METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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97式かわいい


マザーベース:あなたのために出来ること

 MSF司令室、喧騒から隔絶されたその場所は今、書類の上をペンが走る音と、ソファーに身体を横たえ眠る虎の安らかな寝息の音が響いている。

 副司令のミラーのすぐそばの机に座り、熱心に書類整理をしているのは97式。

 最近はミラーの秘書として彼をサポートし、ミラーも安心して仕事を手伝ってもらっている…実際ここ最近、忙しかった労務が97式のおかげでずいぶんと捗り、今では安定して仕事を片付けられている。

 

「ミラーさん、終わったよ!」

 

「お、ご苦労さん。97式のおかげで助かるよ、オレよりも仕事が早くなってるんじゃないか?」

 

「そんなことないよ、えへへ」

 

 謙虚な態度だが、褒められて嬉しいようで満面の笑みを浮かべる。

 それがついかわいくてミラーは97式の頭を撫でてしまうのだが、そのとたん、ソファーで寝ていたはずの虎"蘭々"がギロリと目を見開き睨み、慌てて手をひっこめる。

 仕事が捗る理由の一つに、司令室にて常に蘭々の脅威に晒されているというのもあるのだが…。

 

「ちょっとお散歩行ってくるね! ミラーさんも一緒にどう?」

 

「嬉しい誘いだが、ちょっとやらなきゃいけないことがあってな。蘭々と一緒に行っておいで」

 

「どうしたの? まだお仕事があるなら手伝うよ?」

 

「大したことじゃないんだ、大丈夫だよ」

 

「それならいいんだけど…」

 

 どうにも歯切れの悪いミラーを不審に思いつつも、97式は出番を察しむくりと起き上がった蘭々と共に司令部を出ていく。

 そのまま廊下を十数歩歩いた先で97式はピタリと足を止めると、音を立てないよう静かに司令室の扉へとそっと近寄ると、こっそり中を覗く。

 

 司令室の中で、ミラーは先ほどと同じ机で何やら仕事をしているようなのだが、何か思いつめた様子でじっと端末を見つめ、時々深いため息をこぼしている…そんなミラーの姿を見るたびに、97式は手助けをしたい衝動に駆られるが、素直に頼ってくれない寂しさを痛感していた。

 

「ミラーさん…どうしたのかな?」

 

 しまいには頭を抱えて考え込むミラー、それ以上彼が思い悩む姿を見ていられず、97式は覗くのを止めると自分もまた深いため息をこぼす。

 ミラーの秘書として業務の手伝いを行っている立場上、97式はMSFの活動を他の人形よりも詳しい立場にある。

 さすがに資金の流れを管理する経理業務には手を出していないが、戦闘報告や資材管理などの主要な業務には目を通している。

 すべてが順風満帆というわけではないが、これといって大きな問題はないはずなのだが。

 だが副司令であるミラーのこの悩む姿から、ただならぬ問題が起きているのかもしれない。

 

「あたし、もっとミラーさんの力になりたいのに…」

 

 97式のそんな切実な想いを察したのか、蘭々がそっと頬を摺り寄せ慰める。

 猛獣の蘭々は今や97式の守護獣のようであり、常にそばに寄り添い歩き、あらゆる脅威から97式を守っている。

 スコーピオンが発案したアニマルセラピーは成功と言ってよく、今では97式もトラの蘭々と一緒なら知らない人ともそれなりに話せるようになったのだった。

 

「考えてても仕方ない! ミラーさんのために何ができるか、みんなに聞いてみよう! そうだよね、蘭々!」

 

 蘭々は穏やかに喉を鳴らし、小さな声で鳴く。

 それを了承の返事と察し、97式は蘭々を伴い、マザーベースの居住エリアへと向かうのだ。

 まずアドバイスを貰うのは、MSFの戦術人形の中で随一の実力者と言われるWA2000だ。

 常に最前線に立ち、周囲の尊敬を集める彼女なら、きっと何かしらの答えをくれるはず…そんな期待を胸に、97式はWA2000の元へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――どうせどこかの女に振られただけでしょ? 考えるだけ無駄よ無駄。あんな変態に悩むのも無駄だし、考えてる時間すら無駄よ。ほっときゃいいのよ」

 

 97式の期待は見事打ち砕かれる。

 ミーティングルームでコーヒーカップを片手に語学勉強をしていたWA2000に、ミラーのために何ができるか尋ねたところ、開口一番にそんな言葉が返ってきたのである。

 呆気にとられる97式をよそに、WA2000の日頃溜まった鬱憤が爆発する。

 

「だいたい、あいつ気色悪いったらありゃしないわ! この間なんか、私が更衣室で着替えてたらあの変態何食わぬ顔で入ってきて"ああ部屋を間違えた、すまんすまん"なんて…あぁ、思いだしただけでもおぞましいっ!」

 

「え、あの…えぇ?」

 

「というか気になってたんだけど、あいつの傍にいてあなた悪戯されたりとかしないの? 大丈夫? 何か悩みがあるなら相談に乗るわよ?」

 

 ミラーの悩みを解決するはずが、逆に心配されてしまっていることに97式は困惑する。

 どうやら聞く相手を間違えてしまったようだ…97式は今日まで知らなかったことだが、WA2000はカズヒラ・ミラーを心の底から毛嫌いしている。

 まあ理由は多々あるのだろうが、主にミラーのスケベ心から生理的嫌悪感を抱いてるようだ。

 

「あ、あの…お邪魔しましたー」

 

「ちょっと、大丈夫なの!? ねえったら、97式!?」

 

 これ以上は副司令の名誉のためにも、早々に離脱を決め、本気で心配してくれるWA2000に申し訳なく思いつつもその場を後にする。

 

「はぁ……人間関係って難しいね、蘭々」

 

「グルルルル…?」

 

 いつもミラーと一緒だったからこそ、WA2000の彼に対する罵詈雑言の嵐はなんとも言えない衝撃を97式のメンタルに与える。

 ミラーのことは全てではなくとも、ある程度分かっていたつもりであったが、人の評価は千差万別なのだ…彼を良く言うものもいれば、悪く言う者もいる。

 97式にとっては残念なことに、戦術人形の彼への評価はほとんど後者だ。

 

「ううん、あきらめちゃダメ。きっと解決策が見つかるはずだよね、頑張るよ、蘭々!」

 

 強い決意を胸に抱き、97式が次に向かった相手は…。

 

 

 

「あ、あの……エ、エグ……エグゼ…さん?」

 

「あぁ?」

 

 

 

 97式が足を運んだのは無謀にも元鉄血現MSF戦術人形連隊長のエグゼ。

 昔に比べたら丸くなったとはいえ、ちまたでは"常にキレてる女"とか"ブレーキの壊れたダンプカー"とか"一発殴って自己紹介する人形"とか言われてるほど、今でも短気で好戦的で喧嘩っ早い。

 勇気を出して声をかけたのも束の間、返ってきた機嫌の悪そうな返事に一瞬で萎縮…蘭々はと言えば97式の気持ちの変化を察し、唸り声をあげてエグゼを威嚇している。

 

「なんだお前? ケンカ売りに来たのか? 上等だぜ」

 

「そ、そそそ、そんなことないです! 蘭々、止めてよ! ケンカしちゃダメだってば!」

 

「テメェはともかくそのクソ猫ムカつくな…ぶっ殺してやる」

 

「そんな! ごめんなさい、ごめんなさい! すぐに帰りますから! ほら、蘭々もいい加減にして!」

 

 このままでは狂犬エグゼと猛獣蘭々のバトルが勃発してしまう、慌てふためく97式は必死で蘭々を抑えようとするが、こんな時ばかりは蘭々も言うことを聞いてくれない。

 お互い今にも命のやり取りを行いそうな様子に、パニックに陥る97式であったが、そこへ思わぬ救世主が現れる。

 

「なにやってんだお前はーッ!」

 

 騒ぎを聞きつけたらしい、ハンターがその場へ颯爽と駆けつけると、強烈な前蹴りをエグゼの顔面に浴びせて吹き飛ばす。

 

「なにを騒いでるかと思えば、また迷惑をかけて…! ヴェルもいてすっかり母親らしくなったと思ったら、目を離したとたんこれだ。まったく…大丈夫か、97式?」

 

「え、はい…あの、ありがとうございます」

 

 

 どういたしまして、そんな言葉を返そうとしたハンターであったが、蹴り飛ばされたエグゼが起き上がりハンターの後頭部を同じように蹴り飛ばした。

 無防備なところに受けた衝撃でハンターは前のめりに転倒し、強烈に打ちつけた顔を痛そうにさする。

 

「貴様…! よくもやってくれたな!」

 

「うるせえ、テメェが最初に蹴ってきたんだろうが! 来いよハンター、久々にキレちまったぜ」

 

「お前はいつもキレてるだろうがバカ! 今日ばかりは許さん、その腐った性根を叩き直してやる!」

 

「はっ! 御託はいいからかかってこいよこら! 修復施設にぶち込んでやるよ!」

 

「あ、あの二人とも…! ケンカは良くないと思うから…!」

 

「「部外者は黙ってろッ!」」

 

 二人の怒鳴り声に蘭々が反応し、大きな咆哮をあげる。

 蘭々のその咆哮をゴングの合図とし、エグゼとハンターの仁義なき戦いが勃発する…あっという間に滅茶苦茶になる部屋、怒号と罵声が飛び交い、すぐさま警備の兵士が駆けつけるがそれでも止められずなおも暴走する。

 

「ママー、がんばれー! ハンターねえちゃんもまけるなー!」

 

 そこへどこからか現われたヴェルの余計な声援で、二人は余計にヒートアップし、血走った眼で殴り合う。

 二人の顔はもうどちらの血か分からない血で真っ赤に染まる。

 技術も技もへったくれもない、完全に意地とプライドをかけた戦いだ…そしてエグゼがハンターの身体を投げ飛ばして扉を突き破り、戦いの場は居住区の廊下へと移る。

 

「わわ、なんだこりゃ!?」

 

 この騒動を聞きつけたスコーピオンとMG5は、突如扉を突き破り出てきたハンターに驚愕するが、彼女を追うように出てきたエグゼとバトルを再開したことで今何が起きているかを察する。

 このまま放っておけば居住区が滅茶苦茶になってしまう。

 スコーピオンとMG5は頷き合い、二人の仲裁に入るのだ。

 

「落ち着きなよ二人とも、どうしたのさ!」

 

「そうだ、落ち着け! 一旦落ち着いて、それから話しあおう!」

 

 二人の間に割って入り仲裁をしようとしたが、そんなスコーピオンとMG5を二人は邪魔者と認識し、その拳の餌食にするのだ…まさか攻撃されるとは思っていなかった二人は殴られて倒れる。

 が、起き上がった二人もまた感情的になり、仲裁することも忘れてこの不毛な争いに飛び込んでいくのだ。

 

「このバカ野郎が!」

 

「うっせえクソサソリ、死にやがれ!」

 

「泣きっ面を晒させてやるぞ愚か者めが!」

 

「でしゃばるなMG5ッ!」

 

 もはや手のつけられない彼女たちの乱闘を、97式は隅の方で蘭々を抱いて震えながら見ているしか出来ない。

 そしてこの騒動を聞きつけて人形たちが駆けつけるのだが、ケンカに巻き込まれて乱闘の規模は大きくなっていくのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――それで、警備兵に放水ポンプで鎮圧されて、騒ぎを聞いたオセロットに加担者全員営倉入りになったと」

 

「はい……すみません、ミラーさん」

 

 あの後、暴徒と化した人形たちは放水ポンプで強制的に鎮圧された。

 その時のオセロットはまさに鬼のようであった、というのが人形たちの話…今は営倉にぶち込まれ頭を冷やしていることだろう。

 

「97式が謝ることじゃない。かといって、ケンカをしたみんなが悪いってわけでもないんだ。ここ最近、仕事が多くてみんな気を休める時間もなかったんだ。きっと、ストレスも溜まっていただろう。みんなのストレスに気付かず、今回の事態を招いたのは、ひとえにオレのせいでもあるんだ」

 

「そんな、ミラーさんが悪いわけじゃ!」

 

「いや、オレのせいだよ。オレのせいでいいんだ。本当なら、みんな仲が良いはずなんだ。交友を深めるのはもちろん個人の努力によるが、トップに立つオレ自身が、みんなが交友を深められるような場を設けてやらなければいけないんだよ。分かるかい?」

 

「でも…」

 

「いいんだよ、これで。君が心配することじゃない」

 

 そう言って、ミラーは97式の頭をそっと撫でる。

 彼の手はごつごつとしていたが、大きく暖かいその手で撫でられる心地よさに97式は不思議なぬくもりを感じる。

 しかし、このままではミラーの悩みを解決しようという当初の目標は達成できない。

 97式は頭から離れたミラーの手をすかさず握り返す。

 

「ミラーさん、あたし、もっとミラーさんの力になりたいの!」

 

「どうしたんだ急に? 今でも十分力になってくれてるよ」

 

 ミラーのいつも通りの優しい言葉につい流されそうになるも、97式は首を横に振る。

 

「ミラーさん、あたしが出ていくといつも思いつめた様子でいるよね…今日だって、ため息ばかりこぼして…。ミラーさん、もしかしてみんなに隠してる悩みがあるんじゃないのかな?」

 

「うっ、それは…気のせいじゃ」

 

「気のせいなんかじゃないよ! あたし、もっともっとミラーさんの力になりたいの! もっとミラーさんを知りたいの!」

 

「97式……君はいい子だな、くっ…」

 

 97式の切実な想いを聞いたミラーは感極まり涙をこぼす。

 彼がこの世界にやって来てから今まで、戦術人形にここまで慕われることなどただの一度もなかった…やれ変態だのおっさんだのと、不名誉な烙印を押されて邪険に扱われていた日々とは、今日ここでお別れだ。

 

「ありがとう97式、嬉しいよ。君の言う通り、オレも悩みを抱えていたんだ…誰かに言えるわけでもなかったことなんだがな、君になら話しても良さそうだ」

 

「うん! 大丈夫、誰にも言わないから!」

 

「それを聞けて何よりだ」

 

 ようやくミラーの抱えた悩みを聞くことが出来る、どんな悩みかさえわかれば解決の糸口も見つけることができるだろう。

 蘭々を抱き、いざ悩みを聞こうとする97式であったが、打明けられた悩みは想像の遥か上をいくものだった…。

 

 

 

「実は、個人資産でやってるハンバーガーショップ"バーガーミラーズ"の収益が芳しくなくてな…何度も試作品を出してるんだが、あまり評判が良くなくてな」

 

「え? あ…え? ハンバーガー? 個人資産? それにバーガーミラーズ…?」

 

「ああ、オレはハンバーガーショップのオーナーという顔もあるんだ。こんなこと、ボスやオセロットに知られたらなんと言われるか……もちろん、MSFの資産には手を付けず自分のへそくりでやりくりしてたんだが…」

 

 まったく予想もしていなかったミラーの話に、97式はポカーンと口を開く。

 

「ただでさえ食糧難がささやかれるこの世界だ。食材の確保が難しい…かといって手を抜きたくない、ハンバーガーで成功するのはオレの中の夢の一つなんだ」

 

「あ、うん……ハンバーガーだよね、あたしも大好きだけど…ごめんなさい、ちょっと、予想外」

 

 反応に困る悩みを打ち明けられ、97式は困り果てる。

 書類整理はともかくとして、ハンバーガー開発のノウハウなどないのにどうしろと?

 この悩みは流石に解決できない、そう思った矢先、突如天井付近で物音が鳴ったかと思えば通気口の蓋が落下する。

 

 

「壁に耳あり窓に目あり天井裏にサソリあり! というわけでスコーピオンだよ!」

 

「スコーピオン!? お前、営倉入りになったんじゃ!?」

 

「むふふふふ、トリックだよ。それにしても、おっさん面白そうな話してるじゃん! あたしも混ぜてよ、ハンバーガーの開発するんでしょ!?」

 

「く、面倒な奴に聞かれた…すまんがスコーピオン、これはあくまでオレの個人事業でな。MSFには迷惑をかけていないし、内密にだな…」

 

「は?スネークに言いつけるよ?」

 

「スコーピオンちゃん大歓迎! 一緒に理想のハンバーガーを作ろうじゃないか!」

 

「やったぜ言質とった。というわけでみんな呼んでくるから待っててね」

 

「え? みんな? おい待てスコーピオン、おーいっ!!」

 

 

 

 

 

「蘭々、あたしミラーさんのこと…全部は分からなくてもいいや」

 

「グルルルル?」

 

 




待たせたな(歓喜)

コードトーカーの爺さんがいないから、あのケミカルバーガーはできないかもしれないが、それに近いかそれ以上のぶっ飛んだバーガーを作りだしてみせるぞ!
あ、もちろんスネークとオセロットには内密にな(シーッ!)


以下、開発チームです

鉄血仲良し(?)コンビ
ハンター、エグゼ

ゲルマン主従コンビ
WA2000、Kar98k

スプリングフィールド、スオミ、SAA

ワルシャワ条約機構
スコピッピ、9A91


試食係
404ニート


なんか変なチーム一つ二つあるけど、まーいいっしょ(適当)

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