METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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97式と和平のブルース

 マザーベース司令部、MSFの中枢でもあるそこは副司令のカズヒラ・ミラーと97式の仕事場であり、月光より強い猛獣こと蘭々の住処でもある。

 仕事が落ち着いたと思ったら志願兵の増加と、エグゼの果てしない軍拡計画のおかげでミラーがこなさなければならない仕事量は増えてしまう……それによりここ数日は司令部に二人はこもりっぱなし、食事もバーガーやサンドイッチなどで済ませてしまうというありさまだ。

 しかしそんな二人の努力のおかげでMSF全体の活動が順調に進み、エグゼも文句を言いにわざわざ司令部に押しかけたりはしないのだ。

 

「……終わった…!」

 

 溜まりにたまった仕事を全て片付け終えたと同時に、ミラーは放心した様に椅子にもたれかかり天井を仰ぎ見る。

 仕事に取り掛かった当初は果てしない作業に思えたが、終わってしまえばよく片付けられたものだと自分を褒め称えたくなるような達成感を覚える。

 仕事を手伝ってくれた97式もさすがに疲れたのか、テーブルに突っ伏してのびている…。

 

「うぅ……さすがに疲れたよ…」

 

「お疲れさまだな、君がいたおかげで助かったぞ。ジュースでも飲むか?」

 

「うん、飲む」

 

 司令部に置かれている冷蔵庫からオレンジジュースをとり、紙コップに注ぐ…散々頭を酷使したためにオレンジジュースの適度な甘みと酸味が美味しく感じられる。

 ひんやりと冷えたジュースに満足している97式だが、ふとミラーが飲むコーヒーが気になったのかねだるが…コーヒーの苦味は口に合わなかったのか渋い表情をする。

 

「ねえねえミラーさん、これから何をするの?」

 

「うーんそうだな…特に予定は無いが」

 

「じゃあさ! せっかくお仕事も終わったんだし、一緒にあそぼ!」

 

「ああ構わないぞ」

 

 ミラーがそう言うと、97式は嬉しそうに笑った。

 97式には色々とお世話になっているミラーは、何をして遊ぼうかと考えていると、97式はどこからかボードゲームを持ちだしてきた。

 蘭々と散歩したり、MSFのスタッフに混じってサッカーをするのが好きな97式であるが、最近はよく室内で遊ぶ。

 

「人生ゲームやろ! あたしが先ね!」

 

 持ってきたボードゲームをテーブルの上に広げ、楽しそうにはしゃいで見せる。

 一見楽しそうにしているかに見えるが、どこか満たされていない様子をミラーは見抜いていた。

 97式は本来こんな風に室内で遊ぶのが好きな子ではない、本当は外で遊ぶのが好きだ…以前はサッカーを通して他のスタッフと交流したり、マザーベースの甲板を散歩するのが大好きだった。

 だが、マザーベースにアルケミストが来てからというもの…彼女を恐れてやまない97式は屋内に引きこもり、ミラーと蘭々と一緒にいる時間が多くなっていた。

 

 本当にやりたいことをできないもどかしい状況で、ストレスを感じていないはずがない。

 そう察したミラーはゲームの手を止めた。

 

「97式、外に遊びに行かないか?」

 

「え?」

 

 97式は一瞬怯えたような表情を浮かべ、ミラーを見つめる。

 

「でも外は…あたしはいいよ…」

 

「マザーベースの外だ。ここから少し離れたところに、綺麗な無人島があるんだよ。オレと97式と、それから蘭々と一緒に行かないかい?」

 

 無人島であるなら他の誰かに遭遇する心配もなく、のびのびと羽根を伸ばすこともできる。

 97式もそれなら安心して出かけることが出来るだろう……彼女は少しの間迷った末に、小さく頷いた。

 

 そうと決まれば早速行動だ。

 97式の手を引いて司令部を出ると、それまで寝ていた蘭々も大きな欠伸をかいて二人の後に続く。

 最初に糧食班のところに寄って弁当を貰い、ヘリポートに手配したヘリに乗り込めばあとは出発だ。

 ヘリポートを飛び立ったヘリの窓から、97式はマザーベースを見つめる……増設されたプラットフォームの全体像を初めてみる97式はその圧巻の大きさに感嘆の声を漏らす。

 97式がMSFに来てからというもの、マザーベースを離れるのはこれが初めてであったりする。

 

「マザーベースってこんなに大きかったんだね! 甲板からじゃ分からなかったよ!」

 

「長い努力の賜物さ」

 

 そのまま97式は、少しずつ小さくなっていくマザーベースを眺めつづける。

 その間ミラーはパイロットと会話をして、目的地の無人島の着陸地点を指示する。

 

「97式、あれがこれから向かう無人島だ」

 

 ミラーが指さす方角を見た97式。

 その方角には三日月形の白い浜を有した島が、青い海に浮かんでいた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉー……」

 

 無人島へと降り立った79式は、穏やかな波が打ち寄せる白い砂浜から島を見つめていた。

 砂浜のそばには背の高いヤシの木が生え、内陸側には見たこともない植物が生い茂り森を形成している。

 そこはまさに南国、涼しい潮風が吹き、時折森の奥から甘い香りが漂ってくる。

 蘭々も白い砂浜に寝そべって日向ぼっこをし始める…蘭々もこの島を早速気に入ったらしい。

 

「どうだ97式、いい島だろう。いつかここをMSF御用達のリゾート地にするのもありかもしれないな」

 

「うん! あたしここ気に入ったよ…って、ミラーさん!?」

 

「どうしたんだ?」

 

 97式は顔を赤らめてミラーを指差す…彼は海パン一丁で堂々と鍛え抜かれた裸を晒していた。

 

「無人島と言えば海水浴ッ!海水浴と言えば水ッ! というわけで97式の水着も持ってきたぞ」

 

「え、えぇ!?」

 

「心配するな! 研究開発班に作らせた君のための特注水着だ! バストサイズもぴったり…のはず! オレの観察眼に狂いがなければな!」

 

「いやそういうことじゃなくて……というかミラーさん、観察眼ってどういうことかな?」

 

「97式…細かいことを気にしてはいけないぞ」

 

 97式の疑いの目を咳払いで誤魔化そうとするが、蘭々の目がギロリとひかり牙を剥いた。

 容赦ない蘭々をなんとかなだめつつ、97式の誤解も解く…最終的には97式も納得してくれたが、手渡された水着を彼女は複雑な表情で見つめる。

 

「あたし、体中傷痕だらけだし……きれいじゃないよ…」

 

 普段の服で隠されているが、その下には拷問と虐待でつけられた生々しい傷痕がいくつも残されている。 

 マザーベースでシャワーに入るのにも、人目をはばかってはいるため、誰も97式の素肌を見た者はいない。

 

「そんなことは気にしないさ、だが無理にとは言わない……比べるのはおかしいかもしれないが、オレもあちこち傷だらけだ」

 

「でも、ミラーさんのは戦ってできた傷だし…」

 

「オレも戦い以外の傷はあるぞ? この尻についた傷はサウナでつけられた傷だ!」

 

「きゃーーーーーっ!!」

 

 唐突に後ろを向いて、海パンを下げて自分の尻についた傷をさらけ出すミラー…いきなりで97式は顔を手で覆い隠し悲鳴をあげた。

 もちろん蘭々が黙ってなどいない…蘭々に尻を噛まれたミラーは97式以上の悲鳴をあげて海へと入り込むが、海水が噛まれた傷に染みたのかそこでも悲鳴をあげる。

 砂浜に戻ろうとするが威嚇する蘭々に待ち構えられ、ミラーはどうすることもできず染みる海水に苦しめ続けられる…そんなマヌケな姿に、97式はおもわず笑い声をこぼした。

 

「もう、ミラーさんってば! なんだか傷なんてどうでもよくなっちゃったよ、私も着替えてくるね! 言っておくけど、覗かないでね?」

 

「待て97式、その前に蘭々をなんとかしてくれ! 尻が、尻が染みる! 97式待って、待ってくれーー!」

 

「グルルルル!」

 

 結局、97式が着替えを済ませて戻って来るまでミラーは蘭々に足止めをくらうのであった…。

 しばらくして、蘭々は飽きたのか砂浜から離れ木陰のあたりで寝そべり始める。

 ようやく砂浜に上がったミラーはそこで力尽きたように倒れ伏す……海水が染みすぎてもう痛覚もマヒしてしまっていたが、疲労感がどっと押し寄せる。

 そのまま砂浜に寝そべってまぶしい太陽を見つめていると、97式がひょこっと顔を覗かせて影をつくる。」

 

「あの、ミラーさん…どうかな…?」

 

 水着に着替えた97式は少し不安げな表情でそうたずねる。

 ミラーの観察眼で計られた水着のサイズはぴったりのようで、彼女の白い肌に映える黒色のビキニはとても良く似合う。

 

「うんうん、サイズもぴったりだしよく似合っているぞ」

 

「ううん、そうじゃなくてほら……傷、やっぱり酷いよね……汚い身体だよね…」

 

 素肌を晒すことで露わになる97式の傷痕。

 過去に受けた凄絶な拷問と虐待の痕跡はミラーも初めて見るものであった。

 火傷や刺し傷、切り傷など多様な傷が刻み込まれたその身体はとても痛々しい…無言のままたたずむミラーに97式は途端に自信を無くすが、ミラーは彼女の頭に手を置き優しく微笑みかける。

 

「そんなことはない、とても綺麗な身体だ。君の傷を笑う奴がいたらオレに言うんだ、オレが代わりにぶっ飛ばしてやる」

 

「ミラーさん……うん、ありがとうね…」

 

「自信をもて97式、君はもう一人じゃないんだからな。君はもう散々涙を流して悲しんだんだ、これからはいっぱい笑って幸せになるといい」

 

 その言葉を聞いた97式はポッと顔を赤らめると、胸が熱くなるのを感じていた。

 いつも優しくてかっこよくて、でもたまにえっちなミラー…WA2000などは変態オヤジと毛嫌いしているが、97式にとってはとても大切で大好きな人なのだ。

 

「さて、せっかく島に来たんだから遊ばないとな! 行くぞ97式!」

 

「うん! あ、ミラーさんお尻の傷もう大丈夫なの?」

 

「んん? ぐふっ!?」

 

 尻にある傷を忘れていたミラーは海へと飛び込み、案の定海水が傷に染みて悲鳴をあげた。

 

「もう、気をつけないとダメだよミラーさん?」

 

「す、すまん」

 

 ミラーを砂浜にうつぶせに寝かせ、蘭々に噛まれた傷に軟膏を塗って絆創膏を貼ってあげる。

 トラの牙で噛まれてこの程度で済んだのは運がいいのか、蘭々も力の加減を知っているのか…。

 

 それはさておき海水浴は断念し、ミラーと97式は砂浜でビーチボールをして遊んだり砂の城をつくって遊んだり、ヤシの実を撃ち落としてココナッツミルクを飲んだりと…この南国風の島でバカンス気分を味わうのだ。

 97式も久しぶりの外での遊びということではしゃぎ、大いに楽しむ。

 そして楽しい時間はあっという間に過ぎていき、まぶしかった太陽は西へと沈んでいく。

 赤く染まる夕陽が海を神秘的に照らす光景を、遊び疲れた二人は砂浜に腰掛け静かに見つめていた。

 

 

「ねえねえミラーさん、そういえばミラーさんの名前ってどう書くの?」

 

「オレの名前か? こうだぞ」

 

 

 ミラーは砂浜に自身の名前、"和平"という文字を書く。

 

 

「平和…?」

 

「そう、平和(Peace)だ。オレの母親がつけてくれた名前だ…ミラーというのは、父親の性なんだ」

 

「平和か……素敵な名前だね」

 

 有史以来絶え間なく戦争という行為を繰り返し続ける人類史において、平和というのは幻想にすぎないのかもしれないが、それでも願ってやまないもの。

 いつか人間も人形も、鉄血もグリフィンもわだかまりなく兄弟姉妹のように手を繋いで一つの家族になって欲しい…これはスコーピオンが言った夢だが、それこそが平和なのではないか?

 それを誰ひとりとしてあの時疑うことは無かった…それは、あの場にいた誰もが平和というものを望んでいたからなのかもしれない。

 

 "和平"の名前に込められた意味をしみじみと感じていた97式は、その隣に自分の名を書くと、砂浜に指を滑らせて相合傘にお互いの名前をおさめた。

 あどけない顔を赤らめつつ、97式は隣に座るミラーの肩に寄りかかる…。

 

 

「大好きだよ、ミラーさん……」

 

 

 迎えのヘリが来るまで、二人はそのまま水平線の彼方に沈む赤い夕陽を見続けるのだった。




97式「ミラーさん好き♥」
カズ「あれ?これ変に誤解されるやつじゃね?」

蘭々(殺意の波動)
WA2000「げすめ」
ビッグボス「カズ…またか…」
スコピッピ「おっさん手が早いよ…」
霊体化95式「私の妹ぉぉぉ!」




ほんとはラストにアルケミストと遭遇させてシリアスぶち込む予定だったんだけど、そんなことできなかったよ…。
97式とアルケミストの問題はまた持ち越しだ…。

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