MSFがその活動を通して規模を拡充していく過程で、かねてから悩ませていた訓練所の不足は現在ほとんど解消されている。
管理の難しい土地を周辺諸国から購入することで訓練所を設けたり、MSFと交流のあるユーゴ連邦のイリーナを通して連邦軍の訓練に参加したりしている。
MSFに志願する兵士は多かったり少なかったりと安定はしないが、最近ではユーゴ連邦軍の軍縮のあおりをうけて職を失った連邦軍兵士がMSFに志願することが多い…やはりこれもイリーナが兵士とMSFを仲介することで上手くなり立っている。
しかしかつて内戦状態にあった旧ユーゴ出身の兵士たちは民族構成もバラバラであるため、今だ残る民族同士の対立の観点から受け入れは慎重に行われている。
そして初期のころよりMSFの拠点として、多くの兵士や戦術人形が汗を流した前哨基地は今でも重要な拠点として活用されており、今は先の戦いで喪失したエグゼ率いる連隊の人員補充を行っている。
いまやすっかりMSFが完全制圧してしまっている元鉄血工造の工場群はあの戦いから常に稼働状態にあり、連隊を構成するヘイブン・トルーパー兵の生産を安定して行っていた。
しかしただ生産するだけでは今までの兵と質は変わらない…ということで、エグゼがMSFの研究開発班に突きつけた要求というのが、ヘイブン・トルーパー兵全員に烙印システムを実装させることであった…I.O.Pが開発した技術を導入するのはエグゼも当初は悩んだようであるが、強さを求める過程でつまらないプライドは不必要と判断したのであった。
だが要求をつきつけられた研究開発班及びストレンジラブ、そしてヒューイなどは大慌てだ。
なにせ日に何十体も出荷されるヘイブン・トルーパーすべてに烙印システムを施すのは手間がかかり、それが長期間にわたるということは他の研究が滞るということでもある。
メタルギア・サヘラントロプスの動力供給問題も解決していない今、研究開発班はそのような作業に取り掛かってはいられない…。
しかし現場の強い声を無視できず、徐々に烙印システムを導入するということで妥協してもらったわけであるが…。
前哨基地
拡張工事が続けられたMSFの前哨基地は、かつて廃墟であった様子は微塵も感じられない。
大型飛行機の離着陸も可能なほどの大きな滑走路はコンクリートで舗装され、その近くには大きな倉庫群が並び建ち、空輸によって運ばれてくる資材等がそこへ搬入されていく。
その資材の管理には地元住民が雇用されており、仕事の少ないこの地域で何気にありがたがられていたりもする。
「エイハヴ~!」
前哨基地の管轄を任されているエイハヴのもとへ駆けつけてきたのはスコーピオンだ。
スコーピオンも連隊副官としての立場からここ最近は部隊の補充に関する仕事で忙しい。
「どうしたんだスコーピオン? 何か足りないものでもあるのか?」
「いや、足りないものというか欲しいものというか」
「おいおい勘弁してくれ、またエグゼが何か欲しがっているのか? 連隊を補充したい気持ちはわかるが、他の部隊の都合だってあるんだ」
「それはわかるんだけど、エグゼったら最近張り切ってんだよね。もっと月光を配備したいみたいだし、あとはほら…最近開発した無人機が欲しいみたいでさ」
「まだ試験的運用でオレたちの部隊にすら配備していないのに、連隊にまわせるはずがないだろう?」
「まあ、そうなるよね~。分かった、エグゼにはあたしから言っておくよ」
後で突っかかってくるんだろうなという予想はするが、出来ないものはできない……最近開発された無人機というのは、研究開発班が先鋭的な装備を持つ"正規軍"に対抗し造り上げた兵器だ。
無人攻撃ヘリコプター"ハンマーヘッド"
四足獣型無人機"フェンリル"
可変機能を有した無人攻撃兵器"グラート"
他にもいくつか試作兵器が開発されていたようだが、技術的観点と作業の限界から没になったようだ。
どれもまだ試験的運用で課題も多いらしく、まだ本格的な配備には遠いが、量産と配備が進めば戦力の拡充に繋がることが予想される。
どの部隊も月光とともに欲しがるこれら兵器をエグゼが欲しがる気持ちもわかるが、どれか一つの部隊を贔屓にするわけにはいかない。
立ち去るスコーピオンを見送ると、今度は不機嫌そうな表情のFALがやってきたではないか。
彼女はエグゼ率いる連隊隷下の戦車大隊隊長をつとめ、戦車大隊もエグゼの方針で再び再編成されたわけだ。
文句を言いながらもどこか満足げに戦車を扱っているFAL…彼女のためにミラーが真新しい戦車を寄越してくれたはずなのだが、何か不満でもあるというのか…。
今まで文句を言ってこなかった相手なだけに、警戒するエイハヴ…。
「エイハヴあのさ……殺虫剤あったりしない?」
「殺虫……なんだって?」
「だから、殺虫剤よ」
予想もしていなかったFALの言葉にエイハヴは拍子抜けするが、FALはいたって本気な様子。
意外な言葉に動揺するエイハヴだが、FALはいたってまじめな様子…とりあえず殺虫剤は倉庫の中にあるから倉庫番に聞いてくれと伝えつつ、なぜ殺虫剤が必要なのか、気になるエイハヴは何気なく尋ねた。
それに対しFALは疲労感たっぷりのため息をこぼして言った。
「最近、私の宿舎に蚊が入り込んで寝れないのよ…」
「カ…って、あの蚊か? モスキートの蚊?」
「そう、モスキートの蚊よ……あの忌々しい虫けらのせいでもう何日もまともに眠れてないわ…!」
「かわいそうに…とりあえず、殺虫剤は倉庫にあるから持っていくといい。それと、スギの葉とかを燻してやると追い払えるらしいぞ」
「そう…ありがとうね」
よほど蚊に悩まされているのだろう、FALは目の下に大きなクマをつくり、足取り重くそこを立ち去って行った…。
翌日、前哨基地の食堂にて、FALはぐったりした様子でテーブルに突っ伏していた。
髪はぼさぼさで衣服が乱れ、開いた足から下着が丸見えになっているがよほど疲れているのかFALはそんなことに気を遣う余裕すらない……美女の下着が丸見えな様子に男性陣は興味を惹かれるかに見えたが、今にも死にそうな状態でテーブルに突っ伏しているFALに関わらないよう遠巻きに様子をうかがっている。
「やあFAL、今日も今日とて独女っぷり見せつけてくれるね」
そこへやってきたVectorがさっそくだらしないFALの姿をいじるが、彼女は無反応だ…。
ウインナーを刺したフォークを掴んだまま寝息を立てている。
「おーい、起きなさいFAL…そんなことやってるとほんとに貰い手がいなくなるよ?」
「うぅ……うるさいわね……あと少し寝させてよ…」
「あんた1時間後には戦車部隊の演習があるんでしょう?」
「そうだけどさ……眠すぎる…また眠れなかったわ……あのくそ虫絶滅しろ…」
これは重傷だ、Vectorは内心そう思いながら面白そうに観察していた。
「もう三日以上経つのに、蚊の一匹も始末できないわけ?」
「あんたあの生物なめてるでしょ? エイハヴにもらった殺虫剤3缶全部散布してやって、今日こそ安眠できると思ってベッドに入って…夜中の1時か2時ごろよ、あのくそ虫が耳元を飛ぶ音でたたき起こされたわ!」
「まあまあ落ち着きなよFAL、パンツ丸見えだよ?」
「パンツなんてこの際どうでもいいわ!わたしは!ゆっくり!寝たいのよ!」
もはや女性であることを捨てたような発言に食堂内の空気が微妙なものとなる。
これではいくら美人とはいえ、男性もアプローチをしかけるのも難しくなってしまうだろうが、そんなことは今のFALには重要ではない。
安眠できる手段を模索する方が重要なのだ。
「というか、なんであんたの部屋だけ蚊が湧くの?」
「そんなの知らないわよ。部屋に隙間があるわけじゃないし近くに茂みがあるわけでもないのに…」
「なんだろうね? 蚊は汗をかいたり、体臭につられて寄ってくるっていうらしいけど」
「なによ…私がくさいって言うつもり?」
「そうは言ってないけど…そうだね」
Vectorは唐突にテーブルから身を乗り出すと、FALの首筋に顔を近づけて匂いを嗅いだ。
いきなりのことにFALは動揺するが、vectorは何故だか満足した様に席に座る。
「べつにアンタは臭くないよ。むしろいいにおいがする」
「あんたねぇ……次ふざけた真似したらその鼻へし折るわよ?」
「人が親切に協力してあげようというのに…まあいいよ、モスキート退治頑張りなさいな。ごちそうさまでした…」
朝食を食べ終えたVectorはさっさとその場を立ち去っていく。
寝不足から疲労が取れず、食欲もわいてこないFALはろくに朝食も取らずに仕事へと取り掛かる…むろんそんな状態でまともに仕事ができるはずもなく、連隊指揮官であるエグゼから度々叱りつけられ、ますます彼女の鬱憤はたまっていく。
そして翌日も、その翌日もまたFALは寝室に入り込む蚊に悩まされる。
79式のアドバイスで蚊帳を設け、ミラーがわざわざ用意してくれた蚊取り線香も試し、殺虫スプレーも毎晩散布する…それでもどこからともなく入り込んでくる蚊にFALの安らかな眠りは妨害される。
耳元を飛ぶ独特な音と、刺された箇所の痒みに襲われ続けること一週間…ついにFALはブチギレた。
「もう我慢できないわ!ぶっ殺してやる!」
毎度、夜中に蚊の羽音にたたき起こされたFALは下着姿のまま宿舎を飛び出すとその手に銃をもって宿舎に舞い戻る。
真っ暗だった宿舎に明かりをつけ、血走った眼で辺りを見回す…灯りに照らされた小さな蚊が目に入った時、FALは何のためらいもなく引き金を引き、銃弾を蚊に向けて叩き込む。
銃弾で蚊を殺すのはあまりにも無駄な行為であり、実際ちゃんと殺せているかどうかも疑問なのだがそんなことはFALには関係ない。
室内を飛び交う蚊を発見するたびに銃を発砲、もはや寝不足と蚊への憎しみで我を忘れたFALは狂気のモスキートキラーと化す。
「ちょっと、何の騒ぎよ!」
銃声を聞きつけたWA2000が駆けつけるが、下着姿のまま部屋の中で暴れまくるFALを見て青ざめる。
これはヤバい人を見つけてしまった…関わり合いにならずさっさと立ち去った方が良い、そうWA2000は思うが常日頃基地の秩序を守るようオセロットに言いつけられている彼女は使命感からFALに立ち向かう。
そんなWA2000をFALはギロリと睨む…正確にはWA2000のすぐそばを飛ぶ蚊を睨んでいる。
あまりの剣幕に後ずさるWA2000.
「ちょ、なんなのFAL!? メンタルモデルが崩壊してるの!?」
「虫けらめ……死ね―――ッ!」
銃身を握り、高々と振り上げてハンマーのように振り落す。
咄嗟に避けるWA2000であったが、FALの今の暴れっぷりに気圧された彼女はそのまま動くことが出来なかった。
幸い蚊がどこかに飛んでいったおかげで被害は免れたが…。
再び部屋に戻っていったFALは何を考えているのか、部屋に爆薬をセットして飛び出してきた。
「そんなに私の部屋がお気に入りならね……一緒に吹っ飛ばして心中させてやろうじゃないの!」
FALの手に起爆装置が握られていることに気がついたWA2000が慌ててひったくろうとしたが間に合わず…部屋の爆薬が起爆され、FALの宿舎は木端微塵に吹き飛ばされた…。
銃声と爆発音で基地の警報が鳴らされ多くの人が集まってくるが、色々とカオスな状況に圧倒される。
「見たか虫けら! 誰の眠りを妨げたかこれで思い知ったでしょう!? アハハハハハ!」
燃え盛る宿舎を指差しながら笑うFAL……この姿を目撃したスコーピオンは後にこう口にする…。
"ジャンクヤードでのいかれっぷりが戻って来たみたいだった"
翌日、FALは腕を組むオセロットの前で正座をしていた…。
「それで……なんて言ったんだ?」
「いえ、あの……蚊が部屋を飛んでてうるさくて、つい…」
「つい銃を乱射した挙句宿舎を爆破したと……そう言いたいのか?」
「いや、それは…」
「どうなんだ?」
「おっしゃる通りです…」
昨晩の騒動をオセロットに咎められているFAL…オセロットに叱られるのはこれが初めてである彼女は、彼の恐ろしい威圧感に震えあがる。
「銃弾が壁を貫通して誰かに当たるかもと考えなかったか? 爆発で吹き飛んだ破片で誰かが怪我をするとかも考えなかったのか? 幸いにもけが人は一人も出なかったが、一歩間違えれば大惨事になっていた……蚊を殺そうとしていたのか何なのか知らないが、今度同じことをしてみろ、オレがお前を殺す」
「は、はい……すみませんでした…」
オセロットのあまりの怒気に泣きそうになるが、誰もオセロットを前にして庇おうという勇気ある者はいない。
彼の怒りから解放されたFALはがっくりとうなだれると、虚しさに涙をこぼすのであった。
安眠妨害の末にこの恐ろしい説教である、もう彼女のメンタルはボロボロだ。
「あー…FAL? なんかその…頑張ってとしか言いようがないんだけど」
そんなFALに真っ先に近寄り慰めるVector。
哀れにも彼女は連日蚊の襲撃で安眠妨害をされた末に、発狂して自分で自分の部屋を爆破、最後にはオセロットのキツイ説教を受ける……基地で休む部屋を失ったばかりか替えの服すら爆発で吹き飛んでしまったのだ。
「FAL? おーい、FAL? あらら……力尽きて寝ちゃったか…」
死んだように眠っている…そんな言葉が似あう状態で眠りにつくFALにため息を一つこぼすと、vectorは疲れ切って眠る彼女を自室へと運び、ベッドの上に寝かせてあげるのであった。
FAL「部屋を壊したからしばらくアンタの宿舎に泊めてほしいんだけど…」
Vector「まったく、しょうがないな」(やったぜ)(歓喜)
はい……(笑)
FALネキのアブナイ話を…というリクエストを貰ったから書いてみたよ!
いや、たぶんアブナイの意味が違うんだろうけど…。
それはそうと、MGS4orMGRの無人機登場させてみたよ!