METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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"無人地帯(No Man’s Land)"

『―――スネーク、今回の任務はユーゴのイリーナを仲介に出された任務だ。場所は旧アメリカ合衆国アラスカ州…ある国の研究機関が、アラスカで謎の熱源と振動を探知したということでその調査任務をオレたちMSFに依頼をしてきた。以前の派遣でアメリカは重度の放射能汚染が危惧されていたが、事前調査によるとアラスカは放射能汚染の影響が少ないらしい』

 

 マザーベースより発った飛行機の中で、スネークはカズヒラ・ミラーと通信を交わしていた。

 今回のスネークの任務は今ミラーが言った通り、アメリカ合衆国アラスカ州で観測されたという熱源と振動の調査だ。

 今回の依頼はミラーが請けたものだが、どこかスネークは納得のいかない様子だ。 

 

「ならわざわざオレたちMSFに依頼をしなくても、その国の調査チームを派遣すればいいと思うんだがな」

 

『アメリカの問題は放射能汚染だけではない。秩序の喪失で暴徒化した人間や、制御のタガが外れた軍事兵器が果てしない戦いを繰り広げている。インフラも壊滅的、並の人間じゃ数日も生きられないだろう』

 

「だから、オレたちに仕事が回って来たということか…カズ、イリーナが仲介をしてくれたから大丈夫だとは思うが、何か裏があるんじゃないのか?」

 

『それを調査するためでもある。今回の依頼は報酬としては高額で、なおかつ現地には旧米空軍の基地もある。運が良ければ、何か技術の発掘や兵器の類も見つけられるだろう。さっきも言ったが、放射能の汚染も少ない…あんたなら大丈夫だ』

 

「そうか、お前がそう言うならいいんだが…」

 

『スネーク…どうしたんだ? やはり、みんなが心配なのか? 大丈夫だ、町の防衛と言っても鉄血工造と直接やり合おうってわけじゃない。相手も、オレたちを相手に戦えばただじゃすまないと分かってるはずだ』

 

「カズ、慢心するな。奴らとオレたちは敵対していないが、お互い牽制はし合っている。睨み合いが些細な出来事で戦闘に発展することも十分に考えられる」

 

『分かっているさ。油断するつもりはない』

 

「それならいい。カズ、おそらくここからは定期的な通信連絡もできないだろう。だから、みんなを頼んだぞ」

 

『了解だボス。そろそろ通信の限界距離に近付く。幸運を、ボス』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――S03地区境界

 

 いまだ雪が残りつつも、暖かな春の太陽に溶かされた雪解け水が山麓の川に混じり流れる。

 雪解け水を得て幅の広がった河川の両脇は小高い丘が形成されており、川を境目にしてゆるやかな谷となっている。

 そんな春の訪れを感じられる穏やかな情景とは裏腹に、川を中央に据えた谷の間には戦火に晒されて廃墟と化した村と砲撃によって出来た無数のクレーター、焼け焦げた兵器の残骸が放棄されていた。

 そして川を見下ろす小高い丘には、それぞれ異なる勢力の武装集団が拠点を構えていた…。

 

 

「もっと深く掘れ! 数十センチ掘るのを妥協したばかりに頭を吹き飛ばされたくはないだろう!?」

 

 川より西側に位置する丘の上では、連隊指揮官のエグゼ指揮の下、兵士たちが一心不乱に穴を掘り陣地設営の作業を行っている。油圧ショベルなどの機械力も投入されてはいるが、エグゼが求める陣地形成に対しその数は少ないため、ほぼ全ての兵士が塹壕を掘るための労力として投入されている。

 

 連隊隷下の各大隊長に指示を出したエグゼは、連隊副官のスコーピオンと共に防御陣地を練り歩き、細かな指示を与えていく。

 この場所には多くの資材や弾薬、兵器などが運び込まれており、それらはさらに各陣地へと回される。

 既にエグゼ一人ではさばききれないような膨大な作業計画は、スプリングフィールドやMG5といった大隊長…そして救援として駆けつけたWA2000、9A91の二人が分割しそれぞれが部隊を監督し作業に当たらせている。

 

「うーん…陣地設営の資材が不足してるね。弾薬はもう一杯だよ、これ誰か間違えて頼んだんじゃないかな?」

 

「ちくしょう、間違って書いた奴は吊し上げてやる」

 

 これだけ大規模な作業となると、各所で連絡不足による物資の調達ミスなどが目立つようになる。

 そうならないように、大隊長などには監視をさせているのだが、それでもミスは尽きない。

 今も多量の弾薬を積載したトラックが到着、もう弾薬類は置き場もなく数箇所に無造作に置かれてしまっている…今はまだ天候も安定しているからいいものを、悪天候の下でそのままにしておくわけにはいかない。

 結局、弾薬を保存する仮設倉庫を用意しなければならないので、余計に資材がかさむのだ。

 

「エグゼさん! レイブン・ソード社の工兵部隊が到着したのにゃ!」

 

「やっと本職が来たな。よしIDW、この前指示したことは覚えてるな?」

 

「はいにゃ! レイブン・ソードの工兵部隊には、えっと、SAAの砲兵陣地を設営してもらうにゃ。それからFALさんの戦車大隊の補給陣地を設営…あ、合ってるかにゃあ?」

 

 指示された内容をスラスラと述べたIDWであったが、最後にはどこか不安げな様子で確認を求める。

 

「ああ、それで間違いないぜ」

 

「良かったにゃ!」

 

 間違いが無いことを認めてもらったIDWは声をあげて喜びを表現する。

 入隊時にはどこかおどおどして自信が無さそうだったIDWも今やMSFの戦力の一員だ…与えられた任務に向かう前に、エグゼがその尻を叩いて元気づけてやる。

 尻を叩かれたIDWはふにゃあ!と声をあげて飛び上がり、一目散にその場を立ち去っていった。

 

「へへ、頼もしいひよっこ共だぜ」

 

「わーちゃんの教育の賜物だね。しかしどうしようねこの大量の弾薬は?」

 

「まあ、あって困るもんじゃねえがよ。とにかく建設資材の確保が最優先だな」

 

「食糧の安定した供給も必要だね。まあ、それはわーちゃんがやってくれてるから大丈夫だと思うんだけどさ…」

 

「念には念をな、一応確認の連絡をしとけ…っと、そういや忘れるところだったぜ。各大隊司令部を繋げる電話線の敷設は出来たか?」

 

「うん、一応やっといたよ。ちょっと聞きたいんだけどさ、あたしら人形には通信機能があるのに、どうしてわざわざ有線通信なんか用意したの?」

 

 一応、指示には従ったスコーピオンだったが、エグゼの指示に対する疑問が残っていた。

 今では無線通信はなくてはならず、当たり前のように使っているもので、有線通信は戦術人形のスコーピオンらには馴染みがないどころか時代遅れの代物という認識すらある。

 通信線を張る手間もあるし、切れれば使い物にならず、通信線を繋いだ場所でしか交信を図ることができない…それはエグゼもよく分かっていることだ。

 

「移動には適さないのは承知だが、無線と違って有線なら妨害電波の影響も受けにくいし盗聴の心配もない。もしも相手がジャミングを仕掛けてきて、オレたちの通信機能が制限されても、有線通信があれば部隊間の連携はとれるってわけだ」

 

「なるほど、まだまだ有線式も使い道があるってことだね。それにしても、兵站構築がここまで疲れるとはね…いっつもやってもらってばかりだったから大変だよ」

 

「かなり重要だ。さてと、だいたいの指示は出したよな。後はサボってる奴がいたら、ケツを蹴り上げてやればいいか」

 

「大丈夫だよ、みんな働き者だからね。サボって遊んでるのは404小隊だけ……ってね……」

 

 無意識にその名を口にしてしまったスコーピオンはハッとしてエグゼの顔を伺うが、エグゼはただ周囲の作業を見ていた。

 

 あの日、404小隊がマザーベースを去ってから、早いもので一か月が経つ。

 あれから様々な紛争地に派遣され、そしてMSFに入った都市の行政運営の依頼…以前WA2000とオセロットが偵察を行った都市の行政を依頼されたわけだが、鉄血との領域がすぐそばにあるために、今こうして大急ぎで防御陣地の設営を行っているわけだ。

 こんな多忙な毎日を送っていたせいか、404小隊が去ったという実感を今まで感じることが出来なかった。

 

「45やみんなは元気にしてるかな?」

 

「あのノーパン女なら心配すんな。ネズミみたいにしぶとく生きてるだろうさ…いつか帰ってくるその日まで、オレたちもしぶとく生き続けるだけさ」

 

「そうだね…。でもなんか、すぐにまた会えそうな気もするんだよね」

 

「なんだそりゃ? そうなったらただのニートの家出じゃねえか」

 

 

 あれだけ感動的なお別れをしといてあっさり再会となったら、涙の無駄遣いではないか…そんなことを思い浮かべ二人は笑い合う。

 今後の作戦計画を二人で話しあいながら向かった先は、山麓を見渡すことのできる小高い丘だ。

 見下ろす先には緩やかなカーブをえがく川と、廃墟の村、焼け焦げた兵器がうち捨てられている……そして対面する反対側の丘の上には、動き回る何人もの人影がある。

 

 

「連中も、ここ最近活発に動いてるみたいだね」

 

「あぁ、そうだな…」

 

「エグゼ、ちょっと気負いしてる?」

 

「……少しな」

 

 エグゼにしては珍しい弱気な発言だが、スコーピオンは驚かず、ただ遥か前方を鋭い目で見据えている。

 

 MSFが防御陣地を構える真正面の丘の上で今も活発に動き回っているのは、"鉄血工造"の歩兵部隊だ。

 山麓の荒れ果てた廃墟は、鉄血と正規軍が交戦した跡であり、MSFがこの地に防御陣地を構築している間にも何度か小競り合いが起きていた。

 鉄血側が何度か少人数で偵察を企て、MSFが追い払う…鉄血が飛ばした偵察機を打ち落とすなど、小さな衝突は起きているが、今だ大規模な戦闘は起こっていない。

 どうやら鉄血は、MSF側の様子を探っているらしい。

 

「大丈夫だ、何も起きないよ。鉄血だって、MSFとぶつかり合えば大損害を被るって分かってるはずだ」

 

「そうだといいがな…夜間の索敵にサーチライトを置いておいた方が良いな。至急設置できるか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「よし。それから全員に通達だ…オレたちと鉄血の防御陣地のあいだには決して立ち入るな。正規軍の奴らが撒いた地雷、不発弾が多く埋もれてる。それに」

 

「あたしらの任務は町の行政と防御で、鉄血と戦争するのが目的じゃない…でしょ?」

 

「あぁ……この"無人地帯(No Man’s Land)"がオレたちと鉄血との境界線になるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、反対側に位置する丘の上で、布陣する鉄血を統率する立場にある"アーキテクト"は双眼鏡を手に忙しそうに動き回るMSFの部隊を眺めて見ていた。

 

「おぉ~! 流石国境なき軍隊(MSF)! 陣地設営の仕事も早いね~! 負けてらんないね!」

 

 MSFに対し、妙な対抗心を燃やすアーキテクトは早速部下に命じて自陣の掩体壕の強化と戦闘部隊の展開と増援を要請する。MSFが陣地を強化するたびにアーキテクトも負けじと戦力を増やす、双方が相手の上を行こうと狙うことで、この地に際限なく戦力が集まりつつある。

 MSFがここへ来てから間もないころはお互い牽制し合うだけだったのが、ここにきて軍事的緊張感が高まりつつある。

 それもこれも、アーキテクトの変な負けず嫌いなところが原因だ…そしてそれに振り回されるのが部下の"ゲーガー"だ。

 

「アーキテクト!このバカ! 攻めるつもりもないのにこんなに戦力を集めてどうするんだ!」

 

「え? だってこっちの戦力が弱っちかったらMSFが攻めてくるでしょ? それに向こうが増えてるんだから、こっちも増やすしかないっしょ!」

 

「はぁ…バカに何を言っても無駄か。いいかバカ、ここに大部隊を展開してるだけでコストがかさむんだぞ。それに私たちの任務はあくまでも新兵器のテストなんだ、MSFと戦うことじゃない。その辺分かってるのか?」

 

「……………え?」

 

「嘘だろ……まあいい、不用意に攻撃を仕掛けるようなバカな真似はするなよバカ」

 

「え~、じゃあMSFが攻撃を仕掛けて来たら黙ってボコボコにされればいいの?」

 

「そうは言っていない。私たちが戦う時は、MSFが攻撃の意図を見せた時だ。奴らが境界を越えてやって来た時は、攻撃の意図があるということだ」

 

「はいはい分かったよ~」

 

「本当に大丈夫かな…? 言っておくが、ふざけた真似はするなよ。ここにアルケミストを呼びたくない…」

 

「うっ、アルケミスト…! あたしあの人苦手なんだよねぇ…なんか、怖いし…」

 

「奴が来るような事態は避けよう。それと、"無人地帯(No Man’s Land)"の監視を怠るな。あそこで動き回る奴は敵と見て間違いないからな」

 

「了解っと! というか、あたしの方が上司だよね? ねえ、ゲーガー? ねえってば、おーい!ゲーガー!?」

 

 

 

 




~その頃アフリカ~

ウロボロス「イベントボスといったら私の出番だろう」
フォックス「お前ぶちのめされただろ、イーライの教育をしてろ」
ウロボロス「うむ。というわけでイーライ、背中を洗ってやるからな…む、おぬし股間に何を隠しておる!見せろ!」
イーライ「やめろーーッ!」
ウロボロス「これは……!ほう、このエロガキめ」
イーライ「くそ、死にたい…!」
フォックス「死を懇願した時勝敗は決まる」


ついに、始まった…ちなみにこの後の展開は、低体温症を下敷きとした改変ストーリーです。

こっからはシリアスが続くと思うんで、後書きについては補足を残す以外自重します。
ほな、また…。

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