METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

135 / 318
マザーベース:仁義なき戦い

「にゃにゃ……なんだか今日の食堂は寒気がするのにゃ」

 

「IDW、やっぱりあんたもそう感じる? おかしいよね、なんか今日…」

 

「あー、それは十中八九あの二人のせいだと思うんやけどな…」

 

 食堂内の気温は一年を通して平均的な温度に保たれており、夏だろうが冬だろうが気温は一定になっている…だというのに、その日の食堂は妙な寒気と緊張感に包まれている。

 鈍感なIDWとウージーはそんな感覚を奇妙に思うだけであったが、たまたま(・・・・)食堂の真ん中で睨み合うように座っている二人を見てしまったガリルは、この原因を知っていた…。

 

 

 食堂中央の長テーブル。

 3列あるうちの端側のテーブルにはエグゼが、間にテーブルを一つ挟んで向かい側に座っているのはAR小隊のM4。

 エグゼは隣にスコーピオンとWA2000、M4の方はM16とSOPⅡが座ってなんとか二人の睨み合いを止めようとするも両者とも聞く耳を持たず…殺気に満ちた目で互いを睨み、今日のメニューのラーメンをすすっている。

 

「あー…エグゼ? 一旦落ち着こうか?」

 

「黙ってろスコーピオン。食事中に喋るんじゃねえ、マナー違反だ」

 

「食事中に殺気立ってる奴に言われたくないんだけど…」

 

「もうほっときなさいのこのバカは…それにしても、AR小隊のリーダーさんはもっと知的だと思ったんだけどね」

 

 相変わらずAR小隊への嫌悪感を捨てきれないエグゼのみっともない姿には、WA2000も呆れてため息しかこぼすことが出来ない。

 あの戦いの最中にAR小隊との確執は解消したと思っていたが、本当は事態の先延ばしになったに過ぎないことをこの場にいる者は痛感していた。

 一方のAR小隊……M4もM4で、エグゼの殺気立った睨みを受けても意に介さず、むしろ舌打ちして額に青筋を浮かべる。

 

「M4、お前も落ち着こうな?」

 

「普通です」

 

「いや、今のお前普通じゃないからな? どこの世界にそんな殺意を込めながらラーメン食う女がいるんだよ…」

 

「うわー! このラーメン美味しいよ! ねえおかわりしてもいい!?」

 

 AR小隊の方も、M16が妹の面倒を見ながらエグゼの様子を伺うが、凄まじい殺意を込めた目で睨まれると目を背ける…あそこまで恐ろしい存在と睨み合えるM4を素直な気持ちで称賛したいが、現在MSFの世話になっている以上あまり争い事は避けたいところが本音である。 

 あと、SOPⅡはラーメンに夢中でエグゼとM4のわだかまりに全く関心がない。

 

 食事を純粋に楽しむはずの食堂が、戦場さながらの殺伐とした空気に支配される。

 何人かは居心地の悪さを感じて早々に退席してしまっている…そんな時、この状況に対する苦情を言われたのか何なのか、MSF副司令がご立腹の様子で現われる。

 その背後には、怯えた様子の97式とそれを守るかのように寄り添う蘭々がいる。

 

 

「こらこら二人とも…ここは食事をするところ、ケンカをするところじゃないんだぞ? 食事は兵士に取って数少ない娯楽の一つだ、それを居心地の悪いものにしてはいけないぞ」

 

「すみません副司令さん。M4には私から言っておきますから…」

 

「M16姉さん、それでは私が一方的に悪いみたいじゃないですか。そもそも因縁つけてきたのはあいつの方です」

 

「こらM4…! すみません、本当にすみません!」

 

「ハッハハハ! 出来の悪いバカ妹持つと苦労するな、M16? お前一体どんな教育してんだ?」

 

「は? なんでお姉さんを悪く言うんですか…関係ないじゃないですか! お山の大将みたいに威張り腐って…」

 

「なんだとテメェ? お前今どういう立場にいるか分かってないみたいだな、テメェ如きいつでもぶち殺せるんだぜ?」

 

「弱い犬程よく吠えるとはよく言ったもんですね。あなたの場合、狂犬みたいに喚き散らしてるだけですけどね!」

 

「あぁ!? 上等だよAR小隊の腐れ人形がッ!」

 

「鉄血のクズめ!」

 

 テーブルを蹴り上げる両者、吹き飛んでいったラーメンに悲鳴をあげているSOPⅡがいるが、今はそれどころではない。

 いきり立つ二人を即座に抑え込むが、両者とも血走った眼で互いを罵る言葉を浴びせかける。

 食堂内で成り行きを静観していた者たちももう無関係ではいられない、集団で囲みなんとか二人を遠ざける…どうしていいか分からず震えていた97式は、咄嗟にミラーに目を向けるが、彼は乱闘の最中にエグゼかM4に殴られてノックアウトしていた…。

 

 そんな時だ、喚きたてる二人以外の怒号が響き食堂内は一気に静まり返る…。

 

 騒動の渦中にいた者たちは、声がした方を振りかえると息をのむ……そこにいたのは、明らかな怒りを宿したオセロットである。

 オセロットは無言で彼女たちの元へと近寄ると、そこに集まっていた者たちは自然に道を開く…。

 

 

「ボスが少し留守にしたと思ったらこれか…。お前たち、ボスがいなければ一日もまとまりがきかないのか?」

 

 

 怒気を孕むその声に、その場にいた者のほとんどがバツの悪そうに俯く。

 とりわけ、初期のころに厳しい指導を受けていたスコーピオンとWA2000はオセロットが本気で怒っていることを悟って申し訳なさそうにしている。

 エグゼも、かつて過酷な尋問を受けた経験からオセロットに対する苦手意識があり、まともに言い返せず…M4もオセロットには逆らってはいけないと察し、無言で彼の言葉に耳を傾ける。

 

「ワルサー」

 

「な、なによ…」

 

「お前がいながらどうしてこんな騒動になっている。お前には常日頃、中立的な立場から事態を見て規律を守らせるよう言っていたはずだ」

 

「う……それは、そうだけど……でも!」

 

「言い訳はするな。これが事実だ……全くバカどもが……お前たち、今後一切の私的乱闘を禁ずる。これを破ったものは営倉入り、もしくは厳罰に処する。お前たちが規律を守れたとオレが認識するまで、無期限に定めるものとする……以上、解散だ」

 

 

 オセロットに睨まれて口答えできる者などこの場にはいない。

 エグゼでさえ借りてきた猫のように静かになってしまっている。

 オセロットが食堂内から立ち去った時、真っ先に動きだしたのはWA2000…彼女はオセロットに叱られたのがよほどショックだったのか、唇を噛み締め、目に涙を浮かべながら無言でその場を立ち去るのであった。

 

 

「まあその…なんだ。オセロットが怒るのもしょうがないよね…それはほら、あたしらも悪かったしさ。取りあえず二人とも、今は仲直りの握手をしようよ」

 

 ほら、とスコーピオンに促されて両者はしばし無言で見つめ合ったのち、やがて握手を交わす。

 これで和解したとは思えないが、とりあえずは乗りきった…そう思いスコーピオンは同じく苦労する立場にいたM16と視線を交わしあい、お互い苦労するなと目で伝えあい笑った。

 さて、今日のところは一旦離れておこう…そう思い両者に視線を戻すと…何かがおかしい…。

 

 二人とも獰猛な笑みを浮かべてやたらと力んでいる……二人とも、握手をしながら相手の手を握りつぶそうとしていた…。

 

「これで終わりじゃねえからなM4…!」

 

「望むところですよ処刑人…!」

 

 宣戦布告を交わした両者はようやく握手を解く…二人とも手が赤く腫れており、相当な力を込めて握りつぶそうとしていたことが伺える。

 高笑いを浮かべながら去っていくエグゼを、慌ててスコーピオンは追いかけていく…。

 M4もまた、顔に似あわないどす黒い笑みを浮かべて戦いを決意…妹のそんな姿に困惑するM16はとりあえず妹をその場から立ち去らせるのであった…。

 

 

 

「ラーメン……わたしのラーメンがぁ…!」

 

 

 

 嵐が過ぎ去った食堂内では、SOPⅡが一人、散らばったラーメンを前にしくしく泣いていたという…。

 なお、その後温情をうけてラーメンのおかわりは無事貰えた模様…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日のこと。

 

 その日、M4は洗濯機にかけた自分の服を回収しようと洗濯室に向かっていた。

 洗濯が終わる時間を見計らいやって来たM4であるが、自分がセットした洗濯機がまだ回っているのに気付く…来るのが早かったか、そう思い何気なく洗濯の残り時間を確認したところ、残り1時間以上もある。

 これはおかしい、そう思い、周囲の選択済みのかごを見てまわるが自分の服はどこにもない。

 ちょうど洗濯をとりに来たSAAにも聞いてみたが分からずじまい…だが、エグゼがちょうどそこの洗濯機から洗濯物をとりだしていたという証言を手に入れるのであった。

 

 もちろん烈火の如く激怒したM4はエグゼにくってかかるがシラを切る。

 ならばとSAAの証言で問いただそうとするが、相手はあのエグゼ…事態を察し、これ以上関わり合いになりたくないSAAは沈黙を貫いてしまうのであった…。

 

「おいおい、いいがかりつけてオレ様の貴重な時間をムダにすんなよ。オレはニートのお前と違って、忙しいんだからよ!」

 

「くっ…! 鉄血のクズめ…!」

 

「かわいそうにな、MSFじゃ服とかパンツ失くすのは自己責任なんだぜ? ちゃんと見つかるといいな、ハハハハハ!」

 

 大笑いして立ち去るエグゼに対し、M4は先日のオセロットからの言いつけもあって何も仕掛けることは出来ず、悔しそうに見送るしか出来なかった…。

 

 その後、M4の洗濯した服は見つかった。

 丁寧に一着ずつ別な洗濯機に放り込まれていたのだ…なお、パンツだけは最後まで見つからなかった。

 

 

 

 

 

 翌日のこと。

 

 M4に仕返しをして上機嫌のエグゼは、久しぶりの仕事で疲れた身体をサウナで癒していた。

 機嫌よく鼻歌を歌いながらシャワーを浴び、脱衣所へと戻ったエグゼはタオルで水気を拭き、さて服を着ようとしたところで気付く……置いていたはずの服がない。

 脱衣所をぐるっと見てまわって無いことを確認したエグゼはいよいよ焦り始める。

 そんな時、扉を開けてやってきたM4……彼女は少しの間無言でエグゼを見つめた後、意味深に笑い扉を閉めるのであった…。

 

「おいコラM4ッ! テメェ、オレ様の着替えをどこに隠しやがったんだ!?」

 

 すぐさま後を追いかけて脱衣所に引き込み尋問するが、彼女はシラをきる。

 

「私が知るわけないじゃないですか」

 

「いい度胸してるじゃねえかテメェ!」

 

「殴るんですか? オセロットさんに私的な乱闘は禁止されてますよね? それに、昨日あなた言いましたよね…ここじゃ服や下着を失くすのは自己責任だって…」

 

 意味深に笑っているが、証拠もなく、昨日自分が言った言葉を引き合いに出されたエグゼは悔しそうに歯ぎしりする。

 満足げに立ち去るM4を、エグゼはただ恨みがましく睨むことしか出来ないのであった…。

 

 なお、エグゼの服はその後脱衣場の物置に放り投げられている状態で発見される…なお、パンツだけは無くなっていた。

 

 

 

 

 

 またまたある日のこと。

 

 その日は毎週恒例のカレーの日。

 スタッフも人形も大好きなカレーの日でワクワクしているが、エグゼとM4はまたまた睨みあい額をぴくぴくさせていた。

 

「ちょっと、なんで私のカレーだけ盛りが少ないんですか?」

 

「チッ…ニートの分際で偉そうに…」

 

 その日は配膳をするための人手が不足しており、ならばじゃんけんで決めようということで負けたエグゼがカレーを配膳していたが、案の定M4だけを差別して少なく分けた…それを即座に追及してやり直させ、上機嫌にM4はその場を立ち去る。

 先日ひと泡吹かせて、今日も言ってやったおかげで非常に機嫌がいい。

 そんな妹の前に座ったM16は、妹の大人げない姿にほとほと困り果てていた。

 

「なあM4、もうそろそろ止めておいた方がいいんじゃないか?」

 

「私は折れませんよ。あいつが謝って来るまではね…」

 

「私はそのうちまたお前たちがケンカしないか心配なんだ。あの時はみんないたからいいものを、誰もいないところで乱闘になったらお互い危ないじゃないか」

 

「心配し過ぎです、私が鉄血のクズに負けるはずないじゃないですか………ん? んん!?」

 

「ど、どうしたM4?」

 

「うぅ~…! 辛ッ…!な、なんなんですかこのカレーは!? 口が…口の中が火傷したみたいに…!」

 

「ま、まさか…!」

 

 そう思い配膳しているエグゼを見て見れば、彼女は配膳を待つスタッフたちを捨て置いて腹を抱えて笑い転げている。

 そうだ、彼女は先ほどカレーの盛りを直す際に激辛スパイスを大量に混ぜ込んだものをM4に差し出したのだ。

 そうとは知らずに食べたM4はたった一口で悶絶していた。

 

「あのクズめ……絶対に仕返ししてやるッ…!」

 

「あー……もう疲れたから酒でも飲も…」

 

「M16、ここのカレーって甘口はないのかな?」

 

 妹の更生を諦めたM16は酒に頼って現実から目を背けつつ、甘口カレーを要求するSOPⅡに癒されるのであった…。

 

 

 

 

 

 後日のこと。

 

 前線基地で部隊編成と訓練を行う仕事を終えたエグゼは、久しぶりの疲労感と熱さからくたくたした様子でマザーベースへと帰還する。

 夏が近づき熱さが増していく昨今、人形たちも気温上昇による気だるさと動作不良に悩まされるときもある。

 それでも人間より暑さ寒さに対し耐性をもっているのだが…。

 

「ふぅ、今の世の中は年中異常気象だな…ん?」

 

 ヘリを降り立ったエグゼは、甲板上で一人エグゼを待ち構えるM4を発見する。

 きっと何か企んでいる…そう思い彼女の周囲に目を向けるが他に誰もいない……最近はUMP45以上に腹の底が見えないM4、ただならぬ雰囲気を察して警戒していると、なんと彼女はエグゼに頭を下げてきたではないか。

 これにはエグゼも驚き面食らう。

 

「処刑人、もうこんな争いは止めにしませんか? あなたはここでの立場があるのは分かってます、だからわたしが謝罪をして折れた方がいいんでしょう」

 

「へへ、てめえ一体何言ってやがんだ? まあいい、ようやく自分の非を認めたのか。ったく、最初から素直に謝っとけばいいんだよ」

 

「あの戦いで命を救われたのは事実ですから…。今日は暑かったですよね、お水飲みますか?」

 

「お、気がきくじゃねえか」

 

「あの…これからも、よろしくお願いしますね?」

 

 そう言って、M4は水筒をエグゼに手渡すと、少し気恥ずかしそうな表情ではにかみ立ち去るのであった。

 不思議なことがあるものだ、自分から先に気を許す気はなかったが、M4からも気を許すとは思ってもいなかった…きっと裏で何かあったのだろう、お人よしに考えたエグゼは手渡された水筒をまじまじと見つめる。

 水筒を振ると、カランと中に入った氷が触れあう音が鳴る。

 

「まあ、ここまでされたオレ様も意地張ってるわけにはいかねえよな…」

 

 自嘲するかのように笑うエグゼは水筒の蓋を開け、冷たく冷えた液体を喉に流し込んだ………そのとたん、液体が喉を通った矢先激烈な熱さを感じむせる。

 さらに液体を受け入れた内臓にも熱さを感じ、激しくせき込むのであった。

 

「うぐっ…! な、なんだこりゃ…!」

 

 落とした水筒から氷と、透明な液体が溢れだす。

 見た目は透明だが、この喉を通った際の熱さに覚えがあるエグゼは、懐からライターをとりだし透明な液体へと近付ける…するとその液体に一気に火がついたではないか。

 

「やりやがったな…腐れ人形がぁ! こりゃ水じゃなくて、スピリタスじゃねえかよ!」

 

 アルコール度数98%、火気厳禁の極めて危険なアルコール飲料。

 匂いも嗅がずに飲んだのはうかつだった。

 喉に渇きを感じていた最中の高濃度アルコールは凄まじく、しばらくエグゼは喉の痛みに悩まされる羽目になるのであった…。

 

 

 

 

 以上が、全てこの一週間で起こった出来事。

 

 両者の直接的な決闘事態は避けられたものの、互いの意地とプライドをかけた仁義なき戦いが、マザーベースという戦場で勃発するのであった。

 だがこれは序章に過ぎないのだ…長い伝説の戦いの、ほんの一幕だ。




これが伝説の戦いや(白目)



よーし、ほのぼの成分充填したな!
今度はMG5助けに行くぞおらーっ!

というわけで、次回!

"蛇の王国"をお送りします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。