METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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リベルタドール

 WA2000と79式が引きこもり生活を送るようになってはや6日が経とうとしている。

 自分たちがカルテルに目をつけられてしまってからというもの外出することもできず、変わり映えのしない毎日を送っている。

 することといえばテレビをつけてぐうたら毎日を過ごし、戦闘で鍛えていた感覚も鈍るはず……とは今のところいかず、その日WA2000と79式はテーブルを挟みあい戦術教練の座学を行っていた。

 その場に戦術教練を行うための資料等はなかったが、自身の経験や知識からWA2000は79式にいくつかの課題や質問を投げかけることで彼女に考えさせ、実戦以外で技術を身に付ける術を教えていた。

 

 79式はWA2000の言葉をしっかりと聞くと同時に、自分が疑問に思ったことは直ぐに聞き返す。

 理解も早く真面目で熱心に話を聞く姿勢に、WA2000もついつい教え甲斐を感じて今まで教えてきた兵士たちには教えなかった知識までも教えてしまう。

 

「――――というと、この場合はここに部隊を残し少数の偵察隊を編成して敵陣地の偵察を行った方が良いということでしょうか?」

 

「そういうことよ。それにしてもあなた覚えがいいのね、スコーピオンのアホにも見習ってほしいものだわ」

 

「そんなことないですよ! スコーピオンさんに比べたら、私なんてまだまだです…」

 

「あらそう? どうしてそう思うの?」

 

「だってあの人、トラと真っ向勝負して勝てるんですよね?」

 

「あれを目標にするのは止めなさい、あなたのためにならないから。さて、そろそろ休憩しましょう」

 

 時計の針が示すのは昼の12時手前、朝の9時から時間つぶしのために始めた戦術教練であったがついつい時間が経つのも忘れて熱中してしまった。

 軽い空腹感を覚えた二人はレーションを用意し、コーヒーを作るためのお湯を沸かしに79式がポッドを手にコンセントの場所まで向かう。

 

「さてと…なんかニュースでもやってるかしら?」

 

 カルテルが大人しくしていればニュースは平凡そのものだ。

 ここ最近はカルテル絡みのニュースで大きな事件はなく、浮浪者の男が万引きをして地元警察にリンチにあって病院送りにされた程度のニュースが記憶に新しいくらいだ。

 テレビのリモコンを操作したが、テレビがつかない。

 ちょうどそこのコンセントでお湯を沸かそうとしていた79式がテレビのコンセントを抜いたのかと思ったが、彼女はきょとんとしか顔でWA2000を見つめていた。

 

「最悪…テレビまで壊れたら退屈しのぎすらもできないじゃない」

 

「あははは…でもセンパイ、ここのテレビはいつもつまらないって言ってましたよね?」

 

「そうね、サッカーか下らない茶番劇しかやってないものね…」

 

 仕方なくWA2000はソファーから立ち上がり、冷蔵庫へと向かう…オセロットが持ってきてくれた炭酸飲料がまだ残っているはず、あまり飲み過ぎは良くないがこうも暇なのだから少しくらい食生活の乱れは許容してもいいだろう。

 冷蔵庫の扉を開き炭酸飲料の缶を掴もうとした時、ある違和感を感じ取る。

 冷蔵庫の冷却機能が消えている…これもコンセントが抜けているのかと思ったが、しっかりと刺さっている。

 ならば考えられるのは一つ……。

 

 そんな時、部屋の扉がノックされた。

 

「おや、オセロットさんですかね? もう6日も来てませんし…」

 

「待って79式……静かに、こっちに来なさい」

 

 言われた79式は困惑しながらも指示に従い、その場を離れソファーの後ろにまで移動した。

 武器をとったWA2000に従い79式も自身の武器を手に取る……そのまま無言で成り行きを見守っていると、再び扉がノックされる。

 ノックされた回数は2回…最初のノックも2回……相手はオセロットじゃない。

 そう確信した次の瞬間、扉の向こうから何者かが銃弾を撃ちこみ、咄嗟に二人は遮蔽物に身を隠す。

 

 連続した射撃が続いたあと、何者かが扉を蹴破り部屋の中へと侵入した。

 即座に79式とWA2000は遮蔽物から顔をあげると、部屋に入り込んできた襲撃者に対し発砲し射殺した。

 

「シカリオよ!」

 

「はいセンパイ!」

 

 ラフな服装にタクティカルベストと覆面をした戦闘員、正規軍には見えないいでたちから彼らは間違いなくカルテルが寄越した者たちだろう。

 侵入者を排除したWA2000はすぐに荷物をまとめるよう79式に指示を出すと、自分は扉のそばに駆け寄り廊下を伺う…通路の先を覗いた時、ちょうど覆面をした戦闘員が駆け寄ってきたので拳銃弾を数発撃ちこみ殺す。

 その直後に通路の奥からアサルトライフルを持った戦闘員数人が姿を現し、すぐに身を隠す。

 

「センパイ! 荷物まとめました!」

 

「位置を代わって!」

 

「了解!」

 

 79式は必要な荷物だけをバッグに詰め込み、それを扉のすぐ近くに置くとWA2000と位置を代わる。

 バッグの中からスタングレネードを一つとると、WA2000はそれのピンを抜き通路に向かって投擲…炸裂音が鳴り響くと同時に叫ぶ。

 

「カバー!」

 

「了解!」

 

 スタングレネードが炸裂した後に79式が通路の向こうの敵へと牽制射撃を行う、スタングレネードと79式の射撃で敵が退いた隙にWA2000が通路へと飛び出した。

 79式がリロードのために身を隠した時、敵は遮蔽部から姿を現したがWA2000のライフル弾の餌食となる。

 慌てて隠れようとしたもう一人の胴体も撃ち抜いたところで、背後から怒鳴り声が聞こえ、振り返ると同時に回し蹴りを放った。

 鋭い蹴りが男の側頭部を打ち抜き、大きくよろめいた男を拳銃で射殺した。

 

「行くわよ79式!」

 

「了解! センパイ、敵が来ます!」

 

 敵の増援が現れるが、そこまで多くはない。

 突破は容易いと判断したWA2000は真っ向から撃ち合い、敵を排除する。

 カルテルの戦闘員とはいえ所詮素人に毛が生えた程度、戦場で培われた技術を持つWA2000とその教えを受けている79式の敵ではない。

 敵も二人の戦闘力に恐れをなしたのか何ごとか叫び逃走を図る……が、彼らの後方からゆっくりと姿を現した黒髪の女性を見た瞬間足を止めた。

 

 三つ編みに束ねた黒髪、鋭い目つきのその少女に二人は見覚えがある。

 オセロットが教えてくれたシカリオの一人であり、カルテルに所属する鉄血ハイエンドモデルの"解放者(リベルタドール)"だ。

 リベルタドールの冷酷な目に晒された戦闘員は怖気づく…そんな戦闘員の顔を彼女は掴みあげ、WA2000らに立ち向かうよう突き放す……恐怖に駆られた戦闘員はやけくそになり突進してきたが、79式の射撃に撃ち殺される。

 

 死んだ戦闘員に見向きもせず、リベルタドールは無言のまま接近する。

 異様な雰囲気に飲まれかけそうになる二人だが、彼女が腰のホルスターから拳銃を抜いた時、二人はほぼ同時に引き金を引いた。

 するとリベルタドールは素早い動きで足元の死体を掴みあげると、それを盾に銃弾を防ぐ。

 死体を盾にしつつリベルタドールは撃ち返す、盾となった死体は激しい銃撃戦で見るも無残な姿へと変貌させる……ズタズタになった死体を投げ捨てたリベルタドールへすかさずWA2000が狙撃、弾丸は彼女の胴体へと命中した。

 しかし、リベルタドールはわずかに動きを止めたのみで倒れもしない。

 79式もすかさず銃撃を加えるが彼女は意に介さず、むしろ悠々と拳銃のリロードを行っている。

 

「ボディーアーマーでも着ているんですか!?」

 

「いいから撃ちなさい!」

 

 また別な死体を拾い上げて盾とし徐々に接近していく。

 79式がリロードのために一歩引いた時、リベルタドールは死体を投げ捨て一気に駆け出した…狙っているのはWA2000。

 接近戦を仕掛けてきた相手に対し、WA2000はライフルによる迎撃を諦め拳銃へと持ち変えた。

 走り寄るリベルタドールへ向けて拳銃を発砲するも、ライフル弾で止められない相手を拳銃弾で止められるはずがない…山刀を手にした相手に、WA2000もナイフを手に取った。

 互いの刃が激突した時火花が散った。

 武器の重みで優るリベルタドールの山刀に思わずナイフを手放しそうになってしまうが、なんとかこらえる……同時に驚くのが予想外の相手の力強さだ、単純な力ではエグゼと同等かそれ以上と感じ取ったWA2000は力勝負を避けて距離をあける。

 

「センパイ! くっ…!」

 

 リロードを終えた79式だが、無理に打てば流れ弾がWA2000に当たる。

 自分もナイフを手に加勢しようと試みるも、WA2000の一瞬の睨みを受けて立ち止まる……手を出すな、それが彼女の指示だった。

 

「うちには結構なハイエンドモデルがいるけど、アンタみたいなのは初めてよ!」

 

「…………」

 

「無口な奴ね!」

 

 リベルタドールは表情も変えず山刀を振るう。

 当たれば一発で斬り裂かれる一撃、うまくナイフでいなしたり避けたりしているが徐々にWA2000の表情に苦悶の色が浮かんでいく。

 壁際まで追い詰めらた彼女は、振り下ろされる山刀をぎりぎりで避けることで、刃が壁に深々と突きささる……山刀の半分ほどまで壁に突き刺さる威力だ、もし当たっていたら命はなかっただろう。

 

「死になさい、化物め!」

 

 至近距離から拳銃を撃ちこむ…弾が命中するたびに血肉がはぜているが、同時に分厚い金属に阻まれるような甲高い音が鳴り響く。

 真っ向から銃弾を受けきったリベルタドールは人差し指を立てて小さく揺らす…少しも効いていない、そう言っているかのようだ。

 

「旧式の分際で粘るじゃない…!」

 

 ニヤリと笑い強気なセリフを口にする…ここまでの戦闘で彼女はうすうす感付く。

 リベルタドールは生体パーツは体表面の部分だけで、その内側は重厚な金属で構成されている…他の装甲人形に匹敵する防御力を有しているに違いない、だとすれば対装甲用の武装を持たない二人にとってリベルタドールは不利な相手だ。

 

 

 だとすれば戦わずに逃げるのがベストだ、それは間違いないが銃弾を弾く防御力とタフネスさに加え機敏なリベルタドールから逃げるのは困難だ…ならば、そう思い駆け出したWA2000にリベルタドールも動く。

 WA2000が手に取ったのは廊下に置いてあった消火器だ。

 すぐそばまで接近していたリベルタドールを、消火器でおもいきり殴りつける……金属同士がぶつかり合う音が鳴り響き、消火器はぐにゃりとひしゃげる……だというのにリベルタドールは数歩よろめいただけ、もはや正規軍御用達の軍用人形と見まがうほどの耐久性にWA2000はおもわず苦笑いを浮かべる。

 

 次に彼女が行動を起こす前に消火器の中身を浴びせかける、目くらましにはちょうど良いだろう。

 

「センパイ、これを!」

 

 79式が投げてよこしたのはグレネードだ。

 さすがにホテル内でグレネードを使うのはどうかと一瞬悩むが、なりふり構ってはいられない。

 消火器の煙に包まれたリベルタドールへグレネードを投げつけ、WA2000は79式の手を握りその場を走りだす……背後でグレネードが炸裂する爆音が鳴り響いたが振りかえらず、非常階段を飛び降りるようにして降りる。

 

 一階まで駆け降りたがカルテルの戦闘員には遭遇しない、しかしホテルの外にはたくさんの人だかりができている。

 こんな状況でもしカルテルが襲撃を仕掛けて来たら危険だ…そう思った矢先、二人の前に一台のハンヴィーが横付けされる。

 

「乗れ!」

 

「オセロット! 79式、さあ早く乗って!」

 

 79式を後部座席に押し込めていると、頭上からガラスが叩き割られる音が鳴り響く。

 咄嗟に見上げた先には、遥か上階からこちらを見下ろすリベルタドールの姿が見えた…彼女はWA2000を視認するや躊躇なく高層から飛び降りる。

 すぐにハンヴィーの助手席へと入り込む、同時にハンヴィーの前にリベルタドールが落ちてきた……。

 

「オセロット、あいつは…きゃッ!」

 

 目の前の相手がシカリオのリベルタドールだ、そう説明する間もなくオセロットはアクセルを踏み、目の前のリベルタドールへ向けて猛スピードで車を突っ込ませた。

 ハンヴィーの車体を真っ向から受けたリベルタドールは吹き飛ばされた…かに見えたが、なんと彼女はハンヴィーのフロントにしがみつき這い上がる。

 

「なんなのよこいつ!?」

 

「伏せていろワルサー」

 

 助手席のWA2000の頭を抑え込み、オセロットは車を加速させる…勢いにおされてリベルタドールも体勢を崩すが、それでもまだフロントへとしがみついている。

 そればかりが再び這い上がり、ハンヴィーのフロントガラスを殴りつけ、強化ガラスに覆われたそこにいっぱいのひび割れを作った。

 ガラスを何度も殴りつけ、ついに彼女は叩き割る…だが叩き割った先で見たのは、ショットガンを構えるオセロットの姿であった。

 

 銃口をすぐ目の前までつきつけられたリベルタドールは避ける間もなく銃弾を叩き込まれ、上体を大きくのけぞらせた。

 そこへオセロットは容赦することなく散弾を撃ちこみ、ついにはリベルタドールを前方へと吹き飛ばすと同時にハンヴィーで轢いた。

 

「さすがに死んだわよね…?」

 

 不安げに後ろを振り返ったWA2000、ひとまずリベルタドールはピクリとも動かず路上に横たわっているが、また起き上がるのではという不安がよぎる。

 それから視線を前方へと向けたWA2000は、ほっと安堵の息をこぼした。

 

 

「安心するのはまだ早いぞ、シカリオが追ってくる」

 

「嘘でしょ…」

 

 

 咄嗟に振り返った先で、機関銃を据え付けたテクニカルトラックが猛スピードでこちらに近付いてくるではないか。

 さらに前方の交差点からバイクが勢いよく飛び出しハンヴィーの先を行く……住民にお構いなく暴走するカルテルの車によってあちこちで交通事故が起こるが、そんなことはもう構ってもいられない。

 追撃を逃れるために高速道路へと進路を変えた時、珍しくオセロットの舌打ちが聞こえてきた。

 

「ワルサー、遺書でも書いておくか?」

 

「な、なによ急に…?」

 

「後ろを見てみろ」

 

「なんだろう、すごく見たくないんだけど…」

 

 そうはいいつつも、見なければならない。

 おそるおそる振り返った先、さらに言うなら後方の上空を飛来する黒い物体…人の営みがある市街地には全く似つかわしくない戦闘兵器の姿が空から迫っていた。

 

「戦闘ヘリ……あいつらほんといかれてるわね」

 

「この先に軍とMSFの合同部隊が張ったバリケードがある。そこまでたどり着ければオレたちの勝ちだ」

 

「やるしかありませんよ、センパイ!」

 

「しょうがないわね……一週間よ、一週間溜まった鬱憤晴らしてやろうじゃない! オセロット、敵の相手は私たちに任せて!」

 

「お前たちの弾薬は後部座席にある。必要ならグレネードランチャーを使え…敵が来るぞ、しっかりとやれ」

 

 

 

 

 




オセロット容赦なさすぎィ!



リベルタドールの解説です。

初期のハイエンドモデル戦術人形ということで、生体パーツよりも金属パーツの構成比率が多く耐久性が他の戦術人形とは比べ物にならない。
必然的に本体の機動力は下がるのだが、カルテルの違法改造でその弱点を克服している…装甲は分厚く、小口径の徹甲弾程度ではびくともしないがさすがに対戦車兵器までは防げない。
後期のハイエンドモデルと比べ疑似感情モジュールも未発達でダミーリンクも適応できず、また鉄血兵の統率も行うことができないなど問題は多々あった模様…。
でもカルテルの違法改造で(ry

無口コミュ障な戦術人形ちゃんです。

わーちゃんと79式ちゃんの今後の関係は??

  • 先輩後輩or師弟関係
  • ほんとの姉妹みたいな関係
  • 百合やろいい加減にしろ!
  • カラビーナと同じ狂信者

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