エグゼと激しい口論の末、乱闘にまで発展してしまったスコーピオンは今、今だ砲撃の轟音が鳴り響く無人地帯に背を向けて座り、スプリングフィールドに怪我の手当てをしてもらっていた。
殴り合いで、目の上が切れて血が出ている…傷を止血し、消毒液を吹きかけると、スコーピオンは少しだけ痛そうに顔をしかめるのだった。
「信じられないよ…エグゼがあんなことするなんて…! そんなにAR小隊の皆が嫌いなの? UMP45を見捨ててまで…!」
「違う、違うよキャリコ…そうじゃないんだ」
エグゼの暴走を見て失望した様子のキャリコであったが、スコーピオンはその言葉を否定する。
「エグゼは、憎しみなんてとっくの昔に乗り越えてるんだよ……」
「じゃあ、どうしてアンタの事をあんなに殴ったりするの? 意味が分からないよ」
「アタシも、エグゼを理解できたのはさっきのことだよ。殴り合って分かったんだ…あいつの想いがさ。あいつも素直じゃないから言葉で全部を言い表さないんだよ…」
「なるほどね……じゃあ、アイツが誰よりも信頼する相手…スネークなら素直になると思う?」
「そう、信じてるよ…あたしは」
スコーピオンは、そうあって欲しいと願うかのように、その視線を司令部のテントへと向けた。
そこでエグゼは、電話のかかってきた相手…スネークと話をしているはずだ。
こうしている間にも鉄血の攻勢は勢いを増していき、404小隊の命は危険に晒されていく…もう一刻の猶予もないのだ。
404小隊、そしてエグゼの命運は敬愛するスネークにかかっている…どうかみんなを救ってくれ、そうスコーピオンは静かに願うのであった。
司令部に戻り人払いを行い、そこはエグゼが一人いるのみだ。
鉄血がはった電磁シールドで無線通信が使い物にならなくなった今、あらかじめ引っ張っておいた有線通信が唯一の連絡手段であり、司令部に繋がれた固定電話がある。
ここに来てからはエグゼの感情も、先ほどと比べて穏やかになっていた。
エグゼはそっと、受話器を手に取ると、少しためらうそぶりを見せた後に耳に押しあてた…。
「……スネーク…? スネーク、なのか?」
少し震えた声でエグゼは呼びかける。
返事はすぐに返って来なかった…静寂がなんとも言えない息苦しさをエグゼに与えていた。
『エグゼ、オレだ。元気にしているか?』
数秒の間を置いて返ってきたその声は確かにスネークのものだ。
自身が敬愛してやまないスネークの声を聞いた瞬間、それまで不安に押しつぶされそうな表情をしていたエグゼの顔に笑みがこぼれる。
司令部に繋がれている有線通信は町に繋がれ、そこからMSFの通信基地を経由しているので、通話にタイムラグがあるのは致し方ない…それに気付いたエグゼは少々気恥ずかしさを感じていた。
「スネーク、アンタはアラスカからかけてきてるのか?」
『ああそうだ。アンカレッジの基地で、まだ使える通信施設を見つけてな。こっちじゃろくに連絡も取れなかったから、そこをどうにかして使えるようにして、マザーベースに連絡を入れたというわけだ』
「そ、そうか…。アンタが大丈夫そうで安心したよ…」
『おかげさまでな。エグゼ……だいたいの話はカズに聞いたが詳しいことまでは知らない。今の状況を教えてくれ…』
「あぁ…そうだよな…。分かった…」
そこからエグゼは静かに語りかける。
ここに陣地を構えてから今日に至るまでの出来事を…無人地帯に墜落したAR小隊の事、それを助けるか否かでもめたこと、鉄血のアルケミストのこと、そして404小隊の事を。
静かに報告をしていたエグゼは仲間のこととなると熱っぽく話し、404小隊のこととなると声が震えていた。
「姉貴は…アルケミストは、AR小隊を助ければオレたちを皆殺しにすると言った。姉貴はやるといったら確実にやる、仲間が大勢死ぬ。仲間を犠牲にして、AR小隊を助ける意味なんてあるのか? そんなの、無駄じゃないか…! だから、45も分かってるはずなのに…助けるつもりがないって分かってるはずなのに…! なのに、どうして…あいつらはあそこに居続けるんだ!」
エグゼが吐露する思いを、スネークは静かに聞いていた。
今にも泣き崩れてしまいそうな声で叫ぶエグゼの言葉から、何かを悟ったのか、静かに問いかける。
『エグゼ、正直な想いをオレに教えてくれ……お前は、404小隊のみんなを助けたいか?』
「助けたいに決まってる! アイツらはオレの大切な家族だ、もう"
『怖いんだな……また大切な仲間を失うことが』
「…そうさ……怖いさ、怖くてたまらないよ…。戦争になれば、仲間が大勢死ぬ……おかしいんだよ、今まで何度も紛争を渡り歩いてたはずなのに…! AR小隊…あいつらと関われば、また大切な誰かを失うんじゃないかって……!」
鉄血にいた頃から続く、グリフィンとAR小隊との確執。
彼女たちと戦うたびに仲間を失っていたエグゼは、親友のハンターを目の前で殺されるという最大のトラウマを深く植え付けられていた。
それは怒りと憎しみへと変わり、エグゼに闇を落としたのだった。
だがそんな果てしない憎悪も、大切な仲間たちとの触れ合いで徐々に緩和されていき、生まれ変わったハンターと新しい絆が結ばれたことでどこかへ消えていった……そう、もうエグゼの精神に憎悪は無くなっていたのだ。
それでも唯一消すことが出来なかった感情。
それは大切な仲間が増えていくと同時に、大きくなっていったもの……恐怖だ。
それまで潜在していた恐怖心は、トラウマとなっているAR小隊の存在によって呼び起こされ、今の迷走へと繋がっている。
連隊長の自分が、組織のトップに立つ自分が恐怖心を抱えているなどと言えるはずもない…誰にも言うことのできない想いを抱えていたエグゼは、今やっと、スネークを相手にすることで吐きだすことが出来た。
「スコーピオンは、オレを理解してくれてる…だから臆病者と呼ばれたとき、図星だったオレは感情的になってそれを否定しようとした。オレはよりによって大切な親友を傷つけて、想いを踏みにじったんだ…最低だよな…あいつはいつもオレの事を気にかけてくれてるのに…!」
『恐怖心は誰しもが抱えることだ、恥じる必要はない』
「ユーゴでオレは一度あんたに言った……オレはもう一人じゃ生きていけないって。それをアンタは弱さじゃないって、そう言ったよな……教えてくれよスネーク、こんなオレがどうして強いなんて言えるんだ! もう何も失いたくない、あんな惨めな想いはしたくない!」
『部隊長としての重圧、AR小隊へのトラウマ、失うことへの恐怖…ましてや今仲間の命を奪おうとしている相手は、お前がかつて家族と呼んでいた存在だ。お前の心労が相当なものだということはよく分かる……お前の決断を鈍らせているのは、一つや二つのことじゃないんだからな……エグゼ、もう一度聞く……UMP45たちを助けだしたいか?』
「あぁ! いますぐにでも助けに行きたいさ…! このままでいれば大勢の仲間が死なずに済むかもしれないが…」
『仲間を見捨てた事実が…永遠にお前を苦しめる。UMP45はお前を信じて、ずっと戦い続ける…逃げずにな。そんな彼女をお前も、スコーピオン達も助けたい……エグゼ、もう答えは出ているじゃないか。みんなの気持ちは一緒だ……後は、お前の勇気があればそれでいいんだ』
「勇気…?」
恐怖から目を背けていたが、最初からみんなの気持ちは一緒であったことに、エグゼはスネークの言葉で気付く。
UMP45の想いも、スコーピオン達の覚悟も、エグゼの願いも全て一致していた。
『MSFは単なる傭兵集団じゃない…皆、組織や国家の枠を超えて集まった家族だ。仲間の危機には、例えそれが一人だろうと決して見捨てはしない…それを、お前も見続けてきたはずだ。確かに、お前が恐れていた事態になることもあるだろう……だが、自分の気持ちに嘘をつき、言い訳をして逃げることはするな。そしてこれだけは言っておく…例えどんな結末になろうとも、オレはお前の決意を責めはしない……』
「スネーク……分かった、分かったよ…アンタはいつも言ってたよな。誰かのためじゃない、自分自身のために戦うって……スネークやっぱりオレはアンタとは違うかもしれない……オレは、今も昔も、仲間のために戦いたい」
『……それでいい。エグゼ、お前は一人で戦っているわけじゃない…支えてくれる仲間も、共に戦ってくれる仲間もいる。背中を守ってくれる仲間も、過ちを気付かせてくれる仲間もな。自信を持て…戦士としての忠を尽くすんだ。でかくなれ、お前の中の勇気を、オレたちに見せてくれ』
司令部のテントからエグゼが姿を見せると、そこにいた者たちはいっせいに立ち上がると彼女の言葉を待った。
それに対しエグゼは落ち着いた様子で一瞥し、スコーピオンに目を留める…ゆっくりとした歩調でスコーピオンの前まで歩いていったエグゼを、周囲はやや不安げな様子で見つめていた。
「エグゼ、スネークと話はついたの…?」
「あぁ、しっかりとな。その前にスコーピオン、オレを一発全力で殴れよ」
何かを察したスコーピオンは、即座にエグゼの頬を思い切り殴りつける。
手加減なしのパンチをもろに受けたエグゼは数歩よろめくも、倒れることなく踏みとどまる…血の混じったつばを吐いたエグゼの表情は、妙に清々しい。
「効くな、お前の拳はよ……おかげで目が覚めたぜ」
「エグゼ…! あんためんどくさいったらありゃしないんだよ、どんだけタイムロスしたと思ってるのさ!」
「勘弁してくれよ。連隊長となると、一般兵士とは考えなきゃならないことが多すぎんだよ……各部隊に連絡しろ、これよりオレたちは404小隊及びAR小隊の救出に向かうぞ! それはすなわち、鉄血と全面戦争につながることを意味する!」
「そう来なくっちゃね…! わーちゃん、これでもうあたしらの腹は決まったね!」
好戦的な笑みを浮かべるスコーピオンにWA2000は呆れたようにため息をこぼす…が、妙に晴れ晴れとした表情でいるのは彼女も同じだ。
連隊長エグゼの決定は即座に各大隊長を通して、展開された部隊全員に周知される。
そして後方の砲兵大隊、そして戦車大隊にもだ……FALもSAAも既に万全の準備を整えていたため、すぐにでも攻撃が可能だった。
「あたしらは
声高々に叫び、部隊を鼓舞するスコーピオン。
長い膠着に嫌気がさしていた部隊の兵士たちは、開戦の合図に、一気に戦意を高揚させ、その雄叫びは大地を揺るがす。
そして後方の砲撃部隊が猛烈な砲撃を鉄血めがけ撃ちはなった時、兵士たちは塹壕を乗り越えて一気に坂を下る…目指すは404小隊とAR小隊だ。
ついに始まってしまった武力衝突。
鉄血の兵士たちは一瞬動揺した素振りを見せたが、すぐさまMSFを新たな敵と認識し迎撃の構えを見せる…。
「勘弁してくれよ姉貴……これが、オレの生きざまなんだよ…」
エグゼは一人、遠くに見える陣地を見据え拳を握り固める。
その表情に、哀愁を浮かべ、別れを告げるように背を向けた……。
「だああああぁぁぁっっ!!?? MSFが襲い掛かって来たぁぁぁっ!! どうしようどうしよう!? ゲーガー、どうすんのさこれ!? あいつらに任せとけば大丈夫だって言ってたよね!?」
「やかましい!! 耳元で騒ぐなバカ!」
「ふぎゃっ!?」
頭を抱えて喚き散らすアーキテクトの尻を思い切り蹴り上げたゲーガーはすぐさま無人地帯を見下ろせる位置にまで駆け上がり、双眼鏡で戦況を見極める。
まだ戦いは始まったばかりだが、MSF側の機動兵器と戦車が姿を見せ、圧倒的火力で襲い掛かってきている。
MSFの兵器に対し勝っている点は兵力の差と、ジュピターを含む重砲の数だ。
意図的に電磁シールドを張っている状況に置いて、ジュピターは正確な砲撃を行うことが出来ないのに対し、MSFは普段からAI制御に頼らない支援砲撃や、こう言った状況のために用意した有線通信のおかげで有効な火力支援を受けられている。
「くっ……だが戦力の差は覆せないはずだ…!」
そこからさらにゲーガーが向かったのは、アルケミストとドリーマーのいる指揮所だ。
腰巾着のようについてくるアーキテクトを引きつれて、ゲーガーは指揮所の扉を勢いよく開いた。
「しーーっ……静かになさいなゲーガーちゃん? ここは指揮所よ?」
「そんな悠長なことを言ってる場合か! MSFが攻撃を仕掛けてきた、どうするつもりだ!?」
苛立ちを隠すことなく怒鳴るゲーガーに、ドリーマーはくすくすと笑う。
それがなんとも感情を逆なでする…普段からドリーマーの態度が気にくわないゲーガーは彼女を無視し、今だ地図を見下ろし沈黙を貫くアルケミストにくってかかる。
「あわわわわ…! ゲーガー、止めなってば…!」
「うるさい! アルケミスト、お前の考えを聞かせてくれ…MSFを相手にどう戦うつもりなんだ!?」
ゲーガーの問いかけに、アルケミストは一切応えない。
ただ異様な雰囲気に気付いたゲーガーはそれ以上何かを言うことはせず、アルケミストの反応を伺う。
「処刑人、あのバカ……本気で助言してやったのにな。ゲーガー、あたしの考えが知りたいだって? 逆に聞くが、あいつらを皆殺しにする以外に考えることっていったいなんだ?」
振り返ったアルケミストは不気味な笑みを浮かべ、感情の読みとれない目をゲーガーに向ける。
背筋が凍りつくような冷たい眼光に貫かれ、ゲーガーは固唾を飲み、アーキテクトに至ってはゲーガーの背後に隠れてがたがた震えているではないか。
「MSF……所詮人間の集まりに過ぎなかったことか、あたしらとは相容れない。フフ……なんて言ったらいいかな……こんなにイラついたのは本当に久しぶりだよ。下劣な人間どもが……今度はあたしの可愛い妹分を誑かして奪うのか………許さない……クズ共が……殺してやる……絶対にっ…!」
無機質だったアルケミストの瞳に、どす黒い憎悪が渦巻く……見たこともない彼女の豹変ぶりにゲーガーでさえも震えあがり、アーキテクトに至っては目を回して失神しかけている。
「まぁまぁアルケミスト…落ち着かないと効率的に殺せないんじゃない? 怒りと憎しみはあなたの力の原動力だけど、それで判断力を鈍らせないでね?」
「心配するなドリーマー……自分の役割は分かっている。戦争であたしは負けるつもりはないさ……それに、あの屑人形共を血祭りにあげるまでは油断しないさ……ハハハ……それにしても憎らしいな、恨めしいなぁ…! 処刑人…お前もだ、お前もただで済むと思うなよ……あたしや、マスターを見捨てた奴がどうなるか…お前の身体に刻み込んでやるよ…!」
MSFの人形たちの絆ゲージがあがりました…エグゼに必要だったのは、一歩踏み出す勇気だったんやね…。
反対に、鉄血のアルケミストは憎悪ゲージが振り切ってやべぇことに…!?
ゲーム本編でアルケミストは中ボスポジだけど、特殊攻撃のテレポート攻撃を現実的に考えると結構ヤバい奴だと思うんだが…。