METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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蛇の王国

 エグゼとM4の果てしない闘争が巻き起こるマザーベース。

 今日は寝起きのM4の部屋の前に粘着テープが仕掛けられ、寝ぼけ眼で起きたM4はそれに気付かずテープに足をとられて転倒…転倒した先に仕掛けられていたゴキブリホイホイに顔面から直撃するという衝撃的ないたずらを仕掛けられるのであった。

 幸いにもゴキブリホイホイには例の虫はいなかったが、顔にはり付いた粘着剤をとるのに、M4は何時間も苦労しているようだ。

 ちなみに、昨日はM4が風呂場に仕掛けを施して入浴しに来たエグゼが石鹸で足を滑らせ、風呂場の角に後頭部をぶつけるという痛ましい事故があった…。

 その前の日も、さらにその前も……二人の闘争は毎日続いている。

 

 最初のころはみんなも冷や冷やしていたが、既に慣れて放置している。

 

「やってやったぜ! 見たかよM4のあのマヌケ面、思いだすだけでも…ハハハ!」

 

「お前もう少し大人になったらどうなんだ?」

 

 ここ最近のエグゼの幼児退行ぶりにあきれ果てるハンター。

 彼女だけならまだしも、娘のヴェルはだれかれ構わず悪戯を仕掛けることで有名であり、手が焼けるヴェルが二人いるようなものだ…まあ、エグゼの場合はいたずらの対象がM4だけにとどまっているのでまだマシだが。

 とにかく、エグゼがM4へのいたずらに夢中になっているせいでヴェルがほとんど野放し状態、仕方なく今はハンターがヴェルの教育をしているのだが……ハンターもヴェルが可愛くてしょうがないため、あまり厳しい態度で教育できないらしい。

 

「せめてスネークがいてくれたらいいんだが……っと、噂をすればそのスネークだ」

 

 甲板を散歩していた二人は、ちょうどスネークがヴェルの相手をしている場面に出くわす。

 基本的に狂犬スタイルで誰にも懐かないヴェルだが、スネークの事は父親だと認識して精神年齢相応の顔で精いっぱい甘えている…。

 今はボール遊びをしているようで、スネークがボールを投げてはヴェルが追いかけていき…ボールをナイフでめった刺しにするというよく分からない遊びをしているようだ。

 

「エグゼ、ひとまずM4のことは置いといてお前も行ってこい。たまには3人でな…」

 

「そうだな」

 

 短く返事したエグゼはスネークとヴェルの元へと歩いていく…彼女がやって来たのを見たヴェルはボール遊びの手を止めて、足下へと駆け寄り抱っこをおねだりするのだ。

 いたずらする時の子どもみたいな顔から、エグゼは娘を可愛がる母親の顔へと変わった。

 ヴェルを抱き、親しそうにスネークと話すその姿は本当に結ばれた夫婦のように見える…微笑ましい光景に暖かい気持ちになると同時に、自分がそこに混ざっていけない寂しさのようなものを、ハンターは少しばかり抱えるのであった。

 

 そんな時だ、ふと視線を海の方へと向けた際に、甲板の端に腰掛けて海を見つめるキャリコに気付く。

 物憂げな表情で、キャリコはただ水平線のかなたをじっと見つめていた。

 

「こんなところで一人で何をしているんだ?」

 

 問いかけるハンターを一度見上げたキャリコであったが、何も言わず再び視線を海へと向ける。

 彼女が気落ちしている理由を知るハンターはその隣に腰掛け、そっと肩に手を置こうとしたところ、キャリコは呟くような声で話し始める。

 

「リーダーはここから海を見るのが好きだったんだ」

 

「MG5がそんなことを?」

 

「うん…何か悩みがあった時、こうして海を見るの。海って広いよね…大きくてどこまでも広がっててさ。それに比べたら自分の悩みなんてちっぽけなんだって」

 

「それで、こうして海を見てるのか」

 

「うん……でも、どれだけ見ても虚しいだけなの……こんな広い世界に、あたしだけって思っちゃって辛くて仕方がないんだ」

 

「何を言ってる、仲間が大勢いるじゃないか」

 

「分かってる…だけど、リーダーがいてくれないとあたしは……FALやVector、エグゼは戻って来たのに……なんでリーダーだけがって、そんな汚い考えが浮かんじゃって自分の事も嫌になって…」

 

「キャリコ…そう自分を責めるな。大切な人なんだ、私も同じ立場ならそう思っていたはずだ」

 

 MG5がいないことで、仲間たちの復帰を喜びきれないキャリコ…そんな自分の醜さに嫌悪感を抱き自己嫌悪に陥ってしまっている。

 そんな彼女の肩を撫でて励ますハンター。

 

「キャリコ、スネークに直談判してみよう。あの人なら何か考えがあるはずだ」

 

「でも、スネークは忙しいし…」

 

「心配するな、あの人は忙しさを理由に仲間を見捨てはしないさ。ほら、私やエグゼも協力するから一緒に行こう…な?」

 

 忙しい身分のスネークに気を遣って動けないでいたキャリコを勇気づけ、ハンターは彼女の手を取り立たせる…それからヴェルと戯れるエグゼとスネークのもとへと赴いた。

 そこでハンターがキャリコの想いを代弁してあげる…。

 空気の読めないヴェルは一旦エグゼがあやして遠ざけているうちに、ハンターはMG5の捜索をスネーク本人に伝えるのであった。

 

「実は、あの後オレやオセロットがあの戦地に向かって情報収集をしていたんだ…痕跡は見つからなかった。だが気掛かりなことが一つある。ハンター、オレとお前で鉄血領に入った時、シーカーに出会って言われたことを思い出せるか?」

 

 

 "―――――ついでに教えてやろうビッグボス、暇があったらアフリカにでも行ってみろ…お前が捜している者がもう一人、見つかるかもしれんぞ"

 

 

 

 鉄血の新たなるハイエンドモデル、シーカーが去り際に残したその言葉。

 その時はエグゼのことやアルケミストの事でいっぱいであったために聞き流したが、あのシーカーが無意味にそんなセリフを言うとは思えなかった。

 それはハンターも同じようで、彼女が言及したアフリカに何らかの手がかりがあるのではと睨む。

 

「アフリカか…そう言えば以前スプリングフィールドが言っていたな……あいつがいるって」

 

「あぁ…オレも聞いた。一応そこに当たってみるのがいいと思うんだがな」

 

「そうしよう。スネークアンタはここで待っていてくれ、私とキャリコ、それからエグゼを連れていく。その代わりなんというか…ヴェルを頼めるか?」

 

「構わないぞ。しばらくオレもマザーベースにいる予定だ、空いた時間であの子の面倒は見れそうだ」

 

 ヴェルの問題はスネークが見てくれる。

 これで心置きなくマザーベースを離れられる、キャリコもMG5を捜してくれることに感謝の意を示すのであった。

 そうなると、移動手段の確保だが…スネークの権限でアフリカ行きのヘリが用意され、彼女たちは速やかにアフリカの地へと向かうことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー…これがアフリカかよ…お! ライオンだぜライオン! へぇ~かっこいいな…なぁ、蘭々とどっちが強いと思う?」

 

「さすがに蘭々だろう。この間月光相手のタイマンで一方的に戦っていたぞ…あのトラに守られていれば、97式も安泰だな」

 

「へぇ、アイツいまトラ飼ってるのか? 大した人形だな」

 

「えぇ? マザーベースにトラいたの!? わたしも見たい!」

 

「いつでも見れるでしょ、気付かないだけで……ところで聞きたいんだけどさ、なんでこの二人もいるの?」

 

 賑やかなヘリの中で騒ぐ4人の鉄血ハイエンドモデル。

 キャリコがジト目でハンターを睨みながら指摘するのは、当たり前のようについてきたアルケミストとデストロイヤーの事だった。

 

「なんだよ、あたしらがいたら都合が悪いのか?」

 

「そもそもリーダーが行方不明になった原因がアンタのせいなの分かってるの?」

 

「ちょっと、アルケミストだけが悪いみたいに言わないでくれない? 私たちとMSFが本格的に戦争になったのって、そもそもAR小隊が原因じゃん。責任追及するならあいつらでしょ」

 

「あーもう止めにしないかお前たち。今はいがみ合ってる場合じゃないだろう…なあエグゼ?」

 

「おぉ! キリンいるぞキリン! 捕まえてみたいな……ん? ありゃサイがいるぞサイ! アフリカの動物ってなんでみんなかっけえんだろうな!」

 

「はぁ…MSFには脳筋メスゴリラが徘徊してるだろ」

 

「おいちょっと待てハンター! それオレの事言ってんのか!?」

 

 くだらない事で口論になる二人…となりではアルケミストがデストロイヤーを抱きかかえて髪を撫でている。

 各自自由気ままに過ごしている中で、唯一、I.O.P社製の戦術人形であるキャリコはアウェー感に居心地の悪さを感じていた。

 さて、そのままアフリカの大地を眼下に見下ろしながら過ごしていると、広大な農園が出現した。

 その農園に差し掛かったところでヘリに通信が入り、パイロットが何ごとか言葉を交わすと、ヘリはその農園に向けて降下していくのであった…。

 

 

 農園の中のヘリポートへと着陸すると、農園の警備兵がやってくる…その対応はパイロットが担当し、既にやり取りが決まっていたのかお互い握手を交わし笑顔を向けあっていたが、パイロットから差し出された札束を警備兵が受け取るのをキャリコは見逃さなかった。

 

「ここにあのアホがいるのか…鉄血から抜けて、大層な身分になったじゃないか」

 

「だね。私あいつ嫌いなんだよね…」

 

 アルケミストとデストロイヤーが、赤土の上に広がる農園を見渡しつつそう呟く。

 農園の中には、ポールがいくつもたてられ、そこに赤地に尾を喰らいあう三匹の蛇が描かれた旗が掲げられている……それが示すところは、この広大な農園の主が何者であるかを示していた。

 大規模なプランテーションにはサトウキビやトウモロコシといった食物が栽培されている…これは大戦と災害による汚染で食糧事情が深刻かした現在で、そうそう見ることのできない光景だ。

 

 見たところ農場は手入れが行き届き、安定した栽培が進められているようだ。

 

「あのアホ、こんな才能あったのか?」

 

「まさか…誰かの入れ知恵だろう」

 

「見てよ、子どもまで農作業に駆り出してるし…結局アイツは外道だよ」

 

「お前ら…相変わらずウロボロスが嫌いなんだな」

 

 相変わらずウロボロスを貶す三人に対しハンターはほとほと呆れていた。

 しかしウロボロスとの確執を知らないキャリコは首をかしげているようだが…まあ教えておく必要も無いので、ハンターは適度に言葉を濁して伝えるのみであった。

 

「おい」

 

 好き放題騒ぐ一行に対し声をかける少年。

 金髪の、いかにも生意気そうな少年だ……どこか誰かとかぶるような、そんな既視感を感じる少年を見て一行は完全に油断した様子で茶化すが、少年はそれが面白くなかったのだろう…。

 素早い動きでハンターの懐に飛び込むと、彼女の腰に差していたナイフを抜き取った。

 

「少年、それはおもちゃじゃないんだぞ?」

 

「ふん…とり返してみろよおばさん」

 

「おば…ッ!?」

 

「だははははは! ハンター、言われてるぞ!」

 

「うるさい…! 少年、いくらなんでもおばさんはないんじゃないか?」

 

「だったらばばあだな」

 

 口の悪い少年にカチンと来たハンターだが、冷静に深呼吸を繰り返す…どうやら平常心を保つ努力をしているらしい。

 

「ハンターお前すげえな。オレだったら余裕でぶっとばしてたぞ」

 

「だよな。八つ裂きにして逆さ吊り確定だろう」

 

「ちょっとアルケミスト、あんた怖いよ…」

 

「あのさ、リーダー捜しに来たんだよね!? 真面目に捜してくれないかな!?」

 

 そんな風に勝手に喚き散らしていると、自分が無視されていると思ったのか少年はイライラし始める。

 少年はナイフを隠し持つように握ると、狙いを無防備そうなデストロイヤーに定めるのであった。

 そして狙いをつけ、一気に駆け出そうとした瞬間、何者かに身体を持ちあげられてしまった。

 

 

「ダメだよイーライくん! そんな物騒なものをもって遊んじゃ! おねーさんと約束したでしょ?」

 

「は、離せ! 離せぇ!」

 

「うんうん、今日も元気いっぱいだね! さてと、MSFと旧鉄血の皆さんお久しぶり! アーキテクトだよ!」

 

 

 なんと、現われたのは先の戦いでも戦った鉄血のハイエンドモデルアーキテクトだ。

 いつもの格好に、農作業していたのかあちこちに赤土の汚れが付着している…彼女は少年、イーライをぬいぐるみのように抱っこしており、その腕と胸に挟まれたイーライはじたばたともがくのみだ。

 

「処刑人くんとハンターくんは初めまして、になるのかな? アルケミストとデストロイヤーはお久しぶり!」

 

「お前こんなところにいたのか。となると、あのアホの部下にでもなってるのか?」

 

「あー、あんまりウロボロスを悪く言わない方が良いよ? イーライくんが怒るから…ね?」

 

「…うるさい…!」

 

 否定をしないあたり、図星なのだろうか?

 アーキテクトがいるのであれば、金魚の糞のようにいるのがゲーガーだが、彼女もこの農園の中にいるらしい…アーキテクト曰く、屋敷の使用人としてウロボロスの世話になっているという。

 あれこれ現状について話していると、そこへこの広大な農園の主……ウロボロスが上機嫌で姿を現すのであった。

 途端に、エグゼやアルケミストは嫌悪感を丸出しにするのだが…。

 

 

「やあやあ諸君、久しぶりだな。一年振りくらいかな? 我が王国へようこそ諸君…」

 

 

 一行を前にして、優雅にお辞儀をして見せるウロボロス…。

 以前会った時と色々おかしい彼女に、エグゼやアルケミストなどは呆気にとられている。

 

 第一に、随分丸くなったなという印象。

 以前はぎらついた闘志を丸出しにしており、非常に高い自尊心が滲み出ていたが今は比較的落ち着いている…比較的だが。

 

 第二に、その服装。

 ウロボロスは今、白いワンピースに麦わら帽子という…元の服装からかけ離れた姿をしている。

 清楚感ただよう見た目であるが、このアフリカの大地にはミスマッチだ。

 

「お前、なんだその格好は…!?」

 

「何かおかしいか? アフリカの暑い気候、太陽光を避けるのにベストな服装だと思うが?」

 

 確かに、以前の黒づくめの姿よりは白い服装の方が涼し気ではあるが…ここで一体何があったというのだ、それがエグゼ含む一行の共通の認識である。

 そんな一行を適当にあしらいつつ、ウロボロスはその関心をイーライへと向ける。

 

「イーライ、この方々は客人だ。危害を与えようとするのは感心しないな」

 

「それなんだけどさウロボロス、たぶん処刑人くんたちがウロボロスのこと悪く言ったから怒ってるんじゃない?」

 

「おい、余計なこと言うな…!」

 

「ほう? イーライ、お前もなかなか可愛いところがあるな…ほれ、よしよししてあげよう!」

 

「やめろーッ!」

 

 イーライはアーキテクトからウロボロスの手へと渡り、強引に抱きしめられてしまうのであった。

 ウロボロスの胸に顔をうずめるイーライは呼吸が苦しいのかじたばたもがくが、そんなことはお構いなしに、ウロボロスはなおも強く抱きしめる。

 ようやく解放されたときには、イーライは顔を真っ赤にして地面に倒れるのであった…。

 

 

「さて諸君、君らが何故ここに来たのかは知っておる。色々聞きたいこともあるのだろう? 立ち話もなんだから、私の屋敷に案内しよう…まあ、茶でも飲んでリラックスしてくれ」

 

 

 そう言って、ウロボロスはイーライを肩に担ぎ屋敷のある方角へと向かっていく。

 それに一行は顔を見合わせ、半信半疑の様子でついて行くのであった…。




おねショタとか最高かよ(愉悦)


ウロボロス✕白ワンピ✕麦わら帽子の"夏の思い出"スキンやで!
アフリカは暑いからね、仕方がないね!

ヤバい、ウロボロスとイーライは書いてて楽しい。
ウロボロスの事はムカつくけど、他人がばかにするのは面白くない…そんな思春期盛りのイーライくんでしたw

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