METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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マザーベース:無口なあの子は友だちが欲しい

 目覚めると白くまぶしい天井が視界いっぱいに映る。

 天井に取り付けられたLEDの青白い光にまぶしさを感じてリベルタドールは目を細めるが、光を見てまぶしさを感じるという今までになかった感覚に自身の変化を認識する。

 むくりと起き上がり見た自分の身体は一糸まとわない姿でベッドに寝かされ、長い黒髪がきめ細やかな白い肌にかかる……リベルタドールは起き上がったままの姿勢できょろきょろと周囲を見回しつつ、自身の身体の細部を動かし動作を確かめる。

 脳…リベルタドールのAIが指先を動かす指示を出すと即座に指が曲げられた。

 旧式のボディーを長らく使用していたリベルタドールは経年劣化も合わさり動作に若干のタイムラグがあったのだが、今の身体は自分が動かしたいと思うと同時に動かし、微細な動きまで可能となっている。

 

「この世界に来て私たちが造り上げた完全オリジナルのボディーだ、気に入ってもらえたかな?」

 

 その声に振り返ると、そこにいたのはストレンジラブ博士だ。

 旧式化し、劣化の一途をたどる運命にあったリベルタドールに真新しいボディーを作ってあげることを提案し、WA2000らにも勧められたことで受けた今回の開発、これまでの経験から戦術人形開発のノウハウを十分に活かすことでリベルタドールの新たなボディーは造り上げられた。

 旧いボディーでは生体パーツはあくまで人間への擬態を目的とする程度だったのに対し、新しいボディーは生体パーツの構成比率を多くとられており、他の戦術人形が食事によるエネルギーを確保するのと同じことができるようになった…おかげで前までは定期的な生体パーツの交換が必須だったが、今は安定したエネルギー供給がなされれば生体パーツは独自に代謝をとり修復する。

 

 そして基幹となるリベルタドールの骨格だが、これは他のハイエンドモデルの技術を流用しつつ、リベルタドールに用いられていた骨格がメインとなる。

 旧式であるのは間違いないが、油圧システムによって供給されるパワーは非常に強力であり、リベルタドールが持っていた強さの一端でもあったためこれを再び採用した。

 さらにリベルタドールのリソースを拡充することで知性を高め、他の多くの戦術人形に搭載している高度な疑似感情モジュールも実装することが出来た。

 

 ようするに、今のリベルタドールは鉄血とMSFが培った技術の融合体という意味合いもある。

 そしてそこにもう一つ、ストレンジラブが技術解析を経て身につけたI.O.Pの技術…烙印システム(ASST)が加わる。

 正式名称Advance Statistic Session Toolと呼ばれるこの技術によって、戦術人形は自分の武器と特別な繋がりを持つようになる。

 本来なら銃の特色から人形の素体が選ばれる、つまり銃のための人形という関係になるのだが、ストレンジラブはその真逆を行く観点からこの技術を獲得した。

 

 人形の素体に適した銃器を決定する。

 

 それは当たり前の烙印システムを用いるこの世界の住人ではない、別な世界からやって来た彼女ならではの解釈から生まれたものだ。

 

 ストレンジラブが持ってきた一丁の銃。

 それを目にしたリベルタドールは、今まで感じたことのないような感覚を感じる。

 自身の感覚の半分が、その銃器に宿っているかのような奇妙な感覚だ。

 

 

「これが君の銃…"H&K CAWS"、元はうちの研究開発班が造りだしたフルオートショットガンだが、君の特性に最もマッチしたのがこの銃だ。専用の12ゲージタングステン製バックショットを使用、他の銃と弾丸の互換性がなかったから長らく倉庫に眠っていたんだ…ブルパップ方式が戦闘班に馴染まなかったというのもあるがな」

 

 リベルタドールは自身の銃、H&K CAWSを受け取ると興味深そうに観察する。

 ひとしきり観察して満足したのか、彼女はストレンジラブに目を向けると軽く会釈する…。

 それからすぐそばのテーブルに綺麗に折り畳まれていた衣服を自分のものと判断したリベルタドールは無言でその服に袖を通す。

 一応目の前にいるのはレズと悪名高いストレンジラブであり、今もサングラスの奥で怪しく目を光らせている…が、羞恥心というものが無いのかリベルタドールは裸体を躊躇なく晒し着替える様子を恥じらうこともない。

 これにはストレンジラブも狼狽える…羞恥心あってこそ愛でる気持ちも生まれるのだが…。

 

 そんな彼女に再度お辞儀をすると、リベルタドールは研究所を出ていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「リベルタ」

 

 研究所を出た彼女は早速、出迎えのためにやって来ていたWA2000に呼び止められる。

 その隣には後輩の79式もおり、はにかみながら小さく手を振っていた。

 

「へぇ、それがあなたの銃"HK CAWS"なのね…どうする、これからあなたの名前はなんて呼べばいいかしら?」

 

「………」

 

 問いかけに対し相変わらずというか何というか、彼女は無言のまま…ジト目で睨まれた彼女は少し慌てたように口を小さく開く。

 

い、今まで通りの名で呼んで構わない……そっちの方が都合がいいし、対応もしやすい

 

「なんかこの人前より声小さくなってないですか?」

 

新しいボディーだから馴染まないんだ、そうに違いない……それに口は災いの元と聞いたことがある、話しすぎるのは良くないような…

 

「変な言い訳覚えるんじゃないわよ。まあいいわ、連れていきたいところがあるから一緒に来なさい」

 

 声が小さいのは旧式のボディーのせいかと思っていたが、どうやら本人のメンタルの問題らしい。

 隙あらば黙り込むリベルタドールに少し呆れたWA2000であるが、一応彼女もこれからは自分の部下ということで彼女の事を理解してあげた上で付き合っていかなくてはならない。

 

 目的地についてWA2000は教えてくれなかったが、リベルタドールはとり合えず何も言わずについて行く。

 WA2000の先導で案内されたのはスプリングフィールドのカフェだ…店の扉にはCLOSEと書かれた札が下げられているが、彼女は扉を開く。

 

「いらっしゃいワルサー」

 

「急にお願いしちゃってごめんねスプリングフィールド、あまり大勢で集まるのは好きじゃなかったから助かったわ」

 

「せっかくの歓迎会ですから協力は惜しみませんよ」

 

 カウンター越しに話しあう二人をじっと見ているリベルタドールを、79式は軽く小突くと、囁くようにそっとつぶやいた。

 

「あなたの歓迎会ですよ、センパイがセットしてくれたんです」

 

そうなのか……?

 

 そもそも歓迎会という概念自体をリベルタドールは知らないように見える。

 麻薬カルテルのシカリオとして雇われていた彼女は標的を殺す以外の知識は身に付けず、覚えることと言えば効率よく殺しを行う手段やいかに恐怖を与えて殺すかだ…後者については自身の疑似感情モジュールが未発達だったせいで、他のシカリオから殺し方を真似しただけなのだが。

 ともかく、WA2000が珍しく開いてくれた開会式である。

 スプリングフィールドも彼女の気持ちに応えるために場所を提供してくれたというわけだ。

 

「ワルサー、お待たせしました」

 

「あら9A91、思ったより早かったわね」

 

 そこへ現れたのは9A91と、彼女率いるスペツナズのメンバーである SR-3MP(ヴィーフリ)OTs-14(グローザ)、PKPだ。

 さらに遅れてKar98k(カラビーナ)も加わる。

 

「私が呼んだのは9A91だけだったと思うんだけど?」

 

「あらつれないわねワルサー、ただでお酒が飲めると聞いたら私たちが来ないはずがないでしょう?」

 

「そうそう! ここ最近は訓練と任務で忙しかったし、浴びるほど飲みたい気分だわ!」

 

「私は別に良かったんだが…隊長が行くというから仕方なくだな」

 

 グローザ、ヴィーフリ、PKP…そして9A91。

 全員がロシアの地に起源を持つ戦術人形ということもあってか、アルコールに対する熱意は並々ならぬものがある。

 まずスペツナズの部隊長である9A91、彼女は一見大人しそうに見えるのだが酒が絡むとおかしなキャラに変貌するのだ。

 過去には酒の不足からスコーピオンらと共謀してマザーベース中のアルコール飲料を強奪したりもした…その中には消毒用のアルコールだとか、塗装用のアルコールだとか、常人が飲めば命の危険がある工業用アルコールも含まれていた。

 最近ではまたまたスコーピオンと共謀して造りだした密造酒だろう……あれは危険だ、少なくとも同じく酒好きのM16を一撃で酔わせるだけの破壊力はある。

 

 歓迎会の挨拶も待たずに勝手に飲み始めるスペツナズ一味は放っておき、WA2000は今日真新しいボディーを得たばかりのリベルタドールを歓迎するためのパーティーを開くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰か………誰か助けてくれ…

 

 リベルタドールの救いを求める小声は、他の人形たちの喧騒の前に容易くかき消されてしまう。

 リベルタドールのための歓迎会だったはずがやはりというかなんというか、スペツナズの連中が酒に酔い始めた辺りからほぼ無礼講の酒飲みへと変わり、静かなカフェの空間を破壊されたスプリングフィールドはやはりこうなったかと言わんばかりにうなだれている。

 

「おい小声で何をごちゃごちゃ言っている、お前さっきから全然ビールが減っていないじゃないか…」

 

ビールの炭酸で喉が痛くてだな…

 

「なに? なんて言ったんだ? もっと大きな声で話せ」

 

………無理

 

 酔ったPKPに絡まれたリベルタドールは表情にこそ出ていないが内心たじたじであった。

 今まで高度な疑似感情モジュールを身に付けていなかったために、新たなボディーを得たと同時に繊細な感情表現も獲得したわけだが、対人スキルで優れているのは殺しだけなためにまともな会話を行うことが出来ない。

 救いを求めてカウンター席の9A91に目を向けるが、あちらはもっと危険だ…。

 カウンター席には空になった酒瓶がいくつも並び、9A91とヴィーフリが顔色一つ変えずに会話を楽しんでいる……いや、よく聞けば会話がかみ合っておらず焦点も定まっていないので既に二人はキマッているのだろう。

 

「もう皆さん飲み過ぎですよ? PKPも、あまりリベルタを困らせちゃだめですよ」

 

「私は別に酔ってなどいない。いいかリベルタ、酒に酔った状態というのがどんなものか教えてやる。ちょうどここに2つの酒瓶があるだろう? これが4つに見えはじめたらそれは酔ってるということだ」

 

酒瓶は一つしかないんだが……

 

 つまりPKPも酒に酔っているということだ。

 スプリングフィールドによってPKPはカウンター席へと引っ張られていく、スペツナズ組はそこに固まってもらって彼女が面倒を見てくれるのだろう。

 その隙にリベルタドールはWA2000とカラビーナが座るテーブル席へ逃げ込む様に移動した。

 

「あらリベルタ、イワンの飲んだくれ共に荒い歓迎を受けたようね」

 

「………」

 

「疲れて小声も出せないみたいですわね」

 

「はぁ…9A91を誘ったのは間違いだったかしら? スコーピオンも誘ったら誘ったでうるさいし」

 

 すっかり滅茶苦茶になってしまった歓迎会…リベルタドールの変わらない表情も、よく見れば疲労感が滲み出ている。

 そうしていると、ふらふらと千鳥足で近付いてくる79式。

 酔っているのか顔を赤らめ、幸せそうに微笑みつつWA2000の元までやってくると幼い子猫のように甘えてくる。

 

「もう、誰よ79式にお酒飲ませたのは?」

 

「えへへへ、ぐろ~ざさんにもらったですよ~」

 

「あいつめ」

 

 ちらっとカウンター席を見ると、ちょうどグローザと目が合うが、彼女は知らないふりをして隣の9A91と話している…スペツナズの人形は酔っても表情に出ないので分かりにくいが、グローザだけはほとんど酔っていないようにも見える。

 とにかく、グローザのせいで酔っぱらってしまった79式を膝枕で寝かしつけると、彼女はすぐに小さな寝息を立てて眠りについてしまう。

 

「かわいらしい後輩ちゃんですわね」

 

「自慢の教え子だもの。ところでリベルタ、新しいボディーの方はどう?」

 

おかげさまで順調だ……あの博士は凄い技術を持っているのだな。まさか私がASSTを実装するとは思っていなかった

 

「確かに優秀よ、だけど同性愛者の変態だから注意しなさいね?」

 

どーせーあいしゃ? すまない…知らない言葉だ、教えて欲しい

 

「あー……これは別に覚えなくていい言葉よ」

 

 メンタルモデルのアップグレードがされたことでAIの性能と記憶容量が増えたわけであるが、以前まで記憶容量が圧倒的に少なかったためにリベルタドールはいくつかの言葉や概念を理解することが出来ない……戦闘に関する技術や能力は確かだが、それ以外の知識には乏しいのだ。

 羞恥心が皆無なのもそれが原因だ。

 しかしそれは少しずつ覚えていくことだとして、別に焦って覚えさせることでもない。

 

「新しいボディーと武器を手に入れたわけだけど、あなた他に何か欲しいものはある?」

 

 その問いかけに、リベルタドールは困り果てる。

 すぐに答えることが出来ないのは、自分が欲しいものということがイメージできないでいるからであった。

 

「話が遅れちゃったけど、あなたは私のチームに入るの。私とカラビーナ、79式、リベルタを混ぜた小隊よ。今までフリーで動いてた私だけど、部隊を持つことになったの。スペツナズやエグゼの連隊、404小隊にも負けない精鋭部隊を作るつもりよ……その上で私はあなたのことをもっと知りたいし、私のことをもっと知って欲しいのよね」

 

「………」

 

「まあ、いきなり難しいことよね。何か欲しいものでもあれば出来ることなら協力するわ」

 

 リベルタドールは沈黙し考える。

 カルテルにいた頃は暗殺をすることで報酬の金を手に入れていたが、それは別に必要ではあったが本気で欲しいものというわけではなかった。

 劣化していく生体パーツの取り換えや整備のために使うだけにすぎない、それがなければ別に金など不必要だと考える。

 では何が欲しいかと考えた時、彼女はかつて南米のスラム街を練り歩いていた時の記憶を思い浮かべる。

 

 貧困であえぐスラム街の大人たちの中で、年端もいかない少年少女たちは同世代の子どもたちと遊び楽しそうに笑っていた。

 貧しさは不幸であると考えるリベルタには理解不能な心理であった。

 ある時、貧しさで苦しいはずなのにどうして笑っていられるのか、そう子どもたちにリベルタは質問したことがある…それに子どもたちはお互い笑い合いながら言った言葉を、彼女は頭に思い浮かべながら言う。

 

 

私は………友だちが欲しい

 

 

 いつも通り小さな声で言ったその言葉をWA2000は確かに聞いた。

 予想外ではあったが、リベルタの欲しいものを理解したWA2000は小さく微笑む。

 

 

私は人と話すのが苦手だ…何を考えているか分からないからな……だが友だちというのはお互いを理解できるんだろう? 私はそれに興味がある……

 

「フフ、意外ね。でもいいことじゃない、悪くないわよ?」

 

そうなのか…?

 

「まあその点はマイスターも不得意なんですけどね?」

 

「余計なことを言うなカラビーナ」

 

 だってそうでしょう? とからかうように言われると、いくつか心当たりがあるのか反論できないでいた。

 

「とにかく! あなたが欲しいものは分かったわ……そうね、こんな私で良かったらあなたの友だちになってあげるわ。だけどあなたが思う友だちは、こんな簡単にはできないんでしょうね……だからねリベルタ、これから一緒に生活したり仕事をしたりしてお互いを理解し合いましょう。そうすれば、友達以上の親友になれると思うわ」

 

友達以上の親友……か……出来るといいな

 

「出来るわよ、きっとね」

 

 

 




無口?でコミュ障ぼっちなリベルタさんは友だちになりたい……なんかラノベのタイトルみたいやなw


それはさておき、リベルタドールがI.O.P技術で銃とリンクしたよ!
その名も"H&K CAWS"
あんまりメジャーじゃないかもしれんが、PWでも登場した滅茶苦茶強いショットガンや!

詳細は皆さんにググってもらうとして、なんかG11っぽい形状のフルオートショットガンですね~。
というわけでリベルタドール(HK CAWS)はSG人形枠ですね!

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