前哨基地より飛び立った一機のヘリがマザーベースへと向かっていた。
ヘリの内部には、前哨基地での新兵訓練の仕事を済ませて帰還するスネークと9A91がいる。
9A91はここ最近、FOXHOUNDとしての任務のために単独での長距離偵察任務に従事し見事それを成功させるという素晴らしい活躍を見せたばかりであるが、彼女の戦果はMSFにはあまり知られていない。
というのも、9A91に任されたのは極秘任務であり仲間とはいえ迂闊に情報を漏らすことのできない性質があったからだ。
9A91の活躍を知るのはスネーク、ミラー、オセロットにWA2000のみという非常に限られた人物にとどまる。
FOXHOUNDの名を背負い戦うWA2000とマシンガン・キッドが表の隊員だとすれば、9A91は裏で活躍する人形だろう……無論、与えられる任務は困難なものも多く孤独な戦いを強いられる任務も多々ある。
だが9A91はそれにめげず、ただ己に課された使命を全うしていた。
「―――それで、どうだ…新しい仲間たちの手ごたえは?」
「優秀な隊員たちばかりですね。少々癖がありますが、伸びしろはあると思います」
スネークが話すのは、隠密作戦を行う9A91をリーダーとする特殊部隊に推薦される戦術人形のことだ。
いずれもソビエト・ロシアにその起源を持つ戦術人形であり、部隊は仮の名称として"スペツナズ"と呼称される。
「面白い話を聞いたんだが…新人のPKPに突っかかられて返り討ちにしたんだって?」
「はい!? あの、司令官…それをどこで…?」
スネークが唐突に口にした言葉を聞いた9A91は、珍しく動揺し赤面する…。
スネークが前哨基地の隊員から聞いたのはこうだ…9A91をリーダーとする部隊の配属が決まった人形たちの中で、プライドの特に高いPKPが大人しそうな9A91をリーダーと認めようとせず、ケンカ腰で挑んだという。
驚くのはここからだ。
なんと9A91はPKPの掴みかかろうとしてきた手を払いのけ、それは見事なCQCで地面に叩き付けたらしい。
大人しく温厚だと思われていた9A91のその姿に新兵たちは驚き、自分たちが彼女を侮っていたということを思い知ったようだ。
基本的に温厚であるのは間違いない9A91であるが、ではなぜそのような手段に出たのか?
彼女は頬を指で掻きながら、少し恥ずかしそうに言うのであった…。
「あの、言葉で言ってもおさまらなそうでしたので…つい…」
「すっかりたくましくなってしまったな、9A91」
「すみません司令官、このようなやり方は教わっていなかったのに…」
「いや、オレもMSFができて間もない頃は今のお前のように荒っぽいやり方をする時もあった。ただまあ、やり過ぎないように注意することだな」
「はい、司令官」
何かと忙しい彼女を励ます意味でスネークはその頭を撫でてやる…9A91は少しくすぐったそうに、しかし嬉しそうに微笑むのであった。
そうしていると、ヘリは高度を下げていく。
もうそろそろマザーベースに帰還する、9A91は久しぶりの帰還ということもあって仲間たちの顔を思い浮かべながら窓の外を見る…そこで彼女は、甲板上で人形やスタッフたちが何やら集まっていることに気付く。
高度を下げて、鮮明に見えてきたその光景を認識した9A91は、ヘリが着陸したと同時に扉を開くとスネークの手を握った。
「司令官、バーベキューですよ! 行きましょう!」
「待て9A91、そう慌てるな」
嗜めるスネークであるが、彼女はもう待ちきれないらしい。
うずうずした様子で待っていた彼女は、スネークが降りたのを見て小走りでバーベキュー会場へと走って行く…手を繋いだままのスネークは9A91に引っ張られる形となり、必然的に同じ歩調となるのであった。
「おー9A91、久しぶりッ! ほら早く早く、お肉焼けてるよ!」
「わぁ…! 美味しそうですね…! スコーピオン、あなたがこれを企画したんですか?」
「もちろんさ! あ、スネークもお帰り!」
「これはまた賑やかなもんだな」
スコーピオン、スプリングフィールド、WA2000、9A91…MSFで最古参の戦術人形がこれで一つの鉄板に集まったようだ。
この場で9A91の特殊任務についていることを知るのはスネークと、WA2000のみ。
WA2000はこの場で彼女の任務をうっかり口外することもせず、そしてスコーピオンやスプリングフィールドも特に聞きだそうと躍起になったりはしない。
「スネークさん、お肉が焼けましたよ」
「すまんなスプリングフィールド…うむ……うますぎるッ…!」
「喜んでもらえて何よりですよ、どうぞもっとたくさん食べてくださいね」
「カエルやヘビも美味いが、たまには牛肉いいもんだ」
「あのスネークさん…? 仕方がないのは分かってるんですが、あまり変なものを食べるとお腹壊しますからね?」
言っても無駄だと分かっていながらも言わずにはいられない。
以前には腐りかかっていた蛇肉も美味いと言って食ったり、大量に発生したゴキブリも貴重なたんぱく源だと喜んで採集したりと…何度その現場に居合わせて立ちくらみを起こしたから分からないほどだ。
そうこうしていると、スネークたちのところへもう一人やってくる。
その人物の接近を真っ先に感じ取ったのはWA2000…ほとんど真後ろから近付いて来たオセロットの気配を感じた彼女は咄嗟に振り返ると、嬉しそうに微笑むのであった。
それに対しオセロットは、ただの一度もWA2000に視線を向けず、スネークを見たきりなのだが…。
「ボス、この間の諜報で得た事についてだが…」
「ああ待てオセロット、それはまた今度聞こう。とりあえずお前もここに座るんだ」
「構わないが…」
スネークに言われれば無下に断るわけにもいかない…オセロットが座れる場所を探したのを見計らい、スコーピオン、スプリングフィールド、9A91が座っていた場所を退く。
そうすることで空くのはWA2000の隣…オセロットは特に疑問を感じるわけでもなく、そこに座るのであった。
仲間たちの連係プレーとスネークのはからいによって、オセロットと隣同士になれたWA2000であるが、どうにも緊張しているらしい。
「ほらわーちゃん、オセロットに何か用意してあげなよ!」
「構わん、気を使う必要はない」
「オセロットは黙ってて! ほら、わーちゃんってば!」
「あー…オセロット…? あの、なに食べたい…?」
「あまり腹は減っていないが…」
一番身近で長く付き合いのあるWA2000でも分からない彼の好み、とりあえずオセロットが見ていた肉や野菜を片っ端からさらによそる…おかげで山盛りになってしまった皿を見て、オセロットは呆れたように冷たく見下ろした。
「こんなに食べきれると思うのか?」
「う…ごめんなさい…」
「戻すわけにもいかないからな…お前も食え」
「はい、そうします…」
床に置かれた皿にフォークを伸ばすWA2000…気持ちが空回りしてついやってしまった、そう悔やむWA2000であったが…。
(あれ…? これって、同じ皿を二人で食べてるってことよね…?)
それに気付いた瞬間WA2000の手がとまり、だんだんと頬が紅潮していきやがて耳まで真っ赤に染まる。
フリーズしかけていた彼女はおそるおそる顔を見上げるのだ…。
「なんだ?」
「な、なんでもないわよ…! あ、オセロット、ビール飲む?」
「一杯だけだ」
WA2000はすぐさまスコーピオンからビール瓶をひったくるようにして奪い、オセロットのための飲み物を用意するのであった。
ところ変わって鉄血同窓会席…メンバーはエグゼにハンター、アルケミストとデストロイヤー、そしてヴェルの姿がある。
鉄板の火は既に消え、酒瓶や空き缶が散乱している。
エグゼを幼くした姿のヴェルにアルケミストとデストロイヤーはすっかりメロメロで、まるで自分の子のように可愛がる…ヴェルもI.O.Pの戦術人形より、自分と同じルーツの彼女たちに懐く傾向があるらしい。
「すっかりお姉さんだね、アルケミスト」
自分にも懐いてくれるヴェルを、デストロイヤーも可愛がる。
彼女に至っては、背が縮んでしまった自分よりも小さいヴェルがいることである程度心にゆとりをモテているらしい…それでもチビと言われればキレるが。
「ところで処刑人、お前がその…エグゼって呼ばれてるのはなんでだ?」
「あぁ? そりゃお前、あれだよ……なんでだっけ…?」
「
「へぇ、そうか…あたしもこれからそう呼ばせてもらおうかな」
「わたしも、今度からそう呼ぶね!」
MSFですっかり定着していた処刑人の愛称も覚えたことで、一同再び酒を飲み始める…まあデストロイヤーにはオレンジジュースだが。
「やっほーエグゼ、となりいいかしら?」
「あぁ? なんだ45、他のみんなはどうした?」
「9と416がG11を紐なしバンジーさせて遊んでるから退屈なのよね。エグゼ、なに飲んでるの?」
エグゼがビールを飲んでいるのを見たUMP45はビール瓶の栓を開けて、ちゃっかり彼女の隣に座って酌をする。
UMP45が持ってきたビールはよく冷えていて、生ぬるいビールを飲んでいたエグゼはすっかり気を良くしていた。
「どう、美味しい?」
「うん、まーな……というかお前、距離近いよ」
「そうかしら? ねえねえエグゼ、お酒に合いそうなおつまみ持ってきたんだけど食べない?」
愛想よく微笑むUMP45に、彼女の腹黒さを知るエグゼは一体何があったのかと表情が引き攣る。
だが最初から彼女を観察していたハンターとアルケミストはUMP45の密かな感情に気付くのだった…。
「UMP45、お前……エグゼに惚れてるな?」
「え? な、何を言ってるのよハンター…」
「あぁ? なんだお前、オレ様に惚れてるってのか? 生憎オレはスネークに一途だからな」
「う、うん…そうよね…」
「おいおい…マジかよ」
エグゼの想いがスネークだけに向いていることは、ここにいる誰もが知っていることだ。
もちろんUMP45も知っているはずだ、それなのに彼女の今の表情はなんだ…いつものふてぶてしい態度ではなく、しおらしい姿はまるで別人のようではないか。
「ちなみに45、エグゼのどこに惚れたんだ? やっぱりあれか…? 前の誕生日会の時の出来事か?」
「それもあるけど…」
「分かったあれだな! オレがお前を無人地帯から引っ張り出してやった時か! いやー、あんときのオレは最高に渋かったよな!」
「ちょっ、止めてよエグゼ! 恥ずかしいから!」
「わははははは! まさか404小隊の腹黒リーダーがな、姉貴聞いてくれよ…こいつ昔オレにすげぇ舐めたこと言いまくってたんだぜ?」
「おい、エグゼ…そのくらいにしといた方が…」
「平気だって姉貴! しかし面白いな45、そんなにオレが好きだったのか…ほら、愛してる大好きって言ってみろよ」
腹を抱えて笑っているエグゼだが、だんだんと怪しい雰囲気になっていくUMP45に周囲のハンターらはただならぬ気配を感じて黙り込む。
エグゼをなんとかしずめようとするも彼女は聞く耳を持たず、ただ酒に酔って笑っている。
そしてエグゼからかうようにUMP45に近付いた時だった……UMP45は唐突にエグゼを押し倒し、その両手を床に押さえつけると、容赦なくエグゼの唇を奪った。
いきなりの事に驚き、ろくな抵抗もできないエグゼ……そんな彼女をUMP45は息を荒げたまま、睨みつけるように見下ろした。
「バカにしないで、これで私の本気が分かったでしょ!? あんたのファーストキス、私が貰ったから!」
「え…おまえ……」
「私は欲しいものは絶対に手に入れたい主義なの! たとえスネーク相手でも私は負けないわ、負けるもんですか! いいエグゼ、いつか絶対にアンタを私になびかせてあげるから、覚悟しなさいよね!」
別れ間際にもう一度口づけをしたUMP45、成り行きを呆然と見ていたハンターらに堂々と自分の気持ちを見せつけて足早に立ち去っていってしまった…。
放心状態のエグゼをしばらく放っておいたが、やがてエグゼはその目に涙を浮かべるのであった…。
「あのクソ女…! 絶対許さねえ……初めてはスネークにあげるって、ずっと思ってたのに……ちくしょう……うぅぅ…!」
「あら泣いちまった……こいつ意外に純真だからな」
「うわーん…ママがうわきしたぁー…!」
「よしよし、泣くんじゃないぞヴェル。それにしてもあのUMP45がね……これから面白くなりそうだ」
泣きわめくエグゼは放置し、ぐずるヴェルをハンターがあやす。
新たなる恋の闘争が始まる予感に、ハンターは一抹の不安を覚えるとともに好奇心から胸を躍らせていた…。
まだまだ夜は長い、マザーベースの喧騒はより一層賑やかなものになっていく…。
はい(笑)
最近、スプリングフィールドと9A91の影が薄いって言われたから登場させたよ!
特に9A91は影が薄い=特殊任務に従事っていう逆転の発想をしてみた。
スオミと別れた穴埋めに、9A91にはスペツナズを率いてもらいましょう!
スペツナズはロシア語で特殊部隊って意味は知ってますが、響きがいかすので部隊名にしちゃいますね。
そしてエグゼと45姉……こうなるとは思わなかったんだ、本当だ…。
まだまだ続きますBBQ!