「――――キャリコ、もう大丈夫だぞ…」
狙撃を受けてから数十分後、すっかり静かになったその場所にMG5がそっと近寄った。
なるべく身体を動かさないようにして血が流れるのを防いでいたが、それでも相当の血が流れたらしくキャリコは青白い顔をしている。
一瞬死んでしまったのではと不安になるMG5であったが、その身体に触れた時キャリコが小さな声で呻いてみせたのに胸をなでおろす…だが危険な状態だ、すぐさまキャリコを後方へと下がらせる。
「大隊長、どうしますか?」
「ここはもう迂回しよう。連絡によると反政府軍は旧市街から撤退しつつあるようだ、後は残存兵を殲滅するだけだ」
既に旧市街での戦闘は山場を過ぎ、敗走する反政府軍への掃討作戦へと移行している。
キャリコを狙撃されたことで大隊はしばし動きを止められたが、遅れを取り戻すべく月光を投入しヘイブン・トルーパー隊も先行して前に進ませた。
ここでの戦闘はもうすぐ終わる…後は…。
時折響く銃声、それがWA2000のものなのか…強敵の相手は彼女に任せ、MG5は自身の役目を果たすべく行動を開始する。
屋上で始まった対決は、Kar98kが発煙弾でその姿をくらましたところから始まった。
環境も彼女を味方するかのように砂煙が吹き荒れて一瞬のうちにWA2000は標的の姿を見失う。
だがそれは相手側も同じ、すぐさまWA2000は来た道を引き返すと、窓を開け放ち隣の家屋へと飛び移る…無人の家屋を、なるべく窓際を避けて移動しさらに隣の家屋へ。
先ほどまでは銃声や爆発音があちこちで聞こえていたが、反政府勢力が撤退をしたことで戦場は静寂に包まれている…そんな中、割れたガラス片などを踏みしめる小さな音さえも、今のWA2000は気を張り詰めて注意をしている。
Kar98kが接近戦を仕掛けてくるとは思えないが、念には念を入れていつでもナイフと拳銃を出せる準備だけはしておく。
(それにしても、狙撃手同士の対決なんて…まるで映画の中の展開ね)
そう言えば以前スネークが、かつて世界最高と謳われた狙撃手と一対一の対決をしたという話をWA2000は聞いたことがあった。
スネークの過去の活躍を聞くたびに、やることはやっているのだなと呆れを通り越して称賛するのだが…いくら伝説の傭兵と言われるスネークにも狙撃の腕は負けていない、あるいはそうありたいという思いがWA2000にはある。
(狙撃に関しては誰にも負けたくない、例えスネークにさえも……スナイパーとしての能力なら、私がMSF一だ!)
それはうぬぼれではない、自身への正当な評価であり、そう思うだけの自信があるのだ。
絶えず周囲に目を光らせ、一瞬でもKar98kの姿を見れば射撃体勢に移れるよう身構える。
純粋な戦闘能力の他、隠密行動の技術も叩き込まれたWA2000は痕跡を残さず、音を発することもなく素早く移動する…一瞬の隙が命取りとなる尋常ではない状況において、彼女の感覚はなお冴えわたる。
些細な動作も見逃さず、わずかな音も聞き漏らさない、風に運ばれる戦場の香りですらも索敵の重要な要素となるのだ…スカウトの訓練はオセロットではなく、スネーク直々に教わった技術でもある。
既に1時間近くも索敵をしているがその姿は見つからない…偽装と隠密に長けているのは、向こうも同じらしい。
一度戦場を見回そうとWA2000は家屋の一つに入り込み、静かに屋上へと向かう。
慎重に歩を進めつつ、物陰からそっと外を伺う。
(いないわね。時間をかければ部隊が展開して逃げ場が無くなる…不利な状況になるのは目に見えているはずなのに)
見つからないKar98kに、その場から移動をしようとした時、WA2000は視界の端に動く者を捉え即座に銃を構えた。
相手はどうやら撤退し損ねた反政府軍兵士で、遅れてWA2000の存在に気付く。
敵兵士が銃を発砲するその前に、WA2000は素早くナイフを引き抜き投げつける…ナイフは敵兵士の喉元に深々と突き刺さるが、兵士が握っていた銃が暴発したため咄嗟にWA2000は床に伏せる。
「クソ…ついてない…!」
今の銃声で完全に位置は特定されたと言っていい。
伏せていることで身を隠せているが、少しでも頭をあげれば狙撃される…絶体絶命の状況に焦るが、深呼吸を繰り返し乱れたメンタルを落ち着かせる。
活路を見出すべく周囲を伺う。
屋上から階下へ通じる扉にまで這って進むという手もあるが、ちょうどそこは崩れた壁から丸見えとなる位置にある。
走って一気に屋上から飛び降りる手もあるが、リスクが大きすぎるので論外。
最後に、WA2000は先ほどナイフを投げつけて殺害した敵兵士に目を向ける。
そこで何かを思いついたのかそっとその死体まで這っていくと、自分が着ていた迷彩用のマントを頭から被せる…そして死体をそばに引き寄せると身体を少し浮かせて、一度大きく息を吸い込んだ。
息を止め、死体を蹴り上げる。
もしもKar98kが狙っているのならこの動きにくいつくはず。
その予想は見事的中し、Kar98kの正確な狙撃によって死体の胴体が撃ち抜かれる…瞬時に弾丸が飛んできた方角を把握し、WA2000は身を起こしそちらの方角へ向けて狙いを定める。
狙った方角にKar98kの姿を捉える。
スコープ越しに、彼女の動揺する表情を見てとったWA2000は即座に引き金を引いた。
僅差で放たれたKar98kの弾丸は狙いがそれてWA2000の頬をかすめ、逆にWA2000の銃弾は見事Kar98kを貫く…ふらつき、血を流し、彼女は屋上にその姿を消した…。
「危機一髪ね…」
珍しくかいた冷や汗をそっとぬぐい、WA2000はすぐに屋上から屋上へと飛び移り、倒したKar98kの元へと向かう…。
慎重に近寄ったWA2000が見たのは、胴体から血を流し倒れるKar98kの姿であった。
「ごほっ…ごほっ……見事、ね…ワルサー……わたくしの、完敗ですわ…」
「ずいぶんとてこずらせてくれたわね。たった一人を相手に、こんなに気を張り詰めたのは初めてよ」
「それは、褒め言葉…かしら?」
「この私が言ってるのよ、褒めているに決まってるわ」
「そう……光栄ね…」
素直じゃない褒め言葉に思わず笑みを浮かべたKar98kであったが、苦しそうに咳きこんで吐血する。
それから床に落ちた自身の銃へと手を伸ばすが、受けたダメージによって呻き声をあげた……そんな彼女を見て、WA2000は床に落ちた銃を拾いあげる。
ボルトハンドルを操作して装填された弾丸を取り除くと、無害なその銃をそっと彼女に手渡した。
「ありがとう…案外、優しいのね…」
「聞きたいんだけれど、これは私の勝ち…ということでいいのかしら?」
「あなたはいつでもわたくしを殺せる…生殺与奪の権を握った者が、勝者よ……フフ、これでようやくわたくしも死ねる。長かったわ…」
ひび割れた顔に穏やかな笑みを浮かべるKar98k…彼女が口にし始めたのは、過去の話だ。
「わたくしが所属していたPMCは……それなりの規模でしたの…。ある時戦場で、味方の裏切りにあい…部隊は壊滅…。以来、わたくしは指揮官の最後の指示に従い…戦場を渡り歩いてきた……ですが、戦術人形に取って指揮官がいないという状況は極めて…不安定な毎日でしたわ。一人で生きる孤独は……わたくしのメンタルを蝕んだ」
「何が、言いたいの?」
「分かるでしょう…? わたくしは今日まで生き残ってきたのではない……死に遅れただけですわ。わたくしが出来ることは、最後の命令を遂行した末に戦死すること……ワルサー、どうやら貴女がわたくしの願いを叶えてくれるみたいね……さあ、もう終わりにしましょう。放っておいても死ぬ身だけれど…緩慢に死ぬのは、ごめんですわ…」
最後にKar98kはWA2000に微笑みかけ、その目を閉じる。
このまま放っておいても死は必ず訪れる、だがゆっくりと死が近づいてくるあの感覚無様で苦痛なものはない…彼女のせめて慈悲を求める願いに、WA2000はライフルの銃口を向ける。
そして……。
「何故……ですの?」
銃声は鳴った、だが何故だかまだ生きている。
わけが分からず見上げたKar98kを、WA2000は真っ直ぐに見つめ返す。
「
「それは…」
「今までの貴女は今日ここで死に、新しい
差し伸べられたWA2000の手を、Kar98kはしばし見つめていた。
「誰かのためじゃない、自分自身のために。私たちは戦いの中でしか生きられない、だからこそ戦う理由だけは自分で決める。
「ワルサー……」
「後はあなた次第よ……勝利か死か…いいえ、自由か死か」
「分かった……分かったわ、ワルサー。新しく生まれかわった
「アウターヘブンへようこそ、
こりゃMSFにではなく、わーちゃんに忠誠誓ってるじゃねーかと思う次第。
カリスマまで身に付けたわーちゃんはきっと戦術人形の形をしたなにかだと思う(小並感)
さてまたほのぼのやろ