真っ先に動いたのはシーカーであった。
鉤爪状の足で床を踏みしめ、床を踏み砕く勢いで駆けだしたシーカーは左手に構えた抜き身の軍刀を、スネークの心臓部をめがけ突きたてる…力強い踏み込みと、全身のバネをフルに活かしたその刺突は目の前で一気に加速した。
その戦技はスネークにとって初めて見るものではない…既視感のあるその刺突と踏み込みは、同じくブレードを得物とするエグゼが得意としていた技であった。
ただしエグゼと比べ、シーカーのそれはスピードと斬撃のキレ、そして相手の急所を狙い撃つ的確さで大きく凌駕する。
シーカーの弾丸のような刺突を寸前で見切ったスネークであったが、空を突いたシーカーの軍刀は即座に引き戻され、銀色の刃がスネークの肉体を斬り裂かんと迫る。
咄嗟に、左手に握るナイフでその斬撃を受け止めたスネークであるが、斬撃の重さに手がしびれる感覚に見舞われた…一瞬のつば競り合いの最中に、不敵な笑みを浮かべたシーカーは、強引にスネークを弾き飛ばすと再度姿勢をかがめ床を踏みしめ走りだす。
だが一方的にやられているばかりのスネークではない。
エグゼと同じ戦技を駆使し本家を凌駕するシーカーだが、エグゼとの訓練でその戦技を見続けていたスネークはその攻撃を素早く見切る。
先ほどと同じ刺突攻撃、真っ直ぐに向けられた刃を躱す…次に来る追撃、シーカーが軍刀を振りぬこうとする瞬間、彼女の腕を蹴り軍刀を弾く。
「甘いな、ビッグボス…!」
次の瞬間、シーカーは好戦的な笑みを浮かべたかと思うと、手から落ちた軍刀を気にも留めずそのしなやかな脚を振るう。
鉤爪状のブーツはそれだけで鋭利な凶器となる。
頭部を狙った上段回し蹴りをかがんで躱し、一度距離を取ろうとその場を跳び退く……が、再び回し蹴りを放とうとするシーカー。
避けられる距離まで退避していると認識していたスネークであったが、それはおおいな慢心であった。
シーカーの脚部の鉤爪は先ほど地面に叩き落したはずの軍刀を器用に掴み、反応が遅れたスネークの胸元を斬り裂いた…。
「油断したかビッグボス、この鉤爪は装飾などではない。私の義体の一部だ…しかし見事な反応速度だ、仕留めたと思っていたのだがな」
足の鉤爪で掴んでいた軍刀を手に戻し、シーカーは見せつけるように足の鉤爪を器用に動かしてみせる。
鉤爪の把持力で加速を助長させる、エグゼ以上の突進力の一因を垣間見たスネーク……斬り裂かれた胸元は致命傷にはならないが、肋骨をいくらか斬られ、激痛がスネークを襲う。
だが痛みには慣れている…軽い深呼吸を繰り返すことで痛みを痛みと感じさせず、スネークはナイフと銃を構えた…。
「ドリーマーや代理人はお前たち人間を下等な虫けらと蔑むが、私はそうは思わん……人間の持つ可能性、これほどまでに探究心を刺激する物は無い。ビッグボス、特にあなたは特別だ……あなたは私が知るどんな人間とも違う、未知の可能性を秘めている。こうして手を合わせても、その一端すら私には図り切れん。面白い、人間とは本当に面白い! あなたのような非凡な者と巡り合えるのだからな」
シーカーは軍刀を鞘に納めて腰に差し、ホルスターから二丁の拳銃をとりだした…腰を落とし、拳銃を構えたその姿に、二人の死闘を見守るハンターはそれが自分の得意とする戦技であることに気付く。
シーカーとハンターの二人は面識はない…それなのに、何故このように同じ戦技を模倣できるのかと考えた時、ハンターは察する……シーカーはあの鉄血との激戦の最中、戦術人形を繋ぐネットワークの中に潜み密かに戦場を俯瞰していたのだ。
そこでありとあらゆる戦術、戦技を観察し、習得した。
おそらくエグゼの技も、そこで得たものに違いない。
だとすれば、MSFの歴戦の兵士や、オセロットに劣らないCQCを身に付けているWA2000の戦技なども既に習得、あるいは見切っているのではないか。
新型ハイエンドモデル
動揺も焦りもない、彼の青い瞳からは少しの不安も感じることは無かった。
「行くぞスネーク、これが見切れるかッ!」
二丁拳銃より放たれる連射、常人には扱い切れない大口径の弾丸を撃ちだす拳銃を難なく制御するシーカー。
訓練場に併設される遮蔽物を利用し弾丸を回避するスネークを、シーカーは素早く追跡する…足の鉤爪で遮蔽物を掴んで乗り越え、スネークが身を隠す遮蔽物の真上に躍り出る。
銃を構え、頭上から弾丸を叩き込もうとしたシーカーであったが、そこにスネークの姿はない。
一瞬の最中にスネークを見失ったシーカーは軽く動揺したが、彼女の優れた演算処理能力は、素早く戦闘データを解析しスネークが身を隠したであろう位置を特定する。
「そこか!」
遮蔽物から飛び降りたシーカーは、特定した位置に向けて弾丸を叩き込む。
大口径の弾丸が遮蔽物を打ち砕く…たまらず飛び出たスネークに笑みを浮かべたシーカーは、遮蔽物から飛び降り一気に接近する。
先ほどの斬撃によって流された血は、この激しい動きにより多量であると予測し、スネークの動きも鈍ると判断したシーカーは一気に勝負をかける。
リロードを要する拳銃をホルスターにおさめ、軍刀の柄に手をかける…。
「とどめだ、ビッグボス!」
スネークに対し接近したシーカーは、抜刀と同時に仕留めるつもりでいた……スネークはおそらく満身創痍、シーカーは自身の判断を少しも疑わずにいた。
だが、スネークはまだ力尽きておらず、今まさに抜刀しようとしていたシーカーの腕を掴むと、彼女の膝に向けて引き金を引いた…。
銃撃を受けた足をわずかによろめかせるが、シーカーは持ちこたえる……しかし一瞬生じたシーカーの隙を突き、今撃ったばかりの膝に蹴って大きくよろめかせると、彼女の頭を掴み床に叩き付けた。
「くっ……やるな…!」
スネークの体力を見誤ったことに気付いたシーカーは即座に起き上がると、自身の戦闘データを大幅に修正し最善の戦技を導きだす。
彼女が選んだのは持久戦、未だ出血が止まらないスネークをスピードで疲弊させ仕留める……そう決断したシーカーが、床を踏みつけた時だった。
突如、シーカーの足が太ももの辺りで断裂し人工血液が辺りに巻き散らされた。
銃撃を受けた箇所が耐え切れずに損傷したか…そう思ったシーカーであったが、断裂したのは無傷の足の方だ…。
「ちっ……この
シーカーの足の断裂は、ボディの性能を超過した戦闘行為によって負荷がかかったことによるものであった。
ズタズタになった足はもうまともに動かせず、もう一方の足も銃弾を受けて動きが鈍い…とんだ幕切れにシーカーは残念そうにため息をこぼす。
後は決着を下されるのを待つだけ……しかし、スネークは構えていた銃を下ろしナイフをしまう。
「どうしたビッグボス、憐れんでいるのか? 心配するな、
「勘違いをしているようだな、オレはお前を殺すために戦ったのではない。お前を殺せば、エグゼのデータは凍結されたままだ」
「なに…? だがそれは……あぁ、すまん…もしかして気を遣わせてしまったのだろうか? 私としては殺されてもそこらの人形を依代にしようと思っていただけだが。ふむ、私はお前を全力で殺そうとしたがお前は殺そうとはできなかったということか……
そう言うと、シーカーは部下の鉄血兵の一人を招くと、しばし目を閉じた後、糸が切れたかのようにその場に崩れ落ちる…。
「この
そして、今しがた呼ばれた鉄血の兵士からシーカーの声で話しだす。
シーカーが元のボディを捨てて、その鉄血兵にAIを移したのだと気付く……色々と規格外なシーカーの様子に、戦闘を見ていたハンターは動揺を隠しきれない。
「データは既に用意させてもらっていた…これだ、これが処刑人及びその他ハイエンドモデルの研究データだ」
「ずいぶんと素直に渡すんだな」
「罠だと思うかビッグボス? だが信じて欲しい、騎士の誇りにかけて誓おう…これがお前が欲するデータだ」
シーカーはそっとデータがおさめられているという記憶媒体を差し出す……スネークはシーカーを注意深く見つめながらそれを受け取ろうとした時だった、その場にケタケタと笑う声が響き渡る。
「ダメよシーカー、それを渡しちゃ。それにMSFのビッグボス、面白いわね……こんなところで会えるなんて」
「ドリーマー…お前」
訓練場内に新手の鉄血兵が入り込み、スネークとハンターを取り囲む。
上階にもたくさんの鉄血兵が現れ、その全員がスネークとハンターに向けて照準を合わせていた……そこへ心底楽しそうに笑うドリーマーがゆったりとした足取りでやってくると、その銃をスネークに向ける。
だが、シーカーは何を思ったのか、ドリーマーの銃に手をかけると、その銃を下ろさせた…。
その行動にドリーマーは張りつけていた笑みを消し、射抜くようにシーカーを睨みつける。
「この男は約束を守った…一対一で戦ってくれた。おまけに彼には借りができてしまった」
「はぁ?あんた何を言って…こいつを殺せばMSFは終わるのよ、そんな絶好の機会をみすみす逃すつもり?」
「ドリーマー、お前はこの私を卑怯者にしたいのか? 約束を破り、堂々と胸を張れぬ勝利など私は願い下げだ……誰も手を出すことは許さん、丁重にお送りして差し上げろ。ドリーマー…分かったな?」
「…………」
「ドリーマー?」
「ちっ、分かったわよ……あんたの権限に従いますとも。命拾いしたわね人間、それにハンター」
忌々しく睨みつけるドリーマーにハンターも睨み返す。
大人しく引き下がるような相手には見えないが、ドリーマーは本当に手を出してこない……鉄血では、例外もあるが、より上位のAIに対し命令は絶対服従だ。
だとすれば、ドリーマーが自身の思惑を抑えてでも従っているのは、シーカーの方が格上だからなのか?
「あ、あの…もう終わった…?」
そんな時だ、不安げな表情でデストロイヤーが訓練場を覗きにやって来たのは。
そこでデストロイヤーはドリーマーと目が合い、しまったというような表情を浮かべる…対してドリーマーはめんどくさそうにため息を一つこぼし、不気味な笑みをデストロイヤーに向ける。
「しばらく見ないと思ったら、こんなところにいたのねデストロイヤーちゃん? ということは、アルケミストもここにいるのね?」
「うぅ、いないわよ!」
「嘘が下手ねお嬢ちゃん…勝手にアルケミストを連れて行って……ただで済むと思うなよクソガキが」
「ひっ…!」
慌てて逃げようとしたデストロイヤーであったが、ドリーマーの部下に捕まり訓練場内へと引き戻される。
そのままドリーマーの元まで連れて行かれそうになった時、スネークはある提案をシーカーに持ちかけた。
「シーカー、お前はオレに借りができたと言ったな……」
「ああ言ったが?」
「ならデストロイヤーを見逃すようドリーマーに言え、それで貸し借りは無しだ」
「はぁ!? この腐れ人間が、ふざけたこと言ってんじゃないわよ! この私がアンタらを見逃してやるってのに、さらにこのガキを見逃せって言うの!? 調子に乗るのも大概にしろ!」
「まあ待てドリーマー…いいだろうビッグボス、ついでにアルケミストも連れていけ。端から奴も助けるつもりだったんだろう?」
「シーカー!いい加減にしな、デストロイヤーとアルケミストを手放してただで済むと思ってるの!?」
「別に大きな場面で取引を持ちかけられるよりはいいと思うぞ?」
「そもそもあんたが変な義理立てしなければ済む話だわ! シーカー、早く命令しなさい、こいつらをぶち殺せってね!」
「断る。ビッグボス、帰還までの道中の安全も保障しよう…今日は良い日だった、また次に会える日を楽しみにしている。その時までに、私も全力で戦える準備をしておこう…ついでに教えてやろうビッグボス、暇があったらアフリカにでも行ってみろ…お前が捜している者がもう一人、見つかるかもしれんぞ」
いまだ不服を喚き散らすドリーマーを封じ込め、シーカーは笑顔でスネークらを送迎する…。
デストロイヤーはまだどうしていいか分からず戸惑っていたが、ハンターに促されると、しばらく迷った末に荷物を抱えてアルケミストを迎えに行くのであった…。
立ち去る間際、スネークは一度シーカーに目を向ける……彼女は優雅にお辞儀を返し、彼らを見送るのであった…。
「あんたね、なにしてくれてるのよ! みすみすあの男を見逃したばかりか、ガキとアルケミストまで手放すなんて! 代理人にどう報告させるつもり!? 権限は確かにアンタの方が上だけど、あんたの監督は私が任されているのよ!?」
スネークたちが立ち去った後、ドリーマーは怒りを目の前のシーカーに対し爆発させていた。
今にもシーカーを締め殺そうとするような勢いの彼女に、部下たちは少し距離をおいて成り行きを見守っている…。
「イントゥルーダーのマヌケ……変な思想植え付けやがって…! シーカー、今度こんなふざけたことしてみなさい、代理人かエルダーブレインに言いつけてアンタの記憶を初期化してやるからね!」
「落ち着けドリーマー、そうすべてが悪い方に向かっているわけではないのだ」
「いい、シーカー…? あんたはエルダーブレインをも超える器なの……こんなくだらない事に興じてる場合じゃないの、分かってる?」
「滅多なことを言うものではない……私はエルダーブレインにお仕えする身分だ、それ以上でもそれ以下でもない……仲間には敬意を払え、敵にはもっと敬意を払え。イントゥルーダーが教えてくれた概念だが、お前もこれにならったらどうだ?」
「余計なお世話ね。まあいいわ、それよりアンタ何してるの?」
ため息を一つこぼしたドリーマーは、もう疲れたような表情で、床を探るシーカーを見下ろす。
彼女は地面に飛び散った血…戦闘で流されたスネークの血を採集していた。
血を少しずつすくい、試験管の中に垂らす…そんな作業を繰り返し、試験管の半分ほどの血を集めるのだった。
「ドリーマー、頼みがある…これを解析したデータが欲しい」
「人間の血なんて何に使うつもりよ?」
「なに、ちょっとした探究心さ……」
「変な奴……」
お、シリアスが終わったぞ(ハッピータイム)
とりあえずデストロイヤーとアルケミストお持ち帰り……さすがボス。
でも、どうなるかなぁ…。
UMP40入手に危機感を抱いているんで、今後更新は遅れるかもw
みんなドルフロ楽しもうぜ、アディオス!