異世界の侯爵ライフは他人任せ   作:ぐうたら怪人Z

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⑥ 公子の野望▼

 

 

 

 ルカがエイルと出会ったのは、士官学校の入学式の日に遡る。

 初めて見た時、心臓が止まりかねない程の衝撃を受けた。

 

(――こ、こんな綺麗な女性(ひと)、見たことがない!)

 

 はっきり言って、ルカは自分の容貌に自信があった。

 下手な女性より綺麗――どころではなく、自分に比肩する容姿を持つ女性なんてこの世にいないんじゃないか、位の認識だ。

 しかしそれが誤りであることを思い知らされた。

 目の前に居る、黒髪の少女によって。

 

 東方の国では、最上級の黒髪のことを緑髪と呼ぶそうだが、彼女のものは正しくそれだ。

 切れ長の瞳は艶やかで、唇の瑞々しさ足るや本当に水が滴り落ちそうな程。

 背は自分よりも高く、それでいて脚も長い。

 公子として生まれたルカは社交界で様々な令嬢を見てきたが、その誰もがこの女性の前では霞んでしまう。

 それ程の美少女だった。

 

 まず疑ったのは、学校からの賄賂だ。

 ルカはアシュフィールド家の次男として産まれている。

 自分をよくしておけば、アシュフィールド家から何らかの見返りが貰えると期待してのことか、と勘ぐった。

 

(ま、そんなわけないか)

 

 ルカの生家の厳粛さは、帝国で知らぬ者はいない

 賄賂など渡した日にはその場で斬り殺されかねないのだ。

 そんなことも分からぬ運営陣ではあるまい。

 そう考え、では何故こんな美女が部屋に来たのか首をひねっていると――

 

(――まさか男だったとは)

 

 すぐに答えが分かった。

 女性は――いや、彼は自分と同類だったのだ。

 ならば、学校側の配慮にも納得いく。

 同類同士、同じ部屋にした方が色々と(・・・)“安全”だし、上手く付き合っていけると考えたのだろう。

 

 だがその企みは、早々に頓挫した。

 ルカが、エイルに惹かれてしまったからだ。

 しかも目当ては身体。

 

(いやだってさぁ。

 平気な顔で下着姿曝してくるんだよ、あいつ)

 

 露出狂の気でもあるのかと勘違いしてしまった。

 あのツルツルの肌や、健康的な太もも、むっちりプリプリのお尻を見て平静としてられる奴は男じゃない。

 毎日のようにそれを見せつけられたルカは、悶々として仕方が無かった。

 その上、

 

(面倒見いいし。

 厳しいとこもあるけどなんだかんだ優しいし。

 料理も上手いし)

 

 一緒に暮らしていくうちに、どんどん明らかになるエイルの魅力。

 外見だけでなく、内面にも惹きつけられ始めたのだった。

 そんなルカが、在学中にエイルへ手を出さなかった理由はただ一つ。

 

(……僕がアシュフィールド家の生まれでなければなぁ)

 

 実家との兼ね合いを考えて――もっといえば、自分の家を恐れていたからだ。

 先述した通り、アシュフィールド家は厳格な家柄。

 学生の身分で不純異性交遊――正確には異性ではなく同性だが――したと知られようものなら家を追い出される、どころではない。

 下手すれば、その場で自害を命じられかねないのだ。

 

(だから、元服を迎えるまで待ったんだけど――)

 

 その結果が、これだった。

 

「うう、痛いよぉ……」

 

 ベッドに転がりながら、泣きごとを言う。

 “どこ”とは明言しないが、ルカは今身体を痛めていた。

 とてもヒリヒリしていた。

 裂けるかと(?)思った。

 

 ちなみに、彼の身体を痛めつけた(?)張本人であるエイル・ウィンシュタットは、すぐ隣でぐっすり寝ている。

 

「くそ、人の気も知らないで……!」

 

 でも寝顔は凄く愛らしかった。

 見ているだけで心が癒されていく程に。

 

「だからと言って、絆されないぞ!」

 

 気合いを入れる。

 この夜、エイルの部屋へ訪れた“本当の目的”を果たすために。

 

(――今日、僕は“男”になる!)

 

 そう、彼はエイルの部屋を訪ね、そのままなし崩しに押し倒してしまおうと考えていたのだ。

 ……先に女にされてしまったが。

 

(ちょっと予定が狂っただけさ!

 それにまあ……嬉しかったのは事実だし)

 

 好きな相手に抱かれることに対し、悪い気はしなかったのである。

 ルカの内面は複雑だった。

 それはそれとして。

 

(ふっふっふ、いざ往かん!)

 

 とりあえず身を起こし、エイルへと這い寄る。

 彼は真っ裸になって寝ていた。

 学生時代とまるで変わっていない。

 

(……まずはキスからだな)

 

 さっき(・・・)何度もしたのだが、それは全て相手主導のもの。

 しかもこう、アレやコレやされてた最中だから、いまいちよく分からないままされていた。

 それではダメだ。

 ルカの方から動いて、エイルの唇を奪いたいのだ。

 これは、プライドの問題である。

 

「で、では――」

 

 少し緊張した面持ちになって、かつてのルームメイトへと顔を近づける。

 

 ――チュッ

 

「……!!」

 

 一瞬触れてから、すぐに離れた。

 

(やばい!

 なんだろう、凄くヤバい!

 癖になりそう、コレ!!)

 

 ただ口を口を合わせただけなのに、えらく刺激的であった。

 頭が蕩けそうになる。

 

(……も、もっとしよう!)

 

 ――チュッチュッチュッチュッチュッ

 

 何度も唇を重ねる。

 凄まじい幸福感。

 これはいったいどういうことだ。

 

(抵抗できない相手にしてるから、なのか?

 僕が、エイルを自由にできるという、この感覚が――!)

 

 最高の気分だった。

 そのままさらに回数を増やしてから、

 

「こ、これ位で勘弁してやろう」

 

 まだ名残惜しいが、今日はこの先があるのだ。

 寧ろここはまだ入り口に過ぎない。

 ルカは、視線をエイルの尻へ移す。

 

「相変わらず、良い尻をしている……!」

 

 寮に居た頃より、さらに成長している気すらする。

 むっちむちで、プリンプリンだった。

 早速手を伸ばして、揉む。

 

「うおおおおお、何だこの肉感……!」

 

 胸に感動が去来する。

 柔らかい。

 柔らかいのに、弾力が凄い。

 揉めば揉んだ分だけ、肉がこちらの手を押し返してくる。

 

(こんなんなら、あの時に手を出しとけばよかった……)

 

 これは、アシュフィールド家を敵に回してでも手に入れる価値がある。

 後悔先に立たず、だ。

 しかし大丈夫。

 ルカにはまだまだ未来がある。

 エイルと共に進む、未来が!

 

「行くぞ!」

 

 再度の気合いと共に、覚悟を決めた。

 今こそ、男になる時!

 

「掘っていいのは、掘られる覚悟のある奴だけだ!」

 

 どこかで聞いたことがあるような無いような、よく分からない台詞を放ち。

 ルカはエイルへと覆いかぶさる――のだが。

 

「あれ?」

 

 手が掴まれていた。

 掴んだ相手は当然、エイルだ。

 

「……ルカ」

 

 彼の目が、まっすぐこちらを見る。

 どうやら、いつの間にか起きていたらしい。

 まあ、あれだけアレコレしてれば、起きて当然だが。

 

「え、えーと、おはよう、エイル♪」

 

 上目遣い笑顔。

 自ら考案した、一番可愛らしいポーズで誤魔化しを図る。

 しかしエイルは一向に握る力を弱めず。

 

「……どうやらまだヤり足りないようだな」

 

 逆にルカを引きずり倒す。

 どうもまだ寝惚けているようだが――なんだかちょっと目が据わっている。

 そして馬乗り状に跨ってきて、

 

「え!? ちょっと!? こんなはずじゃ!? にゃ、にゃーーーーーーっ!!!?」

 

 

 

 ……ルカ公子の野望が達成される日は、まだ遠い。

 

 

 

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