異世界の侯爵ライフは他人任せ   作:ぐうたら怪人Z

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⑧ 月と星に照らされた部屋で

 

 

 式は無事終了し、一転して屋敷に静けさが戻った。

 来客は、手配した宿に向かっており、ここにはほとんど残っていない。

 そんな中、私は一人、屋敷の廊下を歩いていた。

 後は明日に備えて就寝するだけ――ではない。

 

 逆だ。

 私にとって、これからが本番。

 この後起きることに比べれば、今までの出来事は全て“雑用”とみなしてもいい位だ。

 正直なところ、ここまで読み飛ばしてくれてもいいとすら思っている。

 ちょっと何言っているか分からないかもしれないが、それ程に今の私は気合いが入っている、ということを理解して頂きたい。

 

 さて。

 風呂はもう済んでいる。

 ――少し脱線するが、帝国では各町に大浴場があり、貴族や金持ちは大抵風呂を個人で所有していたりする、脱線終わり。

 先述の通り、すぐにでも寝れる準備は整えてあるのだ。

 まあ、すぐに汗をかくことになるのだがね!

 

「よし」

 

 はやる気持ちを抑えるため、意図的に声を出す。

 いつの間にか、寝室の前に来ていた。

 鼓動が早くなるが努めて冷静を保ち、その扉をゆっくりと開ける。

 すると――

 

「――お待ちしておりました」

 

 中から、セシリアの声。

 聞こえた方へと目をやってみれば。

 

「ッ!!」

 

 危うく、声が漏れそうになった。

 それ程、衝撃的だったのだ。

 

 セシリアが。

 艶やかな銀髪を持った、可憐な少女が。

 年齢とは不釣り合いに、蠱惑的な肢体を持つ美少女が。

 シーツ一枚を羽織った姿で、私のベッドの上、三つ指をついて出迎えていた。

 

 そう、シーツ一枚。

 他には何も着けていない。

 美しく豊かに育った、胸の双丘も。

 綺麗な曲線を描く、桃のようなお尻も。

 今は、たった一枚の、薄い生地にしか覆われていないのである。

 

 窓から差す月明かりが、セシリアの肢体を照らす。

 その様は、夢か幻かと思う程に、幻想的だった。

 

「坊ちゃま」

 

「な、なんだ?」

 

 急に声をかけられ、少しどもってしまう。

 

「いつまでもそんな場所に立っておらず。

 どうぞ、こちらへ」

 

「あ、ああ」

 

 招かれて、私もベッドへと腰を下ろす。

 セシリアとの距離が、ぐっと近くなる。

 肌が白い――まるで陶磁器の様だ。

 強く抱きしめれば折れてしまうかのような華奢さでありながら、男を欲情させるのに必要な媚肉は十分付いている。

 目の輝きは翡翠を連想させ、その切れ長な瞳に見つめられると心がぐちゃぐちゃに掻きまわされてしまう。

 唇はとても瑞々しく、そして柔らかそうだ。

 銀色の髪は、本物の銀に勝るとも劣らない。

 

 ……ここまで来れば、もう細かい説明は要らないだろう。

 要するに、今日、私は、彼女を、抱く。

 この、モデルが裸足で逃げ出しそうな美貌を持つ少女を。

 今日、私の自由にできるのだ。

 

 この日をずっと待ち望んでいた。

 セシリアと出会った時から、その欲望を抱いていたのかもしれない。

 だってそうだろう。

 こんな美しい女性と常に一緒に居て、下心を持たない男なんているか?

 無理だ。

 少なくとも私には無理だった。

 そして私には、彼女へ命令を下せる権力がある。

 ならばどうするか。

 地位の力を笠に着て、セシリアとそういう関係になるしかないだろう!

 

 最低な男だと、なじりたいなら好きなだけなじるといい!

 私はこの世界で権力に縋り、自由に生きる!

 

「坊ちゃま?」

 

「ん、んん?」

 

 また声を詰まらせてしまった。

 いかんな、私が緊張していることを、彼女に悟られるのはよろしくない。

 男としての沽券に関わる。

 

「ベッドに座られてからまるで微動だにしないのですが……ひょっとして、緊張されておられるのですか?」

 

「そ、そんなわけが無いだろう。

 君の方こそ、どうなんだ?」

 

(わたくし)は、緊張しています。

 今にも心臓が張り裂けそうです」

 

 ほとんど表情を変えず、そう言い切った。

 本心なのか、それとも私の気を和らげるための方便なのか。

 

「……そう、なのか?」

 

「ええ、勿論です。

 ――これが初めて、ですから」

 

「……おぅ」

 

 そうなのか。

 初めてだったのか。

 初めてを私に捧げて良かったのか?

 その辺り私は別に拘っていないのだけれども、そういうことならせっかくなので頂かせて貰おう。

 

 ……気に恐ろしきは侯爵の力、というわけか。

 実のところ――余り思い出したくないが――過去、一度セシリアに誘いをかけたこともあった。

 しかしその時は、素気無く断られてしまったのだ。

 そんな彼女も、侯爵となった私の命令には逆らえなかったと見える。

 まだ経験がないにも関わらず、こうして従わざるをえなかったのだから。

 ――うむ、こうして纏めてみると、かなり最低だな、私は。

 

「それでは、お召し物を」

 

「あ、ああ、頼む」

 

 セシリアの手が私の衣服へと伸びた。

 そのままするすると服を脱がしてくる。

 この辺り、いつもやっていることなので手慣れたものだ。

 ――貴族は、着替えすら手伝って貰って“当たり前”なのである。

 

「……なんだか、気恥ずかしいものがあるな」

 

 何も身に着けていない状態になると、どうにも不安というか、そわそわしてしまう。

 彼女の前に裸を晒すなど、最早日々の習慣にすらなっているというのに。

 

「……そうでございますね」

 

 てっきり『いつものことです』というような返答が来るかと思ったが、意外にもセシリアもまた私に同意した。

 部屋が暗いため今まで気づかなかったのだが、よく見れば彼女の顔は――

 

「少し、赤くなっている、か?」

 

「……ですから。

 緊張をしていると、申し上げたではないですか」

 

 恥じらうように、顔を背けるセシリア。

 ドクンッと胸が高鳴った。

 彼女のこんな表情、初めて見た気がする。

 

「では、次は君の番、だな」

 

「は、はい」

 

 セシリアの声が、震えている。

 顔がさらに赤みを帯びてきた。

 それでも躊躇をすることなく、彼女は纏ったシーツを開けていった。

 数瞬の後、目の前には生まれたままのセシリアが現れ――

 

「い、いかがでしょうか?」

 

「――如何も何も」

 

 芸術品だった。

 素晴らしい、彫刻のような肢体。

 曲面の一つ一つが、男を惹きつけるよう計算されてデザインされたかのよう。

 釣鐘状に整い、見るからにハリのある胸の膨らみ。

 その先端は実に鮮やかに彩られている。

 引き締まったくびれ。

 その下方にある、これまた揉み心地のよさそうなプリっとした臀部。

 

「…………」

 

 ゴクリ、と唾を飲み込む。

 この身体を、今から私の好きにしていい、のか。

 グラビアモデルが裸足で逃げ出してしまいそうな、この身体を。

 

 許されるのか、そんなことが。

 いや、許されるのだ。

 侯爵だから、許されるのだ。

 この権力を使えば、容易く人を意のままにできる。

 

 そして私は、セシリア(ここ)で止まるつもりはない。

 侯爵の地位を利用することで、この国のほとんどの女性を抱くことが可能であり、しかも帝国では一夫多妻制も認められているのだから。

 すなわち、合法的にハーレムを作ることも夢ではないのだ!

 ならば、作るしかあるまい。

 何の因果か“前の人生”では女性にとんと縁のない私だったが――いや、そんな私だったからこそ!

 この世界では、今度の人生では、助兵衛に生きる!!

 欲望に忠実に生きてやる!!

 今日を皮切りに、気に入った女性を手当たり次第に抱く、エロエロな人生を送ってやるのだ!!

 

 ああ、しかし、ハーレムの人数は6,7人くらいがいいか。

 やはり侯爵の妻ともなれば相応の生活を送らせてやらねばならず、ウィンシュタット家の収入できっちりと養えるのは大体それ位の人数だからだ。

 結婚とは相手の人生を背負うもの、その辺りはしっかりしておかねばならない。

 手を出すだけ出してその後放置するなど、男の恥だ。

 

 あと無理やりも良くない。

 ちゃんと相手との合意は取る必要がある。

 金でも宝石でも地位でも、代償に相手が欲しがるものはきちんと用意するつもりだ。

 それでも合意が得られないのであれば、手出ししてはならない。

 嫌がる女性を抱くのは趣味ではない。

 

 そういう意味で、セシリアへ行った行為はかなり反則気味である。

 初めての体験(・・・・・・)はその――どうしても彼女とが良かったので、かなり強引な手を使ってしまったのだ。

 セシリアはウィンシュタット家の侍女なのだから、どうしたって私に従う他ないというのに。

 今後の仕事への支障を考えたのだろう、欲しいものを尋ねても何も答えてくれなかった。

 

 だから今後、彼女が望むようならハーレムから解放しようと思っている。

 勿論、ただ放り出すような真似はしない。

 それこそ、これからの人生仕事せずに暮らせる程度の、纏まったお金は渡すつもりだ。

 生活基盤もセシリアの好きな様に整えるし、就きたい仕事の希望があれば手配する。

 他にも欲するものがあれば権限の及ぶ範囲で準備しよう。

 もし彼女に好きな男性ができたら、その仲を応援したっていい。

 凄く辛いけど!

 泣きそうになるけど!

 まあ、そうならないように全力を尽くすけれどもね!

 

 ――え、早口っぽくなっている?

 そんなことは無い。

 そんなことは無いさ。

 

「坊ちゃま?」

 

「ん、んんっ!?」

 

「どうされました、長いこと硬直していたようですが」

 

「そ、そうだったか?」

 

「はい」

 

 思考を明後日の方向へ巡らせすぎていたらしい。

 こんな肝心の場面で呆けてしまうとは。

 しっかりしろ、私。

 

「あの――やはり、貧相でしょうか?」

 

「は?」

 

 いきなり訳の分からないことを言いだすセシリア。

 

(わたくし)のみすぼらしい体では、坊ちゃまを昂らせることができないのではないか、と」

 

「いやいやいやいや、そんなことは無い! そんなことは無いぞ!?」

 

 彼女は一体何を言っているのか。

 セシリアのスタイルが貧相だというなら、世の女性は全て寸胴体型ということになってしまう。

 

「ですが、坊ちゃまに比べますと――」

 

「そこで何故私と比べる?」

 

 こんなところでジョークを飛ばされても、反応に困る。

 彼女なりに場を和まそうとした結果なのだろうけれど。

 実際、確かに肩の力は抜けた気がする。

 

 と、いうわけで――

 

「――あ」

 

 セシリアが小さく声を漏らす。

 私が、彼女をベッドに押し倒したからだ。

 

 互いの身体と身体が触れ合う。

 柔らかい。

 凄く柔らかい。

 女性特有の甘い香りが鼻孔を満たす。

 

「――セシリア」

 

「――坊ちゃま」

 

 視線を交差させながら、名を呼び合った。

 できれば“エイル”の方を使って欲しかったが。

 まだ彼女にとって、自分は“坊ちゃま”に過ぎない、ということか。

 ……まあ、いずれその認識は変えてやろう。

 

「セシリア――君は私のモノだ」

 

「――あ、んんっ」

 

 有無を言わさず、キスをする。

 セシリアの唇は、滑らかで、暖かかった。

 その勢いのまま彼女へ覆い被さり――

 

 

 

 ――月と星に照らされた部屋の中、二つの影が一つになる。

 

 

 

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