METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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ここにきてMGSキャラ、タイトルからお察しください


暗黒大陸:ホワイトマンバ

「――――今や世界に名だたるMSFが、よもや難民キャンプの警備とはな。この私が言うのも何だが、少しは仕事を選びたまえよ」

 

「それでスプリングフィールド。なんでこの鉄血人形がオレたちのキャンプに居座って呑気にコーヒー飲んでるのか説明してもらいたいんだが?」

 

 

 場所は難民キャンプ付近に設けられたMSFのキャンプ地。

 そこの司令部が置かれたテントの中で、鉄血人形ウロボロスは足を組んで座り、スプリングフィールドが淹れてくれたコーヒーを堪能している。

 周囲には武装したヘイブン・トルーパー兵がいるのだが気にもかけず、今もマシンガン・キッドを前にしても余裕ぶった態度は崩さない。

 

「いえ、なんか流れで…すみません…」

 

「お前が流されやすいのは分かったが、こいつとはユーゴで激しくやり合った関係だ。まわりに知られたらマズいぞ」

 

「昔のことをいつまでもぐずぐず言うな。あ、コーヒーのおかわり貰えるか?」

 

 図々しくコーヒーのおかわりを要求するウロボロスに、ついついスプリングフィールドが動きそうになるが、キッドがそれを阻止する。

 MSFとウロボロスとの間に起きた抗争を知らないネゲヴにとっては、互いの確執も知りようがなく、不思議そうな様子で双方の様子を観察している。

 

「まったく、儲かってるくせにケチな奴らだ」

 

「満足しただろう、とっとと帰れ!」

 

「ほう。そんなことを言っていいのか? またちょっかいをかけてやろうか、以前のような私ではないぞ?」

 

 不敵に笑いつつ挑発するウロボロスだが、どこか子どもっぽい態度に、これ以上まともな反応を返しても疲れるだけだとキッドは察する。

 かといって無視すればウロボロスはさらなる挑発を仕掛けてくる。

 

「このクソ人形め! この場で撃ち殺してやろうか!」

 

「まあまあ抑えたまえ、女性相手にみっともない。別におぬしらと戦いにきたわけではない、ほんのあいさつ代わりだ。それじゃ、帰るとするか」

 

「おう、とっとと帰れ! ネゲヴ、塩だ塩! 塩撒いとけ!」

 

「くはははは、また会おう」

 

 以前と比べ、いろいろと自由すぎるウロボロスは、来た時と同様に堂々とした態度でキャンプを立ち去っていく。

 自身に向けられる無数の敵意の視線を受けてもなんのその、涼しい顔でMSFの車両へと乗り込みエンジンをかけるのだ。

 

「って、さりげなく車を盗もうとしないでください!」

 

「チッ…勘のいいガキは嫌いだよ」

 

 自然な動作で車を盗んでいこうとしたウロボロスを阻止、スプリングフィールドは銃口を向け、いつでも撃てるよう引き金に指をかけた。

 それに対しウロボロスは反抗する意思も見せず、ひらひらと両手をあげる。

 

「まったく、油断できませんね…!」

 

「ははは、次はもっと強引に盗むとしよう。さて、なら私を家まで送ってくれないかな? ここから結構距離があってだな」

 

「はい? どうして私があなたを送ってかなければならないんですか!?」

 

「嫌なら構わん、強引にこの車を奪うまでだ」

 

 スプリングフィールドの引き金にかけた指に力が込められるのよりも速く、ウロボロスは向けられた銃口を逸らし、スプリングフィールドの手を押さえつける。

 

「侮ってくれるなよ。一度敗北したとはいえ、私の牙は折れていない。おぬし一人引きちぎることなど造作もないのだ」

 

 忘れかけていたが、これでも彼女は電脳空間で無数のAI、そしてビッグボスの戦闘データを基にしたAIを相手に戦い抜き誕生したハイエンドモデルなのだ。

 純粋な戦闘力では鉄血の中でも随一であり、一介の戦術人形が一人で相手にできるような相手ではない。

 

「だが、ここには戦いに来たわけではない。私を送ってくれれば、君らが捜す難民の子どもも見つけてやろう。利害の一致だ、悪い話ではないだろう?」

 

「何故、子どものことを知ってるんですか?」

 

「来れば分かる。それで、君の判断は?」

 

 柔らかな笑みを浮かべるウロボロスであるが、その目は変わらず冷たい印象を受け、思考を読みとるようにスプリングフィールドの目を覗きこむ。

 反撃し返り討ちにする方法も探るが、互いの力量の差は歴然としている。

 それが分からないほどスプリングフィールドも愚かではない…ウロボロスの言う通り、取引だと考えれば悪い話しではない、そう自分を納得させスプリングフィールドはウロボロスの要求を受け入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――というわけでだ、私は今この地で反政府ゲリラに武器を売りさばき、見返りに私は連中が採掘したダイヤを報酬として受け取る。それを密輸業者に売り付け現金を得る、なかなか美味しいビジネスというわけだ」

 

 移動中の車内にて、ウロボロスは聞いてもいないのにアフリカでの活動を自慢げに話してみせる。

 運転を強制されるスプリングフィールドは彼女のそんなビジネスにはさほど興味も無く、適当な相槌をするだけで話の内容を気にも留めない。

 

「スプリングフィールド、おぬしダイヤは好きか? まあ、おぬしのような脳内お花畑の乙女にとってダイヤの輝きは魅力的であろう」

 

「お花畑って…」

 

 ウロボロスの失礼な物言いにイラッとするが、それはさほどウロボロスには重要ではなく、彼女はどこからか輝くダイヤが埋め込まれた綺麗な指輪をとりだしてみせる。

 運転中のスプリングフィールドであったが、その美しいダイヤの輝きに一瞬目を奪われる。

 彼女のそんな反応を期待していたのか、ウロボロスは笑みをこぼす。

 

「清浄無垢、純潔、純愛、永遠の愛…いずれもダイヤモンドが持つ宝石言葉だ。先進国の上流階級ではダイヤの指輪を婚姻の贈り物とするのが習わしと聞く。阿呆共が、ダイヤの輝きにつられて巨大な金が動く」

 

 ウロボロスはダイヤの指輪を太陽の光に照らし、手のひらで転がす。

 原石の状態から、研磨され、ブリリアントカットがなされたダイヤは光を美しく光り輝く。

 

「おぬし、ダイヤを価値付ける"4つのC"を知っておるか?」

 

「いえ、知りませんが…」

 

「ふん……ダイヤモンドの評価を決める4つのCとは、 色 (Color)透 明 度(Clarity) 重 さ (Carat)研 磨(Cut)の頭文字からとったものだ。だがもう一つ、5つ目のCである 紛 争 (conflict)の存在を忘れてはいけない」

 

 先ほどまで興味も無かったスプリングフィールドであったが、ウロボロスの言葉にいつしか耳を傾ける。

 これからウロボロスが語るビジネスとは、ある種人間の欲深さと偽善に関わるものであることを知る。

 

「さっきも言った通り、私は反政府ゲリラに武器を提供し、見返りにダイヤをいただく。つまりは連中にとってダイヤは武器を手に入れるための資金源となるわけだ。私が入手したダイヤは他国へと密輸され、宝石として加工を施され、人々の手に届く。時に、お幸せな結婚式の誓いの指輪の中にそれらダイヤは紛れ込む」

 

「つまりは……何も知らずダイヤを買うことは、紛争当事者に資金を提供することにつながる?」

 

「ご名答。永遠の愛の象徴とされるダイヤを求める裏で、ゲリラどもはダイヤの見返りに武器を手に入れる。そして紛争は深刻、長期化し憎しみの輪は広がっていく。そして憎しみが憎しみを呼び、紛争が紛争を呼び、私たちの生態圏は拡大していくのだよ。理解できるだろう、スプリングフィールド? MSFに所属するおぬしが、分からぬはずがなかろう?」

 

 スプリングフィールドは、ウロボロスの言葉を否定することは出来なかった。

 MSFは、戦いの中で生の充足を得る、それを謳い文句にその軍事力をあらゆる勢力に貸してきた。

 ウロボロスを否定することは、遠回しに、自分たちを否定することにつながる。

 

「これらダイヤは紛争ダイヤモンド、あるいはブラッドダイヤモンド(血塗られたダイヤモンド)と呼ばれる」

 

「ブラッドダイヤモンド…」

 

「通常ならこんな汚れたダイヤの価値は著しく下がる。だが、もし正規に採掘されたダイヤの中に混ぜ込んだとしたら? 他の多くの正規に採掘されたダイヤから、宝石として加工されたダイヤをどうやって見分けがつけられようか? 昔は、キンバリー・プロセスというのもあったらしいが、大戦で効力を失い再びダイヤは紛争の資金源となったのだ。ダイヤモンドの流通の中で紛争ダイヤが占める割合は決して多くはない…だが、確かに血塗られたダイヤはあるのだよ」

 

 それはおそろしい話であった。

 戦争とは一切無縁なはずの日常の中で、贈り物としての宝石に、芸術としての宝石に、そして幸せを誓いあう結婚式の指輪の中に、ブラッドダイヤモンド(血塗られたダイヤモンド)が紛れ込んでいる。

 幸せを喜ぶ裏で、悲しみの悲劇が生まれる。

 

 グリフィン内にもダイヤは流通しているが、その中にどれだけの健全なダイヤがあるだろうか?

 人形たちが羨む誓約の指輪にも、ダイヤの輝きはある……真面目なスプリングフィールドは、酷く気分を悪くする。

 

「まあ、さほど気にすることはあるまい。この時代、誰しもが紛争と無縁ではいられない。自分は関わりがないと思っていても、それはただ目を逸らしているだけなのだよ。どうだ、この私の戦争ビジネスの教訓は役に立ったかな?」

 

「あなたは、変わらずおぞましいままです…」

 

「褒め言葉として受け取っておこう。ここでは死の商人とかホワイトマンバ(・・・・・・)などと言われてるくらいだ。まあ、その通り名はもう一人おるがな……っと、そろそろ着くな」

 

 ウロボロスが身を乗り出し指差した方向に、西洋建築風の屋敷が一軒あった。

 元は前時代にこの辺を支配していた白人農場主の土地であったそこをウロボロスが占領し、拠点としているらしく、配下と思われる装甲人形が警備し要塞化されている。

 

「折角だから茶でも飲んでくか?」

 

「いえ、結構です」

 

「そうかそうか、美味い茶が飲みたいか」

 

 拒否するスプリングフィールドであったが、ほとんど無理矢理屋敷へと連れていかれてしまう。

 さすがにこれ以上、ウロボロスに振り回されるのは良くない、ましてや今は自分一人しかおらず誰かに頼ることもできない。

 力でねじ伏せられることも覚悟の上で、スプリングフィールドはライフルを握る手に力を込めようとした時だ…。

 

 ウロボロスが屋敷に足を踏み入れた途端、どこからともなく子どもたちが現れウロボロスめがけ走り寄る。

 

 

「おかえりへびのおねーちゃん!」

「おかえりなさい!」

「おみやげは!? ねえおみやげは!?」

 

「ええいクソガキどもめ、群がるな!」

 

 あっという間に小さな子どもたちに取り囲まれるウロボロス。

 子どもたちに群がられているウロボロスはうんざりしたような表情にも見えるが、時折笑みを浮かべ、小さな子どもを抱きあげる。

 突然の出来事にスプリングフィールドは一人目を丸くする。

 当然だ、さっきまで悪の権化のような態度から一変、子どもたちをかわいがるやさしいおねーさんの姿へ早変わりしているのだから。

 

「おいクソガキども、グレイ・フォックスはどこにおる?」

 

「フォックスのおにーちゃんは出かけるって、しばらくかえってこないってさ!」

 

「なにぃ!? あの阿呆が! この私に何も言わずふらふら出ていきおって! 折角今夜はカレーでも作ろうと思っていたのに…!」

 

「わーいカレーだカレーだ!」

 

「騒ぐなクソガキども!」

 

「あの、ウロボロス…これは?」

 

「うん? こいつらは孤児だとか、少年兵だとかそういう類だ。フォックスの奴がどこからか引き取ってきおってな、いつの間にかこんな人数だ。全く、ここは孤児院ではないというのに…」

 

 そういいつつも、女の子を抱き上げたり、遊び相手になってあげるウロボロス。

 しばらく呆然と見ていたスプリングフィールドであったが、やがてかつての敵の思わぬ姿に、小さな笑みをこぼす。

 

「おぬし、今笑ったな? バカにしておるのか?」

 

「いえ。ただ、ヘビの牙もずいぶん丸くなったなと思いましてね」

 

「やかましいわ。まったく…そういえば、もう一人の阿呆はどこにいるのだ?」

 

「もう一人?」

 

 一人目の阿呆はグレイ・フォックスだとして、もう一人の阿呆とは?

 スプリングフィールドが疑問を浮かべていると、付近の草むらから勢いよく少年が一人飛び出していく。

 その手には鈍く光る刃が握られており、真っ直ぐにウロボロスめがけ突っ込んでいく。

 少年はウロボロスからは死角、声をあげる間もなく少年はウロボロスへと斬りかかっていったが…。

 

「たわけが、遅いわッ!」

 

「―――!?」

 

 少年の襲撃に気付いたウロボロスの、凄まじい速さで放たれた回し蹴りが、跳びかかる少年の腹部を宙で捉える。

 鉄血ハイエンドモデルの渾身の回し蹴りを受けた少年は吹き飛び、地面を転がり木箱に激突し粉砕する。

 ぐったりと伸びた様子の少年に大股で近付いていくウロボロス…と、少年は息を吹き返しナイフを手に再びウロボロスへと挑む。

 ウロボロスの身体を貫こうと向けられたナイフであったが、あえなく腕ごと絡めとられ、足下を崩され少年は転倒する。

 ナイフを奪い取られ、赤子のようにあしらわれながらも少年は闘志を衰えさせることもせず、拳を握り固め挑む…が、その後は呆気なくウロボロスに返り討ちにされ、両手足を封じられウロボロスの尻に敷かれるのであった。

 

「は、離せ…! 重いんだよ、クソババア!」

 

「誰がクソババアだ阿呆が」

 

「いてッ! どけ、どけってんだ…!」

 

「あーやかましい。それにしても、まだまだ未熟ものだのう。こんなんでこの私が殺せると思っておるのか…なあ、"イーライ"?」

 

「うるさい! その名前で呼ぶな!」

 

 動きを封じるように少年…イーライの背にウロボロスは座る。

 どこか見覚えがあるようなイーライの顔つきだが、なんだろうか…スプリングフィールドは妙な親近感に小首をかしげる。

 

「紹介しようスプリングフィールド、こいつはイーライ。この地で拾った私とフォックスの弟子でな、生意気だが将来有望なクソガキである」

 

「まあ、かわいらしい子ですね」

 

「いい加減…に……しろ! 重いって言ってんだろデブ! 死ねクソババア!」

 

「口の悪いクソガキはお仕置きが必要だな。まあ、その前にシャワーでも浴びて汗でも流すとするか。もちろん、お前もだぞイーライ」

 

「おいやめろ!なにすんだよ、離せ! やめろー!」

 

 嫌がるイーライを肩に担ぎ、陽気な気分でウロボロスは屋敷へと歩いていった…。

 数分後、屋敷の二階から衣服をひん剥かれたイーライが飛び降りて逃げようとしていたようだが、ウロボロスに捕まり再び屋敷に引きずり込まれていった…。

 

「これは、関わり合いにならない方が身のためですね…」

 

 これ以上関わってはいけない。

 人形としての第六感がそう伝え、トラブルが起きる前にスプリングフィールドはその場を立ち去るのであった…。




~バスルームにて~

ウロボロス「ほれ、洗ってやるから前を向かんか」
イーライ「う、うるせー…!」

グレイ・フォックス「おねショタとか、ここがアウターヘブンだったのか」

というわけで、ここにきてリキッド・スネークのショタスキンことイーライ君登場。
マザーベースに連れてくとめんどくさそうだったから、ウロボロスとグレイ・フォックスに預けて英才教育するよ……うん、性癖歪みそうw
ん?ソリッドのほう?
面倒な奴がいなくなったから、今頃ビッグママ(EVA)と一緒にアラスカ犬ぞりライフしてるよ…。

イーライとウロボロスのおねショタは…需要あったら描くw



※今回の紛争ダイヤネタは、祝い事に対するアンチテーゼな回だったので、いろいろ自粛して投降時期をずらした背景があります。
ジュエリーや結婚指輪の中に紛れた紛ブラッドダイヤモンド、あなたは見わけられますか?

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