METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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帰るべき家

 そこは洋上のとある孤島。

 島には人工物はなく、上陸をするには島の狭い範囲にある砂浜に上がる以外に方法はなく、また周囲は海流の影響で不用意に船を近づけようとすれば座礁する恐れもある。

 事実、この島を取り囲む岩礁にはこれまでに座礁したと思われる船舶が錆びついた姿で岩場に乗り上げている。

 人もおらず、資源もなく、また近付くのも容易ではない…空から入り込む手はあるが、何の魅力もないこの島に無理に入ろうとするものは普段は誰もいない。

 

 だからこそ、国境なき軍隊(MSF)はこの絶海の孤島を新型兵器の演習の舞台に選んだわけだ。

 島の広さはおよそ120㎢メートル、島は雑木林と起伏の激しい地形。

 戦車などの演習をするのには不適格な地形ではあるが、MSFが用意した新型兵器は既存の戦車とは大きくコンセプトが違っていた。

 

 無人兵器"月光"。

 対戦車榴弾を防ぐ堅牢な装甲と生体部品による脚部によって構成され、高い戦闘力を誇り数々の戦闘で活躍をしてきた月光であるが、今回ヒューイ率いる研究開発班のプロジェクトにより機体構造を再設計され、性能向上を図る改良が施されたのだった。

 遺伝子操作で造り上げた生体部品はより高い性能を引きだすべく、カーボンナノチューブ筋繊維による高出力の燃料電池一体型人工筋肉に換装。

 頭部の装甲もより堅牢かつ軽量に、特殊合金による装甲に換装されている。

 見た目はそのままであるが、機体の性能向上と軽量化、そして稼働時間の延長に成功したのだ。

 これにより月光の稼働率、そして運搬能力を上げて戦闘の効率性を引き上げる。

 

 その他、月光以外にも演習に参加したのはヘイブン・トルーパー隊の兵士たち。

 彼女たちの装備はこれまでと同様であるが、新型兵器との共同運用を目的に招集された。

 

 そして今回の演習の目玉であり、ユーゴ紛争で喪失したメタルギアZEKEに代わり新たなMSFの抑止力となるべき兵器"メタルギア・サヘラントロプス"。

 

 如何なる国家・組織・勢力・思想・イデオロギーに囚われず活動するため、MSFがその存在を確立するための抑止力として建造されてきたサヘラントロプスはようやく、演習として稼働出来るにまで至ったわけだ。

 

 

「開発にあたっては、404小隊が旧米国から手に入れた旧米軍の機密情報が役に立った。改良型月光にも応用された軽量の特殊合金によって、サヘラントロプスは機体サイズに対し重量を抑えることに成功した。機体制御、戦闘行動に関するAIについてはZEEKに搭載していたポッドをベースにしつつ、ストレンジラブ博士が発展させた新しいポッドを開発した。参考になったのは、無論、この世界の戦術人形たちだ」

 

 

 サヘラントロプス開発を主導し続けてきたヒューイも演習を見届けるため島に上陸、端末の画面にサヘラントロプスのデータを表示させ、MSF司令官スネークへとやや興奮した様子で説明をしている。

 

 

「サヘラントロプスの武装には、ぼくがこれまで携わったAI兵器を参考にしている。機関砲やミサイル、火炎放射器にSマイン、そしてレールガンだ」

 

「あのレールガンはZEKEにつけられていた…元はクリサリスのものだったが、それと同じモノなのか?」

 

「兵器としては同じだ。だが、クリサリスに取りつけていたレールガンとこれは別な設計思想によるものだ」

 

「それも、アメリカで回収した機密情報からもたらされたものなのか?」

 

 スネークの疑問に対しヒューイは頷き応える。

 彼は端末を操作して映したのはレールガンの設計情報、サヘラントロプスの開発にこの世界のアメリカの技術力がふんだんに盛り込まれており、各部にその影響が見て取れる。

 中でもサヘラントロプスに搭載されたレールガンは、何もかもが規格外の代物であった。

 

「以前のレールガンとは違い、今回開発されたレールガンはより高性能なものとなっている。加速力、撃ちだせる弾頭の大きさも向上している…その圧倒的加速力で、サヘラントロプスはどこにいても地球上のあらゆる目標へ弾頭を到達させられるんだ。原理は大砲とほぼ同じで、ミサイルの噴射炎を捉える警戒システムは探知できない」

 

「つまりは、核を搭載すればあらゆる警戒システムに発見されない、ステルス核兵器となるわけか…」

 

「そうだ。そしてサヘラントロプスはピースウォーカー、メタルギアZEKEと同じであらゆる地形を走破できる能力を持っている。ミサイルサイロも滑走路もいらず、今いるような絶海の孤島からでも、世界中を狙うことが出来る…もっとも、正確な射撃には人工衛星からの観測や高度な演算が不可欠だ。よって、サヘラントロプス単独での核攻撃はとても難しい」

 

「いや、十分すぎる。それにしても、この世界のアメリカの技術力は随分とSFじみたものがあるようだな」

 

「ほんと、その通りだよ。UMP45がくれた情報の中には、他にも核融合炉、テラフォーミング計画、浄化プロジェクト、ナノマシン、遺伝子工学を応用したクローン技術も入っていたんだ。知れば知るほど驚きだし、僕としてはこんな技術を持っていたアメリカが滅亡してしまったなんてとても信じられないよ」

 

 ヒューイの端末には多くの情報が表示されるが、専門家をもってしても難解な文字の羅列と数学式、幾何学的な模様が描かれている…こんな難解な情報を解読するのはなかなかに難しかったことだろう。

 だがここでスネークが気がかりになるのは、誰よりも核兵器を憎むヒューイがよくここまでサヘラントロプスの建造に協力してくれたこと…そんなことを言われたヒューイは少し照れくさそうにはにかむ。

 

「確かに、核兵器は嫌いだ。おまけに、この世界は一度核戦争が起こり核抑止の神話は崩壊している。だけど、それでもまだ人類は戦いを止めない…スネーク、何よりも僕は君を信頼している。君なら、この力を間違った使い方をしないって思うからさ」

 

「みんなお前に感謝している。戦場で戦う兵士たちにとって、お前が開発してくれる装備で何度も命を救われている。MSF司令官として、感謝したい」

 

「こう面と向かって言われると恥ずかしいね。さてと、今日の演習データはなかなかいいものが取れたと思うよ。完成までもう少し、微調整が必要だ…あと20%ってところかな。ところでスネーク、マザーベースにはいつ帰るんだい?」

 

「南米の任務は終わって、演習も見れたところだからな…今日にでも帰るつもりだ。どうしたこんなことを聞いて?」

 

「いや、エグゼがさ……この間、スネークはいつ帰ってくるんだーって、カンカンに怒っててさ。偉い騒ぎだったよ?」

 

「あぁ、確かに最近マザーベースに戻ってなかったが…そんなに怒ってたのか?」

 

「怒ってたなんてもんじゃないよ。毎日楽しんでるスコーピオンはともかくとして、エグゼは狂犬みたいに徘徊するし、スプリングフィールドはため息ばかりだし、9A91はぼうっとしてるし。ぼくが言うのもなんなんだけど、たまには帰ってみんなの顔を見た方がいい。人形だけでなく、他のスタッフも君に会いたいと思ってるはずだよ」

 

 これまでにも何度かマザーベースを空けることはあったのだが、忙しさも落ち着いてきたところでスコーピオンらはスネークを恋しく思ってきたのだろう。

 放っておくとヒューイの言う通り狂犬になってしまうので任務も落ち着いた今、マザーベースに帰るのがベストなのだろう。

 手土産は何もないが、ひとまずマザーベースに帰ろう、そう思うスネークであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘリに乗ること数時間、久しぶりに帰ってきたスネークは懐かしい潮の香りが混じった空気を大きく吸い込む。

 何人かのスタッフが出迎えに訪れ、敬礼を向けて尊敬するボスを迎えるのだ。

 

「ボス、よくぞお帰りで…」

 

 その中に、マシンガン・キッドがいるのだが、何故か松葉杖を手に腕を包帯で巻かれた痛々しい姿で立っていた。

 

「その傷はどうしたんだキッド?」

 

「ボスのせいですよ…? あんな狂犬ほっとくから…」

 

「……何があった?」

 

 狂犬が誰を指しているのかは明白だが、優秀な隊員であるキッドをここまでボコボコにするとはいかなる事態が起こったというのか。

 誰か説明をしろと、他のスタッフに目を向けるが、スタッフたちはサッと目を逸らす…。

 そんな時、スネークは背後の方からどす黒く猛獣の如き威圧感を感じ取り、咄嗟に振り返る。

 

「エグゼ…!」

 

 見つめる先には、牙を剥き出しにしながら息を荒げるエグゼの姿が…。

 なるほど、ヒューイやキッドが狂犬と呼ぶのもよく分かる。

 赤い目をぎらつかせてスネークだけを真っ直ぐに見つめ、ゆっくりとした足取りで接近してくるエグゼ…さすがのスネークも気圧されるほどの迫力だ。

 

「スネーク…テメェ…! オレ言ったよな? オレがお前に会いたいって思ったらどんな時でも拒絶すんなって…」

 

「任務だったんだ、仕方がないだろう。いいかエグゼ、落ち着け。あまりみんなに迷惑をかけるな」

 

「あぁ? オレよりも他の奴の心配かよ…! アンタがいない間オレがどんな思いでいたか知らないで、よくも…!」

 

 目の前までやって来たエグゼからはほのかに酒の香りが漂う、怒りに加えアルコールのブーストが加わってるとなればこれは一大事だ。

 こうなればエグゼは殴ってくるか噛みついてくるか…いずれにせよ攻撃的な手段に訴えかけてくるだろう。

 そう、スネークが思っていたのだが…。

 

「寂しい思いさせんじゃねえよバカ……一緒にいてくれるって約束したじゃんか…!」

 

 その瞳を潤ませながらエグゼは唇を噛み締め、スネークを弱々しく睨みつける。

 さっきまでの威勢はなりをひそめ、目の前にいるのは今にも泣きそうな顔で震える少女の姿だった。

 先ほどまではエグゼをどうにかしてくれという意見だったスタッフたちも、今のエグゼの乙女全開な佇まいを見ては、スネークの敵にまわらざるを得ない。

 咎めるような無数の視線がスネーク突き刺さる。

 

「スネーク、なんでオレがこんなに怒ってるか…分からねえだろ…?」

 

「しばらく帰って来れなかったのは悪かったと思う。だが任務だったんだ、遊んでいたわけじゃない」

 

「そんなことは分かってんだよ……だけどよ……先月は、オレが生まれた月だったんだ」

 

 嗚咽まじりに口にしたエグゼの言葉で、スネークは彼女の怒りと寂しさの原因に気付く。

 

 マザーベースでは恒例として毎月、その月生まれの兵士を集めて誕生日会を行っている。

 娯楽の少ないマザーベースで、兵士たちが酒を飲んで騒ぎ息抜きをするために、スネークとミラーが毎月パーティーを開くことを決めていたのだ。

 人間は誕生日を、エグゼのような戦術人形は製造された日付で。

 毎月行われていた誕生日会であったが、MSFが忙しくなるのとエグゼの誕生日の月が被ってしまい、スネークもまた長期の任務でなかなか帰ることが出来なかったのだ…。

 

「自分が造られた月を祝うなんて、これまで無かった…だから、誕生日パーティーは楽しみにしてたんだ…。だけど、あんたはいないし…仲間たちも忙しさでいない……しょうがないってのは分かる、分かってるんだ! だけど!」

 

 誕生日を、みんなにお祝いしてもらいたかった。

 肩を震わせながら、エグゼは弱々しくそう呟いた。

 

「悪い……今の忘れてくれ。こんな事でウダウダして気持ち悪いよな……」

 

「エグゼ……待て、お前が悪いわけじゃないんだ。だったら今から埋め合わせをしよう……遅れてしまったが、誕生日会をやろう」

 

「そんなこと言ったって…オレの時だけ特別扱いしたら、他の奴が」

 

「オレたちの事は気にすんなよエグゼ、そういう事情があるなら誰も文句は言わないさ。それに、オレは毎日パーティーでもいいんだ。そうすれば毎日酒を飲んで騒げるからな、そうだろみんな!?」

 

 キッドの言葉に、集まっていたスタッフたちがノリのいい返事を返す。

 さあそうと決まればキッドは松葉杖を放り捨て、人集めに奔走する…マザーベースの兄貴分的存在のキッドに誘われて断る者はこの基地にいない、戦術人形たちも集まってくれるだろう。

 

「エグゼ、そういうわけだ。今夜を楽しもう」

 

「んだよ…バカみたいに泣いちまったじゃねえか。恥ずかしい…」

 

 当事者を放って話が広まっていくことに戸惑いつつも、どこか嬉しそうに微笑むエグゼ。

 先ほど理不尽に当たり散らしてしまったことをまずは謝り、エグゼは嬉しそうにスネークの片腕にしがみつき、急遽用意されたパーティー会場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誕生日おめでとう!!」

 

 マザーベースの甲板上にクラッカーの小気味よい炸裂音が鳴り響くと同時に、そこかしこで乾杯の声や拍手の音が鳴る。

 急遽開かれることになったマザーベースの誕生日会は、予想以上に人が集まったことで、場所を屋外の甲板へと変更するのであった。

 とりあえず誕生日会をやりたかったエグゼは簡単な挨拶をすませすぐさま無礼講、数十分後には誕生日会というのも忘れた飲んだくれのどんちゃん騒ぎへと早変わりするのであった。

 

「よし、間に合ったー! エグゼ、誕生日おめでとう!」

 

「サンキューなスコーピオン! ところでどこ行ってたんだ?」

 

「ちょっと野暮用でハンバーガーをね…?」

 

「ふーん。そういやあれから隊にハンバーガー支給されないけど、没になったのか? つまんねーの」

 

「そりゃあね、あのハンバーガーってミラーのおっさんの個人的商売の試作品開発だったからさぁ」

 

「ほう、スコーピオン。興味深い話をしているな、詳しく聞かせてもらおうか?」

 

「うげっ、スネーク!? あ、あたし急用思いだした…!」

 

 逃げるスコーピオンを容易く捕まえたスネークの問い詰めにより、スコーピオンはあっさり自供…怒られると思って震えるスコーピオンであったが、スネークはその頭を撫でると、今度はミラーを捕まえようと彼を追いかける。

 

「カズ! オレに内緒でお前何をやってるんだ!」

 

「んな!? オレは何もやましいことはしていないぞ! 来んなー!」

 

 甲板上で繰り広げられるMSFトップ二人の追いかけっこに、集まるメンバーは大笑いしながら二人をあおりたてる。

 そこへ任務から帰ってきたスタッフや人形たちも混ざり、夕方を過ぎた頃からより賑やかに、より華やかなパーティーへと変わる。

 

 

「あー暑い! なんでここはこんなに暑いんだ!?」

 

「スコーピオン!みんな見てますから、ほら服を着て!」

 

「うるさいな…スプリングフィールド、あんたの格好暑苦しいんだ! そりゃ、脱がしちゃえっ!」

 

「ええ!? 止めてくださいスコーピオン! やめ! みんなも見ないでくださいよ!!」

 

 

 酔っぱらったスコーピオンの暴走にスプリングフィールドは迷惑を被るが、反対にMSFの男性陣から歓声があがる…スプリングフィールドの貞操の危機、それはWA2000がなんとか引き留めたが今度はWA2000にちょっかいをしかけるスコーピオン。

 

 

「そういや聞いてなかったけどさ、この間のオセロットとの二人旅どうだったの?」

 

「なによ。別になんだっていいでしょ…」

 

「あーそんなこと言っちゃう? 折角あたしが協力してあげたのにさぁ」

 

「あんたなにもしてないでしょうが!」

 

「いやいや、あたしは応援してたじゃん。あ、オセロットだ」

 

「え?」

 

「なーんてね。どんだけ欲求不満なのさ、あははははは!」

 

「殺す!」

 

 すぐさま取っ組み合いのケンカになる二人。

 だが事あるごとにケンカしてもそのうち収まり、酒も入った二人はおふざけなしでこの間のオセロットとの二人旅について話しあう…やはり彼女とオセロットの恋路は気になるのか、何人かの戦術人形が興味津々に集まってくるのだった。

 このように、集まったメンバーがあちこちで騒いだり、あるいは仲睦まじそうにイチャイチャしたりと、思い思いの時間を過ごしているようだ。

 

 いつもはスコーピオンとバカ酒飲みをする9A91もスオミと一緒ならのんびりとおしゃべりしながらお酒を嗜み、もはや公然の秘密となっているMG5とキャリコのカップルは隅の方で肩を抱き合い賑やかなパーティーを穏やかに眺めている。

 

 そんな中で、97式はトラの蘭々にぴったりと身を寄せ、緊張した面持ちでパーティーの輪に混じっていた。

 こんな大勢の中に入るのはここに来て初めてのことで、先ほどから硬直している。

 

「97式、大丈夫ですよ。ほら、蘭々もミラーさんもすぐそばにいますよ」

 

「うん、ありがとうスプリングフィールド。でも、ちょっと怖い…」

 

「そう言えば、97式は自分が造られた日付を覚えていますか?」

 

「えっと…今月の––––」

 

「あら、じゃああなたの誕生日もお祝いしなければなりませんね」

 

 スプリングフィールドは早速周囲に今月が97式の誕生日であると伝える。

 すると、それを聞いたスタッフ及び人形たちは口々にお祝いの言葉を叫ぶ…そのうち97式を祝おうと、キッドやネゲヴなどがやって来て、ちょっとしたお菓子のプレゼントをしたりする。

 最初は困惑していた97式、それを守るように周囲を睨んでいる蘭々。

 ふと、ぽろぽろと涙をこぼす97式に周囲はどよめく。

 

「ど、どうしたの97式!? スコーピオンがまた余計なことでも言ったの!?」

 

「なにさそれ!? あたし何も言ってないよ!」

 

 突然泣き出した97式に慌てふためく周囲に、97式は涙をぬぐい首を振る。

 

「泣くのは、弱いからだってあの人に…アルケミストにずっと言われてきた……涙は悲しいときとか、辛いときに流れるんだって、そう思ってたのに……おかしいよ、あたし…嬉しいのに、涙が…止まらないよ…!」

 

「97式…おかしくないよ。全ての涙が悲しいわけじゃないんだ」

 

 優しくスコーピオンに包まれた97式は耐えきれず、声をあげて泣いた…彼女のそれまでの境遇を知る者は、涙の意味を知り泣く97式につられてもらい泣きする。

 泣いている97式の背中をスコーピオンがよしよしとさすり、ただ優しく彼女を受け止めてあげる。

 本当は97式が好意を抱くミラーにこの役目を与えたかったスコーピオンであったが、酔ってパンツ一丁の男に引き渡すわけにはいかない。

 

「なんかしんみりしちゃったね、もう一度盛り上がっていこうか。97式も、もう大丈夫?」

 

「うん…ありがとうスコーピオン、それにみんなも!」

 

 それまで97式が怖がっていた周囲のスタッフたちにも微笑みかける…長く彼女を苦しめ続けてきたアルケミストの呪縛、アルケミストの他者へ抱く怨念と憎悪からついに彼女は解放された。

 苦しみから救われるのは死ではなくより大きな幸せ…かつてスコーピオンから伝えられた言葉の意味を、97式はついに知ることが出来たのだ。

 

 

 さあ、すっかりしんみりしてしまった空気を持ちなおそうとスコーピオンが気合を入れようとしたところで、UMP45が声をあげて静止する。

 

 

「こんなタイミングで悪いけど404小隊から発表があります。ミラーさん、いいですよね?」

 

「うん? あ、あぁ……そうだな。みんな、彼女の言葉を聞いてくれ」

 

 ミラーの呼びかけにそれまでがやがや騒いでいたスタッフたちも静かに彼女たちを見つめる。

 大勢の中で話し慣れしてないUMP45は少々戸惑っている様子であったが、やがて口を開く…。

 

 

「この度、私たち404小隊は本来の所属先のグリフィンに帰ることになりました」

 

 

 UMP45のその言葉の後に続く沈黙…数秒後、あちこちからどよめきが起こり、スタッフや人形たちは顔を見合わせ聞き間違えではないことを確かめ合っているようだった。

 

 

「理由、聞かせてもらってもいいかしら?」

 

「大きな理由はないんだけど、そろそろ帰らなきゃならないかなってさ。グリフィンのヘリアンにも泣きつかれてるし。良かったわねワルサー、あなたの望み通り、これで私たちとはお別れよ」

 

 にこりと微笑むUMP45に対し、WA2000は腕を組んだまま厳しい表情で彼女たちを見つめていた。

 何故? どうして? そんな声があちこちから聞こえてくる…古参のスタッフや人形たちからは居候と思われていた彼女たちだが、新規に加わった者から見れば彼女たちがMSFにいることは当たり前の光景であったために驚きのほどは大きい。

 

「MSFにはMSFの戦いがあるように、私たちには私たちの戦いがある。短い間だったけど、みんなと一緒に生活して一緒に戦ったことは貴重な経験だったわ。改めて、これまでのお礼を言わせてもらうわ」

 

「45、アンタの事だから思いつきで言ったわけじゃないと思う。だからさ、あたしからも言わせてよ…今までありがとうね」

 

「どういたしましてスコーピオン。ほら、みんなも挨拶して」

 

「あ、えっと。いままで45姉と一緒にお世話になりました! みんなとの生活、とても楽しかったし、何より…みんな本当の家族のように受け入れてくれてありがとう!」

 

「まあ、私から言わせてもらうとパンツ盗まれたり痛い目あったりろくでもないことの方が多かったけれど、退屈しなかったのは間違いなかったわね」

 

「マザーベース、わたしの第二の故郷だよね…海風受けながら眠るの、好きだったんだけどな…」

 

「みんな本当にありがとうね。また機会があったらどこかで会いましょう…エグゼ、鉄血出身のあなたと交友を築けたのもいい思い出よ」

 

 最後に、UMP45が声をかけたのは今日の誕生日会の主役のエグゼであった。

 だがエグゼは彼女たちに背を向けたままで振り向こうともせず、ただビール瓶を飲み干した。

 

「ふん、所詮グリフィンの子ネズミ小隊だ。どこへでも消えちまいな、せいせいするぜ」

 

 エグゼの辛辣な物言いをスコーピオンが咎めようとしたが、UMP45が引き止め"いいのよ"と首を振る。

 それでもエグゼにしては薄情すぎる、親友のそんな素っ気ない態度を見過ごせないハンターが彼女の傍に座り込み別れの挨拶でも促そうと思ったところ…。

 

「エグゼ…お前…ぷっ…はははははは! なんだお前、泣いてるの見せたくなくてそんな態度してたのか!」

 

「おいハンター余計なこと言うんじゃ…ちっ…! そうだよ、泣いてるよ、悪いか!? オレはこういうのに弱いって、何回も言ってんだろ…!」

 

 ハンターのおかげで泣き顔が晒されたエグゼは開き直り、404小隊との別れを惜しむ気持ちを素直に口にする。

 開き直ったエグゼは酒瓶を片手に大股で404小隊の前まで歩み寄ると、UMP45を指差し大声で宣言する。

 

「今日この瞬間にオレは明言するぞ! UMP45及びその部下たちは、オレたちの仲間であり家族だ! お前らはこれからグリフィンに帰るんだろうが…心はここに置いて行け! お前たちが最後に帰ってくる場所はここだ、いいな!」

 

「エグゼ……あなた、私たちを仲間って言ってくれるの?」

 

「ああそうだ! お前ら使ってた部屋も残しといてやる、だからよ…いつでも帰って来いよ。遠慮すんな、もうニートだのただ飯食らいだの言わねえからさ。そうだろ、スネーク?」

 

「ああ、そうだな。404小隊、もしも戻ってきたい時があったらいつでも戻ってこい。戦う理由に疑問を感じたら、いつでも思いだせ。オレたちと一緒に戦った時のことをな」

 

「スネーク…ふふ、驚かせるはずがわたしの方が驚かされたわね。分かったわ、いつか…いつかここに戻ってくる。その時はよろしくね、みんな」

 

「ああ、待ってるぜ。さーてと…また一から盛り上げなきゃならないな。スコーピオン、こういう時はお前の出番だろ、盛り上げ直して飲み直そうぜ!」

 

「よっしゃ、任された! では皆さん改めまして…404小隊の旅路の祝福とと国境なき軍隊の一層の繁栄を願いまして、かんぱーーいッ!」

 

 

 再び巻き起こる大歓声。

 この期に及んで気取った態度の者はいない、全員が今この瞬間を心の底から楽しむ。

 

 404小隊も、97式も、WA2000でさえも笑って、二度と訪れることのない"今日という日"を楽しむのだ…。

 

 人種を越え、組織を越え、国を越え、世界を越えて巡り合った者たち。

 

 彼らこそが、国境なき軍隊だ…。




MGSでも触れられていた月ごとの誕生日パーティー、人間、グリフィン、鉄血の垣根を越えてお誕生日会を開けたことに我ながら感慨深いものがある。

97式は幸せを知ることで痛みを和らげ、エグゼは404小隊と付き合ううちに彼女たちを仲間と認識することができた……404小隊とはここで一旦お別れだ、彼女たちにも戦いがあるからね。
みんな、もう前を進む準備はできた、誰も立ち止まってる人はいない。


だから、もうそろそろ物語を進めましょう。
決着を着けなきゃならない相手がいる。

次回予告

第五章長編【無 人 地 帯】(No Man’s Land)始動
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