METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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山猫とわーちゃんが休みの日

 WA2000は自身の予定表を眺めて呆然としていた。

 ここ最近は部隊の立て直しやビジネスの拡張などでMSFは常に忙しいはずだった。

 エグゼは連日連隊の編成に力を入れて前哨基地の指揮官エイハヴとケンカ寸前になりながらも戦力の増強を図ったり、連隊副官のスコーピオンも一緒になって忙しかったり…MG5、スプリングフィールド、SAA、FALら連隊隷下の大隊長も連動して多忙な毎日を送っている。

 少数精鋭のスペツナズの面子も隠密作戦に従事し、MSFの影の部隊として密かに活躍をしている。

 MSFに志願する人間の兵士や新規製造されたヘイブン・トルーパー兵の訓練、新規加入の戦術人形の受け入れ教育などやることはたくさんあるのだ。

 だというのに…。

 

「一週間も休みがあるなんて…」

 

 戦闘だけでなく、新兵訓練も手掛けて今やMSFになくてはならない存在であるWA2000は急に与えられた一週間もの連休を前にして途方にくれる。

 何かの間違いかとスネークやミラーに問いかければ間違いではないと言われたのだが、一方で彼女率いる小隊"WA小隊"所属の79式、カラビーナ、リベルタなどは個々に任務を受けて今は基地にもいないのだ。

 

 もしもスコーピオンならこんな連休を与えられたら真っ先に一週間何で遊ぶか考えそうなものだが、社畜精s……勤勉なWA2000は休み返上で仕事をこなすことを進言するも、スネークを含め多数の意見を貰い休みを受け入れたのだが…。

 連休一日目にしてWA2000は何もすることがないために、一人部屋で途方にくれていた。

 

 いつも任務に従事し、空いた時間には鍛錬に励んでいただけにWA2000には趣味というものはほとんどなかった。

 先日グリフィンのS09基地所属の"WA2000"をちらっと見たが、あちらは小動物と戯れてウキウキしていたが…生憎MSFのWA2000は犬猫程度では微塵も気持ちは揺るがない、いや、一部の山猫にはメロメロであるが。

 さて何をして時間を潰そうかと思ったWA2000は、部屋の本棚を漁る。

 ほとんど読んで覚えてしまったものばかりだが、唯一読んでいなかったポルトガル語の教本を手に取って読むが半日で読破、しかも覚えてしまった。

 

 仕方なくマザーベースの甲板を散歩していると、今やニートが当たり前の状態になっている404小隊と出くわす。

 甲板上にビーチチェアとパラソルをおいて日向ぼっこしているG11、UMP姉妹も水着姿で呑気に寝ているではないか…唯一真面目っぽい416も最近は開き直っているようで、簡易バーベキューをして楽しんでる。

 装甲人形のジョニーは大きなうちわでUMP姉妹にひたすら静かな風を送っている…。

 

「あらワルサー、今日はお休み?」

 

「急に一週間も休みを貰ったのよ」

 

「へえ、私たちは3か月連休中よ」

 

「死ねばいいのに。あんたらただ飯ぐらいして悪いとか思わないの?」

 

 WA2000のそんな疑問に、ビーチチェアに寝そべるUMP45がサングラスをずらし悪戯っぽく笑いながら言う。

 

「私たちはMSFのマスコットだからね。いるだけで働いてるのよ」

 

「ほんと死ねばいいのに」

 

 それ以上404小隊の面子と絡んでいると頭が痛くなってくる。

 最近はAR小隊もニート勢と化しているのでたちが悪い。

 グリフィンの特殊部隊はニートの素質があるのだろうか?

 日頃のストレスから酒に逃げたM4が酔った勢いで"私は働きたくないんです!"と叫んだのを見た時、もうこの部隊はダメだとWA2000は思うのであった。

 

 

 

 

 マザーベースですることもないWA2000はその後、前哨基地へと訪れる。

 いても結局暇を持て余すだけということで、唯一趣味と呼べる乗馬のために前哨基地の厩舎へとやって来たのだ。

 厩舎と言っても、そこにいるのはWA2000が飼う馬"アンダルシアン"が一頭いるのみだ。

 基本的にWA2000と一部の者以外に気を許さないために、WA2000がアンダルシアンをいつも世話をしている。

 WA2000が近づいてくるのが分かるとアンダルシアンもまたそばに寄っていき、彼女が伸ばした手に自らの顔を擦り付けるのだ。

 汚れのない美しい白毛はとても滑らかで、まるで絹にでも触れているかのような触り心地。

 綺麗なアンダルシアンには不必要かと思えるが、WA2000がブラシをかけてあげると馬は心地よさそうに目を細め穏やかにいなないた。

 

「良い信頼関係だな」

 

 背後からかけられたその声に、WA2000は咄嗟に振り返る。

 そこにいたのはなんとオセロットであり、彼がここに来ることを全く予想していなかったWA2000は驚き戸惑う。

 それをオセロットは何をそんなに驚くのかと言わんばかりの目で一瞥すると、そのままアンダルシアンを見つめる。

 オセロットもまた、この馬が信頼する者のうちの一人である。

 

「最近はあまり面倒を見られなかったから……あまり戦場には連れていけないけれど」

 

「山岳地帯などの道路が舗装されていない環境では、今でも馬の機動力は通用する。車両の進行を阻む悪路も、馬は容易く走破できる。任務の内容によっては十分力になるはずだ」

 

「そうね。だけど私はまだ馬の扱いには不慣れだから、任務には連れていけないわね」

 

「ちょうどいい、なら少し教えてやる。ちょうど手が空いていたところだ」

 

「え?」

 

 オセロットは慣れた様子で馬に鞍を取りつけ、乗馬のための準備を施すと軽い身のこなしで馬の背にまたがって見せた。

 彼の掛け声と共にアンダルシアンは高くいななきながら、鬣を振り上げて走りだす。

 アンダルシアンの蹄は大地を強く打ち、車にも匹敵するほどの速さで大地を駆け抜けると同時に、駿馬の背にまたがる彼のダスターコートが風になびく。

 自分では到底出来ない馬の扱いをするオセロットに、WA2000は目を釘付けにされていた。

 遠くから悠然と戻ってくるオセロットの姿を、彼女は胸に手を当てながらじっと見続ける……そんな彼女に、オセロットは馬上から手を差し伸べる。

 

「コツを教えてやる、乗れ」

 

 その言葉はWA2000の耳には届かなかった。

 美しい白馬にまたがる想い人が馬上から手を差し伸べてくれる…まるでおとぎ話に出てくる王子様とお姫様のような、ロマンチックな気分に酔いかける。

 遠慮がちに伸ばしたWA2000の手を握ったオセロットは、馬上に彼女を引っ張り上げる…オセロットの前にまたがる形となったWA2000はようやく今置かれている状況に意識が追いつき慌て始めるが、無情にもオセロットは馬を走らせたために降りることは出来なくなってしまった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜……マザーベースに帰ってきたWA2000は自室に戻るなり、死んだようにベッドに倒れ伏す。

 ロマンチックだなんだと言ったが、乗馬の練習が始まったとたんオセロットの鬼のような指導が始まったのだ…おかげで足腰に酷い痛みが走り、全身を襲う疲労感も半端ではなかった。

 序盤こそ二人で馬にまたがっているのを見て、周囲はヒューヒューと面白そうにあおりたてていたのだが…スパルタ指導が始まったとたん周囲は改めてオセロットの恐ろしさを目の当たりにし凍りつくのであった。

 まあ、おかげでWA2000の乗馬スキルが磨かれてまた一歩最強の戦術人形に近付いたわけであるが…。

 

「あー………疲れた……お風呂行ってこよ」

 

 重い身体を起こしてとぼとぼと風呂場へと歩いていく。

 しかしその時の風呂場の時間は男性の時間帯、ちょうどそこへやって来たミラーが呑気な笑顔を浮かべてWA2000を風呂場に誘う……もちろん、次の瞬間股間を思い切り蹴り上げられてミラーが死んだのは言うまでもない。

 それはともかくとして、風呂場を封じられたWA2000は少しの時間つぶしにスプリングフィールドのカフェへとやってくる。

 大隊長の仕事が忙しいスプリングフィールドは最近カフェに顔を出せていないが、臨時の従業員としてヘイブン・トルーパー(カフェ店員仕様)とミニチュア月光がいるので常時オープンである。

 が、やはり看板娘のスプリングフィールドがいないと客足は少ないもの…だが静かな空間を好むWA2000にとってはありがたい状況だ。

 

 カフェに入ると彼女の腰丈ほどの大きさのミニチュア月光が走ってきて空いてる席に案内しようとするが、ほとんど空いている席なのでカウンター席を選ぼうとしたところ……なんとそこにいたのはオセロットではないか。

 昼間乗馬の練習でぼろくそに指導された相手の存在に怯むWA2000であったが、そこで疑問が生じる。

 疑問を浮かべたままカウンター席へと歩み寄り、オセロットとは一つ席を開けて座るのであった。

 

「奇遇ね、オセロット…今日はお休みなの?」

 

「そうだ、しばらくの間は休みだ」

 

 少し勇気を振り絞って声をかけてみれば、オセロットはやって来た彼女に大して驚きもせずに言う。

 任務ではお互い一兵士としてのやり取りが行われるが、プライベートとなるとWA2000はいつもいつも緊張感をもって声をかける…それに対しオセロットは仕事の時となんら変わらない態度で接するのだが、そんな不公平感にWA2000は珍しくムッとする。

 

「マスターさん、グリューワインを頂戴」

 

「申し訳ありません、そのお酒は扱っていません」

 

 早々に出鼻をくじかれたWA2000は、仕方なく在庫のワインを頼むが…お世辞にもうまいとは言えないワインを飲み、眉間にしわを寄せた。

 確かこれはミラーが安かったからと大量に仕入れたワインらしいのだが、最悪の年に生産されたワインらしくそういった事情で安価だったらしいが…ミラー曰く酔えれば何でもいいだろうというふざけた理由を言っていた。

 もう一度彼を蹴り上げたい衝動に駆られるWA2000であるが、そこはなんとかこらえる。

 

 さて、そんな風に美味くもないワインを飲んでカウンター席に座っているわけだが…。

 

(なんで…こんなに話しかけてこないのよ…!)

 

 横目でちらっと見れば、オセロットはそこにWA2000などいないかのように悠々とウイスキーを飲んでいるではないか。

 教え子がやって来たのだから会話の一つや二つあってもいいはず、そう思うが会話はさっきの短いやり取りのみである。

 思い通りにいかない憤りに、WA2000は無意識にため息をこぼす…。

 

「何か悩みでもあるのか?」

 

 ため息をこぼした後、そんな彼の声が返ってくる。

 相変わらず彼は正面を向いたままで一度たりともWA2000に目を向けないが、彼の意識は彼女に向けられている。

 願ってもない会話のチャンスだが、その悩みがオセロット絡みであるため言うように言えないもどかしさに頭を抱え込みそうになるWA2000。

 

「特に、悩みはないんだけど…」

 

「そうか」

 

 再び沈黙が訪れる。

 WA2000はせっかくのチャンスを逃した数秒前の自分を殴りたいと思うが……気まずい空気をなんとかしようと音楽をかけてくれるマスターの気遣いが余計に痛い、ミニチュア月光は一心不乱に床の掃除をしている…。

 

「あのさ…!」

 

 これではまずいと思って少し大きな声を出すと、ようやく彼は振り向いた。

 彼の目を真っ直ぐ見つめた瞬間何も言えなくなってしまう…また流されてしまいそうになるのを、なんとか勇気を振り絞る。

 

「あのさ……オセロットは、もしスネークが助けを必要としなくなったら……MSFを出ていくの?」

 

 何故そんな質問をしたのか、自分でも分からない…酔っていたのかもしれない。

 しかしそれは常々WA2000が思っていたことだ。

 オセロットはMSFには欠かせない人物であるが、彼と一緒にMSFにやって来た当初オセロットはこの協力が一時的なものと言っていた…そしてその発言は今日に至るまで修正されていない。

 つまり、彼がMSFに残る理由がなくなれば…彼はいつか出ていってしまうかもしれない。

 それは漠然としたものだが、彼を尊敬しそして好意を抱くWA2000にとってそれはどんなことよりも恐ろしかった。

 

「オレは必要とされる場所にいく、それだけだ」

 

 彼は簡潔にそう述べたが、それだけでWA2000は彼の意思を察する。

 

「そっか…。オセロット、もしもさ……もしもだけど、あなたがMSFを出ていくときは…」

 

「やめておけ」

 

「…え?」

 

「お前が何を言おうとしているかは分かっている。お前は優秀だ、期待のできる教え子だ……だがそれ以上でもそれ以下でもない。お前がどう想い続けようとそれだけは変わらない」

 

「オセロット…私は…」

 

「諜報の世界は、裏切りに満ちている。この仕事で信用していい存在などいない……目的のためならオレは簡単に仲間を見捨てるだろう、例え大切に育てた優秀な教え子であっても、オレは容易く犠牲にするだろう。忠誠や愛情も、オレにとっては仕事をこなすための道具に過ぎない」

 

 すべてを聞いたあと、WA2000は悲し気に目を伏せた…。

 彼の言葉ははっきりとしたものではなかったが、ずっと彼を慕い…愛し続けるWA2000は彼の言葉にのせられている意味を理解することができてしまった。

 

 

「あなたは何度も私を助けてくれた…初めて会った時も、ユーゴでも、あの町でも……あなたの想いが誰に向いているのかくらい分かってるわ。でも、私を助けてくれたのは…全部があの人のためってわけじゃないでしょう?」

 

「お前はMSFにいるべきだろう。ここがお前がいるべき場所だ、そのためにオレはお前に色々なことを教え続けた。これがオレの考えだ」

 

「そう……私ね…あの人とあなたの間になんか私が入り込めないって言うのは、なんとなく分かってた……分かってたつもり。だからね…もしもあなたが2番目に誰かを想う時、私を………なんだろう、今夜はなんかおかしいわね、飲み過ぎたかしら……オセロット、私…もう帰るわね……おやすみなさい、オセロット…」

 

 

 WA2000…彼女はそっと彼に微笑みかけると、店を出ていってしまった。

 再び一人だけとなったオセロットは、ウイスキーのグラスをカウンターに置くと、小さくテーブルを小突く…それを合図としてマスターがウイスキーをグラスに注ぐ。

 ふと、オセロットは先ほどまで彼女が座っていたカウンター席に目を向ける…。

 

 彼女が座っていたカウンター席のテーブルには、滴り落ちた雫が小さな染みを作っていた…。




スコピッピ「くっつけようとしたら気まずくなったんだけど!?」
カラビーナ「このKarの目をもってしてもこれは見抜けなかった!」
79式「センパイ!?」
リベルタドール「………!」


どうしてこうなった……!
この二人をくっつけるのはすげー難易度高いよ!

でもオセロットも大事には想ってるんだよな……想ってるからこそ、自分の後をついて来てほしくはない…かな?

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