異世界の侯爵ライフは他人任せ   作:ぐうたら怪人Z

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⑥ ドラキュラの提案

「な、にっ!!?」

 

 ドラキュラの言葉に、ルカの顔が強張る。

 この場に居合わせる他の人々も同様だ。

 

 すぐに気づいて然るべきだった。

 どういう仕組みか知らないが、ドラキュラ伯爵は自らの血肉から魔物を生み出せる。

 そして、奴は誰に気付かれることもなく、ウィンシュタットの屋敷に潜入してみせた。

 ならばここに来るまでの道中で――つまりは街中で、魔物を造っていてもおかしくはない。

 

「ウィンシュタット卿。

 キミが考えた通り、この街の至る所へ魔物を配置している。

 ワタシが合図を送れば、一斉に動き出す手筈だ。

 そうなればどうなるか――説明する必要はあるまい?」

 

「卑怯な真似を!」

 

 激昂したのはルカだ。

 

「僕がお前の生殺与奪を握っていること、忘れたわけじゃないだろうな!?

 魔物が動き出す前に、殺すことだってできるんだぞ!!」

 

「……本当に、殺し切れるかな?」

 

「なに!?」

 

「確かに、キミはワタシよりも強い。

 このまま戦えば、いずれは(・・・・)殺されることになるだろう。

 しかし、それにどれだけ時間がかかる?

 ここまでされても、ワタシは死なないのだ――どこまで分割(・・・・・・)すれば死ぬか、キミとて分かるまい。

 そしてワタシが死ぬまでの間に、どれだけの無辜な民の命が失われるかも、想像がつかぬだろう?」

 

「……くそっ!」

 

 悪態をついて、しかしルカはドラキュラに手をかけられなかった。

 例えハッタリだったとしても、こんなことを言われてはどうにもならない。

 だいたい、この吸血鬼を倒したとして、生み出された魔物が消えるとも限らないのだ。

 

 私は大きく息をして心を落ち着かせてから、口を開いた。

 

「……随分と、酷い手を打ってきたものだな、伯爵。

 無関係な市民を人質にするとは。

 貴族の名が泣くぞ」

 

 ドラキュラを睨み付ける。

 すると意外なことに、バツの悪そうな顔をして、

 

「……まあ、そうだ。

 ワタシとしても、余り本意ではない。

 これはあくまで保険として用意していた策でね。

 ……キミ達は、強すぎたな」

 

 殊勝なことを言ってくれるが、それで許されるわけでもない。

 しかし、状況は如何ともしがたく。

 

「街の人々の命が惜しければ、ディアナ王女を渡せ――ということか?」

 

「――違う」

 

 意外なことに、ドラキュラは首を横に振った。

 ……いや、別に意外という程でもないか。

 私の予想が正しければ、奴の本当の目的は――

 

「ウィンシュタット卿。

 先程も言った通り、このやり方はワタシにとっても許容し難いものなのだ。

 できることなら使いたくない。

 故に、一つ提案をしたい」

 

「何だろうか」

 

「仕切り直し、だ」

 

 そうきたか。

 伯爵は続ける。

 

「キミはワタシを見逃す。

 代わりにワタシはこの街の民を見逃す。

 そういう提案さ」

 

「……なるほど」

 

 悪い条件ではない。

 ここに至るまで、こちら側は大したコストを支払ったわけでもないのだから。

 あとは、ドラキュラを信用できるかどうか(・・・・・・・・・)

 奴が逃げおおせた後、街中で魔物が暴れ始めでもしたら目も当てられない。

 

 さて、どうしたものだろう。

 しばし黙考の後、決断する。

 

「デュライン砦」

 

「ん?」

 

「この町より東方にある、ヴァルファスとクレアスの国境に建てられた砦だ。

 そこを、決戦の舞台としたい」

 

「……ほう」

 

 私は、伯爵の提案に乗ることにした。

 理由は大まかに三つある。

 一つ目は、これまでの会話でこの吸血鬼にはある程度の“良識”が期待できそうだ、ということ。

 もっと“汚い手”を使おうと思えば使えただろうに、奴はそれをしなかった。

 二つ目に、陛下より賜った近衛大隊の存在。

 仮に魔物が街で暴れたとしても、近衛大隊を緊急出動させれば被害は最小限に抑えられるだろう、という目算である。

 最後の一つは――まあ、勘だ。

 

「いいだろう。

 その砦は目にしたことがある。

 そこでなら、無関係な民を巻き込む心配は無い――ワタシとキミとの決着には、確かに相応しい場所だ。

 しかし、戦いの刻限は夜間とさせて貰おう。

 間が空き過ぎるのも興が削げるということもあるし――2日後の夜、開戦といこうではないか」

 

 ……2日後か。

 急げば、どうにか準備を整えられるはず。

 

「分かった。

 戦いは、深夜零時開始で構わないな?」

 

「日の出まで6時間(・・・)か。

 ……まあ、フェアな時間帯ではある」

 

 不服そうな感情を隠しきれていないものの、ともあれ伯爵は了解してくれた。

 

「こちらは軍を動員する。

 まさか異論はないだろう?」

 

「無論だとも。

 ワタシはワタシで、魔物を率いるのだからね」

 

 クレアス軍では対処できなかった魔物の大群か。

 まあ、総力戦は望むところだ。

 

「それともう一つ、条件を付け加えたいのだが」

 

「……なんだ?」

 

 ドラキュラのさらなる提言。

 一応、聞いておくことにする。

 

「この戦いの勝者が得る、褒賞だ」

 

「ディアナ王女の身柄では?」

 

「それは互いの勝利条件(・・・・)だろう。

 姫を攫えばワタシの勝ち。

 守り切れればキミの勝ち。

 せっかくの決闘なのだ、互いに賞与を出し合おうではないか」

 

 ……また、面倒なことを。

 却下してもいいが、伯爵が何をベットするのか、気にはならないと言えば嘘になる。

 

「私が勝った場合、君は何をくれるつもりなんだ?」

 

「ウィンシュタット卿へ絶対の忠誠を誓おうではないか。

 キミはこの上なく強力な吸血鬼を(しもべ)にすることができる。

 もっとも、戦いでワタシが死んでしまった場合はどうにもならないがね」

 

 ふむ、ドラキュラを部下にできるのか。

 それは少し浪漫があるな――本当に忠実な部下になってくれるかどうか、怪しいところだが。

 

「私が負けた場合、何を求める?」

 

「ウィンシュタット卿、キミ自身(・・・・)だ」

 

 ――は?

 

「キミが勝った時と逆さ。

 ワタシが勝ったなら、キミは永遠にワタシのモノになるのだ」

 

「……えーと」

 

 随分と買い被られたものだ。

 私を手元に置いてどうするつもりなのだろう。

 話し相手でも欲しいのか?

 案外寂しい男だったりするのだろうか、ドラキュラ伯爵は。

 

 吸血鬼の下僕になるというのは、ぞっとした話では無い――のだが。

 自分に少しでも執着させれば、僅かにでもドラキュラの手が緩む可能性が無きにしも非ず。

 負ければどっちみち碌な目に遭わないのだ、これを利用しない手はない、ように思える。

 

「……まあ、いいだろう。

 但し、私が死んだなら反故だぞ」

 

「構わんよ、こちらとて条件は同じなのだから。

 同族にするという手もあるが、あれはどうにも味気ないし――キミの名誉をそこまで穢すつもりもない。

 安心したまえ」

 

「それはどうも」

 

 死んだ後に何をされようがそれこそ知ったことではないが、気を配って貰えるに越したことは無い。

 何にせよ、互いの合意が取れた以上、これにて交渉は終わりか。

 

「ルカ、聞いての通りだ。

 伯爵を解放してやれ」

 

「し、しかしだな――」

 

「大丈夫だ。

 責任は私がとる」

 

「…………」

 

 不承不承といった顔をして、ルカはドラキュラを掴んでいた手を離した。

 自由になった吸血鬼は己の身体を完全に再生させると、私に対して一礼してくる。

 

「提案に応じてくれてありがとう、ウィンシュタット卿。

 魔物はすぐに退去させよう。

 ――明後日の夜を楽しみにしているよ」

 

 ニコリと微笑んでから、現れた時と同じ“蝙蝠”へと変化した。

 そのまま、夜の闇へと消えていく。

 

「……いいのか、エイル」

 

 心配そうにこちらを見つめるルカ。

 彼を安心させるため、私は鷹揚に頷いて、

 

「問題ない。

 アレは所詮口約束に過ぎないし――それに、賭かっているのは私の身柄だけだ。

 いざとなってもウィンシュタットへの被害自体は大して出ないだろう」

 

「いや僕は正しくお前の身の危険を案じているんだけれど。

 最後の方、あいつ確実に色目使ってたぞ」

 

「だとすれば変わった趣味の吸血鬼だな。

 いや、吸血鬼だから趣味が変わっているのか?

 まあどちらにせよ――勝てばいいんだ、勝てば」

 

「……そう、か。

 そうだな!

 フフ、今度こそ僕の剣で、あの怪物を仕留めてみせよう!」

 

 彼の顔に笑顔が戻る。

 うん、可愛い。

 こいつはこういう表情をしていた方が見ている方としても有難い。

 

 ――と、そういえば。

 

「ディアナ王女が目的と言っていた割に、ドラキュラ伯爵は君にほとんど話しかけなかったな?」

 

「うっ!?」

 

 話を振られた王女は、痛いところを突かれたかのような呻きを漏らす。

 なんだその反応は。

 

「あー、エイル?

 その辺、指摘するのは酷ってもんじゃないかなぁ?」

 

「ん? 思い当たる理由があるのか?」

 

 尋ねると公子は肩を竦めて、

 

「ほら、あの吸血鬼はお前やセシリア、そして僕という帝国を代表する美少女(・・・)と立て続けに相まみえたわけで、さ。

 それに比べちゃうと、ディアナ姫は――」

 

「かっちーん!!」

 

 変な声を上げるディアナ王女。

 

「え? え? どういうこと? どういうこと? アンタ、いったい何を言いたいのかしら?」

 

「いや、他意は無いんだ。

 うん、姫は本当に綺麗だと思う。

 ただなんというか、相手が悪かったというか――ね?」

 

「ほ、ほほぉおう?」

 

 姫の眉間に青筋が浮かび上がった。

 首をギギギと動かし、怖い笑みを私の方へ向けると、

 

「ねぇ、エイル卿♪

 この公子、熨斗つけて吸血鬼に差し出したらどうかしら♪

 ご自分の美しさにたいそう自信がおありのようだし、あっちも満足してくれるんじゃない♪」

 

「お、おやおやぁ?

 自分が助かるために他人を犠牲にするつもりかい?

 流石、田舎の小国出身の姫だ、器量が違うなぁ」

 

「あ”!?」

 

「お”!?」

 

 二人が、再び火花を散らす。

 おいおい。

 

「いい加減にしろ。

 というかルカ、君は本当に口を慎め。

 さっきも注意したばかりだろう」

 

「えー、今回はかなり下手に出たつもりだったのにー」

 

 あれでか。

 こいつ、こんな言動しといて女性からモテたいとか本気で思っているのだから質が悪い。

 

 ……まあ、私としてもセシリアの美貌の前には、流石のディアナ王女も分が悪いかとは内心思っていたりもする。

 絶対に口には出さないがね!

 

「とにかく!

 再戦まで間がない。

 ドラキュラ伯爵は、手持ちの戦力を全て注ぎ込んでくるだろう。

 早速、対策会議を開く。

 セシリア、関係者に連絡を頼む。

 ルカ、君は近衛大隊を招集しろ。

 ディアナ王女は一段落着くまで待機していて貰いたい」

 

 他、部屋に来ている各人へも指示を飛ばす。

 準備に費やせる猶予は2日だけ。

 ――忙しい2日間になりそうだ。

 

 

 

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