人公「…違う?」
ひしっ
チカは顔を隠したまま主人公の胸に飛び込んだ。
勢い良くやってきたそれに主人公は一歩後ずさりをするようにして。
呆然ーー。
呼吸の音がする。
少し荒く…熱い吐息が胸にかかるのがわかり、周囲が静かになったように感じる。
状況をゆっくりと理解した僕は、そんな彼女の後ろ頭に腕を回して、優しく包み込む。
すると彼女はそれに応えるように、僕の胸に押し当てていた腕を僕の背中に回すようにして強く抱きついた。
彼女の鼓動が伝わるーー。
ドッドッドッ…。
…。
ドクッ…ドクッ…。
深く…深呼吸を繰り返して、彼女は落ち着き始めた頃に言葉を絞り出した。
チカ「…嬉しいの。」
チカ「あなたが…言ってくれた言葉が。」
チカ「私の気持ちに…応えてくれる優しさがーー。」
チカちゃんの言動は喜びとともに、何か…僕の心の内を見抜いているようにも感じた。
主人公「…うん。」
チカ「私も…あなたのことが…。」
チカ「好き。…大好き。」
人目もはばからず、2人は抱き合ったままーー。
チカ「…エヘヘ♡」
頬ずりをするようにチカが甘える。
流石に恥ずかしくなってきたのか、主人公が少し身を引こうとすると。
上目遣いに見つめてきて…切ない表情をする。
…今にも彼女が言い出しそうな言葉がわかる。
「ごめんね、嫌だった?ーー。」
その言葉を彼女自身の口から吐き出されたくない…、そんな気がして彼女を抱き直す。
すると彼女は満面の笑みでアイコンタクト。
こんな表情されたら、どうしようかと思ってしまう。
このままではなんだか、身動きが取れない。
主人公はおもむろに、目を合わせているチカに合図を送るようにウインクして見せて。
チカがきょとんとする。
主人公は少し身をかがめるように、チカに顔を近づけてーー。
それに”はわわ…”と驚くチカは、つい目をつぶって身を縮こめる。
僕は彼女の唇…は避けるようにして。
前髪をかき分けて、彼女の額にキスをするーー。
唇を軽く当てて離すと、さっきまでも紅潮していた彼女はより一層赤みを増したようになって一歩後ずさり。
主人公「ふふっ。」
…多分僕は少しだけドヤ顔してる。
そんなどうでもいい事を考えながら、すかさず話を方向転換。
主人公「この後、どうしよっか。」
主人公「…晩御飯でも食べに行く?」
真っ赤なままのチカはモジモジとしながら返事する。
チカ「あ…あのね。」
主人公「?」
チカ「今日…実は。」
チカ「私の、誕生日なの。」
主人公「え?…そうだったんだ。」
チカちゃんは今日の予定を決めるときに、この日にちだけは譲れないと言ってきた。
その真意がここに来て初めてわかった。
ああ、一杯食わされたなーー。
主人公「そうならそうって、先に言ってくれればよかったのに。」
わざと主人公がちょっと意地悪気味に言うと、チカはそれに笑みを浮かべて。
チカ「えへへー♪」
両手の指を突き合わせるようにしながら、お願いしてくる。
チカ「それでね…その。」
チカ「良かったら、お祝い…して欲しいな。なんて♡」
主人公「…っ、ははは♪」
主人公「しょうがないな。」
主人公「じゃあ、行こうか。」
主人公はチカに手を差し伸べて。
主人公「ハッピーバースデー、ーーチカちゃん。」
主人公「これから、よろしくね。」
チカ「うん!こちらこそ、よろしくね♡」
ーーー。
書けば書くほど思うことなのですが。
日本語が怪しい気がして仕方がない…(
あとやはりチカちゃんの会話が難しい。
今回はあんまり暴走しない?チカちゃんでした…。
逆に言えば暴走させれなかったんですけど(
なんだか書き終えてから(あれ?本当にこれチカちゃんかなあ…)と度々懐疑心にかられます。
また、主人公の会話文を「ふふっ」とか「はは」とか毎度毎度、適当な愛想笑いで雰囲気作ろうとしてるなぁ…とか。
なんだか話の中での展開もワンパターンになってないか…とか。
(なってるんですけどぉ…)
回を増すごとにそう言った不安感が増えてきました。
長い作品を作ることは難しいんですねえ…と。
今回はあんまりあとがきを思いつかないので、この辺りで…。
また何か書いておきたい所感が思い浮かんだら書き加えるかもしれません。(いらない)
ちなみに主人公くんのお気に入り水族館と言ってるのは知ってる方々には言わずもがな…か。
サン●ャイン水族館を勝手にモチーフにしてます(
では次回もまたゆっくりと書いていきますので…お楽しみに?
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
[数日間のみこっそりアンケート]ep2やっぱり…
-
消したほうがいい
-
残しておいて欲しい
-
書き続けて欲しい
-
筆者の好きにすればいい