METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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マザーベース:ニート卒業計画

 97式とアルケミストの関係は一言で言い表せないものがある。

 アルケミストはかつて親愛なる恩師の死を、全人類とそれに与する者たちのせいにしてどす黒い憎悪をその心に宿していた…数多の敵を憎しみの下に殺戮し、暴力の限りを尽くし、凌辱する。

 そしてその憎悪の報復に晒されて仲間と大切な姉である95式を失い、自身も拷問と虐待を受けて深い傷痕を刻みつけられたのが97式である。

 以来97式はアルケミストの影だけでなく、他人に対しても酷く怯えながら生きてきた。

 ここ最近はマザーベースの仲間たちと、面倒を見てくれるミラーのおかげでなんとか人並みの生活を送れるようにはなっていた。

 

 周囲も事情を知っているために、97式とアルケミストの二人をできるだけ遭遇させないよう配慮をしていたが、いつかは解決しなければならないと思っていたのだが…。

 それは些細な事がきっかけで変化が起きたのだ。

 

 

「むむむ…惜しかった! あと一つでフラッシュだったのに!」

 

「ハハハ、残念だったな。さて、次はあたしが親だな?」

 

 

 丸テーブルを囲む様にして座っているのはミラーと97式、そしてアルケミストとデストロイヤーだ。

 テーブル上にはトランプのカードが置かれており、本格的なポーカーを楽しんでいる様子。

 97式とアルケミストが一緒にいて、自然な様子で一緒に遊んでいる……これを見ればお互いの事情を知る者からしたらありえない光景に映ることだろう。

 97式の保護者的な立場であるミラーも自然な笑顔を浮かべており、この交流が仕組まれた芝居ではないことが伺える。

 

 さて、この二人がいかに和解したかというと…最初に接近をしてきたのはアルケミストの方だ。

 無論97式はパニックに陥りトラの蘭々が殺意に満ちた様子で威嚇していたのだが、アルケミストはまず最初に深く謝罪をし…それからお互いのことをもっと知ろうと提案をしてきたのだ。

 それはアルケミストなりの譲歩と、このマザーベースで暮らしていくという意思の表れであった。

 ミラーの後ろに隠れながらの会話であったが、二人はお互いをさらけ出して話しあい……話題が麻雀になると両者とも出来るということで盛り上がり、それなら一緒に麻雀をやろうという会話に繋がったのだ。

 しかし残念ながらマザーベースに麻雀の道具はなく、仕方なくトランプのポーカーをやろうということになったのだった。

 

「4人でやるのもいいけど、あと一人か二人くらいいたらもっと楽しそうだよね」

 

 そんなことを言って見せるのはデストロイヤーであり、勝率は最下位。

 とは言ってもデストロイヤーも勝つことはあるのでいかさまの類は今のところない…あと誰かいないかと捜しているとちょうどそこへやって来たのは、マザーベースの求人広告(?)を手にふらふら歩くM16だ。

 求人広告を持っている辺り働く気はあるように見えるが、片手にはウイスキーのボトルが握られているので本当に働く気があるのかは甚だ疑問だ。

 

「よぉM16、お前も少し遊んでかないか?」

 

 アルケミストの誘いに二つ返事で彼女は応じる…どうやら仕事を探してるふりしてただけで、働く意思はさらさらなかったようだ。

 というわけで始まった5人のポーカーゲーム。

 ワイワイと和やかなムードで始まったゲームは、なんとM16が圧倒的な引き運の強さを見せつける。

 

「ほう、M16はポーカーも強いんだな」

 

「AR小隊でたまにやりますからね、でも副司令さんもなかなかですよ?」

 

「なるほどね……なあ副司令、そろそろウォーミングアップも済んだことだろうし、本気モードでやらないか?」

 

「本気モード?」

 

 はて、とM16が疑問を浮かべると、他の4人の目つきが一斉に変わる。

 具体的には、先ほどまでただゲームに興じていただけなのが、狩るか狩られるかの狩猟者の如き目と態度に早変わりするのだ…あまりの雰囲気の変わり様にM16は呆気にとられる。

 ほのぼのしているデストロイヤーや97式でさえも、獰猛な笑みを浮かべているのだから…。

 

「さっきまでのは子どものお遊び、失う物もない幼稚な遊びさ……ここからが本気の勝負さ、金をかけた本気のポーカーだよ」

 

「待て待て! 金をかけるったって…私には借金しかないぞ!?」

 

「無いなら借りればいいじゃないか。それで勝てばお前は借りた分と、積み重なった借金を返せるんだからな。そうだろう副司令?」

 

「そうだな…オレもそれなりにギャンブルは好きだからな。まあ、いいチャンスじゃないかM16? 勝てば一気に借金を返せるんだからな!」

 

「だが、ギャンブルで借金を返すのは…」

 

「勝てばいいんだよ、なあ? どうするんだ、やるのかやらないのか? 一攫千金、ドーンと稼いだ方が気持ちが良いだろう?」

 

「一理あるな…受けて立とう!」

 

「決まりだな。ほらよ、チップだ。これがお前の…財産だ」

 

 テーブル上に現われたチップ。

 まあ流石に数百万規模のチップではないが、ミラーは私的の資金を97式と共有し、アルケミストとデストロイヤーは鉄血がまともな企業だったころに稼いでいた資金を持っているため何気に財力はあったりする。

 とりあえず無一文のM16には10万GMPもの資金がアルケミストから貸し与えられるが…目の前の大金にM16はごくりと唾を飲む。

 一応無利子、返済期限なしだが…。

 

「じゃあ私が最初に親やるね!」

 

「あ、あぁ…」

 

 親をつとめるデストロイヤーがカードをシャッフルし、それぞれに一枚ずつ…計5枚を配る。

 ルールは基本的に一般のポーカーと同じであるが、ここでのポーカーは親と子の対決だ…親の手札に対し子は戦いを挑み、勝つことができれば子は親が張ったチップを獲得できる。

 逆に、親は子役全員を相手にするため運が悪ければ全員に負けてチップを払わなければならないが、自分の手札が一番強ければ子が張ったベット額を全て獲得できるのだ。

 デメリットはあるが、メリットも大きい…それが親役の醍醐味である。

 

 ゲームはいたってシンプル。

 配られた手札に気に入らないカードがあればカードを捨て、捨てた枚数だけのカードを引く。

 それで手札の役の強さを競うというもの。

 あとはベット額を調整するのだ。

 

「さてと、みんな準備はいいよね?」

 

 デストロイヤーが周囲を確認すると、一人M16だけが手札をじっと見つめ固まっている。

 先ほどまでは余裕に勝利をおさめていたが、金をかけるという状況が彼女のメンタルを乱し始める…M16はゲームが始まる前にのみ込まれていた。

 そんな彼女にデストロイヤーはニヤリと笑い、ゲームを開始する。

 独特な緊張感の中始まったポーカー、M16は参加費の5千チップを場に置くと不要なカードを捨てカードを引く。

 

(♦5、♥K、♣8、♥5、♠A…ワンペアか)

 

 M16はチラリと周囲を見回すが、みんな楽し気な表情で手札を見ているのみでそこから手札の強さを探ることは難しい。

 さて、次は対決に繋がる腹の探り合い…もしも自分の手札が強いのであればベットし、弱いと思うなら降りる。

 上限は5万、その間なら好きなようにベットし上限に行かずともお互いが納得すればそこで勝負する。

 

「よし、1万ベットするよ」

 

 デストロイヤーが場にチップを追加した時、アルケミストは口笛を鳴らしミラーと97式はわずかに唸った…M16は冷や汗をかく。

 ベット額は参加費の5千と合わせれば1万5千…いきなりの高額にM16は固まるが、どうやら彼女たちには普通なようで飄々としている。

 

「うー…あたし降りる」

 

 97式は手札を捨ててゲームを降り(フォールドし)、参加費の5千チップを親に献上する。

 勝負しようがしまいが、降りれば参加費の5千は確実に失うのだ……アルケミストとミラーはデストロイヤーのベット額に同額をかける(コールする)

 

(ワンペア、特別に強いわけではないが…! さっきまでのゲームではワンペアでも勝率は高い、勝てる…勝てるはずだ…! いや、だが負ければ一気に失うぞ!?)

 

「おーいM16、コールするの? それともフォールドする?」

 

「こ、コールだ…」

 

 震える手で、M16はデストロイヤーが張った同額をコールする。

 冷や汗を流し目が泳ぐ、ニヤニヤと見つめてくるアルケミストの視線など気にならないくらいの緊張感だ…そして対決の時、一斉にそれぞれが手札を公開する。

 

 デストロイヤーの手札はハイカードのK、アルケミストとミラーも同じくハイカードのようでデストロイヤーに負けるが……この場で一番強い役のM16に対し、デストロイヤーがベットしていた1万5千チップが与えられる。

 

「へぇ、強いじゃんM16!」

 

「ま、まあな…」

 

「でも、勝負はこれからだよ! 次の親は97式だね!」

 

 カードが全て集められ、次の親である97式に手渡される。

 後の流れは同じだ…。

 その後はM16はなんとか手札と場の流れを読み込み、時折負けることもあったが引き運の強さで負け額を打ち消し所持金を倍に増やすことに成功したのだった。

 そして回ってくる親の番、この頃になると慣れてきたのかM16にも余裕の表情が浮かぶ。

 しかし、悲劇はそこからだった…。

 

「ああそうだ、言い忘れてたが親は勝負から降りられないんだ。あと一部の役は掛け金が倍増する…一番倍率が大きいのはロイヤルストレートフラッシュで10倍だ」

 

「そうか、だがそんな札は出ないよな?」

 

「さあ、どうだろうね? 勝負は分からないんだぜ?」

 

 いや、空気の流れは自分にある、そう信じて引いたカードでM16は"♥A、♥K、♥10、♥7、♥2"のフラッシュを作り上げる。

 今までにない手札の強さに歓喜が表情に出てしまうのをなんとか押さえ込む。

 

「さて、ベットは…」

 

 言い切る前に、アルケミストは上限額の10万をベットした。

 唖然としていると、他の者たちも同額をベッドしてきたではないか。

 

「言っただろM16、親は降りれないんだぜ?」

 

「くっ…何を考えている!?」

 

「なに、いたって普通のポーカーさ。ここが勝負時って奴だと思ってね」

 

「お前たち、まさか私が親役になるのを待って!?」

 

「何言ってるの? いいからベットしなよ」

 

 全員がニヤリと笑みを浮かべ、M16を見据えている。

 渋々同額をベットし、手札を公開する…それに対し、子役の彼女たちはわざとらしく一人ずつ手札を公開していくのだ。

 

「あーんもう、あたし負けちゃったよ!」

 

 97式が公開した手札はスリー・オブ・ア・カインド。

 先ほどまでなら強い札であっただろうが、今回は辛くもM16が勝利する…ホッとするM16であるが、次に公開したデストロイヤーとアルケミストの手札に青ざめる。

 

「見て恐れおののけ! これがあたしら鉄血ツインズの切り札フルハウス(アイアンストーム)だ!」

 

「ぐふっ!?」

 

 二人が同時に公開した手札はフルハウス…M16のフラッシュを超える役に加え、特殊役ということで掛け金2倍のおまけつき。

 鉄血ツインズの同時攻撃を受けたM16は謎のダメージを受け吐血した!

 先ほど97式から勝ち取った10万を合わせてもM16の所持額は一発で消しとび、むしろマイナス10万もの負債をおう。

 

「な、なんてことだ…!」

 

「フッ…衝撃を受けるのはまだまだこれからだぞ?」

 

「ミラー副司令…!」

 

「括目せよ!オレの最強の手札を! ロイヤルストレートフラシュ(アウターヘブン)!」

 

「うわああぁぁぁぁっ!!」

 

 ミラーが放った最強の手札に、謎の衝撃破を受けてM16は吹き飛ばされる。

 この時点でミラーが張った10万ベッドにロイヤルストレートフラシュの10倍効果でM16の損害は110万となる。

 恐ろしい威力にM16は血反吐を吐きながら、なんとか椅子にしがみつく…。

 鉄血とミラーの圧倒的な連携の前に大敗を喫したM16、しかし…。

 

 

「まだだ…! まだ終わってない…!」

 

「ほう、まだ闘志衰えずか…いいだろう!」

 

「こうなればとことんまでやってやる! ちょっと待ってろ、M4を呼んでくるからな! 私と妹のチームワークで勝利して見せる!」

 

「いいだろう、このカズヒラ・ミラー逃げも隠れもせん!」

 

 一度その場は休憩し、M16は助っ人として妹のM4が参戦する。

 M4は姉の借金をギャンブルで返そうとする魂胆に当初ブチギレたが、なんだかんだ説得されて自分もそのギャンブルに参加してしまうのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、そこには酷く身体を痛めつけられて伸びるミラー。

 揃って頭にたんこぶを作り正座する他のメンバーがいた……彼女たちの前には、腕を組み鬼のような形相のビッグボスとオセロットがたたずむ。

 マザーベースで逆らってはいけない二人に睨まれて、一同は震えあがる。

 ちなみに、アルケミストは早々に逃げた…。

 

「お前たち、少しはモラルというものをだな…」

 

「ボス、逃げたアルケミストの捜索の許可を。新しい拷問を試してみたい」

 

「この通り、オレもオセロットも怒っている。仲間内で金をかけたギャンブルなどもってのほかだ……後で相応の処罰を下す、自室で待機していろ。以上だ…それとM4とM16はこの場に残れ」

 

 AR小隊の二人はその場に残り、デストロイヤーと97式は逃げるようにその場を立ち去るのであった。

 残された二人はまだ怒られるのではとびくびくしているが、そんな二人をスネークは糧食班の棟へと連れていく。

 糧食班と言えばMSFの食事を開発するところ、そしてスネークがなんでも食べる悪食癖があるのは周知のこと…まさか戦術人形を使った料理レシピの材料にされるのではと二人は恐々としていたが、二人が連れてこられたのは糧食班の厨房だ。

 

「二人とも、あれを見ろ」

 

 スネークが指さした先には、厨房の台所でせっせと皿洗いをしているSOPⅡの姿があるではないか。

 夕食時が過ぎ、次から次へと運ばれてくる食器やトレーを一生懸命に洗っている…。

 

「SOPⅡ…何を…」

 

「あの子は自分が何か出来ることは無いかって、スタッフに相談したらしい…それでいくつか仕事を試させて、今はああして仕事をしているんだ。少しでも借金を返そうと、姉の二人を助けようとな……」

 

「SOPⅡ…!」

 

 厨房に駆けつけようとするM16を、スネークは止める。

 

「今行ってどうする? あの子に慰めて欲しいか? いいや、今のお前たちではあの子に甘える資格はない……お前たちはあの子の姉だ、姉ならばまずすべきことは何か分かるはずだ」

 

「………」

 

「お前たちがどう思っていようが、ここにいる間はオレたちの仲間だ。そして仲間なら、オレたちは正しく導く義務がある……M4、M16、姉として立派な姿をあの子に見せてやれ。それが、お前たち自身のためにもなるんだ……出来るな?」

 

「分かった、分かったよ…ビッグボス」

 

「はい…」

 

「よし、あとは任せても大丈夫だな? グリフィン人形の根性をオレたちに見せてくれ」

 

 スネークの言葉に、二人は力強く頷くのであった。




糧食班A「SOPちゃん、新商品できたから食べて!」
SOPⅡ「おいしい~!」
糧食班B「あーもう可愛い! 新商品のおやつもあげちゃう!」
SOPⅡ「あま~い!」
糧食班C「新型レーションも試食して!」
SOPⅡ「うわ~い!」
糧食班D「わさびマシマシ地獄寿司をだな」
糧食班ABC「おう、表出ろや」

SOPⅡは個性(ニート)を活かして試食係の職に付けたようやね()


さて、AR小隊の脱ニート回。
これだけやってニートだったら、AR小隊もう見捨てていいと思う。


※97式とアルケミストの落としどころはこれで勘弁してくれ…シリアス疲れる…。

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