『―――どうも皆さんおはこんばんにちは、お待ちかね"カズラジ"の時間でございます。パーソナリティーを務めますのはMSF副司令ことわたくしカズヒラ・ミラーと…』
『97式だよ! 不定期でやってるこのラジオも今回で4回目! 毎回リスナーのみんなからたーくさんのメールやお手紙を貰えてとっても嬉しいよ! ほら、みんなのマスコット蘭々も大喜びだよ!』
『うむ、前回リスナーのパンサーさんからいただいた"ワルサーとオセロット教官は相思相愛なんですか?"という話題は大きな反響があったな。好き放題あれこれ言ってたせいで、オレと97式はまる三日も部屋を出れなかったがな!』
『あの時は生きた心地がしなかったよね…! あんな怖いわーちゃん初めて見たよ!』
『味方にすると頼もしいが、敵にすると何よりも恐ろしい! それがFOXHOUND筆頭狙撃手のWA2000だ! ちなみに彼女は今日任務で中東の方に行ってるから、何を言っても叱られないぞ! いやーぶっちゃけると、わーちゃんがほふく姿勢で射撃体勢に入ってる姿…実にけしからん、真正面のアングルから直視出来るならオレは狙撃されても一向に構わんッ!』
『ミラーさん…最低…。あ、でもわーちゃんさっき別な仕事が入ったって言って、マザーベースに戻ってるらしいよ?』
『え? ほんとに? じゃあこのラジオ、聞こえてる?』
『かも………』
『あー……まあいいか!』
ラジオから聞こえてくる二人の呑気な声を聞きつつ、FALは下着姿のまま膝を立てて座り、テーブルの上のカップラーメンをじっと見つめている。
先日自分の宿舎を自分で破壊して以来、Vectorの宿舎を借りて寝泊りするFALであるが私有物その他もろもろも一緒に爆破してしまったため、普段着も今は持っていない。
一応研究開発班がFALの服を造り直してくれるらしいのだが、パンツ一つ作るのに何週間もかかるくらいなので当分は間借りしたジャージ姿で仕事にかかるしかない。
テーブルに置いたストップウォッチが3分経過したことを示す音が鳴ると、FALはカップラーメンの蓋を開けて割り箸を手に取った……ラーメンを食べるのに以前はフォークを使っていたが、最近ミラーや79式から箸の有用性と使い方を教えてもらって以降もっぱら食事には箸を使う。
宿舎内で他人の目を気にすることもないのもあるが、下着姿で膝をたててカップ麺を食べるFALの姿は…色々と諦めてしまった悲壮感が漂う。
『――――さて今回初めてのお手紙は…前哨基地のクロコダイルくんだ。え~なになに? "最近私は前哨基地の戦車部隊の整備班長に任命されました、入隊した当初は右も左も、自転車のパンクも直せなかった自分がここまでこれたのは皆さんのおかげですありがとうございます"いえいえこちらこそ、MSFのために働いてくれてどうもありがとう』
ラジオから聞こえてくるリスナーの手紙を読むミラー。
読みあげる内容を聞いていたFALは自分が戦車隊の隊長ということもあり、最近整備班長になったというスタッフは知っていたし何度か話したこともある。
塩気の強いカップ麺をすすりつつ、話題が戦車に触れるということで耳を傾ける。
『"――――最近の悩みというかなんというかうまく言えないんですが、戦車大隊のFAL大隊長に困ってるんです"」
「んん?」
『"というのもあの人見た目はとってもかわいいのになんというか、もったいないんですよね。普通にしてればとっても美人なのに、色々やらかして残念美人というか……あの人のパンツが見えてもそこにエロスを感じられません、どうしたらいいのでしょうか?"』
リスナーからのぶっ飛んだ質問を聞いたFALはおもわず口に含んでいたラーメンのスープを吹きだしかける。
こういうところがそう言われる所以なのだろうが、本人はいつの間にか他人に抱かれていた偏見が気になって仕方がない様子。
それからも読みあげられるリスナーの手紙をそれ以上聞いていられず、FALは乱暴にラジオを切るが、雑に扱ったせいか雑音を鳴らし故障する。
そんなところを、ちょうど仕事から帰ってきたvectorに見つかった。
「ちょっと独女、なにあたしのラジオ壊してるの?」
「うっ…ごめん」
「まったく…どうせラジオの手紙であんたの独女っぷりが紹介されてたんでしょう?」
「あんた聞いてたでしょ?」
「さぁ? というかそれさっさと直してよ」
Vectorは故障したラジオを指差すと、FALに対し工具箱を押しつけるようにして渡した。
壊してしまったのは自分である以上、いつものように強気な態度にも出れずFALは渋々ラジオの修理にかかる…普段戦車などの面倒を見ていたりするのでこういった機械を弄るのは得意ではあるものの、故障に至る経緯もあっていまいち気が乗らない様子。
「というか、いつまでこんなぼろいラジオ使ってるつもり? ラジオくらいもっといいやつが買えるでしょ?」
「うるさいな、別にいいでしょ?」
「まあ、あんたは変わり者だものね。古臭いラジオがアンタにはお似合いね」
「FAL、あんたやっぱりこれからもずっと独女だよ」
「はぁ? なによそれ?」
「別に……これ、あんたの着替え置いてくから」
「あ、ちょっと……なによもう」
Vectorは荷物を投げるように置くと、なにやらむすっとした様子で部屋を出ていってしまった。
よく分からない彼女の態度に小さくため息をこぼし、FALはラジオの修理に取り掛かる……細かいパーツを紛失しないようにテーブルに置いて、故障個所を見つけて修理する。
幸い接触の問題であったので簡単に直せた、後は分解したパーツを元に戻すだけ……パーツを組み込んでいくうちに、妙な既視感を感じていたFALはふと思いだす。
「そういえばこのラジオ、ジャンクヤードにいた頃私がアイツにプレゼントしたやつだっけ?」
MG5らとジャンクヤードにいた頃、廃材を集めて作ってあげたこのラジオ…廃材をかき集めて作ったので見た目も悪く一応使える程度の機能しかない。
それを大事に今まで持っていてくれたVectorに嬉しく思う反面、Vectorの気持ちを踏みにじるようなことを言ってしまったことへの後悔の念を覚える。
思えばVectorは憎まれ口を叩きながらも、色々と協力をしてくれたり優しかったりする……もう少し自分もVectorを大切にしよう、そうFALは思うのであった。
「たまにはあいつも認めなくちゃね……ありがとうね、Vector……ん?」
感謝の意を示しつつ置いて行った袋に手を伸ばしたFALであったが、袋からちらっと見えた白い生地に嫌な予感を感じた。
おそるおそる中身を見たFALの予感は的中する……Vectorが持ってきたという着替えの服は、なんとあの忌まわしいウェディングドレスではないか。
それはかつてジャンクヤードで狂気に取りつかれていた時にFALが身に付けていたもので、処分されていたと思っていたものだった。
「手紙?」
ドレスと一緒にあった手紙には"これを着て花嫁修業をしなさい"と書かれていた。
さっきまでVectorへの前向きな想いがあったが、それもドレスを見た瞬間どこかへ吹き飛んでいってしまう。
しばらくそのままがっくりとうなだれていた彼女であったが、何を思ったのかFALはそのウェディングドレスに着替えるのであった。
そして宿舎内の鏡の前に立ち、細部をチェックする…。
「ふん…何よ、私が独女になる要素なんてどこにあるっていうの? スタイルだっていいし見た目も悪くないし、料理だって目玉焼きやゆで卵の一つや二つ出来るのに……」
鏡の前に立ち、ブツブツ文句を言いながら自分のドレス姿を確かめる。
そうしていると宿舎の扉がノックされた…はいはい、と脱力した様子で扉を開いてびっくり…そこに立っていたのはビッグボスことスネークとスコーピオンだ。
お互い固まりじっと見つめ合うなか、あっ、と何かを察した様子のスコーピオンが静かに扉を閉め直す……。
「……って、なになんでもなかったかのように扉を閉めてるわけ!? そういうのが一番傷付くんだからね、分かってる!? あんたたち絶対誤解してるわよね、そうよね!? 誤解してるって言いなさいよ! よし、誤解を解くために一回中にはいろうか? うんそうしましょうね!」
逃げようとするスコーピオンとスネークを強引に宿舎内へと引きずり込むと、扉にロックをかける。
あまりのFALの勢いに気圧されたスコーピオンがスネークにしがみつく。
「あの、色々聞きたいことはあるんだけどさ…」
「ええあるでしょうね! なによ!」
「FAL、とりあえず落ち着け。オレはその……たまに自分が好きなことをするのは大切だと思ってる」
「あーもう! そんな痛い子を見るような目で見ないでよ! 自分だって恥ずかしいわ! もう、最悪……」
しまいには目に涙を浮かべてすすり泣くFALに、流石にかわいそうになったのか二人はウェディングドレス姿には一切触れずに彼女を慰める。
差し入れにチョコレートを手渡すとコロッと泣き止んだところを見るに、強靭なメンタルを持っていることが伺える。
ひとまず落ち着いたFALのドレス姿に気をとられつつも、今回わざわざやって来たことの理由を説明する。
「新型戦車の配備?」
「ああ、どうも研究開発班がいつの間にか開発していたらしくてな。米軍の技術を解析して作りだした戦車らしいんだが、コストの問題から一台しか作れず扱いに困っていたらしい」
「それをわたしに押し付けようっての?」
「まあ、とりあえず現物見て見なよ。基地にはもう持ってきてるからさ」
研究開発班の開発ということにFALはまず驚く。
今まで大隊に配備された戦車はMSFが元々持っていた戦車か、既存の戦車を購入したり鹵獲したりして手に入れたりしていた。
おまけに月光や新型無人機のフェンリルやグラートといった、既存の戦車とは異なる兵器の開発に没頭していると思っていたため、まさか新型の戦車が造りだされるとは思いもしなかった。
色々文句を言いながらも、なんだかんだ戦車がお気に入りのFALは興味津々のようで、自分がウェディングドレス姿なのも忘れて基地の外へと出ていった。
彼女のまた風変わりな格好に周囲のスタッフたちはギョッとしていたが、そんなことはさほど気にならない様子。
「あれが新型の戦車だよ!」
「うわ、なにあれ…」
スコーピオンが指さした先にある戦車らしき兵器…それはFALが今まで見てきたどのタイプの戦車とも異なる造形をしており、左右の履帯が前部と後部に別れている。
特に目を引くのは、搭載された長砲身のレールガンだ。
サヘラントロプスに搭載されているものよりは小さいが、それがFALも知るレールガンであるのならば極めて強力な武装…そしてその設計コンセプトはどちらかというと…。
「なんか"正規軍"にもこんなのあったような気がするわね…正規軍とケンカするつもり?」
「まさか、相手が悪すぎるし戦う理由もないよ。連中はE.L.I.Dと戦う、あたしらはあたしらの戦いをする…でしょ?」
「そうだ、別に彼らを意識してこんなのを作ったわけじゃない。まあ、研究開発班の何人かが正規軍の装備に憧れを持っているようだがな」
「そう、ならいいわ。でもこれほんとに使えるの?」
「バカみたいにコストがかかるから量産はできないらしいけど、それは保証するよ。旧アメリカ合衆国正式採用主力戦車"M10A1マクスウェル"、ほんとはレールガンじゃなくてレーザーキャノンだったらしいけど技術的に無理だからレールガンに変えたんだって。研究開発班の技術ってすごいね」
「ヒューイがサヘラントロプスの研究を一時止めてまで作ってくれたんだ、お前の専用戦車として活用してくれ」
「ふーん…まあいいわ、使っているうちに愛着がわくでしょうね。ありがとうスネーク、有効に使わせてもらうわね」
「ところでFAL、なんでドレス姿なの?」
「スコーピオン、このタイミングで聞いてくるの…?」
すっとぼけたような表情で思いだしたように聞いてくるスコーピオン。
その後あれこれ言い訳を口にするが、ウェディングドレス姿でジャンクヤードを暴れていた姿を知る二人の妙な誤解を解くのにFALは苦労するのであった。
パンツァー(戦車)とパンツ(下着)を弄ってるわけじゃないのよ??
ということで、FALネキにおもちゃをあげる回。
ラジオネタは原作と他作品へのリスペクト!
Vectorとつかず離れずの関係も変わらないなぁ…。
とりあえず出したはいいが適当な設定しか決まっていないM10A1マクスウェル主力戦車。
・長射程レールガン
・セラミック・チタン複合装甲+電磁装甲
・射撃管制システム
・オリジナルに対し60%程度の完成度
などなど正規軍兵器に近いスペックはあるけれど、コストのデカさのために一台しかないから戦局を変えられるだけの戦力ではないという設定です。
なお、旧合衆国陸軍はこれを100%の状態で正式配備していた模様…。