そして今回から文章の初めに余白を入れてみました。不評なら辞めます。その方が楽(殴
アンケートは第1章が終わるまで募集しているのでどしどしお寄せくださいm(_ _)m
それでは第12話をどうぞ。
メリオダス視点
「……リク、着いた、よ……」
「ああ。ホントにな。信じられないことにな」
リク曰く、馬と同等の速さで走っていた俺が5日かけて走った距離を、シュヴィはリクを抱え——数時間で走破。
集落近くまで辿り着いた時点でリクを下ろした。
驚愕を通り越し、もはや呆れるしかない理不尽な種族の性能差にリクは呻いた。
「流石、
もちろん物理限界に到達する身体能力を持つ
「てめえ何で着いてこれてんだよ」
こちらを見てそう半眼で問うリクに俺は苦笑して答える。
「だから、ゆっくり走ってたんだって。索敵能力高くないって言ったろ。でも今はシュヴィが索敵してくれるから問題ないってわけだ」
まあ、速すぎて速度を制御するの大変だったけどな。
「それにしてもその機動力……本当に精霊を使ってないんだよな?」
「使って、ない。シュヴィ『
——これで平均以下……か。一切兵装を使わずに。
「兵装、使って、いいなら……数分、で、……着いた……」
さすがに兵装を使えば
さて、問題はここからだ、とリクは改めてシュヴィの姿を見やった。それにならい俺もシュヴィを見やる。
どう見ても
「問題はその裾からはみ出ている尻尾、だよなぁ」
そうリクが呟く。
「……尻尾、じゃない……擬似精霊回廊接続神経……」
「いや何でもいいけど、それ丸めたりなんかして隠さないのか?」
自在に動く2本のケーブルは、本人は否定したものの、どう見ても尾っぽである。
「……無、理……これ……シュヴィの、動力源……言うの、2度、目……」
最初にシュヴィを人間に扮装させる際、精霊——偽装魔法装置を使えば簡単と言っていた。
だが集落内から精霊反応がしては問題なのだ。
そこで苦肉の策として、こうして無理矢理ごまかしているのだが……。
この尾本人曰く擬似精霊回廊接続神経——で、周囲から動力を得ているらしい。
言わば人間でいうところの食事であり、精霊の運用ではなく『搾取』だとか。
だから精霊反応はないのだが——どうしても露出させなければならないという。
俺は頭をかきむしって、ヤケクソ気味に言った。
「……えーい、もうこうなったら『装飾』と言い張るぞ。もう一度言うが、人間じゃないとバレたら『心』の解析は不可能だからな?そのつもりで全力で人間を演じろ」
「……ん、了解」
そう言ってか覚悟を決めて洞窟に入ろうとしたリクがふと気が付いたように俺を見る。
「そういや、お前は精霊反応大丈夫なんだろうな」
そう言いながら、リクは方位磁石のようなものを取り出す。
大きな精霊反応に感応する『輝石』と、ただの黒曜石を接合したもので霊針盤という道具だ。
他種族が体内に宿す多大な精霊を感応してその方向を示す、リクとコロンが作った道具らしい。
それをリクは一瞥するが無反応だ。
俺はフッ、と笑い、
「精霊を感知されない術など身につけているに決まってるであろう」
と返す。
「…………シュヴィ。問題ないのか?」
「ねぇ、ツッコミは?」
「……ん……大丈、夫」
「そうか、じゃあ今度こそ行くぞ」
「無視!?ねぇ、ツッコミは!?」
歩き出した2人の背中を追いかけ、俺達は洞窟へ入り、狭いトンネルを通っていく。そうして、門のところで門番の少年が——
「あ、リ——」
と声を上げかけたのを慌ててリクが、人差し指を差し出し黙らせる。
「お、お疲れさまです……みなさん心配をしてます、よ」
ひそひそと答えた門番の少年が、その隣にいるシュヴィに気づいて訝しげな顔になる。
しーっ、とリクはもう一度同じ仕草を繰り返して彼を黙らせ、門をくぐった。
気配を殺した忍び足で階段を上るリクに、シュヴィが問う。
「……リク、怯えてる……シュヴィの、せい?」
「ああ当然それもある。だが今はどっちかというと——ッ」
言いかけて、リクは言葉を切った。振り返るや否や、慌てて頭を庇い——
「リィィィィィィィクゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!」
大音声と同時。
リクがガードした頭部——ではなく腹部に。
猛然と駆け寄ってきたコロンの膝が深々と突き刺さった。
声も上げられず悶絶して倒れこもうとするリクを、だがそうはさせぬとばかりに。
胸ぐらを掴みあげ、コロンは怒鳴り散らした。
「あんたねぇッ!!無断で5日も出てってどんだけ皆を心配させれば気が済——」
リクを激しく揺すって叫ぶコロンに、リクは反論する暇もなく泡を吹く。
——と。
唐突に、コロンはその動きをピタリと止めたかと思うと、
「なぁにこの子可愛いぃぃぃいい❤︎」
ぽいっとリクを放り出し、コロンはひしっ!とシュヴィに抱きついた。
そして激しく咽せるリクにニヤニヤと視線を向けて、
「なぁにリクってばぁ、お嫁さん拾いに行ったんならそういえばいいのにぃ♪」
「コロン、脳みそ大丈夫か。こんなご時世で5日も遠出して嫁探しするアホが——」
そう半眼で返すリクを、だが肘でツンツンと突っついてコロンは続ける。
「んも〜照れないの♪こんな時代一に子作り二に食料!三四五は子作りよッ!」
ちなみにこの時、コロンはシュヴィに抱きついた感触でシュヴィが人間ではないことに気が付いたが、リクとシュヴィの空気を察してこれから1年以上黙っている。
「なのにリク全然そんな気配ないし心配してたのよ?邪魔しないから、2人ともお風呂入ったら、それは、もうしっぽり——」
「……その手をやめろ」
親指を人差し指と中指の間に挟んで抜き差しするコロンにリクは頭を抱え、俺は面白いなぁと見ている。
「それともメリオダス方だったの?」
「いや。リクの方」
しかし、当事者になるのはごめんである。
「やっぱりぃ♪もうリクったらぁ♪照れなくてもいいのにぃ♪」
「違うわ!メリオダスも乗んな!……なぁ、さ……普通に考えたら壊滅した里の生き残りとか思わないか、まず」
——と、ようやくそこで我に返ったのかのように、コロンはハッと動きを止めた。
がらりと神妙な面持ちになり、問う。
「……——そうなの?」
「地精種《ドワーフ》の地図を解読したところ、馬で〝2日〟ほどの位置で交戦があった事がわかってな。あの辺には小さい集落があったはずで——それを確認しに行ってた」
一応これは嘘ではない。
あの地図によれば、
ただしそれは——〝2年前〟のこと。
この集落で地精語を読めるのは、リクだけだ——バレることはまずない。
だがコロンがそれで納得するはずもなく——
「だからって、黙って行くことなかったでしょっ。しかも、メリオダスは故郷が滅んだばかりなのに」
「メリオダスが行きたいって言ったんだよ。でもメリオダスが行くって言ったら——」
「止めてたわよ当たり前でしょッ!!来たばかりなのに5日も遠征に行かせられるわけないでしょ!!……ねぇ、少しはお姉ちゃんの気持ちも考えてよ、胃に何個穴を開けたいのよぉ?」
と、すがるような眼差しをリクに向ける。
その目尻は赤く腫れていた。
コロンはどこか諦めた様子でため息をつき、一転、シュヴィに優しく訪ねた。
「ごめんね……大変な目にあったのね……あなた、お名前は?」
「…………シュヴィ………」
指定された、設定通りに。
シュヴィは臆病そうな素振りで、リクの後ろに隠れながら応えた。
うんうん、とその様に笑顔で頷いてコロンは続ける。
「でも、安心して、ここは安全、リクがいるもの。リク達とはどうやって会ったのかな♪」
その質問に悪意はなかったはずだ。
ほんの興味、話を転がす為の枕にして訪ねたに過ぎないのだろう。
一瞬言葉に詰まったシュヴィに、リクは『話を合わせろ』と目配せする。
だが——
「……シュヴィ……キスして……リク……生殖行為して、って……強要した」
——さあ、問題です。この発言から誰が『シュヴィ〝が〟リク〝に〟生殖行為を強要した』と読めるだろうか。
かくして、コロンの鋭い重たい踏み込みと共に。
「そういうことはァ——」
鳩尾を抉りこむように繰り出された左ブローと、洞窟を揺るがす怒声によって。
「ちゃんと安全圏に避難してからにしなさいよーーーーーッッ!」
笑いを堪えて肩を震わせる俺の前で、リクの意識は容易く刈り取られた。
——壊滅集落の年端もいかぬ生存者に、出会い頭に性行為を強要した。
その噂は音より速く伝搬し——集落全体で熱く激しい議論が飛び交っていた。
「いいや、リクさんは正しい。やれるときにやれることはやっとくべきだ」
「いいえ、リクちゃんはちゃんと同意を先に得るべきだったわ」
「いや待てよ、そもそも同意がなかったかどうか確認してないだろ」
「強要したって言質は取れてるのよ?議論の余地は——」
………。
「おかしい」
「何が?」
「まずもって論点がおかしい。主に誰一人シュヴィの幼さに触れていないところが。何もかもおかしい」
敬意軽蔑多種多様な言葉と視線を受けながら、俺達は集落を歩いてリクの自室に向かう。
そして、小さく聞こえないように、リクは隣を歩くシュヴィに零す。
「つかおまえさ、ホント勘弁してくれ……」
「……なに、が?」
何が悪かったのか理解していない様子で、シュヴィが小首を傾げる。
「そもそもさ、俺の『心』を知りたかったんだよな。つまり一種の誘惑だろ?」
リクのその言葉に俺は、出会った時の『おにぃちゃん』の流れを思い出す。
「もう少し成長した姿になれなかったのか」
そうすりゃこうはならなかったろうにというリクの不満に、俺は俺は大して変わらないかったんじゃないかなぁと思う。
そして、リクの言葉にシュヴィはきょとんと、
「……人間の男性……リクの好みに……あわせた……姿」
「おまえまで俺をロリコン言うな。俺はもっと、グラマラスな——」
「嘘」
即断即答して、シュヴィが続ける。
「……なら、あのコロンという人間と、生殖行為しない……理由、ない」
「いや、好みだったら誰彼構わず生殖行為をするってわけじゃないからな?」
シュヴィの言葉に俺は思わず突っ込む。
「……そも、人間男性は、皆、若い少女を……好む」
「ふざけんなひとくくりにするな人間それぞれ好みが——」
「……否定……生物的に、出産可能なら……若年個体有利、議論余地、ない」
——こいつ…………
感情がないはずの
「……
「——……おい、メリオダス。お前もなんか言ってやれ」
リクの言葉に偏った知識をお持ちの高度な機械に話しかける。
「シュヴィ。若年女性って若すぎるわ。お前、その見た目10歳程度しかないだろ。せめて十代中盤あたりにしとけよ」
「?……若いと、なにか……問題?」
「いや、倫理的に問題があるし、もっと女性的な身体付きの方が興奮するし——いや、もういい」
きょとん、と分かっていない様子のシュヴィに俺は諦めた。
「諦めんなよ」
「いや、あれ無理だわ。俺、機械納得させられるほど頭良くないし」
リクは、げっそりした顔で、様々な視線を背に受け、俺達はようやく自室に辿り着いた。
そういえばこの世界って地磁気とかまともに機能してるんですかね?天変地異級の小競り合いがそこら中で起こっていたらめちゃくちゃになってそうですけどね。
まあ、そもそもこの世界の星が地球のようになってるかは謎ですが。
それでは第13話をお楽しみに。