異世界の侯爵ライフは他人任せ   作:ぐうたら怪人Z

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② 吸血鬼の花嫁

 色々あったが、誤解(?)は解けた。

 

「失礼な対応をしてしまい、申し訳ありません」

 

「いや、分かってくれたのならいいんだ」

 

 場所は先ほどの執務室。

 もう4、5時間ほどでクレアスの王様御一行が到着する予定だ。

 既に国境砦には到着している頃合いだろうか。

 その後会談を行い、そのまま会食に移行する流れである。

 

「はい、しっかりと理解いたしました。

 (わたくし)、どのような障害が待ち受けていようと坊ちゃまを支える所存です」

 

「はは、心強いな」

 

 何故今になって急に自らの忠誠心をアピールし始めたのかちょっぴり謎だが。

 

「お困りごとがありましたら、何でも仰って下さいませ。

 このセシリア、坊ちゃま達に胎を貸す覚悟もございます」

 

 それは遠回しに私に子供が欲しいと言っているのかな?

 ハハハ、これはプロポーズのタイミングを早めた方が良さそうだ。

 思い切りムードのある場を用意しなければ。

 

 しかしセシリア、言葉は正しく使った方がいいぞ?

 その言い方だと、まるで私とルカがくっついた際にセシリアを偽装結婚相手に使ってもいい、みたいな風に捉えられかねないからな!

 

 ……いかん、誤解が加速している。

 何故こんなことになってしまったのだろう?

 私か? 私が全部悪いのか? 悪いのかもしれないな!

 

「はっはっは、日ごろの行いのせいだな、エイル」

 

「誰のせいだ!?」

 

「お前のせいだろ」

 

「そうだな!!」

 

 ルカに横から突っ込まれるも、反論ができない。

 何というか、色々と先走り過ぎた後悔が今更になって湧いてきた。

 やはりハーレム作りもう少し段階を踏んで行うべきだったか。

 と、悩んでいるところで、一つ気付く。

 

「ん? そういえば、君は何故まだここにいるんだ?」

 

 おそらくルカとあの近衛大隊は然程面識がないはずだし、今後のことを考えればコミュニケーションをとっておいた方がいいと思うのだが。

 

「おいおい、何故いるとは失礼だな。

 僕はエイル侯爵配下近衛特別大隊の大隊長だぞ?

 クレアスとの会談にだって立ち会う義務がある」

 

「いや、今回はクレアス併合に関する政治的な話に終始する予定だから、武官である君に出る義務は特にないはず」

 

「そんなこと言うなよぉ!!

 別に出たって問題ないだろ!?」

 

「まあ問題はないが――やけに粘るな?」

 

 近衛軍大隊長は地方領軍における旅団長(5000人規模の部隊指揮官)クラスの権力を持つとされている。

 系統が違うので領軍の旅団を直接指揮できるわけでは無いのだが。

 その地位を鑑みれば、クレアスとの会談へ出席したいと主張されれば無碍に断るわけにもいかない。

 

 しかし、ルカはそもそもこういう政治話は苦手だったはずなのだが――?

 てっきり今回も適当に言い訳してサボタージュする気だと思っていた。

 そんな私の疑問に、ルカはにやけ笑いをしながら答えてくる。

 

「ほら、クレアスってさ、凄い美人の姫様がいるって話だろ?

 で、今回来る連中の中にその子もいるって聞いたからさ。

 これを機にお知り合いになっておこうと思ってね」

 

「おい」

 

 下心からの提案かい!

 いや、確かに今日訪問に来る一団の中に、クレアス王女の名が含まれてはいる。

 向こうが本気(・・)である証拠として連れてくるのだろう。

 しかし、そんな俗な理由を(まつりごと)の場に持ち込まないで欲しいのだが。

 と、私がつっこみを入れる前に、

 

「ルカ様は、女性に興味がおありだったのですか!?」

 

 超弩級の爆弾が投下された。

 他でもない、セシリアによるものだ。

 

「あるよ!? 普通にあるよ!?

 急に何を言い出すんだい、セシリア!?」

 

「いけません、ルカ様。

 坊ちゃまから浮気するなど――!」

 

 爆弾その2。

 どうしちゃったんだセシリア、今日は絶好調だな。

 おかげで私の思考は混乱しているぞ。

 

「浮気とか違うもん!!

 え、いや、浮気になるの、これ!? どうなのエイル!?」

 

「いや私に聞かれても」

 

 非常に困る。

 頼むから巻き込まないでくれ。

 いやしかし根本が私発端なので、逃げようがないか?

 

「――如何にルカ様が公子であろうと、坊ちゃまを蔑ろにするのであれば」

 

 そうこうしてる内にも、セシリアはかなり真剣な顔でルカを見つめている――睨んでいる、と言ってもいいかもしれない。

 あー、言い訳。

 言い訳を考えなければ。

 

「……セシリア。

 帝国傘下に入るとはいえクレアスの王女ともなれば相応の地位を約束しなければならない。

 そんな相手と上手く婚姻を結ぶことができれば、ルカにも恩恵がある、と。

 そういうことだ」

 

「成程、そのような事情でございましたか。

 (わたくし)、またしても大変な早とちりを。

 ええ、偽装(・・)は大事でございますね」

 

「……うん、分かってくれればいいんだ」

 

 一先ず、彼女の怒り(?)は収まったらしい。

 

「いや、分かってない。

 分かってないと思うし、何も解決していないぞ」

 

 ルカのご指摘御尤も。

 近い内に我々の関係を説明して、色々問題を解消しなければなるまい。

 身から出た錆とはいえ、頭が痛くなってきた。

 

 と、そんなドタバタ劇を繰り広げていると、部屋のドアが大きな音を立てて開かれた。

 現われたのは、ウィンシュタット家が雇う兵の一人だ。

 

「失礼します、エイル卿!!」

 

「まず許しを得てから入室なさい。

 坊ちゃまに失礼でしょう」

 

「こ、これは失礼しました、セシリア殿!」

 

 突然の来訪にセシリアが眉を顰めた。

 しかし、緊迫した兵の顔を見るに、無礼を責めるわけにもいかないようで。

 

「そこまでだ、セシリア。

 ――どうやら緊急事態のようだな?」

 

「は、はい!

 クレアスからの使者が――」

 

 彼の報告は、心を引き締めるに十分な内容だった。

 

 

 

 

 

 

「……災難でしたね、アレン殿下」

 

「お気遣い、痛み入ります、エイル卿」

 

 ウィンシュタット家、応接室。

 私の前には今、老年に差し掛かった男が一人座っていた。

 クレアス国の王アレン・クレアスが、この男性だ。

 無論1対1の対談というわけではなく、後ろにはセシリアに待機して貰っている。

 

 予定していた会談の時間にはまだ大分早い。

 その上、本来の出席者は誰も居ない。

 何故そんな状況でクレアス国王と密談しているのかと言えば、

 

「まさか、魔物に襲撃を受けていたとは思いませんでした」

 

「いえ、お恥ずかしい話でして」

 

 本当に恥ずかしそうに俯くアレン国王。

 仮にも王の身にあるにも関わらず、随分と頭の低い男だ。

 国庫が破たんし自国を身売りせねばならない状況であることを考えれば、その情けなさも致し方ない。

 ……飢饉によって国民が苦しんでいるというのに、この男がでっぷりと太っている(・・・・・・・・・・)ことは気に食わないが。

 

「それで、“お話”とはその魔物に関するものですか?」

 

「ご推察の通りです」

 

 ライナール大陸には、“魔物”が存在する。

 通常の生物とは異なる異常な生態系を持つ生命体や、人類に対して異様なまでに敵対する生命体をそう呼称しているのだ。

 原生の動物との違いがやや曖昧なので、地域によっては動物扱いされている魔物や、魔物扱いされている動物がいたりするが、そこはそれ。

 生物学がそこまで発達していないこの世界で、細かいことを気にしても仕方ない。

 

 今重要なのは、クレアスからきた一団を魔物が襲っていたという事実。

 アレン王に怪我はないものの、護衛が幾人かやられたらしい。

 魔物自体は一団を迎えに行った我がウィンシュタット領の兵士達が追い払ったとのことだが――

 

「つまり貴方達は、魔物に狙われている、ということですね。

 今回の襲撃は偶然ではない、と」

 

「……そこまでお見通しでしたか」

 

 そりゃそんな状況でこういう風に話をされれば誰だって気付くだろう――という考えは、態度に出さない。

 アレン王は一息を入れてから語り出した。

 

「エイル卿は、“吸血鬼(ヴァンパイア)”を御存知でしょうか?」

 

「まあ、一通りの知識程度は」

 

 吸血鬼。

 人の生き血を吸う魔物であり、人と同等以上の高度な知力を持ち、外見は人と酷似する。

 ぶっちゃけて言えば、現代人の想像する“吸血鬼”とほぼ同じような存在だ。

 そして現代人の想像する通りの“強さ”も持つ。

 吸血による他者の支配、蝙蝠等への変身能力、高い身体能力、不老であり寿命が存在しない、等々。

 総じて、危険な魔物として認識されている。

 

「ある夜のことでした。

 私と娘ディアナが夕食後の団欒をしていた際、突如として吸血鬼が現れたのです。

 そして魔物はこう言いました――“その娘を我が妃にする”と」

 

「吸血鬼の花嫁、ですか」

 

 美しい女性が吸血鬼に求愛される、というのはライナール大陸で昔からよく語られる話である。

 どうもこの世界の吸血鬼は、ロマンチストかつ愛に情熱的な連中のようなのだ。

 

「では、後はお決まりのパターンですね」

 

 普通に恋愛行動をとってくれるなら可愛いものだが、十中八九は力づくになるため、悲劇が展開される。

 

「……はい。

 私は娘の引き渡しを拒み、吸血鬼の討伐を試みました。

 しかし――」

 

「相手は予想外に強かったと」

 

「――仰る通りです」

 

 クレアスの国軍をもってして討てないとなれば、相当に規格外れな魔物だ。

 先程吸血鬼は強いと言ったが、それは個人が相手取った場合。

 手練れの騎士で分隊(10人前後の部隊)でも組んでしまえば、討伐はそう難しくない。

 ……正面切って戦えれば、だが。

 そんな私の考えを読み取ってか、アレン王はさらに説明を続けてきた。

 

「吸血鬼一匹だけならば、クレアスの軍でどうにかなったのです。

 しかし奴は、多数の魔物を眷属として従えていました。

 倒しても倒しても減らぬ敵の数に、兵は一人また一人と倒れていき……」

 

「それは厄介な」

 

 先述の通り、吸血鬼は血を吸うことで相手を自分の眷属にし、行動を支配できる。

 その効力は人間だけでなく魔物相手にも通じてしまう。

 眷属の多い吸血鬼と戦う場合、必要な戦力の想定は困難になってくる。

 

 ということはこの吸血鬼、相当の昔から“準備”をしていたということだろう。

 クレアスの姫を奪うため、国を侵略できるだけの戦力を蓄えていたのだ。

 一度に作れる眷属の数はその吸血鬼の“強さ”に比例するため、個体としてみても強力だと推測できる。

 

「エイル卿。

 私は今日、クレアスに皇帝の庇護を頂きたく参るつもりでした。

 この上、恥の上塗りになってしまうのですが――」

 

「その吸血鬼から姫を守って欲しい、と仰るわけですね」

 

「――はい」

 

 苦渋の表情で首肯するアレン王。

 そういう事情もあって、彼は今回、王女をウィンシュタットに連れてきたのだろう。

 

 ……うーむ。

 厄介事を持ってくるのは予想していたのだが、こう来たか。

 彼の言葉が真実であるなら、姫を見捨ててしまえば(・・・・・・・・・・)そんな面倒な魔物と戦う必要は無くなるのだが。

 戦いとなれば、こちらの被害も免れない。

 王女一人の命と、我がウィンシュタットの兵士達、どちらが大切か。

 しかも私はその姫と面会したことすらない。

 アレン王は不満を言うかもしれないが、逆に帝国へ魔物を連れ込んだとして処罰することすら可能だ。

 

 僅かな沈思黙考の末、口を開く。

 

「分かりました。

 吸血鬼の件、ウィンシュタット家が引き受けましょう」

 

「お、おお!! ありがとうございます、エイル卿!!」

 

 私の言葉に、満面の笑顔を浮かべる。

 

 結局私は、吸血鬼と戦う道を選んだ。

 理由は三つある。

 

 一つは、その吸血鬼が姫を攫った後大人しくしているかどうか甚だ疑問である、ということ。

 基本的に連中は人間に対して敵対的な存在なのだ。

 後々再び牙を剥く可能性は高い。

 

 一つは、アレン王へ大きな“貸し”を作れる、ということ。

 今後、クレアスはウィンシュタット領の一部として扱われることになるわけだが、しばらくの内はクレアス国民への王の発言力は大きいだろう。

 そして統治するにあたり、地元民が私に好意的か否かでは大違いなのだ。

 アレン王から協力を引き出す“口実”は、幾らあっても困ることは無い。

 

 そして最後の一つは、ディアナ王女。

 会ったことは無いが、非常に美しくお淑やかなお姫様であると人伝いに聞いている。

 相当な力を持つ吸血鬼が彼女に執着していることが分かった今、その話は私の中で確信となった。

 ――欲しい。

 私のハーレム要員として、物凄く欲しい。

 というか、私個人がクレアス併合に乗り気だった理由の大半がそれである。

 寧ろ最重要事項と言っていい。

 この理由がある以上、ディアナ王女を見捨てるという選択肢は最初から取れないのである。

 

 え? ルカのことを批判した割に、自分も随分と俗?

 いいじゃないか別に。

 それ位役得があっても。

 

 それに、今の私には近衛大隊の精鋭兵達がいる。

 幾らその吸血鬼が魔物の大群を率いていると言っても、蹴散らすのはそう難しいことでないはずだ。

 吸血鬼本体は、ルカ辺りにさくっとやってもらえばいい。

 ……うむ、まあなんとかなるだろう。

 

「ああ、一つお伝えし忘れたことが」

 

 と、私が皮算用しているところへ、アレン王が話しかけてくる。

 

「何でしょうか?」

 

「吸血鬼の“名前”です。

 最初にディアナを奪いに来た際、名乗っていました。

 僅かなりとも、奴のことを探る手掛かりになるやもしれません」

 

 確かに。

 その吸血鬼は強大さから言って大昔から生きながらえている個体である可能性が高い。

 であれば伝承の一つや二つ残っていて不思議ではなく、名前が分かっているなら調査もしやすいだろう。

 

「して、その名前は?」

 

「――“ドラキュラ”。

 奴は自らのことを、“ドラキュラ伯爵”と名乗っていました」

 

「…………へ?」

 

 ドラキュラ?

 え、本当に?

 あのドラキュラ?

 

 ……私は、自分の軽率な決断に、早速後悔を抱き始めるのだった。

 

 

 

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