異世界の侯爵ライフは他人任せ   作:ぐうたら怪人Z

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④ 商工ギルド長の独白▼

「ふぅ――」

 

 エイルが退室し、ロイドは大きく息を吐いた。

 

(相変わらず、お厳しい)

 

 頭の中でぼやく。

 まさか声にするわけにはいかない。

 ここはウィンシュタット侯爵の屋敷なのだ、どこで誰が聞いているとも限らない。

 

(建設の立地条件にまで言及するとは……)

 

 今回の打合せで一番キツイ指摘だった。

 会議所は利便性等を様々に考慮し、川の程近くに建築する予定だったのだが――

 

(まさか近くで土砂崩れが起きるとはねぇ)

 

 一週間ほど前、建築予定地の程近くの河原で土手が崩れる事件が起きたのだ。

 そして侯爵代理はそのことをしっかりと把握していた。

 当然、ロイドとて考慮していなかったわけではないが、似た条件の場所に建築の前例があったため、このままで行けると判断したのだが……

 そうは問屋が卸さなかった。

 

(まず地盤の調査が急務。

 危険と判断される場合は地盤工事を行うか、別の土地を探すか、と)

 

 エイルから下された命令だ。

 ただでさえ工期が押しているところに、痛い注文を貰ってしまった。

 しかし使用者の安全を盾にされてしまっては、頷く以外にない。

 

(……なんで貴族の坊ちゃんが土木工事の知識まで持っているかね)

 

 ぼやく。

 まあ、相手は仮にも帝都士官学校の首席卒業者だ。

 幅広い知識を身に着ける機会に恵まれていたのだろう。

 

(あー、疲れた)

 

 今日は他にも返答に窮する指摘を幾つか貰ってしまった。

 会議は小一時間程で終わったものの、まるで数時間続けたかのような疲労感だ。

 

(フェデル様の時はもっと楽だったんだがなぁ)

 

 現侯爵であり今は執務から遠ざかっているフェデルは、ここまで厳しい追及はしてこなかった。

 エイルが執務担当となってから、頭を悩ませる機会が大分増えた。

 

(――ただまあ、嫌いというわけでもないんだがね)

 

 寧ろ逆だ。

 エイルのことを、このギルド長は気に入っている。

 

(まずあの見た目(・・・・・)の時点で嫌いになれないってのはあるけれども)

 

 幾度、あの侯爵代理をプライベートでお茶に誘おうとしたことか。

 その度に後々のことを考えて踏みとどまったわけだが。

 相手が大貴族だというのは勿論あるが、それよりも妻にバレた時の方が心配だ。

 エイルの“容姿”はシュタットの住民であれば皆知っている。

 彼は男性だから――なんて言い訳、妻に通用するとは思えない。

 

(ま、勿論顔だけじゃないが)

 

 ロイドにとって、個人への感情とビジネスパートナーとしての感情は別物である。

 しかし彼は商売相手としても、エイルへ好感を持っていた。

 

(今回の件で予算を超過した分は、ウィンシュタット家から無利子で融資する――か)

 

 侯爵代理からの提案だった。

 だからこそ、しっかりと調査をしろ、という論法だ。

 この“自ら言ったことへの責任をしっかりとる”ところが、非常に好ましい。

 

(他の貴族相手じゃこうはいかない)

 

 自分の利益ばかり主張してきて、商売にならないことが多いのだ。

 そもそも商売とはどういうものか理解していない連中すらいる。

 フェデルですら――話の分かる方ではあったが――ここまでの“熱意”は持っていなかった。

 簡単に案件を承認してくれたことも、裏返せば領民の仕事へ関心が薄かったとも捉えられる。

 

(それに、なんだかんだしっかり信用してくれてるみたいだし、な)

 

 エイルの言葉の端々からは、信頼感のようなものが伝わってくるのだ。

 先程指摘された調査の方法にしても、細かい指示はしてこなかった。

 全てロイドに――結果の判断についても――任せる、ということだ。

 ともすれば無責任にも見えるが、

 

(あの人に限って、それは無い)

 

 断言できる。

 

 昔、侯爵から直々に賜った仕事で、部下が大きな失態をしでかしたことがあった。

 ロイドの進退にまで関わるような、でかい失敗だ。

 しかしその損失は、他ならぬエイルによって補填された。

 その案件を承認したのは自分だから、という理由で。

 ロイドへのお咎めも無しだ。

 

(……痺れたね)

 

 生涯この人についていこう、と割と本気で思ってしまった。

 自分の息子にも近い年齢の子供に対して、だ。

 彼の仕事ぶりに、責任感の大きさに、それ程まで感銘を受けたのだった。

 

(加えて、この資料はどうだ)

 

 今日、エイルから渡された資料をもう一度見る。

 膨大だった内容が、実に分かりやすく纏められていた。

 これまで見たことのない図やグラフまで使われているが、これはエイル侯爵代理自ら考案されたものだそうだ。

 

(……私が詳細資料を提出したの、昨日だったはずなんだが)

 

 ロイドの知る限り、エイルは昨日も打合せが2件入り、夕方以降は授与式の前祝いパーティーが開かれていたはずだ。

 それらをこなした後で、この資料を作ったとするなら――

 

(エイル様はいつお休みになられているんだ?)

 

 実際、昼夜働き通しているのではないかと疑いたくなる仕事量だ。

 ワーカーホリックにも程がある。

 

(まったく、平民より働く貴族ってのはどうなんだろうねぇ)

 

 呆れ半分、敬い半分で、ため息を吐く。

 そして、一つ大きく伸びをしてから、

 

(……さてと、期待に応えましょうか!)

 

 ロイドは、エイルの指示を実行すべく、動き始めるのだった。

 

 

 

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