METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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マザーベース:酒と肉と乱痴気騒ぎ part1

「んん……あれ…?」

 

 目を覚ましたデストロイヤーは、青白い照明が光る見知らぬ天井に奇妙な違和感を感じていた。

 目を半開きにしたままぼうっとしていると、だんだんと意識がはっきりしていくと同時に、自分がここにいる理由を思いだすのであった。

 アフリカから帰った後、急いでストレンジラブのラボへと彼女は運ばれた。

 あの時アメリカ軍の特殊部隊に打たれた何かを調査するためである。

 不安と恐怖で泣きじゃくっていたデストロイヤーが覚えているのは、すぐそばで手を握り、最後まで微笑みかけてくれていたアルケミストの顔であった…。

 

 重たく感じる身体をゆっくり起こすと、普段は髪留めで留められていた髪が肩にかかる。

 そのまま自身の髪を指に絡めてぼんやりとしていると、ラボの扉が開き見慣れた顔がやってくる…アルケミストにエグゼ、そしてスコーピオンとストレンジラブだ。

 

「調子はどうだデストロイヤー、新しいボディーはもう馴染んだか?」

 

「新しいボディー?」

 

 意識がはっきりして全て思いだしたデストロイヤーだが、自分の身体を新しくすることは聞いていなかった。

 勝手な行為に起こっているわけではなさそうだが、説明を求める彼女に対し、ストレンジラブが代表して説明を行う。

 

「どうか落ち着いて聞いてほしいのだが君の身体の疑似血液を採集したところ、極めて微細な機械装置…いわゆるナノマシンが発見された」

 

「ナノマシン…!? それって、なんかヤバい奴なの!?」

 

「詳しくは分からないが、すべてを取り除くことは不可能だった。だから君の新しいボディーをこちらで造らせてもらい、そこに君のデータを移させてもらった」

 

「ちなみにそれはあたしの入れ知恵だ、この女を責めるなよ」

 

 以前、エグゼの設計データを回収しに向かった際、同じくハンターやデストロイヤー、アルケミストの設計データも入手することが出来た。

 これで彼女たちが大きな損傷を受けても代替パーツを準備したり、あるいはダミーなども製造できることも見えてきたのだ……ただし、アルケミストはダミーとはいえ自分以外の個体を不必要と思っていたために、彼女の設計データのみは返却される。

 

「まあ、姉貴と違ってお前の場合よくボディー壊してたから平気だろ?」

 

「それはそうだけどさ……ま、一応礼は言っておく。というか私の身体大丈夫なんでしょう?」

 

「新規に造ったボディーにナノマシンは混入していないから大丈夫だと思うが、定期的なメンテナンスには協力してくれ。細かいところまで調べてみたい」

 

 サングラスの奥でストレンジラブの目が怪しく光る…デストロイヤー本人は気付いていないが、なんとなくうすら寒い気配を感じるのであった。

 

「それとスコーピオン、君たちにも朗報があるんだ。鉄血工造の技術を解析したことにより、君たちのバックアップデータも今後MSFで管理できるようになったんだ」

 

「おぉ! 凄い進歩じゃん! ということはこれからバンバン死んでも平気ってことだよね!?」

 

「死んでいいわけねえだろ、やっぱアホなのかお前は?」

 

「エグゼの言う通りだ。仮にお前が破壊されたとしたら、いくらバックアップデータがあるとはいえ…それを移すボディーが存在しない。まあ、未稼働の月光にお前のデータをぶち込むことはできるが?」

 

「それは遠慮しとく……というか、今日まで付き合い長いのにあたしらの義体開発ができないってどういうことよ!?」

 

「お前たちが細かいところまで調べさせてくれないからだろう。そんなに自分の替えのボディーが欲しいなら、この私の集中検査コースをお勧めするぞ」

 

「断固拒否」

 

 隙あらば手を出すストレンジラブの悪評は、新米人形たちの間にも広く浸透していたりする。

 彼女の悪行を経験済みの偉い先輩人形たちの警告もあって、新米人形たちは着任したその日に彼女が要注意人物であると聞かされるのだ…。

 

「ねえ、もう行っていいんでしょう? ちょっと身体を動かしたい気分」

 

「ああ、構わない。まだ馴染んでいないかもしれないから気をつけるんだぞ」

 

「分かってるわよ………あれ?」

 

 ぴょんと、軽い身のこなしでベッドから飛び降りたデストロイヤーであったが、奇妙な違和感にさいなまれる。

 病院服のようなものを着ているからだと考えたがそうではなく、ならば髪型が決まらないからかと思い、いつものツインテールに髪を留めてみるが違和感はぬぐい切れない。

 気持ち悪い感覚に悩みつつ、ふと見上げたアルケミスト……いつもよりアルケミストが大きく感じた。

 いや、そんなはずはないと周囲を見回すと、エグゼやスコーピオンもみんな身長が高くなっているではないか。

 自分が寝ている間にみんな成長したというのか、いや人形が成長するはずないと軽くパニックになった彼女は、ふと見た鏡に映る自分の姿に目を丸くした…。

 

「わたし、もしかして縮んでる…?」

 

 慌てて鏡に駆け寄って自分の姿をまじまじと見つめてみる。

 基本的な容姿は変わらないが、頭身が若干低くなっているではないか……常日頃自分の貧相な体つきに悩んでいたデストロイヤーは、余計に悪化したボディーに目まいを覚えた。

 

「なんで、よりによって、小さくするのよ!?」

 

「すまん、元のイメージを再現しようと幼さを意識していたら幼くし過ぎたんだ。設計データの中にはこんなのもあったが、流石に元の姿からはかけ離れているだろう?」

 

 そう言って見せてくれたのは、別な設計データという高身長で魅惑的なボディーの義体だ。

 咄嗟にそのイメージ写真をひったくったデストロイヤーは、むしろこっちの方が遥かにいいと喚き散らすものの、既に後の祭りである。

 

「まあいいじゃないかデストロイヤー、このままでも十分お前はかわいいさ」

 

「いつまでもガキ扱いされるのが嫌なの!」

 

「そうは言うが、お前が大きくなったらあたしはもうお前を抱っこできなくなるぞ?」

 

「やっぱりこのままでいい…」

 

 アルケミストのような美しいボディーに未練がないわけではなかったが、アルケミストの言う通り大きくなったら抱っこしてもらえない。

 未練がましく写真をストレンジラブへと返すと、ふて腐れる彼女の頭をアルケミストは優しく撫でた。

 

 

「よし、これで不安要素は無くなったね! というわけでバーベキューやらない?」

 

「お前はいつでも話が唐突だな、おい…面白そうだから言ってみろ」

 

「えへへへ。エグゼの仲間も増えて、新しい人形も来たでしょう? 歓迎会とみんなの息抜きも兼ねてね…どうよ?」

 

「乗ったぜ」

 

 

 互いの嗜好が見事に合致したエグゼとスコーピオンは確約を得たことを示すように、腕を組みあった。

 それからとんとん拍子に話しが進んでいくが、アルケミストとデストロイヤーは蚊帳の外だ…MSFの面白行事のほとんどがこの二人の思いつきで開催されているので、無理もないことだが。

 凄まじい勢いでバーベキューの計画を立てた二人は、そこでようやくアルケミストらを忘れていたことに気付く。

 そのまま二人を誘うのだが、アルケミストはやんわりと申し出を断った。

 

「折角だがあたしは混ざらない方が良さそうだね、まだあたしを嫌う人はいるだろう」

 

「あぁん? まーた根暗思考に浸ってんな……おい教えてやれよスコーピオン、オレたちの仲良し三原則をよ」

 

「やる気と元気と気合?」

 

「そりゃ問題解決の三原則だろ。ほらあれだよ、仲良し三原則!」

 

「あーごめんごめん。仲良し三原則とはずばり、酒と宴と勢いだーーッ!」

 

「勘弁してくれないかな、お前たちの脳筋理論に―――」

 

「うるせぇ、行くぞーッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで始まったMSFのバーベキュー大会。

 スコーピオンとエグゼの咄嗟の思いつきで始まったせいで人数の集まりは最初こそよくなかったが、話を聞きつけて宿舎から出てきたり、前線基地からマザーベースにやって来たりで準備が終わる頃には大勢の人たちが参加するのであった。

 始まりの挨拶があるわけでも堅苦しい空気もなく、準備ができた席から勝手にバーべーキューが始まっていく。

 

 メニューはというと、エグゼらがアフリカから持ち帰った(パクってきた)という銜尾蛇牧场(ウロボロスファーム)産のみずみずしい野菜の数々と、ウインナーや熟成肉だ。

 他にも、MSF隊員が釣り上げた魚などを炭焼きにすることで、あちこちで香ばしいかおりがただようのであった。

 

「よし、アルケミストはこっちね!」

 

 スコーピオンに手を引かれてアルケミストは鉄板の一つの傍に座らせられた。

 時折感じる敵意の目を受けて居心地悪そうにしているのはデストロイヤーだ…自分はともかく、周囲の感情を気にすればやはり参加するべきじゃなかったのではと訴えるが、スコーピオンはこれを機にみんなの気持ちに変化があることを期待しているようだ。

 スコーピオンの熱意に屈する形で席についたアルケミストだが、自身に突き刺さる敵意の目より気になることがあった…。

 

 

「なんであいつら仲が悪いのに一緒になってるんだ?」

 

「あー…なんだろうね…? あの二人は別に無理して一緒にならなくていいのに」

 

 スコーピオンが苦笑いを浮かべてみる先には、一つの鉄板で黙々と肉を焼いているエグゼとM4の姿がある。

 二人とも凄まじく不機嫌なオーラを出しておきながら、丁寧に肉を焼いている姿はとてもシュールな光景だ…すぐそばには既に出来上がった様子のM16と、一人かき氷を頬張るSOPⅡがいる。

 

「おい処刑人、なんだその態度は…仲良し三原則はどうした?」

 

「うるせえな、んなもんとっくの昔に忘れたよ…」

 

 見かねたアルケミストがそばによってみたが、エグゼのイライラは解消されない……考えれば考えるほど、どうしてこの二人が一緒になってしまったのか想像ができない。

 それっきりお互い黙って肉を焼く…適度に焼けた肉をつまみあげたエグゼに対し、M4が動く。

 

 

「待ってください…それ、私が焼いてた肉なんですけど…勝手に食べないでよ」

 

「あぁ? お前の肉? ハハハ、悪かったな…ほら返すよ」

 

 

 べちゃっ…。

 エグゼが投げ返した肉がM4の顔面に当たる……愉快そうに笑うエグゼに対し、M4は張りつけた仮面のような無表情でエグゼを見据えていた。

 

「おいおいお前らおかしいぞ、せっかくのバーべーキューが台無しだ。ほらM4、処刑人にビール渡して仲良くやろう…な?」

 

 M16のフォローで諭されたM4は渋々、缶ビールをエグゼに手渡すのだ。

 最後までバカにしたような笑いを浮かべていたエグゼが缶ビールの封を切った瞬間、泡が勢いよく吹きだしエグゼの顔に振りかかる…。

 

「ぷっ……クク…」

 

 押し殺したような声で笑ったM4に、M16は青ざめる。

 

「上等だテメェこら! 乱闘禁止がなんだ知ったことか! この場でぶっ殺してやんよ!」

 

「望むところですよ鉄血のクズめ…!」

 

 臨戦態勢の二人を咄嗟に止めるのは、お互いの姉貴分だ。

 M16はM4を、アルケミストはエグゼを引き止める……が、二人の罵倒が飛び火することで彼女たちもケンカに巻き込まれるのであった。

 

「いい加減にしてくれ処刑人、お前がM4を嫌いなのは分かったが、これ以上私の妹を貶すならば私も黙っていないぞ」

 

「ほう? その理屈だとあたしが口出ししても文句は言えないだろう?」

 

「アルケミスト…やるなら私もやるが?」

 

「いけ好かないね…秒殺だよ、お前」

 

 とめに入ったはずの二人までもがケンカ腰になることで騒動は手がつけられない様相となる。

 まあ、そこはすぐそばに控えていたスコーピオンが割って入るのだが…。

 

「もうみんな暑いからってイライラし過ぎだよ。ほら、冷たい水飲んで頭冷やしなって」

 

 そう言って四人に手渡すコップ…互いが睨みあいながらそれを飲んだ次の瞬間、四人はほぼ同時のタイミングでそれを口から吹きだした。

 吹きだした液体が炭火の火に引火して火柱をあげ、すぐそばでかき氷を食べていたSOPⅡが嬉しそうに手を叩いてはしゃぐ。

 

「スコーピオンお前…! またやりやがったな!? スピリタスは混ぜるなって、何回いったら…!」

 

「あはははは! 同じ透明な色だったから勘違いしちゃったよ」

 

 高濃度のアルコールで喉を焼かれた4人は水を…念のためライターの火を近づけて確認した後に飲み干した。

 喉の調子が回復したところで、4人のヘイトが一気にスコーピオンへと向けられるが…彼女の笑顔を見た瞬間、それもどこかへ吹き飛んだ。

 いたずらを仕掛けた喜びの笑顔ではなく、ただ純粋に、今という一時を幸せそうに噛み締めている表情だ。

 

「嬉しいねエグゼ、こんな日が来るなんて思ってなかったんだ」

 

「あぁ? なにがだよ」

 

「"I Have a Dream"、私には夢がある……知ってる?」

 

「マーティン・ルーサー・キング牧師の演説の一節だな」

 

「さすがM16、物知りだね。私には夢がある――――」

 

 目を閉じて、スラスラとその一節を読みあげるスコーピオン。

 彼女は目の前の4人に対し聞かせていたはずが、いつしか周囲にいた人たちも静かにその言葉に耳を傾けていた。

 

 

「…あたしには夢があるんだ。いつか人間も人形も、鉄血もグリフィンもわだかまりなく兄弟姉妹のように手を繋いで一つの家族になること……スネークやみんながこんな素敵な夢を見させてくれるんだ。ここじゃ国境も、人種も、生まれも関係なく一つの家族になれる…こんな素敵なことってないよね? あたしね、今がすごい幸せなんだ」

 

 

 これまで幾度となく困難に直面したスコーピオンの重みのある言葉に、一同静まり返るが…やがてどこからか歓声や称賛の声があがる。

 口笛や歌があちこちで口ずさまれ、そこは再び賑やかな様相となっていった。

 すっかりスコーピオンに全部持って行かれてしまったことで、M16とアルケミストは肩をすくめてみせた。

 

「おいM4」

 

「なんです処刑人」

 

「オレはてめえが大嫌いだ」

 

「奇遇ですね、私も大嫌いです」

 

「だがスコーピオン…あいつは大好きだ、親友として好きだ。だからな、あいつの笑顔を壊したくない…分かるな?」

 

「ええ、私も…彼女は嫌いになれませんよ……いいでしょう、一時休戦です」

 

 スコーピオンのためを思い、今日だけは互いの憎しみは忘れよう…。

 仲良し姿を取り繕うことはしなかったが、スコーピオンの笑顔は壊さない…そんな暗黙の了解をこの日二人は結ぶのであった。

 

 

 

 賑やかなバーベキューはまだまだ続く…。




人形は夢を見ることは無いけれど、こんな夢を抱いたらいいなぁ…なんて。

バーベキューネタ、一話で消火するのはもったいないんでまだ続きますよっと!

あと前回のアンケート、みんなロリとホモが好きなのは分かったぞ。

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