異世界の侯爵ライフは他人任せ   作:ぐうたら怪人Z

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⑤ 爵位授与式

 

 時間を一気に飛ばして、時刻は夜になっている。

 授与式の時間だ。

 展開が早すぎる?

 まあ気にしてはいけない。

 私の仕事なんぞ、あれだけ紹介すれば十分だろう。

 

 そして、その式の内容自体もさくっと飛ばす。

 近隣に居を構える付き合いの長い貴族達から有難いお言葉を長々と頂いたわけだが、そんな至極退屈なことを記述しても仕方ない。

 何事も無く爵位は授与された、ということが伝わればそれでいい。

 今日の本題は(・・・・・・)そこではないのだ(・・・・・・・・)

 

 ちなみに、無論のこと我が父もスピーチをしてくれた。

 私のために父が態々用意してくれた内容だ。

 蔑ろにするわけにはいかない。

 しかしそれも私がしっかり記憶しておけばいいだけの話。

 描写の必要は無いだろう。

 

 そんなわけで現在、式は滞りなく終了し、来客を持て成す会食の時間となっていた。

 我がウィンシュタットの屋敷にある最も大きな広間を会場にして、多くの貴族が思い思いに談笑している。

 無事に侯爵となった私がそこで今何をしているかと言えば――

 

「いやいや、実にご立派になられた」

「お美しく成長されましたな」

「エイル卿のような方が後を継ぐとなれば、お父上も安心でしょう」

「どうぞ、これからも良しなに」

 

 私の周りを取り囲む貴族達が、媚びた笑みを浮かべなら捲し立ててくる。

 それに対して私も笑顔を作り、

 

「ええ、こちらこそ。

 父の時分と変わらぬお付き合いの程、どうぞよろしくお願いします」

 

 そんな言葉と共に、一礼。

 さらに軽く談笑した後に彼らと別れ、別グループの貴族のもとへ向かう。

 そちらで行うのも、今と同様の行動。

 

 ――要するに挨拶周りの最中なのである。

 会場ホールに飾り付けられた豪奢にインテリア、お抱えの料理人が用意した豪華な食事。

 そのどちらも堪能する暇なく、私はあちらこちらへ動き回り、式へ集まった貴族達と会話を交わしていた。

 

 現代社会で言えば、接待に近いか。

 会社で営業をしていた時によくやったものだ。

 とはいえ、この挨拶周りは接待よりも遥かに気楽だが。

 何せこの場で最も立場が高いのはこの私なのだから。

 適当に(へりくだ)っておけば、相手は勝手に喜び、笑顔で応じてくれる……少なくとも表面上は。

 

 日本での接待といえば、自分を殺してただひたすら相手にとって耳触りの良い言葉を使い続け。

 例え本気でどうしようもない相手であっても、心の中では罵詈雑言が渦巻いていようとも、それを悟らせない――そんな仕事だ。

 私の場合、顧客に絡み酒をしてくる連中が妙に多かったため、それを適切にあしらうのがやたら面倒だった。

 そんなことを毎日のように続けている日本の会社員からしてみれば、この場はぬるま湯もいいところだろう。

 何せ私は、本来であればこの場で敬語を使う必要すら無い身分なのだ。

 一応は若輩の身であること、今回は自分が祝われる立場であることから、周りを立てているだけに過ぎない。

 前世での同僚のことを想うと、少々心苦しくすらある。

 まあ、これも役得として享受させて貰う。

 

 順調に貴族達との歓談は進んでいた。

 そして私はまた別の貴族の集団へと話しかける。

 

「これはこれはラザード伯。

 ようこそおいで下さいました」

 

「おお、エイル卿ではありませんか。

 そちらから挨拶に来て頂けるとは、光栄ですな」

 

 にこやかに微笑む小太りな中年男。

 式に参加した貴族の中では古株に当たる人物だ。

 伯爵であるため権力も相応に持ち、発言力もそれなりに強い。

 その証拠に彼の周りには数人の太鼓持ち貴族が常時取り巻いている。

 加えて、そういう取り決めでもあるのか、誰も彼もが派手な衣装を身に着けていた。

 貴族というのは概して着飾るものではあるが、それにしても彼らはやり過ぎの感がある。

 

 私と定型の挨拶を交わした後、おもむろにラザード伯は話を振ってきた。

 

「しかし何ですな。

 せっかくの侯爵位授与だというのに、皇帝陛下がいらっしゃらないとは随分と寂しい式ですな」

 

 嫌な笑みを浮かべる伯爵。

 早速来たか。

 

「レンモルド侯爵をご存知ですか?

 あちらもつい先月に授与式を行ったのですがな、いやー、豪華な式でしたぞ。

 わたしは遠縁の筋で参加させて頂いたわけですがね。

 陛下のみならず三公爵家までも勢ぞろいしておりましてな。

 仮にも侯爵の授与ならば、かくありたいものですな」

 

 いけしゃあしゃあと宣うラザード伯。

 

「左様左様」

「この式に参加されている方々は、少々顔ぶれが、ねぇ?」

「言っては何ですが、近隣の地方貴族しかおりませんな」

 

 そこに、取り巻き達も追従する。

 

「ああ、勘違いしないで頂きたい。

 決して――決して、エイル卿を軽んじているわけではありませんぞ?

 ただ、ウィンシュタット家はわたし共を取りまとめる御立場なわけですからな。

 屋台骨がしっかりしていていないと、下の者は不安が募るばかり、ということをご忠告したかった次第でありまして」

 

「申し訳ありません。

 何分、陛下も御多忙なお方。

 上手く式の日取りを調整することができませんでした」

 

 小太り中年の嫌味に、一応は頭を下げておく。

 言いがかりもいいところだが。

 

 ヴァルファス帝国において、爵位の授与は基本的に皇帝の承認が必要だ。

 しかし話へ出したように、陛下はかなりお忙しく、いちいち各貴族の授与に時間を割いていてはスケジュールが回らない。

 そこで親から子への爵位譲渡のような問題が発生しにくい案件の場合、まず先に爵位授与を済ませ、陛下には後日報告へ伺う、という決まりになっている。

 故に、この場へ陛下を招待するのは寧ろルール違反であり、そんな真似しようものなら後ろ指差されること必至なのだ。

 

 では何故、レンモルド侯爵の授与式には皇帝が参加したか、だが。

 端的に言えば、私とレンモルド侯は同じ侯爵の地位であっても立場が違うからだ。

 向こうは帝都にて(まつりごと)へ携わる中央貴族であり、私は帝都から離れた領地を管理する地方貴族。

 中央貴族はその立場上皇帝との繋がりが地方貴族より深く、また距離的にも都合良いため、授与式に陛下が参加することも珍しくない。

 

 ラザード伯も当然、この辺りの事情は把握している。

 知っていてなお、私を侮辱してきたのだ。

 そしてこの態度は、なにも今日に始まったことではない。

 前々からこの男、私を――いや、伯爵たる自分の“上”に立つウィンシュタット侯爵家そのものを疎ましく思っている節があった。

 所謂、政敵という奴か。

 とはいえ、ただ悪口を垂れるだけで、実際に我が家を害するような行動は取ってこなかったため、これまで父も見逃していたのである。

 

 ――と、そんな考えは露にも顔へ出さず、私は殊勝な態度をとり続けた。

 

「ところで聞きましたぞ。

 何でも明後日には帝都へ発たれるのだとか」

 

 それに気をよくしてか、なおもこの中年男は喋りは止まらなかった。

 

「はい、皇帝陛下に爵位授与のご報告を行う予定です」

 

「ははは、まあ陛下をここ招待できなかったのであれば、こちらから出向いてご機嫌をとるしかありませんからな?」

 

 別にご機嫌伺いに行くではなく、これが正規の作法なのである。

 分かっている癖に、この言い草。

 いちいち癪に障る言動をする男だ。

 

「しかしお気を付けくだされ?

 最近は治安は良くなってきたものの、まだまだ世間は平穏には程遠い。

 貴族を狙うならず者共の横行など、よく聞く話ですぞ?」

 

「ええ、そうですね。

 野盗の襲撃を受けぬよう祈るばかりです。

 ――マルベスの森周辺は、特に危ないようですからね」

 

「……っ!?」

 

 ラザード伯の息が詰まった。

 おいおい、ボロを出すのが早すぎるんじゃないのか。

 自分から振ってきた話題だろうに。

 

「32名の弓兵で周囲を包囲し、一斉に矢を投射。

 然る後に54名の歩兵の突撃により従者や護衛を排除。

 私の身柄は一旦確保し、身代金目的を装うため(・・・)犯行声明を届けつつ、適切な場所にて殺害、と。

 しかし幾ら侯爵を襲うためとは言え、こんな若輩1人を殺すのに中隊相当の数を揃えるのはやり過ぎかと思いますね」

 

「は、ハハ、そうですな。

 そんなことになれば、堪ったもんじゃありませんなー……」

 

 中年の顔に、脂ぎった汗がダラダラと流れる。

 見ていて愉快なものではない。

 しかし腹芸が下手だなこの男。

 よくもこの程度で伯爵なんぞ勤めていた(・・・・・)ものだ。

 

「そうです、堪ったものじゃありません。

 ですので、下手人たちの身柄は既に捕縛しております」

 

「はへ?」

 

 何だその鳴き声。

 

「い、いや、その、エイル卿……?

 そ、それはどういうことで――」

 

 未だ理解していない伯爵――理解したくないだけかもしれないが。

 私は大きくため息を吐いてから、

 

お前(・・)の企みはとっくに露見していると言っているんだよ、阿呆が」

 

 口調を変え、ラザードを睨み付けた。

 

 

 

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