「キッド、ちょっといいか?」
昼下がりの午後の時間帯、キッドはこれから射撃訓練場へと向かおうと思った矢先にこの組織の副司令カズヒラ・ミラーに呼び止められた。
手押し車に大量の模擬弾を積み運ぶキッドに、いくら模擬弾とはいえ訓練で大量に弾を撃ちまくるキッドのやり方についつい財政面への影響を考えてしまう…ただMSFでも稼ぎ頭の一人であるキッドであることと、古くからの付き合いであることもありミラーは小言を言うだけにとどめるのであった。
さて、その日ミラーがキッドを呼び留めたのは何も小言を言うためだけではない。
「キッド、しばらくお前には戦闘員派遣の任務から少し離れていてもらいたいんだ」
「というと、誰か新兵の訓練か何かですか?」
「察しが良くて助かるよ」
働き者の人形の中には、休暇を与えると宣告しただけで用済みになったのではと発狂する者もいる中、ミラーを尊敬し古くから付き合いのあるキッドは彼が考えていることはなんとなく察していた。
あの戦いで人形の部隊が多く損失したとはいえ、MSFの軍事力に対する需要は拡大していた。
欧州では正規軍やグリフィンとの絡みもあることで仕事は決して多くはないが、他のアフリカの紛争地帯や南米、アジアなどでは様々な仕事の受注が来ているのだ。
戦闘行為以外にも、治安維持のための警備任務、軍の兵站や訓練を請けおい、時には難民支援を行う。
全体の半分近くは、戦闘に直接関係しない任務が多い。
そんな中でやはりMSFに付きまとうのが人手不足…はっきり言うと、受注される仕事の依頼を消化しきれていないのが現状である。
そこで副司令ミラーがとった手段というのが、経営難のPMCを買収し、部隊やスタッフなどを抱え込んでしまおうというものだった。
このやり方にスネークは難色を示したが、MSFの拡大を訴えるミラーに押されて渋々了承したのである…。
そんなわけで意気揚々と他社の買収行為をしようとしたミラーだが……思いの他、買収に応じるPMCはいなかった…。
当たり前だ、今やPMCは政府に代わって地方都市の運営を任されるだけの存在となっており、今あるPMCのほとんどは大手で買収されるほど経営難に陥っている組織は多くない。
珍しく読みが外れたミラーは、スネークを説得した手前無理でしたと言うこともできず……なんとか、本当に倒産間近のPMCを一社買収できたのであった。
「ミラーさん、オレが言うのもなんですがね……あまりやり過ぎない方がいいですよ? 別にオレたちは金が欲しくて戦ってるわけじゃないんですからね」
「すまん、もう二度とやらない……まあその話しは置いておくとして、そこのPMCで抱えていた戦闘員の再教育をするんだ。人間の兵士はエイハヴに任せて、人形の教育を割り振りたいんだ。お前と…後は9A91にな」
「9A91? 珍しいですね…一体何をする気です?」
「優秀な隊員であるFOXHOUND、その隊員が直接指揮する特殊部隊を9A91に任せるつもりだ…お前に任せるのはMSF受け入れ教育だから心配しなくていい」
「なんか9A91以下の扱いされてる気がするのは気のせいですかね…?」
「気のせいだ……というのは冗談で、かねてから構想があったMSF内の特殊部隊編成を本格的に進めるためだ。ボスとオセロットが前々から協議していたことでな、夜間作戦任務に特化した部隊を創設するつもりだ」
「へぇ、そうなんですか。それは楽しみですね」
「お楽しみはキッド、お前にもあるぞ。お前にぴったりの人形を紹介しよう――――」
ぽかぽかした陽気と、涼しい海風が心地よい眠気を誘う午後の一時…眠気覚ましのペプシN〇Xを飲みながらも、重そうなまぶたでネゲヴはトコトコと甲板上を散歩していた。
彼女もここ最近退院したばかりで任務には出られず、許可がもらえるまでの退屈な一時をマザーベースで過ごすのだ。
「あ、ネゲヴ!」
そんな彼女を見つけたのM1919がぱたぱたと走り寄る。
身長の低いM1919は時たま他の人形からちび扱いされるため、低身長にコンプレックスを抱く…しかし自分以上に小さい背丈のネゲヴと一緒にいることで優越感に浸りたいのか、それともお姉さん風を吹かせたいのか一緒にいようとする。
しかし小さいとはいえネゲヴの方が一枚も二枚も上手だ……みんな忘れかけているが、ジャンクヤードで狂気的なバトルを繰り広げていたエリート人形の名は伊達ではない。
一度マシンガンを手に戦わせればMG5に勝るとも劣らず、キッドをも唸らせる戦闘力を発揮するのだ。
「アンタはいいよね戦場に出れて。わたしもそろそろ人間を撃ちたいわ…」
「さらっと怖いこと言わないでよ…ねええ、それより聞いた? キッドさん、戦術人形の訓練係に選ばれたんだって!」
「へぇ、そう」
「それもぼくたちと同じマシンガンの!」
「は?」
"マシンガン"キッドと言われるだけあり、彼のマシンガン好きは常軌を逸している節がある。
放っておけば一晩中マシンガンのうんちくを垂れ流し、大量のマシンガンを預ければいつまでも整備に時間を費やす…以前からキッドの気を引こうとするたび彼の鈍感ぶりに撃沈しているネゲヴであったが、仕方ないと割り切っていた。
だがそれはライバルが少なかったからだ。
MG5はキャリコといちゃいちゃ、M1919は…ガキっぽいのでライバル視していなかったが、別なマシンガン戦術人形が現れたとなると油断してはいられない。
ネゲヴはさっきまでの眠気を吹き飛ばし、嫉妬心を全開にして走りだす。
「あー待ってよネゲヴ!」
その後を追いかけるM1919だが、小さい身体のネゲヴからどんどん引き離されていってしまう…恋する乙女の嫉妬心は恐ろしいものだ。
そうこうしているうちに急停止したネゲヴ、ようやく追いついたM1919が呼吸を整えていると、どこからかキッドの嬉しそうに笑う声が聞こえてくるではないか……いまだ呼吸が落ち着かない中、M1919が見たのは、二人の戦術人形を連れて楽しそうに笑っているキッドの姿であった。
「―――で、ここが射撃訓練場で…っと、ネゲヴ、それにM1919じゃないか」
二人に気付いたらしいキッドであるが、ネゲヴが物凄く不機嫌なオーラを出していることには気付いていない。
新人の戦術人形を一緒に連れてきたキッドは早速二人の前で紹介するのだ。
「新しい仲間だぞ二人とも。Gr MG4とM1918だ!」
キッドが紹介したのは両者ともマシンガンの戦術人形であり、名前はMG4とM1918である。
既にMSFに在籍するMG5や今ちょうどキッドの目の前にいるM1919と似たような名前でややこしいが、そんなことキッドにとっては問題ないらしい……新しいマシンガンタイプの戦術人形が来てくれたことに大喜びの様子。
「ヘッケラーコッホMG4、よろしくお願いします」
「ブローニングM1918だよ! よろしくね!」
「わぁ! ぼくと同じ名前だ! よろしくねM1918!」
新たな仲間と早速打ち解けるM1919であるが、ネゲヴは面白くなさそうにそっぽをむく…キッドの嬉しそうな態度が気に入らないのだろう。
打ち解けた様子の二人とは反対に、MG4の反応はやや冷ややかなものだ。
「やったなネゲヴ! これでオレたちの家族が増えるぞ!」
容赦なく火に油を注ぐキッドに、あきれ果ててネゲヴは開き直る…。
キッドの事は一旦放置しておくとして、ネゲヴは早速新人にくってかかる。
「二人ともよろしく。M1918、あんたをマシンガンと言っていいのか甚だ疑問なんだけど…」
「何を言ってるんだネゲヴ、M1918と言えば二つの大戦を戦った傑作銃じゃないか!」
「お、キッドさん私のことを知ってるんだね!?」
「もちろんだ! 確かに見た目、装弾数の観点から後に主流となる分隊支援火器及び汎用機関銃とは大きく異なるかもしれないが、天才銃器技師ジョン・ブローニングが生み出したこの傑作自動小銃はフル・セミオート射撃を選べてなおかつ個人で容易に運搬でき部隊の移動に追従するまさに分隊支援火器の始祖とも言える存在なのだ!
B.A.R! この響きも素敵だ! 天才技師の名を冠したこの銃にも欠点がないわけではない…他の本格的な機関銃と比べて射撃の持続性で劣ったり、容易に銃身の交換もできないし、何より思いのほか重い! だが銃が重くて何が悪い、貧弱な野郎が持てるほどマシンガンは安物なんかじゃない! ヴァージンロードを花嫁を抱きかかえられない新郎が貧弱なように、重い銃を重いと思わず運用できる素質が機関銃手には求められるのだ!
そういうわけだ、君の銃は決して重くないぞ、そうだろう
「重いとかバーちゃんとか! デリカシーってものがないんですかあなたはーッ!」
M1918の豪快な銃床フルスイングがキッドのあごに命中し、哀れ彼は勢いよく身体を一回転させて轟沈した。
咄嗟の衝動でキッドをぶっとばしてしまったM1918…BARはハッとしてキッドに駆け寄ったが、彼は少し鼻血が出ているだけでなんともなさそうであった。
「やはり重い銃器の銃床攻撃は威力が違うな! これぞ、木製ストックのなせる技!」
「おもいきり殴ったのに…何なんですかこの人!?」
「ふん、キッド兄さんをそこらの人間と一緒にされちゃ困るわ。鉄血ハイエンドモデルと腕相撲して勝てる筋肉モリモリマッチョマンのバトルサイボーグとはこの人のことよ」
「すごい」
ほえ~、と感心した様子でキッドを見つめるBAR。
キッドが勝手に懲らしめられたことで機嫌を少しばかりよくしたネゲヴも混じり、和気藹々とした和やかな雰囲気となるが、MG4は一人距離を置くようにやり取りを見つめていた。
そんな彼女の様子に気付いたのだろう、キッドは彼女に声をかけた。
「MSFじゃこんな感じで、最初は戸惑うかもしれないが大丈夫だ、そのうち慣れるさ」
「別に構いません、気にしませんから。それに、そんなに期待もしてませんから…」
「ちょっとMG4! ごめんねキッドさん、ちょっと事情があって…」
ぶっきらぼうに言い放つMG4のフォローをするBARだが、さっそくネゲヴは険悪な様子…それも意に返さずにMG4はあくまで不躾な態度を崩すことは無かった。
「実は前の会社であんまり良い扱いされなくて、それで…いや、虐められたとかじゃないんですけどね?」
MG4の機嫌を伺いながら、BARは苦笑いを浮かべてその当時の経緯を話すのだった。
当時の会社、つまりはMSFに買収されたPMCだが、MG4が配属される頃には経営難から弾薬消費の激しい彼女は不遇な扱いを受けていたのだ…コスト面の厳しさから任務に出させてもらえず、かといってそれに対するフォローもない。
当初はなんとか努力したものの状況は変わらず、いつしか戦場に出るよりも宿舎にこもる日々の方が多くなる。
そんな中で彼女は自分の存在意義について自問自答をする日々を送り…やがては暗く閉じこもるようになったという…。
「なるほどね……分かるぜ、その気持ち」
「分かるわけないじゃないですか、今日会ったばかりのあなたに」
「分かるさ、オレはマシンガンが大好きだからな」
「はぁ?」
「わお」
「ちょっと聞き捨てならないよキッド兄さん」
「ややこしくなるから少し大人しくしてた方が良いよネゲヴ…」
いきり立つネゲヴを、M1919が背後から羽交い絞めてなんとか押さえる…。
「マシンガンが弾を喰いまくって何が悪い、それは必要な対価だ。確かにお偉いさんには頭の痛い問題だろうさ…だがな、すぐそばで戦う仲間たちはオレたちの火力や制圧力を頼りにしてくれている。オレたちが撃ちまくることで仲間の命を救い、仲間たちを援護できる。銃弾100発の喪失で仲間を救えるなら、それは無駄なんかじゃない。MG4、ここでお前は必要とされる……きっとあちこちの部隊から招かれるだろうさ」
「いくらなんでもそれは言い過ぎじゃ…」
「そんなことは無い! オレが保証する! 第一次大戦頃より機関銃が確立されて以来、様々な進化を遂げたマシンガンだ。戦闘を変え、戦術を変え、戦争をも変えた…マシンガンは無限の可能性を秘めている、全銃種で最もロマンのある銃種と言っていいだろう!」
いつしかMG4はキッドの熱弁に気圧される…そこからキッドは果てしないマシンガンのうんちくを口にするが、銃とマッチングした彼女たちでさえ理解できないマニアックな内容に若干引き気味だ…。
それでも、マシンガンを本当に好きで好きでたまらないという熱い想いを感じた彼女たちは、いつしかキッドの言葉に耳を傾ける…。
「キッド兄さん、そろそろストップしようか…日が暮れそう」
「ちっ…なんで一日は24時間しかないんだ、マシンガンの魅力を語るには168時間は必要だ……っとまあ、いきなりべらべら言われても分からないよな、ひとまず射撃場にでも行くか?」
「射撃場、ですか?」
「そうだ、お前にはまず最初にマシンガンを撃ちまくる楽しさを思いだしてもらおうじゃないか。心配するな、弾代は全部オレが出してやるさ」
「え? 弾代って全部自己負担だったの? ぼく知らなかったんだけど……どうりで先月お給料が低いと思ったら…」
「細かいことは気にするな。よし、今日はマシンガン祭りだ! 撃って撃って撃ちまくるぞ!」
キッドの不思議なテンションに、ネゲヴもいつしか諦めて嫉妬心を消し去る…。
射撃場で好き放題撃てるということで大いに喜ぶM1919とBAR……ただ一人、困惑していたMG4であったが、陽気に笑いながら射撃場に向かうキッドの背を、ちょっぴり笑みを浮かべて見つめていた。
はい(笑)
キッド書いてると楽しい!
ネゲヴ、M1919、MG4、BAR……地味にヒロイン候補の多いキッドニキ……さすが初代メタルギア登場人物は違うぜ!
ちなみにキッド兄さんは正しい知識よりも、ロマンありきで語るので結構勘違いが多いと思いますねw
それにしても、いつになったらネゲヴはロリから脱却できるのだろうか?
キッドの今後のお相手は??
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ロリネゲヴ
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ボクッ娘M1919
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ツンツンMG4
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セクシーなBARちゃん
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MSFの男性陣に決まってんだろ