「…………」
「…………」
口と口が触れ合ったまま、数秒。
ディアナに拒む様子は一切なく、この行為を受け入れている。
唇に、とても柔らかくて暖かい感触が広がった。
……そして私は、ゆっくりと彼女から離れる。
「良かったのか?」
「なんでもするって言ったでしょ」
今更な私の質問に、にこやかな笑顔で答える王女。
なんというか、凄く魅力的な表情だった。
思わず、このまま押し倒したくなる程に。
彼女はその笑顔のままに言葉を紡ぐ。
「で、どうするの?
“続き”、する?」
「……王女がそんな積極的でいいのだろうか?」
「始めたのは貴女じゃない。
それに――あたしの身体で、ヴァルファス帝国の力が借りれるなら、安いもんだわ。
あ、でも勘違いしないでね。
そういう理由があったとしても、気に入った相手でなければ、こんなことしないんだから」
言いながら、ディアナ王女は顔を赤くする。
むう、そういう反応をされると――嫌が応にも、その気になってしまうではないか。
いや、元から“そのつもり”でここに来たわけではあるが。
多少の打算こそあれ、彼女が私に好意を抱いてくれているのは事実らしい。
「――ディアナ王女」
「こういう時に、王女は止めなさいよ。
雰囲気、台無しよ?」
「それは失礼。
では、ディアナ――」
「エイル――」
彼女もまた、私を呼び捨てにした。
まるで恋人同士のようだ。
そして互いに抱き合い、まるで恋人のようにキスを交わした。
「――んっ」
ディアナの甘い吐息が頬をくすぐる。
私はそのまま舌を伸ばし、彼女の口の中に挿し入れる。
「――んっ――ん、んんっ――ふぅっ――ん、ん――」
2人のベロを絡み合う。
繊細な舌触り。
目の前には美しい双眸。
腕には華奢な肢体の感覚。
感覚の全てで、ディアナを堪能する。
「――ん、ふ」
再び、口を離す。
彼女の瞳は、艶やかに潤んでいた。
「――意外に、手慣れてるのね。
“こういうの”、結構好きだったりする?」
「嫌いな奴なんて居ないだろう」
真っ当な男性であれば、彼女を抱くことに嫌悪感を示しはしない。
……いや、“以前の人生”の私であったなら、こんな美人を抱くことに怖気づいてしまったかもしれないが。
「君の方こそどうなんだ?
実は経験があったりするのか?」
「失礼ね、流石にあたしは初めてよ。
――ま、こういうことに興味が無かったわけじゃないんだけど」
「それもそうか」
私のように、気に入った相手へ片っ端から手を出すような真似、したくてもできないだろう。
いや、あくまで私の主観だが、そもそもディアナの貞操観念は決して低くはないようにも見える。
私相手だからこそ、彼女は身体を許してくれたのではないか、と。
男の身勝手な妄想と言われればそれまでだけれども。
……うん、今考える事でもないな。
さくっと頭を切り替え。
本格的にディアナを抱くため、私はささっと上着を脱ぎだした――ところで。
「待って待って。
あたしが脱がしてあげる」
「え?」
王女から待ったがかかる。
おやおや、王女様がそんなことまでしてくれるのか。
せっかくの申し出だ、断る理由もない。
「ではお言葉に甘えて」
「うんうん、お姉さんに任せなさい」
「……お姉さん?」
確かに、聞いたところによれば彼女の方が1つ年上だけれども。
「あ、なんならお姉さまでもいいわよ」
「――ど、どうしたんだ、いきなり?」
最初からフランクな女性ではあったが、馴れ馴れし過ぎやしないだろうか?
これではまるで
……まあ、これから行うことを考えれば、これ位親身な接し方をしてくれた方が緊張はしなくて済むか。
「ふーん、ふふーん♪」
鼻歌を口ずさみながら、テキパキ服を脱がしてくれるディアナ。
自分で了承しておいてなんだが、なかなか恥ずかしいな、コレ。
「はーい、次は手をあげましょうねー♪」
……君は私のお母さんか。
何はともあれ、私の“支度”が済んだところで――
「あ、やっぱりちっちゃい」
「ぐはぁっ!?」
――クリティカルヒットが飛んできた。
いきなりか!?
いきなりそんなこと言うのか!?
ていうか、にこやかな顔して言う台詞じゃないだろ、それ!!
身体が崩れ落ちそうになるのを必死に堪え、ついでに表情が引き攣るのもなんとか堪え、反論する。
「ふ、普通サイズぐらいはあるわぁ!」
はず。
たぶん。
「えー、流石にソレで普通ってのは無理があるんじゃない?
あたしも別に色々見たことがあるわけじゃないけど、ぶっちゃけ貴女ぺったんこじゃないの」
「ぺぺぺぺ、ぺったんこぉ!!?」
屈辱!!
これ以上ない程に侮辱された!!!
ぺったんこって!!
“短い”とか“細い”とか以前の形容詞!!
ここまで酷い侮蔑の言葉ってあるのか!!?
さっきまでの良いムードはいったいなんだったんだ!!
「あ、ごめんね、傷ついちゃった?
別に貶してるわけじゃないのよ?
ほら、確かに貴女のはちっちゃいけど、色は綺麗だし」
「そんなとって付けたような慰め、いらんわ!!」
なんだ、色が綺麗って!?
お世辞にしたってもっといい言葉があるだろう!?
「くっそ! 頭来た!!
無茶苦茶にしてやる!!」
初めてと聞いたからなるべく丁寧にリードしようとか思っていたが、そんな気持ちは霧散した。
泣いて謝っても許してやらないからな!?
「ごめんごめん、そんな怒らないで――って、きゃっ!?」
未だ私の怒りを理解していないディアナを無理やりベッドに引きずり倒した。
勢いで上着をはだくと、美しい2つの丘とご対面する。
その内の一つをがっしと掴み、彼女の上にのしかかった。
「……エイル」
「んん?」
この状況に至り、流石にディアナも不安そうな表情を浮かべだす。
「お、お姉さん、ちゃんと優しくして欲しいなーって♪」
「……今更遅い!!」
「きゃー!?」
可愛らしく悲鳴を上げる彼女へと、私は襲いかかった!
その後、色々あって。
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ーーー!!!
アンタ、男じゃないのーーーー!!!!」
現在、ベッドの上でディアナがわんわんと喚いていた。
私はと言うと、泣きじゃくる彼女への対処法が分からず途方に暮れている。
「女の子だと思ったのに!!
綺麗な女の子と禁断の花園を駆け抜けられると思ったのに!!
男なら男ってちゃんと言いなさいよー!!」
「しっかりと言っただろう、最初に」
「その顔で男って言われても信じられないわよ!!」
「どうしろと言うんだ……」
気が動転しているせいか、会話に脈絡が無い。
こうなるともうお手上げだ。
もう白旗を上げたくなるが、このままでは収集がつかないので、もうしばし様子を見守ってみる。
「うううう……あー、どうしよ。
こんなとこで“初めて”が無くなっちゃうだなんて……」
時間経過で多少クールダウンしたのか、喚き散らすのは止めたようだ。
その代わり、今度は思い切り落ち込みだした。
「深刻そうにしているけれど、君、終始ノリノリだったじゃないか」
「や、それはまあその――案外、悪くなかったというか」
そっぽ向いて、そう零すディアナ。
だったら別にいいじゃないか、とまでは流石に言い出せないけれども。
「あーあ、麗しき百合園の入り口がとうとうあたしの目の前に現れたと思ったのに……」
意味の分からない言葉がぶつぶつと呟かれる。
……そっちの“気”があったのか、この王女。
だからといって、私を女だと勘違いするのは如何なものか。
ちょっと思考を暴走させ過ぎである。
おかげで良い思いもできたわけだが。
「……あっ」
しばらく愚痴を垂れ流した後、はっとした様子でディアナは顔を上げた。
「そういえば、アシュフィールド家の子も“公子”って呼ばれてたような……?
ま、まさかアイツも!?」
「ああ、ルカは男だぞ」
「うっそーー!
どうなってんのよ帝国は!?
全人類男の娘化計画とか遂行してるんじゃないでしょうね!!」
「なんだその計画」
「あたしが知るわけ無いでしょ!?」
「――理不尽な」
とはいえ、口調から大分落ち着いてきたことが見て取れる。
ディアナはパンパンっと自ら頬を叩くと、
「うん、もういいわ、もう大丈夫。
過ぎたことを悔やんでも仕方ないし。
帝国の変な生態系にも、文句は言いませんとも。
取り返しのつかないことにはなっちゃったけど――」
ここで意味ありげに私を見つめる。
「――まさかエイル。
貴方、人の純潔を奪っておいて責任を取らない――なんてことはしないでしょうね?」
「そんなわけ無いだろう。
男としての責任はしっかり果たすつもりだ」
「大変よろしい」
彼女は鷹揚に頷いてから、
「ディアナ・ウィンシュタット――か。
……うん、まあまあ良い響きなんじゃない?」
満足げに微笑みながら、そう呟く。
その顔は、やはり魅力的なのだった――が。
「……むぅ」
こっそりため息をつく。
困ったな。
当人はしっかり“その気”のようだが、第一夫人の座はセシリアのものと決めているのだ(本人未承認)。
なんとか――なんとかせねば。
「あ、ところでエイル。
貴方に付いてた銀髪のメイドまで男だったりは――」
「安心しろ、セシリアは女性だ」
「よ、よかったー!!
……話変わるんだけど、あたしが夫人となった暁には、あの子を専属のお付きにして欲しいかなー、なんて。
いや別にやましいことなんて全然全く考えてないんだけどね?
もうめっちゃくちゃ大事にするし。
寧ろあたしが面倒を見てしまいたいくらいに」
「…………」
――なんとかせねば。