異世界の侯爵ライフは他人任せ   作:ぐうたら怪人Z

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第2話 いざ、帝都へ
① 天馬の馬車


 

 

 侯爵位授与式から2日が経った。

 式の後処理は昨日で完了し、今日からは通常業務に戻――らない。

 寧ろ、ある意味で式よりも重要な仕事が本日から始まるのだ。

 前にも少し触れたが、皇帝陛下との面会である。

 基本的にヴァルファス帝国では爵位授与に皇帝の許可が必要であり、私のように親から子へと継がれる場合であっても事後連絡を欠くことは許されない。

 とはいえ長い式が開かれるわけでも無く、極端に言えば皇帝へ挨拶するだけなのだが。

 

 ただそれだけではあるのだが、このウィンシュタット領の場所に少々問題がある。

 何せここは帝国の“東端”。

 隣国である東部諸国連合との国境沿いに位置するのが我が領地なのだ。

 当然、帝国の中心に鎮座する帝都ヴァルキスとはかなりの距離があり、顔見せに行くだけでも相当な労力となる。

 もし徒歩で行こうとするなら、最低でも2週間は見積もっておく必要のある行程だ。

 まあ、私は侯爵であるが故に、馬車を使わせてもらうが。

 

 そういう訳で、これから楽しい楽しい帝都旅行に出発するわけである。

 ――うん、なかなかに面倒臭い。

 

「坊ちゃま、出立の準備整いました」

 

 そうこうしている内に、銀髪の美少女――私専属の侍女であるセシリアが迎えに来た。

 手には大きな旅行鞄を持っている。

 今日もメイド服をきっちりと着こなし、凛とした佇まいが美しい。

 もっとも、そんな凛々しい彼女を私は好きにしてしまっているのだけれどね!

 

 ……まあ、一昨日は情けない姿を見せた。

 前の世界で人生歩んで三十余年、コチラの世界でも十余年生きてきたというのに、純情な少年のような反応をしてしまった。

 しかし、もう大丈夫。

 セシリアとの体験を経て、私は一つ上の男になったのだ。

 もうあんな無様は曝さない。

 その証拠に――

 

「セシリア」

 

「はい、何でございま――んんっ!?」

 

 ――返事を最後まで言わさず、彼女の唇を奪う。

 

「んんっ――んっ――は、ぅぅぅ――」

 

 セシリアの口内へ強引に舌を割り込ませ。

 

「あ、んんんっ――れろっ――はぅっ――れろっんっ――」

 

 互いの舌を絡ませ合う。

 ……繊細だ。

 とても繊細で、柔らかで、滑らか。

 セシリアの舌は、そんな触感だった。

 

「――は、あっ」

 

 このまま何時までも堪能していたいところだが、今日は時間が無い。

 一旦口を離す。

 

「ふぅ、なかなか良かったぞ。

 君とのキスは最高だな」

 

 嘘偽りない本音だった。

 ただ口づけを交わすだけでこれ程の官能を味わえるとは。

 これまでの人生で経験のないことだった――いやその、セシリア程の美少女とキスをした経験自体、経験が無かったわけだけれども。

 

「さ、そろそろ行こうか。

 余り御者を待たせるわけにもいかない」

 

 余裕をもった態度でセシリアを促し、部屋を出ようとする――が。

 

「…………」

 

 彼女が動かない。

 

「……? どうした、セシリア? そろそろ時間なんじゃないのか?」

 

「…………」

 

「お、おーい、セシリア?」

 

「…………」

 

 フリーズしている。

 微動だにしない。

 視線が空中の一点を見つめたまま固定されている。

 

「せ、セシリアぁっ!?」

 

 

 

 ――動き出すのに、たっぷり10分はかかった。

 私は、そんなに嫌われていたのだろうか――い、いや、そんなはずは、無い、と信じたい。

 

 

 

 

 

 

「……お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」

 

「い、いや、別に大丈夫だ」

 

 場所は既に馬車の中。

 私達は向かい合う形で座っていた。

 仄かに顔を赤らめて、セシリアは先程の弁解を口にする。

 

「ただその、なんだ――い、嫌なら、そう言ってくれていいんだぞ。

 君に無理はさせたく――」

 

「そんなことはございません!!」

 

 途中で遮られた上に思い切り否定された。

 ここまで強い口調を彼女が使うのは実に珍しい。

 

「そ、そう?」

 

「はい!

 何でしたら、いついかなる時でも接吻をお受けいたします!!」

 

「……そ、そうか。

 それなら、いいんだ」

 

 嫌がっていたわけではないと知って、ほっとする。

 ああ、しかし、余り油断してもいけないか。

 犯した“失点”を取り戻すため、必死になっているだけかもしれないのだから。

 セシリアとの付き合いはもう十年以上になるし、大よそ彼女のことは理解しているつもりでいるが、やはり女性の思考を男が把握するのは難しい。

 

 ちなみに、だが。

 広い馬車の中には現在、私とセシリアだけ。

 頑丈な造りで、車内の会話は外の御者には伝わらない。

 だからこそ、こんなちょっと恥ずかしい会話をしているのだ。

 

 それはつまり、この帝都旅行は二人きりで行く、ということでもある。

 これはもう、新婚旅行と言っても過言ではないのではなかろうか――いやすまない、ちょっと気が逸り過ぎた。

 

 ここで、侯爵ともあろう者がこんな少人数で帝都へ行くのか、という疑問を持つかもしれない。

 しかし考えてもみて欲しい。

 今回は皇帝陛下に挨拶するだけなので、身の回りの世話をしてくれる使用人さえいれば不都合はないのだ。

 しかも帝都側で受け入れの用意――宿泊場所や食事等――もしてくれるため、持ち物も最低限でいい。

 加えて、余り大勢でいくと経費が無駄にかさむというのもある。

 最後は若干アレな理由だが、とにかく以上のことから私はセシリアだけを伴った帝都行きを決断したのだ。

 ――彼女と2人だけの旅行もしたかったし。

 

「坊ちゃま、随分と嬉しそうですね」

 

 思考の最中、セシリアが話しかけてきた。

 

「……そうだったか?」

 

「はい、微笑んでいらっしゃいました」

 

 私としたことが、顔に出ていたのか。

 うん、陛下への面会は面倒事だが、セシリアと旅ができることを考えればそう悪いものでもない。

 私は素直にその気持ちを吐露する。

 

「これから数日、私と君で水入らずだからな。

 どうしたって、嬉しい気持ちになるさ」

 

「…………ぴゅう」

 

 なんだセシリアその鳴き声。

 凄く可愛いぞ。

 

「――し、失礼いたしました」

 

「う、うん、まあ、深くは問わない」

 

 恥ずかしさで顔を真っ赤にに女性に対し、アレコレ詮索するのも不作法だろう。

 しかし今のは非常に愛らしかったので、是非またやって欲しい。

 

「あ、坊ちゃま、見て下さい。

 とても良い景色でございますね」

 

「ああ、そうだな」

 

 セシリアが窓の外へ視線を向けた。

 露骨な話題転換。

 だがそこへ敢えて乗る。

 これが大人の気配りというものだ。

 

「なんとも不思議なものです、空を飛ぶ(・・・・)というのは」

 

「……そうか。

 君は天馬の馬車(・・・・・)は初めてだったな」

 

「はい。

 何度か見かけたことはありましたが、実際に乗り込むのは本日が初にございます」

 

 天馬(ペガサス)の馬車。

 この初めて出す単語について、説明しなければなるまい。

 といっても、物自体はそのものズバリだ。

 一対の翼を持ち空を飛ぶことができる馬“ペガサス”に馬車を引かせている、というただそれだけ。

 ペガサスは現代日本でも有名な生物なので、細かい説明は要らないだろう。

 漫画だの小説だのに出てくるペガサスを想像してくれれば、それとほぼ違わない。

 敢えて違いを挙げるとするなら、地球では空想上の存在だったが、ライナール大陸では実際に生息している、ということだろうか。

 

「坊ちゃまは、士官学校へ赴く際に使用しておりましたね」

 

「ああ。

 コレのおかげで帝都まで1日(・・)で到着する。

 便利なものだ」

 

「平民にはなかなか手の出せない代物ではございますが」

 

 天馬の馬車は空を移動でき、しかもペガサスの飛行はちょっとした自動車並みの速度が出る。

 そのため、歩いて2週間はかかる距離の帝都へ、一日で――より正確には10時間程度で到着してしまう。

 下手すると自動車より使い勝手の良い乗り物なのだ。

 

 だが、欠点もある。

 セシリアも触れたように、天馬の馬車は非常に高価なのだ。

 レンタルするだけでも、相当な量の金貨が消えていく。

 ペガサスは帝国内で棲息数が少なくかつ飼育に手間がかかり、その上御者にも専門的な操馬技術が必要になるのが、高コストの理由だ。

 故に、平民ではまず使うことなどできず、貴族であっても普段使いは難しい。

 帝都旅行を少人数で行うのは、この辺りの事情を鑑みた結果でもある。

 

 いずれペガサスを量産し、誰もがこの乗り物を使うことができるようにしたいものだ。

 交通の便が良くなれば、交易が活発になり、経済が発展する。

 

「しかし坊ちゃま、この乗り心地の良さは何なのでしょう?

 ペガサスに牽引されて空を飛ぶわけですから、もっと揺れるものだとばかり考えておりました」

 

 年相応に不思議そうな表情をするセシリア。

 うむ、実に良い質問だ。

 

「ああ、それは――」

 

 ペガサスが、鳥のように揚力を利用して飛行しているのではなく、“魔力”によって浮遊(・・)しているからだ。

 この世界、どんな生物も大なり小なり魔力という力を保有している。

 人はそれを魔法という形で行使するが、ペガサスは自らの飛翔にそれを使用しているのである。

 そしてその“浮かぶ力”は、馬車そのものにも作用する。

 故に、天馬の馬車は快適な乗り心地を提供してくれるのである。

 

「余談だが、専門家はこの現象の解釈として『ペガサスが飛行魔法を使っている』説と『ペガサスは魔力を飛行能力に転用できる』説で争っていたりする」

 

「そこに、議論の必要はあるのでしょうか?」

 

「どれだけ調べても、今のところペガサスが魔法を使う証拠を見つけられていない。

 しかしペガサスも魔法を使用していると仮定した方が、魔法理論の適用範囲が広がる――要は、魔法学者の権威が高まる」

 

「……学者様も苦労なされているのですね」

 

「下らない権威争いだ」

 

 こういうのは現代社会でもあった。

 どこに居ても、人のすることなんて似たようなもの、ということだ。

 

「まあ、この話はここまでにしよう。

 せっかくの旅なんだ、もっと楽しいことを時間を費やさねば」

 

 ここまでにも何も、自分で始めた話ではあるのだが。

 ともあれ、私は窓枠に手を伸ばして戸を閉める。

 

「どうされました、坊ちゃま?

 徐に窓などお閉めになって。

 景色を楽しむのではないのでしょうか?」

 

「ああいや、楽しむのは景色ではないんだ」

 

 馬車にある他の窓も閉めていく。

 採光窓に閉ざしたので、今馬車内の光源は天井に釣らされたランプだけ。

 中から外は見えず、反対に外からも中は見えなくなった。

 ついでにこの馬車は防音もしっかりしているため、音も漏れない。

 ここでナニが起ころうと、御者にすら察知されないわけだ。

 

「あの、坊ちゃま?」

 

「ん? なんだ、セシリア」

 

 返事しながら、彼女のすぐ隣へ腰を下ろす。

 余りにも近くに座ったせいで、肌と肌が触れ合ってしまう。

 

「あのその――坊ちゃま?」

 

「ん? どうした?」

 

 適当に相槌を打ちながら、手をセシリアの太ももに這わせる。

 

「ひゃんっ」

 

 可愛らしい彼女の声。

 私以外、この世界でこの声を聞いた者はいないだろう。

 

 そして太もものすべすべなこと。

 無駄肉が付いているような様子はないのに柔らかく、それでいて弾力もある。

 

「ぼ、坊ちゃま。

 いけません、こんなところで――」

 

「誰も私達のすることに気付きはしないさ」

 

 スカートを捲る。

 色っぽい太ももが露わになっていき――む、グレーのショーツか。

 クールビューティーなセシリアには、なかなか似合っている。

 

「――や、やはり、ダメです。

 こんな――坊ちゃまのお召し物も汚れてしまいます」

 

「セシリア」

 

 少し強い口調で、彼女に告げる。

 

「股を、開くんだ」

 

「……はい」

 

 セシリアは素直に従った。

 太ももと太ももが離れていく。

 その間に手を滑り込ませると、ゆっくりと手をその付け根へ向けて近寄らせた。

 と同時に彼女へ寄りかかり、その美しい首筋へ舌を添わせる。

 

「ああっ! いけません――いけません、坊ちゃまっ――ダメ――――ダ、メ――――♡」

 

 

 

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