METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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偵察隊撃破任務

「うりゃーっ!」

 

 早朝のマザーベースに、スコーピオンの気合の入った雄たけびが響き渡る。

 まだ食堂も開いていない時間帯にもかかわらず、スコーピオンは誰よりも早く起きて訓練場で汗を流していた。

 彼女だけではない、遅れてスプリングフィールドや9A91、そしてWA2000もやって来て一緒に訓練を行っている。

 そのうち、MSFのスタッフたちも興味があるのかやって来て、訓練を見守るように見つめていたりもした。

 

 オセロットによる教育が始まってから数週間。

 あれだけ文句を言っていた彼女たちは今、進んで彼の訓練を受けるようになり、オセロットの厳しい指導にもめげることなく参加している。

 彼女たちが努力している姿にスタッフたちは感心しているが、実際彼女たちは強くなっていた。

 その姿に刺激され、MSFのスタッフたちもよりキツイ訓練にも進んで参加したりと、彼女たちの訓練に励む姿は周囲に良い影響を与えていたのだ。

 

 朝の訓練を終えてシャワーで汗を流した彼女らをオセロットは呼びつける。

 

 普段彼のいるプラットフォームへと足を運ぶと、そこにはヘリが一機と前哨基地にいるはずのマシンガン・キッドが待っていた。

 

「お前たち」

 

 オセロットの第一声に、戦術人形たちはバツの悪そうな顔をする。

 その声はいつも訓練中何か失敗したりして叱られる前の声色と同じだったからだ…。

 

「今日の訓練は休みのはずだ。自主的に訓練する姿勢は立派だが、休める時には休め。じゃないと身体が持たなくなるぞ」

 

 しかし、予想していたようなお叱りの言葉はなく、むしろ休みの日にも関わらず訓練をする彼女らを気遣う言葉だった。極たまに見るオセロット教官の優しいところだ、今日は良い一日になるかもしれないなと彼女たちが思っている時だ。

 

「明日、お前たちにはキッドと組んで戦地に行ってもらう。そうだ、お待ちかねの戦場だ」

 

「うわ、マジ!? やっと戦場に行けるんだね!」

 

「スコーピオンお前のそういう態度を見ていると一番不安になる。まあいい…キッド、一応言っておくが無茶はさせるなよ」

 

 オセロットのその言葉に、キッドは片手をあげて応える。

 その場を去っていくオセロットをしばらく眺めていた後、キッドは邪魔者がいなくなったと言わんばかりに彼女たちに声をかけるのだった。

 

「よ、久しぶりだなスコーピオン。それと麗しのお嬢さんがた、オレはマシンガン・キッド。明日の任務ではよろしくな」

 

 気さくな口調で語りかけるキッドであるが、女性陣の目は厳しい。

 顔見知りのスコーピオンはフレンドリーだが、ほとんど初対面のスプリングフィールドと9A91の反応は薄く、WA2000に至ってはキッドの自己紹介など聞いていないのか髪を弄っている。

 

「あれ、みんなこんなだったっけ?」

 

「案外人見知りだからねみんな。それで、任務って何なの?」

 

「ああ、そうだな。簡単な任務さ、前哨基地付近の鉄血の奴らを追い払う簡単な仕事さ」

 

「鉄血を追い払う?」

 

「お、君は確かスプリングフィールドといったね。その通り、前哨基地にはオレたちの宿舎もある。連中がうろついてたんじゃ安心して夜も眠れん、だからオレのような戦闘班が出向いて、奴らのケツを山の向こうまで蹴り飛ばしてやるって作戦だ」

 

 いまのところ前哨基地では大きな戦闘などは起こっていないのだが、たまに偵察にやってくる鉄血の人形たちとの小競り合いはいくらか起きている。拠点の設営は既に完了し、ちょっとした部隊程度なら歴戦の戦闘班と配備された戦車等により返り討ちにできる。

 それでも現状限られた物資でやりくりしている以上、大規模な攻撃を受けて大きな被害を出さないためにも、小さな脅威といえど見逃さず対処している。

 これは前哨基地を任されているエイハヴ主導のもとに指揮されている。

 

 今回キッドとオセロットの間でやり取りがあり、訓練の一環とスネークとオセロット以外の現場で戦うMSFスタッフを知るために準備された。

 まだ人間の紛争に関わる仕事に混ぜられないと判断し、彼女たちも慣れた相手である鉄血との戦闘で、MSFの一員としてさらに一歩成長させる意味も兼ねている。

 その日はキッドもマザーベースでやることがあるのでそこで別れ、彼女たちも思い思いの休日を過ごす。

 

 

 

 翌日、キッドと戦術人形たちを載せたヘリが前哨基地へと着陸する。

 

 久しぶりに訪れた基地はしっかりと補修され、簡易飛行場も設けられた立派な基地と化していた。

 いつの間にか運び込まれた戦車や戦闘車両の他、ヘリも多数配置されている。

 機銃、迫撃砲、火砲といったものが基地の要所に設置され、塹壕も掘られた防御陣地により基地は要塞と化していた。

 

「うへぇ、人数少ないのにグリフィン以上の設営能力ってどういうことよ?」

 

「MSFをそこらの傭兵と一緒にされちゃ困る。さて、ちょっと待ってろ」

 

 キッドは少しの間離れ、数分後には一台のジープに乗って戻ってくる。

 

「昨日雨が降ったからな、こいつみたいなのが一番だ。乗りなよ、少しドライブと行こうじゃないか」

 

 一般的な非装甲車両に、ブローニングM2を載せた車両だ。

 その車両を眺めていたスプリングフィールドは、据え付けられた重機関銃に取り付けられたスコープに着目する。

 その視線にキッドも気付き、得意げに話す。

 

「オレはマシンガンの名手だが、狙撃の名手でもある。こいつで遠距離から単発射撃で敵を仕留める、鉄血の人形もこいつにかかれば木端微塵に吹き飛ぶ。ま、持ち運びに難があるがな…」

 

「射程と安定性、そして威力を備えたこの重機関銃は狙撃にも向いてますからね。MSFにもこの戦術が広まっているのは驚きです」

 

「ああ、オレが広めたんだ。さてそろそろ行こうか、鉄血の偵察隊は待ってくれないから」

 

 助手席にスコーピオンが飛び乗り、後の三人が後部座席に座ったところでキッドは車を走らせる。

 雨が降り、ぬかるんだ悪路を車はうなりをあげて突き進んでいく。

 前哨基地を出ればそこは戦場だ、キッドはハンドルを握りながらも周囲を警戒していた。

 

「ここだ、連中がうろついてたのを最後に見たエリアだ」

 

 そこは前哨基地からちょうど山を一つ越えたあたりの場所であった。

 起伏のある針葉樹林は人間の手で植樹されたのか密生しており、管理されていない森の中は昼間だというのに不気味な薄暗さがある。

 その場所を少し調べた後、森のさらに奥まで車を走らせた。

 

「よしみんな降りてくれ、ここからは歩きだ」

 

 車両を林の中に隠しキッドを先頭に彼女たちはうっそうと生い茂る森を歩いていく。

 

 キッドは時折振り返り彼女たちがきちんとついてきているか確認するが、それはいらない心配だった。

 数週間前までは、このような森に入ることは嫌がっていた彼女たちであったが、今は文句の一つも言わず周囲を警戒しながら一定の距離を保ちついてきている。

 オセロットの訓練を受けている彼女たちは、前とは比べ物にならない程に戦闘技術を向上させている…後は不屈の精神(メンタル)を彼女たち自身が身に着けるだけだ。

 

 ふと、キッドが立ち止まり静かにかがむ。

 それに倣って彼女たちもその場にしゃがみ込み、銃を構え周囲をうかがった。

 

 木々が風に揺れる音と小鳥のさえずりに交じって、誰かの話し声が聞こえてくる。

 それは薄暗い森の奥から聞こえてくるようだった。

 

「鉄血か人間かあるいは…野良の戦術人形か。確かめに行こう」

 

 声のするほうへ、キッドたちは静かに近づいていく。

 薄暗い森の中を進んでいくごとに聞こえてくる声は大きくなってくる、森が開けて周囲が明るくなったところにその声の主はいた。

 長い黒髪にアサルトライフルを手にした少女だ。

 その少女は誰かと通信をしているようだが…。

 

「あれは、M4!」

 

 その少女を目にしたスコーピオンが思わずそう叫ぶ。

 その声は通信を行っていたM4という名の少女にも聞こえたのか、彼女は銃口をキッドたちに向けてきた。

 とっさに銃を構えたキッドをスプリングフィールドが制す。

 

「見つけたぞM4!」

 

 銃口を向けあい膠着していたところに、鉄血の戦術人形たちが突如としてあらわれ襲い掛かってきた。

 鉄血はキッドたちの姿も視認するや迷いなく引き金を引いた。

 静かな森はあっという間に銃声が鳴り響く戦場と化す、スコーピオンたちもすぐさま散開し木や岩などを遮蔽物に応戦する。

 

「偵察隊どころじゃないな!」

 

 激しい銃撃から身を隠しながらキッドは諜報班の話しと違う状況に悪態をつく。

 鉄血側からの銃撃によってスコーピオンと9A91は身動きが取れず、スプリングフィールドとWA2000は銃弾の雨の中で正確な狙いをつけられないでいる。

 キッドは敵の目をかいくぐり匍匐の姿勢でその場を離れている。

 逃げているのではない、鉄血の部隊を視界に収められなおかつ頑丈な遮蔽物のある場所にまで移動し、キッドは機関銃を据え付ける。

 

「よくもやってくれたな鉄血人形!」

 

 キッドの軽機関銃から放たれる弾幕によって鉄血の人形たちは身を隠し銃撃が止まる。

 その一瞬のスキを見逃さず、スコーピオンは遮蔽物を乗り越え鉄血が身をひそめる遮蔽物のそばに転がり込んだ。

 そこで焼夷手榴弾のピンを抜き、鉄血が身を隠す遮蔽物へと放り投げる。

 投げた手榴弾が爆炎をあたりに振りまき、炎に飲み込まれた鉄血の人形たちはたまらず遮蔽物から身をさらす。

 

「用意、撃てッ!」

 

 スプリングフィールドの掛け声とともに、WA2000は彼女とともに身をさらす鉄血の人形たちを狙撃する。

 浮足立った鉄血へ最後のとどめを刺すのは9A91だ、彼女は後退する鉄血の側面に素早く移動すると無防備な側面から追撃をかける。

 一瞬のスキを突かれ瓦解した鉄血の部隊はなすすべもなく殲滅される。

 

 最後の人形に銃弾を叩き込んだスコーピオンは残りの敵がいないか周囲を警戒するが、もう森の中で動くのはキッドたち以外に誰もいなかった。

 

「クリア。鉄血の殲滅(せんめつ)を確認、いやぁ危なかった」

 

 口ではそういうものの、戦況を見極め大胆な動きで敵を瓦解させたスコーピオンの功労は大きい。

 仲間たちからの褒め言葉に素直に喜ぶスコーピオンである。

 

「お前ら大したもんだ、実戦で通用する強さだ。もうオセロットの教育は必要ないんじゃないか?」

 

「ま、あたしはそれでいいんだけどね。ワルサーがオセロットと一緒に居たくてたまらないみたいなんだよね~」

 

「バ、バッカじゃないの!? あたしはただ教官としてあの人を尊敬してるだけで、そんな感情なんてないんだから!」

 

「まあまあ、二人とも。まだまだ私たちはオセロットさんに教わることがまだありますから」

 

「わたしは…早く指揮官と一緒に行動したいです」

 

 思いは人それぞれだ、彼女たちは一応オセロットに敬意を払っているようだ。

 個性が強すぎる彼女たちには、オセロットの厳しさがちょうどよいのかもしれない。

 

「そういえば、さっきの戦術人形は?」

 

 ふと、先ほど見つけたM4のことを思い出したキッドは周囲を見回すが、そこに彼女の姿はなかった。

 戦闘の合間にこの場を逃れたのか…。

 

「なんだよ、仲間がいたってのに挨拶もなしに消えちまうなんて…愛想のない奴なんだな」

 

「違うよ、M4は優しい子なんだ。きっと、何か事情があるんだよ」

 

「ふうん、そうかね。そういえば鉄血の連中も彼女を探してたみたいだったな…何かありそうだ、一応ボスとミラー司令の耳に入れておこう。さて任務はおしまいだ、家に帰るとしよう」

 

 鉄血の偵察隊を見つけて撃破するという当初の任務とは違ったが、キッドはオセロットから頼まれた彼女たちの実力を確認するという個人的な任務は達成できた。

 この後キッドは報告書を作成し、オセロットに届けられることになる……余談だが、キッドは贔屓目につけすぎた報告書の内容をオセロットに疑われることになるのであった。




あんまり話が進みませんでしたね。


補足ですが、ドルフロのOPで登場してるスコーピオンとここでのスコーピオンはまた別な存在です。
なのでM4の任務は知りません。


そのうちカズが主役の話を書きたいなー

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