それからしばらくの月日が経った。
心を交わした2人の関係は変わらず。
お互いを理解し合えて、愛し合えていた。
バイト先にもその関係はバレて、主人公は店長に一度だけ恨めしそうに睨まれていた。
長らく通っていた英語教室も、”講義”の甲斐あって無事修了し。
バイトして、デートして…たまに数日ほど2人きり一緒に暮らしたりして見て…。
そんな生活を送っていた。幸せな日々。
ーーATMに並ぶ。
バイトの給料が振り込まれたから、今月の生活費を下ろそうとやってきたのだ。
記帳された通帳に目を通して、なぜかため息をつく。
カナン「…」
カナン「…嫌だな、最初はこういうのを楽しみに感じていたと思ってたのに。」
カナン「なんだかどんどん心苦しくなってる。」
カナン「…そんなこと、考えたくなかったのに。」
カナン「まったく、誰のせいだか。ふふ。」
カナンは俯いたまま通帳を鞄にしまって
一度自分の頬を叩いてから天を仰ぐ。
カナン「決めなくちゃね…。」
視線を下ろすと、近くにあった花屋の方へと目が行った。
中でも…白やピンク色の花がたくさん咲いているものに目が止まる。
春の甘い香りーー。
カナンは小さく飛び跳ねるように、歩みだした。
陽の光の方を向いてーー。
ーーー。
季節は過ぎ、昼間は重い衣服が少し鬱陶しくなり始めた。
もうそろそろ、春を迎えようという頃。
僕はいつもの飲食店へ向かった。
主人公「おはようございます。」
カナン「おはよう。」
2人は顔を合わせて微笑む。
今日もバイト。
カナンとーー。
ーーー。
バイトを終えて帰ろうという頃。
今日はカナンは早上がりでいないので。
帰り支度をゆっくりとしていた。
すると、他のバイト仲間が寄ってきた。
バイト仲間「主人公君。」
主人公「はい?」
バイト仲間「君を呼べば、呼ばなくてもカナンちゃんくると思って。」
主人公「??」
バイト仲間「今度みんなでカナンちゃんの送別会しようって言ってるからさ。」
バイト仲間「サプライズで!」
主人公「ん…?」
はてな、違和感を感じる。
主人公「送別会?」
バイト仲間「…え?」
バイト仲間「あれ?!」
バイト仲間「…もしかして、聞いてないの??」
主人公「聞いてないのって…えっ?」
バイト仲間「あ…あっちゃー…」
バイト仲間「ご、ごめん。忘れて?」
バイト仲間「…ムリか!」
主人公「ちょっ…混乱してるから…。」
どういうことだ?バイト辞めるのかな?
そう思いながら主人公はそのまま帰った。
家について、スマートフォンを眺めて。
メッセージを送ろうかを悩んでいた。
主人公「送別会って…バイト辞めてどうするのかな。」
主人公「実家に帰るとか…?」
彼女がお金を貯めている理由。
思えば一度も詳しく聞いたことがなかったのだ。
長く一緒に居る仲だっただけに、自分にだけ秘密にされていることがあったのがすごく気になった。
主人公「メッセージ…。」
主人公「直接聞いた方が良さそうだな…。」
主人公[早上がりの用事]
主人公[済んだ?]
画面と睨み合って返事を待っていると
しばらくしてすぐ帰ってきた。
カナン[うん]
カナン[もう用事は済んだ]
主人公[なら]
主人公[今から会いたいんだけど]
主人公[ちょっといいかな?]
カナン[お]
カナン[積極的だね]
カナン[いいよ♡]
ーー僕は集合場所へと向かった。
カナン「君から呼び出されるなんて。」
カナン「なかなかないよね。」
主人公「うん、ちょっと気になることがあって。」
その言葉を聞いてカナンはちょっと状況が想像しているものと違うことに気づいて。
少し身構えをした。
主人公「今日風の噂で聞いたんだけど…。」
カナン「うん。」
主人公「もしかして、バイト辞めるの?」
カナン「…」
単刀直入に投げつけられた言葉。
ちょっと悩んでる…。
その様子が少しだけ不安に思えた。
カナン「うん、辞めるよ。」
主人公「…そうなんだね。」
主人公「いつ?」
カナン「二週間後かな?」
主人公「そっか…。」
沈黙ーーお互いに、少しだけ気持ちの悪い時間が過ぎる。
主人公「今日他のバイトの子から聞いて、びっくりして…ははは。」
カナン「ごめんね、一番にあなたに言えなくて…。」
主人公「ううん、いいよ。」
主人公はカナンの様子を伺いながら。
その先のことを詮索するかどうか考えた。
隠していたのなら…彼女にそれなりの理由があって。
まだ自分には伝えられない…。
伝えたくないのだと思って…
でも、それでも気になった。
主人公「まだ、僕には…。」
主人公「明かしてくれない、何かが…あるのかな…?」
ぼんやりとした言葉で聞く。
具体的に、”その後どうするつもりなのか?”とは聞きたくなかった。
カナン「…」
カナン「うん。」
カナン「まだこれは…、私の中で悩んでることだから…。」
カナン「もう少し、もう少ししたら…君にも話すつもり。」
カナン「だから…ごめんね。もう少しだけ待ってて欲しい。」
カナン「言えないことは…、私たち2人だけの問題だから…。」
カナン「…ごめんね。」
彼女のらしくない言葉…あまり聞きたくない言葉…。
でも、決して誠意のない言葉ではないのだろう。
そう信じて。
主人公「わかった。」
主人公「ありがとう、ちょっと…僕もモヤモヤしちゃって…。」
主人公「聞きたかったのはこれだけ、ごめんね突然。」
主人公「…じ…じゃあ、これで。」
カナン「うん、またね。」
別れの言葉を交わして、それですぐその場を後にした。
お互いに、振り返りもせず。
こんなにそっけない別れは、初めてのような気がした。
ーーー。
数日後、カナンからの連絡は想像していたよりも早く訪れた。
カナン「やっほ。」
カナン「この間言えないって言ってたこと。」
カナン「決めたよ…私。」
主人公「うん。」
寒空の下。
なぜだかこうして、お互い話があるときはいつも屋外に呼び出して話していた。
今日もこうして2人。
夜闇の中に佇む。
カナンは自分が貯金をしていた理由…海外へと行く今後のことを主人公に語った。
近い将来、ダイビングのインストラクターの資格を取ることやーーー。
カナン「目標にしてた金額も集まったし、バイトを辞めて。それで渡航の準備をしようと思ってるんだ。」
主人公「そっか…。」
主人公「そしたら…寂しくなっちゃうね…。」
カナン「…」
主人公の一言に、返事をためらう。
カナン「あのね。」
カナン「…」
カナン「…そうだ。寒いでしょ、やっぱうち来なよ。」
主人公「…うん。」
カナンの家に上り込む。
下駄箱に並べた2つの靴。
食器棚には2つのマグカップ、洗面台には並んだ2つの歯ブラシセットーー。
一緒に居ることの多い2人の見慣れた景色。
いつものようにコーヒーを淹れてベッドの縁に座る。
するとイルカのぬいぐるみが飛んできた。
カナン「あなたが抱いてあげて。」
隣にカナンがやって来て、主人公が腕に抱いているイルカを優しく撫でる。
…しばらくしてカナンは外で話しかけていた言葉の続きを始めた。
カナン「あのね。」
カナン「私は、さっき話した通り。しばらくしたら海外に飛ぶ。」
カナン「そしたら君に…しばらく会えなくなっちゃう。」
カナン「寂しくなるねって…君は言ってくれたよね。」
カナン「私なりに、考えてみた。」
カナン「こういう形で離れ離れになってしまうこと…。」
カナン「それでね…。」
カナンは、イルカを抱いている主人公の片手を引いて。握る。
カナン「私は…。」
カナンが握る手が微かに震えている。
主人公はイルカを膝の上に乗せて
もう片方の手でその手を包んで…。
カナン「私は…寂しいのは、嫌だから。」
カナン「君との関係を…終わらせて、日本を発とうって考えたんだ。」
しばらく言葉が消えた。
カナンは俯いたまま、主人公もかける言葉を失っていた。
ついこの間感じた不安から、予想してない訳ではなかったこのシナリオ。
でも、突然言い渡されたその言葉は。
主人公にとって現実味を帯びた言葉のようには思えなかった。
それを現実だとは、受け止めたくはなかった。
カナン「…ねえ、主人公君。」
カナン「さっきの言葉の…」
カナン「あなたの率直な気持ち…」
カナン「教えて欲しい。」
主人公「僕は…」
なかなか言い出せなかった。
いつものような言葉を頭に思い浮かべては、泡のように消える。
どんな言葉も…軽く感じた。
やがて出てきた言葉は…もっと直情的なーー。
主人公「ちょっと…まだ正直…、状況飲めてないんだ…。」
主人公「でも…寂しい、きっと寂しいよ。」
主人公「別れたからって…君を忘れられる訳じゃない。」
主人公「僕は…っ。」
主人公「君と離れるなんて…嫌だ…。」
少しだけ涙が出た…みっともないな…。そんなふうに思いながら。
その涙はカナンがもう片方の手で拭ってくれた。
カナン「君のことだから。」
カナン「”いってらっしゃい”って言ってくれるのかと思った。」
カナン「もしそうだったら…」
カナン「ちょっとだけ怒っちゃってたかも知れないけど…ふふふっ。」
カナン「…嬉しい。」
カナンの目からも光るものが一筋。
雫になって落ちる。
ポツポツと降る雨のように。
見つめあって。
お互いを優しく抱き合って。
2人は少しだけ泣いた。
ーーー。
電気を消してベッドに2人、向き合って寝転ぶ。
今日は2人でいる。
ただそれだけでーーー十分だった。
主人公「本当に、行ってしまうんだね。」
カナン「自分で決めたこと…そのためにここに来たんだからね、元々。」
カナン「それだけは譲れない。」
主人公「だろうね。」
主人公「僕も君を止めたりはしないよ。」
主人公「ーーでも、別れなきゃ…いけないのかな…。」
カナン「…悩んだよ。たくさん。」
カナン「別に離れてるからって遠距離恋愛だってあるんだしってね。」
カナン「でも、私の都合でいつも君を付き合わせて、振り回して…。」
カナン「離れ離れになって、寂しい思いをさせて。」
カナン「そうやって君を縛り続けるのはよくないなって思った。」
主人公「そんな…」
カナン「それに、私自身寂しい思いをするのは嫌だから。」
カナン「スッパリ忘れた方がやりたいことにも集中できるしっておもってね。あはは。」
カナン「…ごめんね、ずっと自分勝手な事言って。」
少し間をおいて返事する。
主人公「…ううん。」
カナン「…今生の別れってわけじゃないんだから…。」
カナン「たとえ、ここで別れたとしても。」
カナン「戻ってきたら、また出会って…好きになって。」
カナン「…そんな感じでもいいんじゃないかな♡」
主人公「ふふっ、そうだね。」
カナン「あ、でもさ。だからって私のこと覚えとけよ〜って、言うんじゃないんだからね?」
主人公「?」
カナン「私と別れて、もし君が他の人を好きになったのなら…。」
カナン「その時は、君の好きになった人と…幸せになって。」
主人公「…。」
ーーー。そう思いながら、未練がましい気がして返事はできなかった。
カナン「…そうだ、バイト辞めるの一週間後くらいだけど。」
カナン「それからしばらくしたら、ここの部屋も出て一旦実家に帰るんだ。」
カナン「それから渡航まではもうしばらく時間がある。」
カナン「だから、ーーデート…。」
カナン「また一緒に、海に潜らない?」
主人公「…ま、またカナンの”実家”か…。」
カナン「何、不服?」
主人公「いや、今こんな関係だっていうのに。」
主人公「尚のこと行き辛いというか…。」
カナン「大丈夫、家の人は適当に追っ払っとくから♪」
主人公「すごいこというな…。」
カナン「ふふふ♪」
カナン「だって主人公君、今度は星を見に来たいって言ってたでしょ?」
カナン「あの日…。」
少し思い返した、初めてのあの日
この2人の関係ができた日…
主人公「なんだか皮肉な感じだね。」
主人公「好き合った場所で別れを告げるの
はーー。」
カナン「…何事もなかったことになっちゃったりして。」
カナン「ならないよね、君と過ごした数ヶ月間。」
カナン「とても忘れられるものじゃないもの。」
主人公「忘れないよ。絶対。」
カナン「ふふっ♪」
嬉しそうに頬を寄せる。
ひとときの幸福感ーー。
でも切なくて、寂しい。
そんな表情をしてーー。
カナン「今日はもう遅いね。」
カナン「寝よっか。」
主人公「うん。」
カナン「おやすみ。」
主人公「おやすみ。」
軽く唇を合わせてから、2人は眠った。
ーーー。
それから数日間、色々あった。
カナンはバイトを辞めて。
バイトメンバーで送別会を行なって。
部屋を退去するからと、荷造りを手伝ったり。
そこで生活用品の片割れを渡されたり。
何故だかイルカのぬいぐるみを押し付けられたり…。
それからさらに数日経て、今。
僕は一人電車に揺られている。
行き先は…わかってる。
一度行ったことのある、彼女の待つ場所。
ついた先の駅に彼女はいた。
カナン「やっほ。」
主人公「おはよう。」
カナン「早速行こっか♪」
バスを使ってしばらく。
ーー彼女の実家。
ダイビングショップ。
体験ダイビングの契約書を書いて。
スーツを着て、機材を身につける。
ーーエントリー。
水から遮断された体には、冷たい海の温度だけが頭や手先を伝ってジワジワと浸透してくる。
不思議な感覚。
シュコー…シュコー…と自分の呼吸に合わせて、乾いた空気が送られてくる。
海の中にいる感覚はまるで、宇宙空間にいるそれに近いのだろうか。
宇宙にこそ行ったことはないのだが、何故だかそう感じてしまう。
そんな空間に僕は彼女と2人きり。
ライセンスを持っているわけではない僕が潜れるのは浅いところまでらしい。
水深12m…。
その数字を聞いて僕はとても浅いものだとは思わなかった。
深く海へと潜って行く2人。
カナンが途中で止まって腕につけているダイビングコンピュータを僕に見せてきた。
ここが、僕の潜れる海の一番深いとこ…。
ーー移動中。
主人公「いよいよ最後のデート…か。」
カナン「こら。禁止。」
主人公「あぁ…ふふっごめん。」
カナン「寂しくなっちゃうから今日が最後っていう気持ちはナシ!」
カナン「あ、今日のダイビングだけど…」
カナン「どんな海に潜ってみたい?」
カナン「今日は2本潜るつもりにしてるから2つね。」
主人公「どんな海…かぁ…」
主人公「おまか…」
カナン「お任せ禁止。君そういうの決めるの苦手でしょ。」
主人公「おすすめ…」
カナン「それもダメ。」
主人公「ぐぬっ…。」
主人公「じゃあ〜ひとつは魚にたくさん会えるところ。」
主人公「あともう1つは、うーん…僕が潜れる一番深いところ。」
カナン「深いところ?」
主人公「うん。」
主人公「僕が行ける…一番深い海の底を見て見たい。」
カナン「変わってるね。いいよ、連れてったげる♪」
ーー。
そこにはこれといって特別な何かがあるわけではなかった。
ひらけた青の空間。
ただ僕にとっては、その空間にいることがとても心地よかった。
海の底…現実から乖離したようなその世界では、全てを忘れられる気がしてーー。
燦燦と日の光が照っていた今日は。
海の中へ光の足がいくつも差し込んでいるように見える、まるで舞台を照らすスポットライトのように。
その光を浴びて、目の前のカナンは踊るように泳ぎ、舞う。
優美に自由に…。
彼女にはこの世界が一番似合っている。
ふと主人公は思った。
彼女はーーー人魚姫だったんだ…。
ーーー。
ダイビングを終えて、日が暮れるまでしばらく。
散歩したり、テーブルゲームをしたり、海を見たり…。
日が落ちて一番星を見つけてからしばらくして。
星座表と天体望遠鏡、ブランケットを持ってベランダに出た。
カナン「よく晴れてて良かった。」
カナン「空気も澄んでて…星が綺麗に見える日だね。」
主人公「うん。」
満点の星空。
小さな光がいくつもの点描となって空を描く。
そこに岸へと打ち寄せる波の音が演出をする。
自然のプラネタリウム。
語りは2人の会話でーー。
主人公「ーー星も詳しいよね、カナンは。」
カナン「趣味だしね。」
主人公「大人な趣味してるよね。」
カナン「大人って…。」
2人は寒空の下で1つのブランケットに包まれて夜空を仰いだ。
カナン「ちょっと思い出話するね。」
カナン「君と初めて出会った頃。」
カナン「まだ、バイトだけの関係だった頃。」
カナン「君の事、なんだか私は”ほっとけないなー”って思っちゃってた。」
カナン「まるで妹同然の幼馴染を見ているみたいに。」
カナン「真面目くんで、初仕事でしばらく緊張してすごく頼りなさそうだし♪」
主人公「緊張すると…ダメなんだよ。」
カナン「ふふふっ♪だから可愛いなーって思ってた。」
カナン「でもあなたに頼って英語を教えてもらうようになってね。」
カナン「すごい君は頭がいいんだって感心しちゃって。」
カナン「英語をペラペラ喋る君に憧れちゃった♡」
カナン「それからずっと、君の事を知るごとに君の事が好きになって。」
カナン「この人がいいって思えた♡」
主人公「改めてそう言われると…照れちゃうな。」
カナン「うふふ♡」
頬を赤らめながらも、とても嬉しそうにする彼女を見ていると。
すごく和やかな気持ちになって。
嬉しくって。
主人公「僕は最初、甲斐甲斐しくお世話されてるのがちょっと気恥ずかしかったかな。」
主人公「すごい大人っぽくてお姉さんみたいなカナンだから。」
カナン「えっへん。」
主人公「ふふっ。」
主人公「それから一緒に”講義”したり、水族館に行くようになったりして。」
主人公「だんだん君に、腕を引かれていることに。」
主人公「すごく嬉しくなってた。」
主人公「でも、なかなか君に素直には向き合えなかったかな。」
主人公「…というか君が美人だから、彼氏はいないのか?実は騙されてるんじゃないのか?って」
主人公「最初の頃は結構そういう懐疑心を抱いたりもしたんだよ?」
カナン「ふふふ♡君らしいね。」
主人公「でも杞憂だったね。」
主人公「君はこんなに、ピュアで可憐な女の子だったんだから…」
カナン「ピュアとはなんだ。」
主人公「ふふっ、事実カナンは純粋じゃないか。」
主人公「付き合ってて、色々な君に触れるたびそう思ったよ。」
主人公「裏表なく、真っ向から人にぶつかれる人だって。」
カナン「なんか恥ずかしいよ…そう言われると。」
主人公「あはは、お互い様だよ。」
暖かいムード、一間の静寂が訪れると。
同時に少し現実が入り混じる…。
もうお別れなんだ。
寂しい。
そんな気がして、カナンは主人公に体を擦り寄せて甘える。
カナン「流石に少し寒いね。」
主人公「…そうだね。」
カナン「ちょっと…ちょっとだけ…。」
カナン「寂しいって思っちゃった。」
主人公はカナンの口を指で塞ぐ。
主人公「禁止。なんでしょ?」
カナン「…してやられた。」
指が退けられるのと同時に、カナンは主人公に顔を寄せてキスをする。
冷えきった唇に、2人の温もりが交わる。
…少ししたら主人公の方から引き剥がされた。
カナン「え?」
主人公「キスまでならいいけど、あ…あんまりその。」
主人公「本気にしないでね…。」
カナン「どういうこと?」
主人公「その…備えてないから…。」
主人公「流石に実家だし…ね、そうはならないというかダメだって…。」
カナン「…」
カナン「そ…そうかと思って、…実は…用意はしてるよ。」
主人公「えぇ…。」
カナン「引いた?」
主人公「い、いやぁ…。」
カナン「だってあなたに会えるのは最後なんだから。」
カナン「あなたのこと、しっかりと覚えておきたいっていうか…。」
主人公「ほ、ほら最後とか…禁止って。」
カナン「ふざけないで。」
主人公「ごめんなさい…。」
カナン「その…やる気になってる時の…。」
カナン「いっつも頼りない君が…、強引でリードしてくれるところ…とか」
カナン「大好きなんだから…///」
カナンの顔は真っ赤だった。
ついつい主人公もそそられるような気持ちになって。
彼女の期待に、答えなきゃって気持ちがふつふつと湧いてきて…。
主人公「こっちまで恥ずかしいよ…。」
とどめにカナンがいぢらしくハグをする。
ちょっとふてくされ顔で、主人公の胸に飛び込むようにして。
主人公「あー…もう。仕方ないなぁ…。」
主人公「君には勝てないよ。」
カナン「ふふふ♡」
2人はそのあと夜闇と交わり、一夜を過ごした。
最後の、とても長い夜だったーー。
ーーー。
鳥のさえずりが聞こえて、朝が訪れたことが分かった。
外は朝靄が少し、なんだかほんのり夢の世界の中のように。
ふわふわと、曖昧な空間
彼女と一緒にバス停の方へと歩いていた。
途中で彼女が立ち止まり、声をかけてくる。
カナン「わたしは、ここまで。」
主人公「…うん。」
カナン「あんまり一緒に歩いてたら、もっと君と居たい…なんて思っちゃうからね。」
主人公「寂し…」
カナン「禁止だよ。」
主人公「昨夜は散々言ってたのに?」
カナン「…っ」
ぐぬぬとした顔で真っ赤になってる。
主人公「じゃあ、ここで。」
カナン「うん。」
カナン「あ、メッセージとか。そういうのもできれば送らないで…。」
カナン「わたしの見送りとかも、やめてよね。」
主人公「…うん、しないよ。」
カナン「ごめんね。」
主人公「らしくない言葉言わないでよ。」
カナン「…ふふふっ♪そうだね。」
カナン「じゃあ…」
カナンは主人公を見つめて。
両手を広げてーー。
カナン「ハグ、しよ?」
ギュッと抱きしめる。
優しくて暖かい…瞬間。
短い時間でも、永遠のように間延びして。
ゆっくりと時が過ぎる。
主人公「いってらっしゃい…カナン。」
耳元でそう囁いて体を離すと、距離を置いて。
主人公「それじゃあね。」
主人公「バイバイ。」
カナン「さよならーー。」
1人でバス停へと向かった。
振り向かず、前を…上を向いて。
悲しい顔など流れる涙など、見せないようにしてーー。
ーーー。
それからは、日常が訪れた。
何も変わらない…そんなはずの日常。
ただ1つ抜け落ちたピースの穴が埋まらない。
そんな気持ちを誤魔化すように。
明るく、いつも通りを装って。
まるで、彼女など初めからいなかったように。
ーー。
ロビーで一人、もうそろそろ搭乗開始と案内されるのを待っていた。
暇な時間…何をするでもなく空を見て。
ボーッとする。
そんな時、なぜかちょっと前に見た夢を思い返した。
人魚姫の童話。
どんな話だったっけ?
たしか、王子様に恋をした人魚姫は…最終的に水の泡になってしまうんだ…。
わたしは泡になんてならない…そんな風にクスリと笑いながら。
…それでも、わたしの王子様との関係は。
泡のように…消えて無くなったんだ。
そう思えて。
少しだけ涙が出たーー。
ーー。
日は過ぎて、桜の花が少しずつ咲き始めたという頃。
もうそろそろすると新たな出会いの季節ーー。
そんな日々の中で主人公は抜け殻のようになっていた。
何かが欠けている。
ぽっかりと空いた塞がらないその心の穴を。
寂しさや、悲しみと言い表せもせず。
受け止めきれなかった現実が、日を越すごとにリアリティを増していくその感覚で。
少しだけ壊れていた。
数日ーーー。
満開の桜が新たな始まりを彩る。
春風が吹き、出会いは…。
皮肉に、運命的に訪れる。
END
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
短編一話のはずが、番外追加で二話を予定しつつ…三話になってやっと完走です。
まあ、本編へとつながる以上は最後は切ない話で幕切れとなりました。
そう言いつつもセリフ回しを追っかけていると。
カナンちゃんと一字違いの名探偵が、「あれれ〜?」と言い出しそうな違和感が若干あります(
その方がこっちの話として綺麗にまとまるし…情緒的だしということです。
そんなこんなでひょっとすると本編を今回のこれになぞらえて改変したりとか…。
今後更新なりするとしたらそういうことをするかもしれません。
あるいは番外のチカちゃん編を書くか(笑
執筆していてのそれで。
今回はカナンちゃん主体に書いてたわけですが。
最初っからかもしれませんが、中編あたりから「あれ?これ本当にカナンちゃん?」なんて。
自分の中のカナンちゃん像がアニメやG’sのそれに準拠してるのか?
それとも筆者の趣味丸出しに脚色されたキャラクターになっているのかが半分よく分からなくなってしまいました。
まあ、自筆の小説?な以上どうあがいても後者ですけどね!(
ちかなんとーーー。の公開から間もなくすぐ始めたこの番外編。
そもそも本編執筆した時から異様に文章書くのが楽しくって、止まらなくってサーッと一気に書き切りました。
番外のラストだけは結構うんうん考えましたけど。
(その割に結構内容適当になってるかも)
これからもそんなペースで新規投稿するのか…というと。
前述した改変版や番外以外には特になんの考えもなく。
ここしばらくずっとスマホを突きまくっていたものですから。
ちょっと普通の生活に戻ろうかと思います(
というか、衝動的な自作小説?の公開だったので。
ほぼ次回の予定というのはナシに等しいです。
また気が向いたり、妄想が捗ったら。
ひょっとすぐ現れるかもしれません。
そう言った機会があれば、是非読んでいただけると嬉しいです。
あと、感想欲しいです。(迫真
小説?というそれを執筆することをよりよくしていこう…
とかそういう頭はあんまりないのですけど
(アドバイスとかも凄く嬉しいです。)
自分の思い描くものが読み手に伝わるものがかけているのか?
ということはすごく気になります。
まあ、これらの話の内容なんてはベッタベタの純愛ものっていう、
筆者の趣味丸出しでなかなかテンプレめいていて、あまり特別なものではなかったかと思いますが。
「面白かった!」とか、「クソつまらん」とか(
一言いただけると幸いです。
毎度ながら長ったらしく気持ち悪い文で締めくくってしまいましたが…
改めて、最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
[数日間のみこっそりアンケート]ep2やっぱり…
-
消したほうがいい
-
残しておいて欲しい
-
書き続けて欲しい
-
筆者の好きにすればいい