「あの鉄血のクズ! 今日という今日は許しませんッ!」
そんな物騒な怒鳴り声と共に宿舎から飛び出してきたのは、全身びしょ濡れの姿のM4だ。
ちょうど外の甲板で未開封のウイスキーを飲もうとしていたM16は、妹のセリフと酷い姿から一瞬で何があったか察知する…そういえばさきほどエグゼが妙に上機嫌でヘリに乗り込んでいったのには、そういうわけがあったのかとM16はおかしそうに笑う。
しかし被害にあったM4にとっては笑い事ではないようで、何があったのかきかないうちにエグゼへの文句を怒鳴り散らすのだ。
「あの人頭おかしいですよ! 私の部屋の前にあるスプリンクラーに細工を仕掛けて、部屋を開けたら作動するよう仕掛けてあったんです! おまけに水の量が半端じゃないですし…おかげで部屋の中は水浸しですよ!」
「あー……一応誰がやったのかは分からないんだろう? 証拠もないのに疑うのは良くないと思うんだが…」
「こんなことするの処刑人のアホ以外にいません! まったくもう……何か仕返しを考えないと…」
「おいM4? おーい」
M4はブツブツと何かをぼやきながらどこかへ行ってしまった…。
隙あらばお互いいたずら合戦に興じるM4とエグゼには周囲も困り果てているが、面白がって煽る者も中に入るのでたちが悪い……悪戯の応酬についてはオセロットもほとんど口を出さない、いや、呆れて見放している。
「まったく…後で言い聞かせないといけないな」
そう言いつつ、M16はどっこらしょと甲板の日陰に腰を下ろしてウイスキーのボトルを空ける。
ここマザーベースでは何かと飲んだくれが多いので酒の備蓄は多い…たまにスコーピオンやスペツナズの面子が暴走して酒という酒が飲みつくされ、酷いときには消毒用アルコールや塗装用アルコールの類まで消失することもあるが、M16はある程度の分別はわきまえているつもりだ。
大好物のジャックダニエル…ではないが、それに近いウイスキーを酒蔵から分けてもらった彼女は、糧食班から同じくつまみのチョコレートとジャーキーを貰いそれをつまみとする。
「うむ、美味い」
チョコレートの甘味とウイスキーの風味が絶妙にマッチする、スパイスで味付けされたジャーキーもいい味を出している。
真昼間から仕事せずに飲む酒は格別だ。
すっかりニートが身に沁みついてしまったM16であるが、一度グリフィンに帰ろうとしたことがあったのだが…帰り際にミラーがそれはさわやかな笑顔でマザーベースに滞在していた間の、AR小隊の食費・宿泊費・施設利用料をまとめた請求書を持ってきたのだ。
その桁の多さにはM16もびっくり…今すぐに払えなければグリフィンに請求する、もしくはマザーベースで働くことを迫られる。
グリフィンに請求でもされれば面目は丸つぶれ、ヘリアンの鬼のような説教を恐れたM16は渋々マザーベースで働くことを選んだのだ……ちなみに請求額の半分はM16の酒代が占めていたため、それを知ったM4は今まで見たこともないような冷たい目でM16を見ていたという。
そんなわけでマザーベースに住み込みで働くことになったAR小隊……分かっていると思うが三人とも全く働かず、M16はこうして昼間から酒を飲んで、M4はエグゼとやり合うのでいっぱいいっぱいで、SOPⅡはもうそんな悩みなど頭にない様子で遊びまくっている。
明日こそ働こう…思考が堕落者そのものだが、過度に甘やかしてAR小隊の画策をもくろむミラーの策略は上手くいっていると言えよう。
「まったく、昼間から酒飲みとは……こんなマヌケを追い回してたと知ったら、エルダーブレインもやり切れないだろうさ」
その声はM16の真上から聞こえてきた。
見上げると、建物の上階の手すりにもたれかかるアルケミストがニヤニヤと笑みを浮かべながらM16を見下ろしていた。
「余計なお世話だ、今日は風も涼しく良い陽気だからな」
「404小隊のネズミども並みに酷い言い訳だな」
ニート小隊筆頭の404小隊はというと、今頃ミラーをそそのかしてこの間97式を連れていったという無人島でバカンスしていることだろう…腹黒さでは並び立つ者がいないUMP45はエグゼに愛の告白をした後でも、しっかり男どもを手玉にとっているのだから大したものだ。
AR小隊はニートだが、そんな姑息なことはしないのでまだマシだが…。
手すりを乗り越えて飛び降りてきたアルケミストはそのままM16の隣に立ち、壁に寄りかかる……鉄血とグリフィンの関係を知るものなら、二人のこの構図はとても奇妙に思えるだろう。
「それで、どうするんだい?」
「何がだ?」
アルケミストの言葉にM16は即座に聞き返す。
「あたしらの妹分たちの落とし所さ。さすがにこれ以上放っておくのはなんだ……姉であるあたしらまでマヌケ扱いされそうなんだが」
「フン、そんなことか。悪いが最終的には当事者に任せるつもりだ、ご存知私たちは借金を返済するまでここに箱詰めだ。お前の短気な妹分はともかく、私の妹は真面目でしっかり者だ……いずれ和解するはずだ」
「真面目なしっかり者ね…?」
アルケミストが興味無さそうに聞いていると、ちょうど二人の前をM4が何やら工具箱を手に過ぎ去っていく。
彼女は真っ直ぐに宿舎を目指しているようで、何かを企んでいるのか笑みを浮かべ、その企みは言葉として出てしまっている…。
「処刑人のクズめ…部屋を開けた瞬間塩コショウが巻き散らされる仕掛けをしてやる…! 誰に戦いを挑んでるか、分からせてやりますからね…!」
よほど頭に来ているのか怨みの言葉を巻き散らしながら彼女は宿舎へと消えていった。
それを眺めていた二人の周りに微妙な空気が流れる。
「真面目なしっかり者?」
「いや、その……しっかり者なはずなんだ…」
せっかく妹を立てようとして言ったのに、当の本人がみっともない姿をさらしているのだからどうしようもない。
アルケミストにバカにされても文句の一つも言えないが、いつまでも笑っているのでM16も少しばかり苛立ちを覚える。
「いつまでも笑うな! 大人げないのはお前の妹も一緒だろう! うちのM4はほんとは真面目で優しくてしっかり者の可愛い奴なんだ!」
「それを言うならあたしのエグゼだってな、筋はしっかり通すし仲間想いのかなりかわいい奴さ」
「うちのM4の方が可愛いに決まってるだろ、いい加減にしろ!」
「あぁ? 可愛さもスタイルもお前んとこのポンコツに負けてねえよ」
「あんなメスゴリラに魅力があるとでも思うのか? それに比べてうちの妹はおしとやかで女の子らしい」
「この業界でおしとやかなんて何の役にも立たないんだよ。今時の女の子は強くなくちゃいけないのさ」
「あいつは強いというより暴力的なだけじゃないか! 今時暴力系ヒロインは流行らないんだよ!」
「暴力じゃない、愛の鞭だ! 痛みを伴わない愛になんの価値があるって言うんだい? お前のとこの堅物メンヘラこそ時代遅れさ」
「なにこの、鉄血のクズめ!」
「グリフィンのクズ人形!」
いつの間にかお互い罵り合うM16とアルケミスト…甲板を通り過ぎていくスタッフたちは、また面倒な組み合わせのバトルが始まったと、遠巻きに見つめて関わり合いにならないよう注意する。
激しく口論する二人であるが、その場に響き渡る高笑いによって罵り合いを止める。
「話は聞かせてもらったよ、そのケンカ…あたしが仲裁しよう」
現われたのはアホの子として定評のあるスコーピオン……奇しくもその場に3人の眼帯が揃うという奇妙な場面が完成する。
それはともかくとして、仲間内でのケンカを見過ごせない性分のスコーピオンはさっそく二人の仲を取り持とうとするが…。
「二人とも下らない事でケンカしないでさ~」
「下らないだって!? スコーピオン、お前ならうちのM4の可愛さを理解してくれると思ってたのに!」
「おいサソリ、エグゼの方があいつより可愛いよな!? 可愛くて強くて好きな人に一途で子持ちのママだぞ、属性多いだろ!」
「まあまあ押さえて押さえて……二人の妹はどっちも可愛いと思うよ? だけどどっちが可愛いかで比べあうのが下らないって言ってるのさ」
みんな違ってみんないい。
自分の妹が一番可愛いく思うのは姉として当然のことだ、自分の妹の可愛いところを自分が知っていればいいじゃないか……そんなことを言うのかなと想像する二人だが、その予想は見事裏切られる。
「だって、あたしがマザーベースで一番可愛い女の子なんだからね!」
「「お前が一番下らねえよ!」」
初めて二人の考えが一致した瞬間であった。
しかしスコーピオンは明るい笑顔を振りまき、微塵も自分の可愛さを疑っていない様子…。
「そもそも、最初のヒロインであるあたしが後から出てきたヒロインに負けるはずないでしょ」
「おい、お前そんなこと言っていいのか?」
「なんたってシリアスもギャグもラブコメもできる万能ヒロインだからねあたしは」
「もういいその話しはやめろ!」
これ以上は危険だと判断した二人はスコーピオンの言葉を遮って止める。
何が危険かは止めた本人もよく分かっていないのだが…どうであれ、ケンカを止めてくれた二人に満足するスコ―ピンであった。
「というか、眼帯してる3人が一か所に集まるのも妙なもんだね」
「まあ、それはそうだが…」
「気にしたことは無いがな」
「ふーん……ぶっちゃけ眼帯は飾りで実際は見えてたりする?」
唐突なことを言ったスコーピオンに、M16は飲みかけていたウイスキーを吹きだした。
スコーピオン自身も眼帯をつけている戦術人形であるはずなのに、いかにしてそんなセリフを言えるのだろうか…理解に苦しむ二人をスコーピオンはなおも興味津々に追及する。
「あたしは前に目を撃たれて失明したままさ…M16、お前は?」
「なに? それはまあ、色々事情があってだな」
「怪しいなお前、本当は見えているんだろう? 寝てるふりして覗きしてる奴だなお前」
「そんなわけないだろう! まったく……それを言うならスコーピオン、お前もほんとは見えてるんじゃないのか?」
「どう思う?」
「どうって……見えてるのか?」
「女の子にはね、少し謎めいていた方が魅力的なことがあるんだよ…」
「M16、まともに相手していると疲れるだけだぞ?」
「そうだな…なんでMSFには変人しかいないんだ?」
MSFは変人の巣窟なのでそれは仕方がないのだが。
まあひとまずケンカを取り持ったスコーピオンは満足すると、腰のポーチにしまっていた酒瓶をとると一気に飲み干す……まさかとは思ったが、どうやら二人に声をかけた時には既に出来上がっていたようで酔った勢いで絡んできたのもあるようだ。
酒を飲んで上機嫌になったスコーピオンはさらに絡み始める。
「いいね~、この眼帯という共通点。閃いた、MSF眼帯愛好会を作ろうよ!」
「おいM16、このアホをいい加減止めろ」
「勘弁してくれ。おいスコーピオン、どんだけ飲んでるんだ? 酔い過ぎじゃないか?」
「酔ってないし。というわけで、眼帯愛好会の会長を決めるためには…やっぱ一番強い奴が会長になるべきだよね! というわけで勝負だ!」
わけも分からず戦いを挑まれる二人であるが、MSFに属する者なら色々とおかしいスコーピオンのスペックは知っているため、変に戦いを挑む者はいない。
めんどくさそうにあしらう二人であったが、負けるのが怖いのかと挑発されればそこまで言われた二人も戦闘態勢をとる…無論銃器無し、格闘戦による決闘だ。
命のやり取りまではいかないだろうが、互いのプライドから負けることは受け入れられない。
理由はしょうもないが、3人とも負けん気の強さはあるためにこの戦いを負けるわけにはいかなかった。
そしていざ戦おうとした矢先…。
「3人ともどうしたんだこんなところで? 訓練か何かか?」
そこへ参上したのはMSFの初代眼帯……ビッグボスことスネークだ。
M16、アルケミスト、スコーピオン…出身が異なり以前まで争い合っていた彼女たちがわだかまりを捨てて、共に訓練に励んでいるとスネークは思ったようで感心した様にやって来たが事実は違う。
スネークが現れたことにより冷静さを取り戻したM16とアルケミスト…だがスコーピオンは、酔った勢いでとんでもないことを言ってのける。
「忘れてたよスネーク…あんたも眼帯だったね。実は今誰が一番強い眼帯か決めようとしてたんだよ」
「一番強い眼帯…? すまん、何を言っているのか全く理解できないんだが…」
「スネーク、アンタはMSFのカリスマであり最強の兵士……ならば、眼帯を制する者はMSFを制するといっても過言ではないよね! つまり、スネークをやっつければ今日からあたしがMSFのボスだーッ!」
「ぐふっ……」
数十分後…そこにはスネークに挑みかかったスコーピオンが返り討ちにあって倒れ伏す姿があった。
無尽蔵の体力を持っているスコーピオンは何度も起き上がってはスネークに挑んだが、最後には頭から甲板に投げ飛ばされて力尽きる……さすがのスネークも、スコーピオンのバカみたいな体力に疲れたのか息を切らしていた。
やっつけたとおもったスコーピオンも、気絶しているというより寝息をたてて寝ている様子…。
「すまん、うちのスコーピオンが迷惑をかけたようだな」
「いや、それはいいんだが……そいつ大丈夫か?」
一応医務室に運ぶため、スコーピオンをスネークはおんぶする。
「うへへへへ……スネ~ク~……」
気絶ではなくただ単に酔いつぶれて寝てるだけのようだが、念のため医務室へと運ばれていくスコーピオン。
なんとも幸せそうな顔で、彼女はスネークの背にしがみついていた。
9A91「ソビエト・ロシアでは酒があなたを飲み干すッ!」
グローザ「あぁ、酒がないわ…アルコールならなんでもいいから持ってきてくれない?」
ヴィーフリ「9A91、消毒用アルコールにオレンジジュースを混ぜたらとても美味しかったわ!」
PKP「確か戦車の不凍液にウォッカを入れておいたはず…よし」
スプリングフィールド「もういい加減出禁でいいでしょうか?
※スコピッピが混ざってた飲み会の様子