METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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カーチェイス

 市街地を通る高速道路の高架橋、そこは今警察による厳戒態勢が敷かれ数台のパトカーや装甲車がバリケードを築いている…絶えず無線機でやり取りが行われ、緊迫した様子の警官隊は通行規制されている高速道路を警備する。

 民間人の通行車はバリケード手前の出口から一般道へと誘導されるが、急な厳戒態勢で道路は大渋滞を起こしてしまっている…それらの対応にも警官隊が追われている中、反対車線の方角より猛スピードで逆走する一台のハンヴィーと数台のトラックがやって来た。

 逆走する車は対向車を避けながらバリケードを通過、その直後戦闘ヘリが低高度を飛びながら堂々と飛行していく。

 もはやバリケードが意味をなさなくなったことを知った警官隊はすぐさま車へと乗り込むと、自分たちもこの命知らずなカーチェイスに参戦するのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 助手席に座るWA2000は今、かつてない恐怖に晒されていた。

 高速道路という100キロ以上ものスピードで走る車線を逆走し、進行方向から走ってくる車はあっという間に目の前まで接近しすれ違っていく…オセロットの運転技術で避けてはいるが、弾丸のように突っ込んでくる対向車と衝突すればいくら軍用車のハンヴィーといえど破壊は免れず、自身も圧死してしまうだろう。

 車とすれ違うたびに悲鳴をあげるWA2000はもはや恐怖で使い物にならない…。

 

「センパイ! カルテルの車が来ます!」

 

 一方の79式はというと、正面を向かずに後方から追走してくるカルテルを迎撃しているためか逆走に対する恐怖を感じていないようだ。

 

「あぁ、私もうここで死ぬんだわ! もうお終いよ!」

 

「落ち着けワルサー、反対車線に戻るぞ」

 

 中央分離帯が切れたのを見計らい、オセロットはハンドルを切り正規の道路へと戻る。

 ハンヴィーのすぐ後ろを走っていたカルテルの車は急な動作に対応できず、対向車と正面衝突を起こしクラッシュした……だが後続の車はオセロットと同じように中央分離帯から進路を変更してきた。

 急ハンドルの衝撃でついオセロットにしがみつく形となったWA2000であるが、逆走の恐怖心でいっぱいの様子だ。

 

「深呼吸をしろ、メンタルを平常に戻せ」

 

「そんな、急に言われたって…!」

 

「オレがお前にできない事を命令したことがあるか?」

 

「オセロット……うん、分かった…」

 

 目を閉じて深呼吸を繰り返す…乱れたメンタルを落ち着かせ平常心を少しずつ取り戻す。

 

「車の事はオレに任せろ。お前はそのオレを全力で援護しろ、いいな?」

 

「了解、全力であなたを援護するわ」

 

 恐怖心を克服したWA2000にオセロットは頷いてみせた。

 いつも守られてばかりだった自分が今、あのオセロットを守る立場にいる…その認識が彼女をかつてないほど奮い立たせるのだ。

 いまなら例え逆走状態でも恐怖心に縛られることは無いだろう。

 助手席の窓を開き、身を乗り出した彼女はライフルを構えると後方から追い抜こうとするカルテルの車に狙いを定めた…狙いすまされた一撃は車を運転する男の頭部を撃ち抜き、制御を失った車は中央分離帯に乗り上げ激しく転倒した。

 

「さすがですセンパイ!」

 

「ふん、マヌケなカルテルに思い知らせてやるわよ!」

 

 WA2000の見事な一撃に感化された79式も後方を追走する車へと銃弾を浴びせる。

 どうやら敵も強化ガラスを装備した軍用車を運用しているようで小口径の銃弾ではびくともしない。

 

「ワルサー、上空のヘリにも気を配れ!」

 

「了解ッ!」

 

 高速道路を走行するハンヴィーと並ぶように飛行するヘリがゆっくりと機首を下げて高度を落とした。

 ヘリのドアが開かれ重機関銃を構えるガンナーが姿を現し、猛烈な弾幕をはる。

 咄嗟にオセロットがハンドルを切るが、ハンヴィーの側面には多数の銃弾が叩き込まれた…いくつかが装甲を貫通し、はぜた金属片によりオセロットの額から血が流れた。

 

「オセロット、大丈夫!?」

 

「オレの心配はするな! あのガンナーを始末しろ!」

 

 助手席から後部座席へと移り、窓から狙撃を試みるがガンナーの射撃を避けるために不規則に揺れる車からの狙撃は困難を極める。

 狙いをさだめて引き金を引いた射撃は外れてしまう。

 舌打ちをうち、ガンナーを狙い撃つが銃弾は標的から離れたヘリの胴体に命中するだけであった。

 

「クソ、狙いづらいったらないわね!」

 

「ワルサー、リロードをしろ。一瞬だけ車の回避を止める、その間に狙い撃て」

 

「ええ、やって見せるわ!」

 

 残弾はあるが真新しいマガジンに交換し、彼女は窓と自分の腕を利用してライフルの銃身を固定する。

 彼女が狙撃態勢をとったのを視認したオセロットはハンドルを戻し車を真っ直ぐに走らせる…そのチャンスを敵が見逃すはずもなく、ヘリのガンナーはとどめをさすべく銃弾の雨を降らせるのだ。

 

 タイミングは一瞬、雑念をとりはらい、スコープにヘリのガンナーをおさめたWA2000はそこから少し狙いを逸らし引き金に指をかけた……呼吸を止め、一切のブレをおさえた後に引き金にかけた指に力を込めた。

 放たれた弾丸は見事ガンナーの胴体に命中し仕留めることに成功した。

 予想外の反撃にヘリは驚いたのか急に高度をあげてその場を離脱していく。

 

「もう流石ですセンパイ!」

 

「ふぅ……まだ戦いは終わってないわ。オセロット、迷惑をかけたわね」

 

 助手席に戻ったWA2000…笑顔で運転席のオセロットを見た彼女であったが、額から血を流す彼を見て青ざめる。

 咄嗟に手を伸ばそうとした彼女をオセロットは制する。

 

「オセロット、大丈夫なの!?」

 

「あぁ…問題ない。79式、少しの間援護射撃を頼んだぞ」

 

 後部座席の79式にそう指示を出すと、オセロットはフロントのダッシュボードを開くと中から救急セットをとりだす。

 

「針に糸を通せ」

 

「ここで治療するの…?」

 

「いいからやれ」

 

「わ、分かったわ…」

 

 WA2000が縫合のための針を準備している間、オセロットは額から流れた血を布で拭い水の入ったペットボトルを手に取った…しかし片手では血で指が滑り蓋を開けられない、それをWA2000が代わりに開けてあげる……水で額の傷口を洗い流した時、わずかにオセロットは顔をしかめて見せた。

 

「針は用意できたな? お前が傷を縫え」

 

「え!? 私が!?」

 

「お前以外に誰ができる」

 

「でも、傷の縫合なんてやったことないわよ・・・!」

 

「上手い下手はこの際どうでもいい、この状況でお前しかいないんだよ…遠慮なくやれ」

 

 オセロットの強い口調に押されたWA2000は迷った末に観念し、ピンセットでつまんだ針をゆっくりと額の傷へと近付けていく。

 傷はよりによってまぶたの上、車の揺れで万が一手元が触れて目に突き刺しでもしたら終わりだ。

 車が揺れるたびに怖気づいて針を離す…。

 そうしている間にもぱっくりと開いた傷から血が流れ、オセロットの片目を塞いでいってしまう…。

 

「無理よ、できない…!」

 

「やるしかないんだ、やれ」

 

「だけど…!」

 

「何回も言わせるな…オレは、お前ができないことを言っているわけじゃない。オレがお前を頼っているんだ」

 

 目を潰そうが汚かろうが構わん、自信をもってやれ……不安でいっぱいのWA2000の目を真っ直ぐ見つめながらオセロットは諭しかける。

 彼女はそれに頷き、再度針を傷へ近づける…手の震えは止まっていた。

 針を傷口近くの皮膚へ通し、開いた傷を縫って閉じる。

 痛みからかオセロットの表情がわずかに歪むが、そこで手を止めることは彼も望まないことをWA2000は察し手を止めずに傷を縫合していく。

 4針ほど縫ったところで玉を作り、糸を切る……流れた血を水で洗い流し清潔なガーゼを押しあて治療は終わりだ。

 

「よくやった…」

 

「うん…痛くなかった?」

 

「気にする程のことじゃない。それよりもうすぐ高速道路を降りる、しっかり捕まっていろ」

 

 いまだ追撃の手を止めないカルテルの戦闘員たち。

 もうすぐ軍とMSFの合同部隊との合流地点、ハンヴィーの速度をあげて追ってくるカルテルを引き離し高速道路を離脱し一般道へと出た。

 信号などは全て無視し合流地点へと真っ直ぐに向かうが、あと少しのところで道路の渋滞に捕まってしまった。

 もう数百メートル先には軍とMSFが張ったバリケードがあり、MSFの旗も見えた。

 

「ここで降りるぞ。後は走って行く」

 

「分かったわ、79式も行くわよ!」

 

 ハンヴィーはそこで乗り捨て車の間を走りぬける。

 ちょうどその時、追いかけてきたカルテルの車も追いつく…キャリアトラックの荷台に重機関銃を設置したカルテルは、目の前にいる多数の民間人がいるのにもかかわらず逃げる3人に向けて銃撃を開始した。

 突然の銃撃に町の住人たちはパニックに陥り、あちこちから悲鳴や叫び声が上がる。

 

「あいつら…!」

 

「79式、足を止めないで!」

 

 民間人もろとも撃ち殺そうとするカルテルを79式は忌々し気に睨みつけるが、立ち止まっている場合ではない。

 前方からは異変に気付いた軍とMSFの兵士たちが動き始めたが、カルテルの戦闘員も車を降りて追いかけてくる…間に挟まれる形となった民間人は逃げ場もなく、カルテルと軍の銃撃戦に挟まれてしまう。

 

「クソ……仕方ない、ここでカルテルを迎え撃つぞ! まずは民間人の避難を優先しろ!」

 

「分かったわ! あぁ、まずい…」

 

「なんだ?」

 

「あいつ、追ってきたわ! リベルタドールよ!」

 

 ワルサーの声にカルテルの側を見た時、渋滞を起こす車の上を足場に駆け寄ってくるリベルタドールの姿を見た。

 すかさずオセロットとWA2000は射撃し接近を阻もうとするが、二人の銃弾を真っ向からはじき猛然と突っ込んでくる……味方の誤射も恐れることなく三人に接近してくるリベルタドールは、度重なる戦闘で身体を覆う生体パーツが損傷し、内部の銀色の骨格が見え隠れしている。

 一見すれば重傷の身体だが、あくまで体表の生体パーツが損傷しただけ…肝心の内部構造はまだ無事だ。

 

「こんな場所じゃグレネードも使えないわね!厄介な相手よまったく!」

 

 全身を疑似血液で濡らし、ボロボロになった姿で向かってくる姿はある種のトラウマになりそうなものだが、WA2000はただこの執拗さに飽き飽きするだけだ…無駄だと分かっていてもライフル弾を命中させるが、少しよろめくだけで倒れもしない。

 正面からの銃撃を避けようともせずにリベルタドールはマシンガンを撃ちまくる。

 

 だが一発の銃弾が右胸のあたりに命中した時、リベルタドールは大きくよろめいた。

 生体パーツが引き剥がされたその箇所は深くえぐられている……それはさっきオセロットが至近距離からショットガンを撃った箇所であり、脆くなったその場所にたまたまWA2000の銃弾が命中したことで装甲を撃ち抜いたのだ。

 ショートし、火花を散らせるリベルタドール……右胸にできた傷を手のひらで覆い、相変わらず変わらない表情で三人を見据える。

 だが不利を悟ったのか彼女はゆっくりと退いていき、町の路地裏へとその姿を消していった。

 

 それと同時にバリケードからやって来た軍とMSFが駆けつけたことで形成は逆転、カルテルの戦闘員は銃撃戦で次々に射殺されていき、彼らも不利を悟って逃走を開始するのであった…。

 逃げ遅れたカルテルは始末されるか、運が良ければ逮捕される。

 

 

 

 戦闘が沈静化した後は、負傷者の手当てのために軍とMSFの部隊は奔走する…。

 

 

 

 

「おーいみんな大丈夫ー?」

 

 そんな中、バリケードの向こうから見覚えのある金髪がリベルタドールがやったみたいに車の上をピョンピョン跳ねてやって来たではないか。

 

「うわ、みんなひっどい格好だね。大丈夫?」

 

「今はあんたの顔を見れただけでもホッとできるわよ……人形で来たのはスコーピオン、アンタだけなの?」

 

「そうだよ! 対チンピラの最終兵器ことあたしが来たからには大丈夫だよ」

 

「私はてっきりエグゼが来るものかと…」

 

「いやいや、あいつ民間人もろとも敵を殺すかもしれないでしょ? あたしはその点大丈夫だからね!」

 

 

 車の上から飛び降りたスコーピオンは満面の笑みでVサインをして見せた。

 ずっと緊張しっぱなしだったためか、スコーピオンの相変わらずの姿に一気に緊張の糸が切れる……へたり込むWA2000と79式を労いつつ、スコーピオンは止めておけばいいのにオセロットに絡みだす。

 

「おぉ、オセロットが怪我するなんて珍しいじゃん。その傷は自分で縫ったの?」

 

「私が縫ったのよ…はぁ…思いだすだけでも疲れる…」

 

「へぇ~お疲れさまです。それにしてもオセロット、自分の傷を治療させるなんてずいぶん距離感が近いんじゃないの?」

 

「余計なことを言うな」

 

 からかう相手が悪かった、スコーピオンはその脳天にオセロットからの拳骨を貰い痛みに悶絶する。

 

 

「疲れているところ悪いが、標的の居場所が判明した。この騒動でおそらく奴らもオレたちの正体に気付いたはずだ。カルテルのボスがまた身をひそめる前に、作戦を実行に移すぞ」

 

「了解よ……仕方ないわね、もう少し頑張りましょう79式」

 

「はいセンパイ」

 

 いまだぐったりした様子の二人だが、仕事となれば気持ちを切り替えるほかない。 

 次の作戦は、カルテルのリーダーであるアンヘル・ガルシアの排除…生死は問わないというのが依頼内容だが、生け捕りにできれば報酬は弾むという約束らしい。

 俄然やる気を出すのはスコーピオンだ。

 

「あんた分かってる? カルテル相手がどんなに大変か…私も思い知らされたわけだけど…」

 

「わーちゃん、心配してくれてありがとうね……でも大丈夫だよ、あんな奴らにあたしは容赦しないから」

 

「へぇ、そう…本気なのね?」

 

「もちろん。あたしさぁ、弱い者いじめする奴は大嫌いだからね…カルテルのアホにはキツイ一撃をお見舞いしてやるよ」

 

「大層な意気込みを持ってる中悪いが、スコーピオンお前は待機だ」

 

「はぁ!? なんでなんで!? 折角はるばる来たのにそれはないよオセロット!」

 

「お前に隠密行動は期待できないからな……別な部隊を用意してある。9A91がリーダーをつとめる"スペツナズ(特殊部隊)"だ」

 

「なるほど、MSFの裏の部隊も投入するつもりね…分かったわ」

 

「現地でカラビーナとも合流しろ、奴が先行して偵察を済ませている……失敗は許されん、必ず成功させろ」

 

「了解よ、オセロット」

 

 敬礼をオセロットに向け、早速二人は次の任務の準備のためにMSFが築いたバリケードへと向かった。

 そこで装備と武器のメンテナンスを行い、すぐさま用意された車両へと乗り込む…ここからはオセロットの助力は無しだ。

 さりげなく車に乗り込もうとしたスコーピオンを引きずり下ろし、オセロットは二人を乗せた車両を見送るのであった…。




スコピッピ「なんであたし呼ばれたの?」
オセロット「うちの教え子の見送り要員だ」
スコピッピ「ひどい」


スコーピオンの活躍はまた今度ね……だって、この子が戦うとシリアスぶち壊しそうだから(サソリ式バックドロップ)


次回から隠密作戦、SAN値下げ下げイベも盛りだくさん!
ではまた、ほな…。

わーちゃんと79式ちゃんの今後の関係は??

  • 先輩後輩or師弟関係
  • ほんとの姉妹みたいな関係
  • 百合やろいい加減にしろ!
  • カラビーナと同じ狂信者

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