ルカ・アシュフィールドと初めて会ったのは、帝立士官学校へ入学した日だった。
自分の入る寮の部屋で、早々に鉢合わせしたのである。
『お前がエイル・ウィンシュタットか?
僕はルカ。
ルカ・アシュフィールドだ。
ルームメイトとしてこれから2年間、よろしくな』
そんな風に挨拶されたと思う。
だがその時、私はそれどころではなかった。
何せ、男子寮にとびっきりの金髪美少女が姿を現したのだ。
しかも自分のことを、私のルームメイトなどと称して。
今だから言ってしまうが、当時は学校側の“賄賂”を疑った位だ。
その時点で私は侯爵を継ぐことがほぼ確定していたし、若くして宰相となったクライブ伯爵とも深い交流があった。
便宜を図られる要素は揃っていたのだ。
『あー、一応言っといてやるけど、僕は男だから』
その説明を受けて、衝撃が走った。
こんな綺麗な男が世の中には居るのか、と。
ルカの歳を考えても、異常と言うしかない。
しかし私がそれを指摘しても、
『えー……お前みたいなのがそんなこと言うの?』
何故か不思議そうな顔をしていたが。
それから、私とルカの共同生活が始まった。
『なーエイルー、ここ教えてー?』
座学が得意でなかった彼は、よくよく勉強を聞きに来たものだ。
私はといえば、現代社会で勉強をしてきたアドバンテージを十分に生かすことで、優等生として通っていた。
日本に住んでいた時は実感しなかったが、中世レベルの文化圏からすれば現代知識は相当高度な代物なのだ。
とまあ、それはともかく。
勉強を教えるのに問題は無かったのだが、その際の
『なーなー、いいだろー?
教えてよ、エイルー』
よりにもよってルカは、私にしな垂れかかってきたのだ。
忙しくて渋った時は、間違いなくそれをしてくる。
『なーなーなーなー』
それでも私が渋ると、私の身体に手を回してしがみ付いてまで来た。
男の癖にやたらしなやかな肢体が、ぎゅっと私に押し付けられる。
正直、堪らなかった。
実を言うと、これを堪能するために態と断る素振りを見せたことすらあったりする。
ルカに悩まされたのは、これだけではない。
『はー、今日も疲れたよ。
飯食って休もうか、エイル』
学校が終わり、寮に戻ると大体の生徒は私服になる。
それ自体は大したことでないのだが、ルカの格好はかなりアレだった。
例えば、ある日はタンクトップにホットパンツ姿。
『うん? この服装が気になる?
へへ、どうだい、僕の魅力を引き立てるだろ。
見てみろよ、このスラッとした脚を!』
そう言って、積極的に私へ見せつけてくる。
むちっと肉がついた、健康的な素足を。
どうにか平静を保ったが、内心ドキドキしっ放しだった。
他の日には可愛らしい女性物のワンピースだったり、綺麗なドレスだったり、際どい水着を着ていたこともあった。
さながらファッションショーだ。
これを見に、寮中の男子生徒が部屋に集まったりもした。
極め付けが、これだ。
『よし、今日は一緒に寝よう!』
夜、私のベッドに上がり込んできた。
『偶にはいいじゃないか。
こうやって一緒に寝ながら語り明かすと言うのも』
全然よろしくない。
寝間着姿のルカからは、どうしてか良い匂いがした。
なんとか拒もうとしても、
『いいじゃないか、男同士なんだし!』
そう言って、無理やり布団の中へ滑り込んでくる。
その後のことは余り覚えていない。
とにかく、自分の理性を維持するのに必死だった。
ここに至り、どうして私が彼と同部屋になったのか嫌が応にも理解する。
そりゃ、下手な男子をこんな奴と一緒に生活させられまい。
遠くないうちに“問題”が発生することが目に見えている。
しかも、ルカは名門アシュフィールド公爵家の息子なのだ。
“何か”があれば、学校の存続問題にまで発展しかねない。
それで白羽の矢が立ったのが、私なのだろう。
まったく、ルームメイトが私でなければルカはどうなっていたことやら。
『……あれ? どうしたんだエイル、そんな思い詰めた顔して』
きっと、彼にとってトラウマ級な出来事が起きていたに違いない。
『ど、どうして部屋に鍵閉めた?』
私には感謝して貰いたいものだ。
『なぁ、無言で寄ってくるなよ、怖いぞ』
『……エイル?』
『待って、ちょっと待って』
『僕達、友達だよ、な?』
『ねぇ、ちょっと――』
『――と、友達だろぉおおおっ!!!?』
……まあ、未遂に終わったのだが。
「あの時は本当にどうなるかと思ったよ」
「君が毎回変な誘惑をするから悪いんだ」
回想は終わり、場面は王城の寝室へ。
ちょうど今は、ベッドの上でその話をして盛り上がっている最中だ。
「ああ、全て僕が悪い。
僕が、余りにも美しいから――!」
自分に酔った発言をするルカ。
綺麗であることは否定しないが。
「自覚があるなら、こんな格好しないで欲しいものだ」
「はっはっは、美しい者がより美しく着飾るのは義務といっていい。
とはいえ、並大抵の衣装では僕を引き立てることなどできないけどね」
なんという天狗発言。
「確かに、結構なドレスだな。
よく見ればかなり良い生地を使っている」
「お、分かるかい?
最高級のシルクさ」
「ほう」
ドレスを触ってみると、なるほど手触りがまるで違う。
癖になりそうな感触だ。
せっかくなのでそのままスカートを捲りあげ、中身を確認する。
「ふむ、下着まで女物か」
レースのショーツだ。
シンプルなデザインながら、丁寧な造りを伺わせる。
「……いいんだけどさ。
あっさりスカートを捲ったね、お前は」
「男同士だから問題ないんだろう?」
「むぅ」
かつて言われたことをそのまま返すと、ルカは答えに窮したようだ。
これ幸いと、
太もも。
贅肉が無く引き締まっている。
だというのにこの柔らかさは何だ。
極上の筋肉は柔らかい、とどこかで聞いたことがあるが、それか。
腰。
細い。
女性が見たら嫉妬に狂いそうな程、くびれている。
細さだけなら、或いはセシリアより上かもしれない。
お尻。
良い形、良い丸みだ。
弾力も申し分ない。
顔を埋めてしまいたい欲求に駆られる程である。
「あのー、エイル?」
「なんだ?」
「いや“なんだ?”じゃなくて。
流石にやりすぎじゃないか?
ちょっとこそばゆいんだけど」
「そうか」
しかし手は止めない――止められない。
最高級のシルクなんて問題にならない。
ルカの肉感こそ、正しく癖になる感触だ。
「おーい、聞いてるかエイルー?」
「……なぁ、ルカ。
“未遂”で終わったあの日、私が最後に何て言ったか覚えているか?」
「へ? うーん、なんだったかな?」
覚えていないようだ。
ならば教えてやろう。
「“
「――ひっ!?」
途端、ベッドから立ち上がるルカ。
後を追う私。
「ま、待てエイル!
話せば――話せば分かる!!」
「問答無用!!」
背後から彼に抱き着いた。
男とは思えない、その華奢な肢体に。
間髪入れず、胸元に、スカートに、手を滑り込ませる。
「うわうわ、うわ!!
ちょっ! くすぐったい!! くすぐったいって――――んぅっ!?」
色の帯びた声を上げる。
ほう、どうやらココがよろしいようで。
「え、エイル、待って。
ぼ、僕達、友達同士のはず、だろ。
こんなこと――」
「そうだな、友達だな。
……だが、友達とこういうことをしてはいけないルールでもあるのか?」
いや、ルール以前の問題だとは思う。
思うのだが、今日は止まるつもりはない。
あの頃の私とは違う。
前は『初体験はセシリアと』という信念が情欲を上回った。
しかしセシリアとの初体験を既に終え、男として一つ上に昇った私に、最早隙は無いのだ。
男となんて初めてだけれど、何とかなるだろう。
私は、私の助兵衛心を信じる!
「いやいや、そんなもの信じられても!!
ストップ!! 手、止めて!! こ、これ以上は怒っちゃうぞ!?」
なおも講義するルカ。
仕方のない奴だ。
「おいルカ、“鏡”を見てみろ」
「え?」
都合の良いことに、私とルカの前には姿見が置いてある。
そこにある鏡には2人の姿が映し出されており――
「――“アレ”が、嫌がっている顔か?」
「あ、う――」
鏡の中のルカは顔を赤く染め――どこか
まるで、これから起きるであろうことへ期待しているかのように。
彼が心底拒んでいるわけではない、その証拠だ。
「で、でも、僕達は男同士で――――あんっ♡」
またも艶っぽい反応。
自分の状態を認識したせいか、身体もより“素直”になってきているようだ。
「――ルカ」
ダメ押しとばかりに、私は呟く。
彼の耳元で。
ねっとりとした声を意識しながら。
「どうしてもと言うなら、もっとしっかり拒否すればいいだろう?
私は体術の実技で一度も君に勝てたことが無いんだ。
その気になれば、簡単に私を投げ飛ばせるはずじゃないのか?」
「……あ」
語った通り、ルカは私より
体術に限らず戦闘に関連した実技において、私は彼に勝つどころかまともに勝負すらできなかった。
なのに、ルカは何もしてこない。
「どうする?
決めるのは、君だ。
調子に乗った私を制裁するか」
「……あ、う」
「――それとも、このまま続けるか」
「…………」
――しばしの沈黙の後。
ルカは、私にその身を委ねる道を選んだ。