「キッドが乗っていたヘリが墜落しただと?」
スネークは前哨基地での仕事を終えてマザーベースに帰るなり、そんなことをWA2000に伝えられる。
しかも墜落位置は鉄血支配地域の中、先の戦いで見せつけられた鉄血の脅威と強力なハイエンドモデルシーカーが蠢く領域。
末端のローモデル鉄血人形が得る情報を一個体で統括できる能力と権限を持つシーカーなら、一瞬で墜落したヘリの位置を割り当てるはず…。
事態は最悪、急ぎ救出に出向かわなければならないはずだ。
それなのに、スネークに報告したWA2000は口調こそ荒っぽいが落ち着いているように見える。
「やけに落ち着いてるな、キッドたちは自力で脱出に成功したのか?」
「いえ、脱出したのはしたんだけど……どうやらグリフィンの部隊に保護されたみたいなの。さっき連絡があってね、迎えに来てだそうよ」
「グリフィンか……よく助けてくれたな」
「スコーピオンが前にグリフィンの地域にハンバーガーショップを建てたでしょ? そこの基地らしいんだけど」
「なんだって?」
「え?」
「今なんて言った?」
「スコーピオンがハンバーガーショップをグリフィンの町に建てたのよ。あれ、もしかして聞いてないの? ミラーからも聞いていないの?」
「カズも関わっているのか!? オレは何も聞いてないんだが…」
「スネークがあいつを信頼してるのはわかるけど、たまにお金の流れは確認しといた方がいいと思うわよ?」
最近は97式の面倒を見たりと行動に落ち着きがあると思っていたが、知らないところで色々とやっているようだ。
この後ミラーとスコーピオンの二人にはよく話を聞かなければなと、スネークは固く心に誓うのだが、ちょうどそこへ当事者のスコーピオンがのこのこやって来たではないか。
すぐさま捕まえて尋問すればスコーピオンはあっさり白状した……今やバーガーミラーズはあちこちに店舗を広げ、それなりに利益を上げているという。
「う…だ、黙ってたのはごめんねスネーク! でも面白そうだったからつい…」
「このアホ。スネーク、たまにはきつく言ってあげてよ。ちょっとスコーピオンに甘いんじゃないの?」
「それもそうだな。スコーピオン、この件は後に回すが…逃げるんじゃないぞ?」
「た、助けて…!」
死刑宣告を受けたような顔で怯えるスコーピオン。
素直に言っておけば叱られることは無かったが、やはり何の相談もなく勝手なことをするのは許されないことだ。
MSFは家族としての繋がりを持つが、守るべき規律は尊重するべきだろう。
その件は置いておくとして、問題はキッドらの事だ。
WA2000とスネークで迎えに行こうという話をしていると、それをすぐそばで聞いていたスコーピオンはさっきまでの反省顔を吹き飛ばし、目を輝かせて話にくいつく。
「S09地区の基地でしょ!? あたしも行きたい!」
「あんたね、少しは反省してなさいよ」
「いやいや、あの基地の指揮官とはあたし顔見知りだし分かってるあたしがいた方がいいでしょ!?」
「あのね、あんたらの私的なバーガー屋と違って今回はMSFが組織として関わってるのよ!? あんたの後先考えない言動で争いごとになったらどうするつもり!?」
「あー大丈夫だよ、あっちの指揮官ほのぼの主義だから」
「はぁ? 何言ってるか分かんないんだけど…スネーク、こいつは置いて行きましょう。なんか話がややこしくなりそうだわ」
「行くったら行くの!」
「うるさい! 駄々こねるな!」
「わーちゃんの意地悪! 恋愛くそザコのくせに!」
「はぁ!? なによそれ!?」
ここ最近見なかったスコーピオンとWA2000の口論から始まる取っ組み合い。
頬をつねり合い髪を引っ張り合い、押し合いへし合い転げまわる……これでもスコーピオンとWA2000は格闘戦において他の人形と一線を画す存在なのだが、今繰り広げられている取っ組み合いは幼稚なものだ。
真面目なはずのWA2000もスコーピオンに巻き込まれる形で暴れるのをスネークは呆れながら眺めていたが、いつまでもやっていそうなので二人をなんとか引き離す。
引き離されてようやく落ち着くWA2000はハッとする。
スネークの背後にはいつの間にかオセロットの姿があり、いつもより冷めた目で見つめているではないか…。
いたずらがばれた子どものようにシュンと小さくなってしまったWA2000。
「ボス、最近人形たちを甘やかし過ぎじゃないか? 個性が強いのは仕方がないが、規律が乱れているぞ。人間も人形も平等に扱おうとしているのは分かるが、人形を特別待遇するわけじゃないはずだ」
「確かに最近みんなをなかなか見れていなかったが、厳しすぎる指導はかえって不和を招く。だがお前の言うことも分かる、オレも善処しよう」
「その方が良い。いいかお前たち、お前たちは戦術人形の古参組だ。他の大勢の戦術人形の模範になれ。ワルサーは分かっていると思うが、これからはお前たちが新参者を指導する立場になるんだからな」
「はいはーい! 分かったよオセロット………ご、ごめんなさい!」
ふざけた調子で返事をすれば睨まれる…スコーピオンもあのエグゼも、オセロット相手には逆らえない絶対の法則があるようだ。
不運にも巻き込まれてしまったWA2000の落ち込みようもすごいが…。
「ところでボス、話を聞いたがグリフィンの基地を尋ねるのか?」
「ああ、MSFの司令官として仲間を助けてくれたことの礼を直接言いたい」
「なるほどな。そこの基地は他の基地より少し…異質だ、注意しろよボス」
「その基地の情報も握っているのか?」
「少しはな。以前一度だけMSFの情報を探られたことがあったから探り返した。まあ、セキュリティも高くちょうど他の優先的な任務があったから多くは探らなかったが」
「優秀な諜報員がいるようだな」
「そうだな。まあ気をつけてくれよ、ボス」
オセロットとはそこでお別れをし、いざS09地区の基地へ向けて出発する時だ。
お礼の品が何がいいかを考えた時、恩には恩で返すのがベストだろうと考える。
そしていざヘリへ乗り込む段階で、スコーピオンとWA2000が気まずそうに見つめているのに気付く…どうやら先ほどオセロットに叱られたのが堪えているようだ。
オセロットが代わりに叱ったのならそれ以上叱るのは無意味であり、逆効果…スネークは二人を機内に招くと、二人はホッとした様子でヘリに乗り込むのであった。
基地からの通信を傍受し、管制塔からの指示を受けてスネークらを乗せたヘリは基地のヘリポートに着陸する。
ヘリポート上には既にキッドとネゲヴ、そしてリベルタの他基地所属と思われる者たちが集まっていた。
ヘリが着陸するなり、スコーピオンはすぐにドアを開くとその場からぴょんと飛び降り、勢いよく走って行く。
真正面から笑顔を浮かべたスコーピオンが、勢いよく突っ込んでくるのを、ここの基地の司令官【ユノ】は驚きに満ちた表情で直視していた。
「ユノちゃ~~ん! めっちゃ久しぶり~!」
両手を広げて勢いのまま飛び込もうとするのを、この基地の副官【ナガンM1895】はスコーピオンの顔面に前蹴りを放って阻止するのであった。
「おばあちゃん!?」
「はっ! すまぬ、こいつの顔を見たらつい…」
ついおもいきり蹴っ飛ばしてしまったことに焦るが、蹴られたスコーピオンはおもいきり後頭部を床にぶつけたのにもかかわらず鼻血を少し流しているだけでぴんぴんしているではないか。
「ばあちゃんも久しぶり! どう、バーガー屋はまだごひいきしてもらってる!? というか新商品開発してるからそろそろお店に並ぶからよろしくね! いや~なんかここマザーベースと違った安心感あるね! そう、これはまさに実家のような安心感! ばあちゃんとユノちゃんの存在が……って、ユノちゃん成長してない!? なんでなんで!? この間まで小っちゃかったよね!? 成長期!?」
「えぇい一度にぎゃーぎゃーやかましいわ!」
耳元で喚かれたためついナガンが手刀をスコーピオンの額に振り下ろすが、幾多の衝撃をはじき返してきたスコーピオンの石頭のせいで逆に手を痛める羽目になってしまう…。
「で、いつの間におっきくなったんだね、どうやったの?」
「どうせ説明してもお主じゃ理解できんじゃろう?」
「まあね。あーでもおっきいユノちゃんもいいね! ふむふむ…これはママを超えるポテンシャルを秘めているな……いや、何がとは言わないけどさ」
「え? あの、スコーピオンちゃん?」
ユノ指揮官の胸部をしげしげと見つめながらスコーピオンは意味深に頷いている…これは将来有望だと勝手に喜んでいるスコーピオンに、ナガンはあの日のバーガー屋での疲労感を思いだす。
そうこうしていると、スコーピオンの後から降りてきたWA2000がやってくる。
彼女の小隊に属するリベルタは直立不動の姿勢をとり敬礼を向ける…リベルタに敬礼を返した後、WA2000は様子を探るようにユノ指揮官を見つめる。
「へえ、あなたがここの指揮官ね。うちのリベルタが世話になったわね、ありがとう」
「いえ、困ってる人がいたら助けますから!」
「友だち……ユノは、私と友だちになってくれた……」
「なに? なんて言ったの?」
「ユノ指揮官……シャフト、P7、ステアー…みんな友だちになってくれた」
「あら、良かったわねリベルタ。またお礼を言わなきゃね、リベルタはうちの基地でも馴染めなかったのに友だちになってくれたのね。ありがとう」
「リベルタちゃんはとても優しくていい子でしたよ。うちの娘たちもお友だちになれて喜んでますし」
「うちの娘…? え?」
娘がいるというのには若すぎるユノ指揮官に戸惑うWA2000。
どうやらシャフトとP7、ステアーが娘らしいのだが……反応に困ったのかWA2000はあまり追及せずこの基地の事情だと無理矢理納得し、話を合わせる。
「フフ、可愛い指揮官ね」
「フルトン回収しちゃう?」
「戦争になるからやめなさい」
とんでもないことを言うスコーピオンに軽いげんこつをお見舞いするが、欲しがるのも無理はないだろう。
人間と戦術人形との見事なコミュニケーションはMSFよりも遥かに上、たまにケンカしたりするMSFの人形たちにも見習わせたいところである。
ニコニコと笑顔で話をしていたユノ指揮官であったが、ふと笑顔を消して表情が凍りつく。
視線の先を辿れば、最後にヘリを降りてきた人物…スネークの姿がある。
スコーピオンとWA2000は静かにユノ指揮官への道を開けたため、必然的にユノとスネークは真っ向から向かい合う状態となる。
「ボス、ご心配をおかけしました」
「無事で何よりだキッド」
「ええ、この方々がオレたちとパイロットを助けてくれました。紹介するよユノ指揮官、こちらが"ビッグボス"…MSFの司令官だ」
「スネークだ、初めましてユノ指揮官。オレの仲間たちを助けてくれたことを感謝する、ありがとう」
スネークがお礼を言うが、ユノ指揮官は硬直したままだった…。
沈黙が続くことで気まずい空気が流れてしまうが、副官ナガンが固まるユノ指揮官の背中を叩き喝を入れた。
「しっかりせい、堂々とするんじゃまったく……すまんのう、ちと人間と接するのが苦手でのう」
「いや、オレも威圧的な態度だったのかもしれない。敵意もないし怖がらせるつもりもない」
「うーん、でもこれじゃあね…そうだスネーク、これ被ってみたら?」
「ほう、これは良さそうだ」
そう言ってスコーピオンが取り出したのはダンボール箱。
そこから変な空気が流れたが、スネークが嬉しそうにダンボール箱を受け取りその中に入ったところで形容しがたい微妙な空気が辺りを支配する。
「どうだユノちゃん! これなら怖くないでしょ!」
「え? あ、うん……あの、初めまして、ユノって言います。指揮官やってます」
「スネークだ。改めて仲間を助けてくれたことのお礼を言いたい。正直に言っては何だが、我々を助ける義理もなかったはず」
「そんな、目の前で困っている人がいたら助けるのは当たり前です! 一応、助けなきゃと思って…」
「誰もが同じように決められるわけじゃない。君はとても勇気があある、誰も真似出来ることじゃない。本当にありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでです」
お互い素直な気持ちで話しあい、スネークの謝礼の気持ちをユノ指揮官は受け止める。
MSFとグリフィンは敵対関係にあったわけではないが、色々な事情もあってお互い歩み寄れずにいた…それがこんな形で交流を果たせたのは、なんとも素晴らしいことだ。
しかし、真面目なやり取りをダンボール越しにしているという絵面が全てを台無しにしてしまっている…。
「のうMSFのワルサーよ。こう言うのはあまりにも失礼なのは分かっておるのじゃが…MSFには変人が多いのか?」
「ノーコメントで…お願いするわ…」
あっ、と何かを察したナガンはそれ以上追及せずこの微妙な空気の中話し続けるユノとスネークに視線を戻す。
他人と接するのが苦手なのはもう分かり切っていたが、ダンボールを被れば大丈夫なのか…と、ナガンはユノ指揮官を呆れた様子で見つめるが、いたって普通に会話が成立しているのでよいことなのだろう。
さて、そんなわけでお礼と互いの自己紹介を済ませた後、MSF一同はいよいよここから帰る時がやって来た。
リベルタはせっかく友だちになったみんなと別れが寂しいようであるが、また会いにくると約束をする。
「世話になったなみんな! それからマシンガンの戦術人形たちも達者でな!」
キッドはお世話になったみんなに手を振り、最後までマシンガンの人形相手に大興奮の様子。
それをすぐそばで忌々しく見つめていたロリネゲヴ、そんな彼女のすぐそばにこの基地のネゲヴがやって来てそっと耳打ちする。
「あなたなら大丈夫だから。頑張ってね"ちっちゃなネゲヴ"」
「ふん、なんとかするわよ。色々ありがとうね、"おっきなネゲヴ"」
基地にいる間想い人の心をキャッチする手段を学んだロリネゲヴ、超絶鈍感なキッド相手にそれでも不安なものだが貴重な知識を教えてくれたこの基地のネゲヴに感謝するのであった。
さあ、いよいよ基地に帰る時だ…。
ダンボール箱を被ったままのスネークはユノ指揮官と副官ナガンの前にもう一度やってくる。
「本当に世話になったな。MSFはこの恩を忘れない……もし同じ状況にあったらオレたちをいつでも頼ってくれ、いつでも応援に応える準備はしておく」
「心に留めておこう、じゃがそんな事態にならないのがベストじゃな。ほれ、お前も挨拶をせい」
「あの……今日はお会いできてよかったです。うちの子もリベルタちゃんとお友だちになれて、わたしも嬉しかったです。またいつでも、その…遊びに来てくださいね?」
「伝えておこう。本当に世話になったな……達者でな」
スネークはダンボールを被ったまま、器用にヘリに乗り込んでいった。
お互い手を振り合いながら…ヘリは基地を離れあっという間に空の向こうへ飛び立って行くのであった。
賑やかな者が去り、基地にようやくいつもの和やかな様子に戻る。
小さくなっていくヘリを見つめながら、ユノ指揮官は隣に立つナガンにそっとつぶやくのだ。
「おばあちゃん」
「なんじゃ?」
「人間って、いろんな人がいるんだね。ダンボール被る人は初めて見たよ」
「……真似、するんじゃないぞ?」
はい……(笑)
これでいいのか…!?
ダンボール被ってればどうにかなるのか!?
教えてくれナガーーン!
というわけでコラボでした(笑)
本当にありがとう!