METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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マザーベース:特別な想い

 AR小隊が働き始めた。

 

 そのニュースはマザーベース中にかつてない衝撃を与え、マザーベース中の海鳥があまりのショックに墜落した…などという面白展開などはなく、ほとんどのスタッフは働き始めたM4とM16の姿を微笑ましく見守っていた。

 M4はなんでもそつなくこなすために助けを求めるスタッフたちのところに手伝いに行き、何でも屋のような仕事を行っている…故障した機械の修理、銃のメンテナンス、物資の運搬などなど。

 そしてM16はその豊富な経験を活かし、MSFの兵士たちへの戦術教練をこなす…酒やギャンブルに興じていた頃は分からなかったが、一応グリフィンのエリート部隊に所属する彼女は教え方も上手で教練を受ける兵士には好評であった。

 いままで一人働いていたSOPⅡもこれには大喜び。

 SOPⅡは糧食班の仕事を手伝い、様々な試作品の開発に協力していた。

 三人が真面目に働けば、元々大した額でもない借金であったためすぐに返済することも可能だろう。

 

さて、そんな風に彼女たちが真面目に働こうとすれば邪魔しようと企む者が現れる…エグゼだ。

 

 

「おうおう、ニート小隊の隊長さんもいよいよ仕事するってか? 仕事斡旋してやろうか? 前哨基地のトイレ掃除だ、お望みならトイレが居心地よくなるまで掃除させてやるぜ?」

 

 黙々と銃のメンテナンスを行うM4に対し、挑発的な言動を仕掛ける姿はあまりにも大人げないと言わざるを得ない。

 あれこれM4が癪に障るような話題を吹っかけておき、M4もイライラしているのが見て取れるが…。

 

(SOPⅡのため、SOPⅡのため…! M16姉さんと約束したんだから…!)

 

 自分たちが働かずに借金を増やしていた間にも、SOPⅡは少しでも借金を返済しようと皿洗いのお仕事をしてくれていた…それに気付かず毎日酒飲みをしていたり不毛な争いに興じていたM4とM16は罪悪感を感じ、心を改めたのだ。

 真面目に働いて、一日でも早く借金を返済してグリフィンに堂々と帰るのだ。

 

 しかしそんな決意も、目の前で挑発してくるエグゼの前には揺らぎを見せる。

 エグゼは本当にM4を苛立たせるのが得意だ…さすがにデリケートな話題には踏み込むまではしないが、子どもじみた挑発がなんとも腹立たしい。

 無視を決め込むM4であるが、エグゼはよくも飽きずに彼女をからかい続ける。

 

 まあそんな風に他人にちょっかいをかけてれば罰が下るもので、ちょうどその場面を見かけたハンターが背後からエグゼの後頭部を蹴飛ばした。

 

「このバカ者が! まったくガキか!? 大丈夫かM4、このアホには―――」

 

「いてぇだろこの野郎!」

 

 エグゼが反撃したことで始まるハンターとの取っ組み合いのケンカ……ケンカに巻き込まれてメンテナンスをしていた銃が蹴散らされてしまい、ついにM4もキレて取っ組み合いに参加するのだった。

 三人の不毛な争いを止めようとアルケミスト、スコーピオン、FAL、MG5などが仲裁に入ろうとするが巻き込まれて大乱闘……結局、散々暴れてすっきりした後スコーピオンの提案で飲み会が始まり、酒飲みとなればほいほいM16もやってくる。

 なかなか思うように行かないものだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いててて……ったく、ハンターのやつめ、遠慮ってもんを知らねえ」

 

「フフ、結構暴れたみたいだね。ほら、動かないでじっとしててよ」

 

 AR小隊と酒なんか飲めるか! と怒鳴って飲み会を飛び出してきたエグゼは今、マザーベースの甲板にあぐらをかいてたそがれている。

 その隣にはUMP45の姿があり、手元に置いた救急キットでエグゼの擦り傷に消毒液を塗ったりと治療を行っていた。

 

「というか、いつまでAR小隊とケンカしてるつもり?」

 

「オレあいつら嫌いだもんな。まったく、さっさと借金返してグリフィンに帰ればいいのによ……つーかお前いつになったら働くんだよ?」

 

「ん~?」

 

「いつになったら働くかって聞いてんだよ。あのAR小隊のアホどもが働き始まって、404小隊がいつまでもニートってかっこがつかないだろ?」

 

「あらエグゼ、私たちの心配をしてくれるの?」

 

「違うわ! いでっ!」

 

「あーもう、急に動くから…じっとしててよね」

 

 擦り傷に消毒液を塗られるのをエグゼは嫌がるが、それをなんとかなだめて治療を施す。

 M4への怨みの言葉でエグゼは夢中だが、大好きなエグゼのケガを治療しているUMP45はとても満たされた様子で、慈愛の表情を浮かべている。

 

「そういや最近他の奴ら見ないな。何やってんだ?」

 

「えっとね、9はよく97式と一緒に蘭々の散歩してるでしょ? G11はいつも寝てるし、416はなんだっけ……食堂でレーションを食べる仕事してるよ」

 

「ようするに全員ニートじゃねえか! まったく勘弁してくれよな…」

 

「あら、でもただ飯ぐらいじゃないわよ? グリフィン相手に稼いだお金がたくさんあるし、生活費はちゃんと払ってるもの。それなら文句はないでしょ?」

 

「そういう問題じゃねえだろ? お前らが金は払ってるって言っても、他人はぐーたらしてるお前らしか見ない。何も知らねえ新参者に、お前らをただの怠け者って思われたくねえんだよ」

 

「エグゼ……嬉しいな、そう言ってくれると。だからって働かないけどね?」

 

「このやろう」

 

 変わらないニート宣言をするUMP45の肩を軽く小突いて笑う。

 他愛のないやり取りだ……しかしそんな他愛のないやり取りに幸せを感じているUMP45がいる。

 あの日マザーベースを出る際にエグゼに初めて受け入れられ、そしてあの無人地帯の戦場でエグゼの熱い想いをその身で感じ取ってから…もうここが自分の居場所なんだと彼女は決めた。

 嘘ばかりつき他人を利用し生きてきた自分を迎え入れてくれたエグゼが、たまらなく愛おしい…隣で笑うエグゼの横顔を見つめるUMP45の表情は、恋する乙女そのものだ。

 

「ねえエグゼ、これから一緒に飲まない?」

 

「ああ? いまからか? これから基地に戻ってなんかしようと思ったんだけどな…」

 

「ダメ……かな?」

 

「うっ…」

 

 やんわりと断ろうとしたエグゼであるが、潤んだ瞳で見上げてくるUMP45に怯む。

 まあ、先ほどはAR小隊がいたせいでロクに酒も飲めなかったため折角だからとエグゼはその誘いに応じるのであった。

 UMP45は嬉しそうに微笑むと、既に用意していたクーラーボックスからよく冷えた缶ビールをエグゼに渡すのであった。

 

「あー…うまい、M4のアホと飲まないだけでこんなに酒が美味いなんてな」

 

「もう、エグゼってばどんだけM4の事が嫌いなのよ」

 

「嫌いじゃねえよ……大ッッ嫌いなんだよ。やめやめ、せっかくの酒が不味くなる」

 

「今日は楽しく飲みましょ」

 

 クーラーボックスの中にはまだまだたくさんのお酒が入れられている、今日はとことん飲みたいようだ…とは言ってもスペツナズのアルコール中毒者どもとは違い、飲んだ量で競うような酒飲みではなく、まったりと酔いしれる穏やかな酒の交流だ。

 いつしか太陽が傾き、西の空に真っ赤な夕陽が沈んでいく。

 普段はスタッフが行きかう甲板もその時はまばらで、二人は静かに沈む夕陽を眺めていた。

 

 話題が尽き、静かに酒を飲んでいた時、エグゼはふとした疑問をこぼすのであった。

 

 

「45お前さ…なんでオレに惚れたの?」

 

「え…? えぇ!?」

 

 

 唐突なエグゼの質問にそれまで穏やかな気持ちでいたUMP45は焦りだす。

 

 

「なんでって…というか、それ聞いちゃう?」

 

「いや、別に言いたくねえならいいけど…」

 

「言いたくないわけじゃないけど…うぅ……エグゼはその、こんな私を初めて本気で受け入れてくれたし…」

 

「それ言ったらスコーピオンとかスプリングフィールドとか、最初に受け入れてくれた奴はいるだろ?」

 

「そうだけど…でも、あの時あなたに殴られたとき分かったのよ。私に本気で接してくれるのはあなただけだって」

 

「殴られてそんな風に思うとか…もしかしてマゾ?」

 

「違うわよ! もう…あんまりからかわないでよ……」

 

 冗談だと笑い飛ばすエグゼであるが、急にこんな話題を振られたUMP45は急にしおらしくなってしまった。

 バーベキューの時は勢いのままエグゼにキスをしてしまったが、今あの時の勢いを再現して見せろというのはとても無理な話である。

 

「エグゼだって、スネークに一途なんでしょ? だったら私の気持ちも分かってよ…」

 

「オレがスネークに一途だってしって、お前もよく諦めないもんだな?」

 

「だって…好きになっちゃったんだもん、しょうがないじゃない…」

 

「まあな……でも、オレのスネークに対する想いはちょっと違う。一度殺し合いをした間柄だ……簡単には説明できない想いがあるわけさ。なによりオレは、あいつに命を貰った」

 

「命…?」

 

「生死をかけた闘争、やるかやられるかの極限の死闘の最中に感じたあの生の充足…今でもあの感覚だけは忘れられない。あいつとやり合った時に、オレはこの世に生きているんだと実感したんだ。言葉で表現できるほど簡単なもんじゃない、だがシンプルなものだ」

 

 スネークとエグゼとの凄絶な殺し合いを知るものはMSFの初期からいるスタッフと人形しか知らないことだ。

 UMP45もこのことは知っていても、聞いただけの知識でしかない。

 和気藹々としているが、かつてエグゼとMSFは敵対して凄まじい抗争を繰り広げたことを誰が想像出来るだろうか…。

 納得はしていないが、特別な想いを口にするエグゼの気持ちにはどれだけ手を伸ばそうとも届かない気がしていたが…。

 

「だから、諦めろって?」

 

「そうじゃない、覚悟しろってことだ。オレの気持ちを分かった上で惚れてるって言うなら好きにしな、お前の想いを否定するつもりはねえよ」

 

「なんか複雑ね……」

 

「おいおい、いつもの調子はどうした? 腹の底まで黒いはずだろう」

 

「うるさいわね…そろそろ寒くなってきた…っと」

 

 肌寒くなってきたところでこの飲みはお開き、そう思い立ち上がったUMP45の足元がふらつく。

 少し飲み過ぎたらしい、ふらついた足取りの彼女をエグゼが受け止める。

 

「おい大丈夫か? たいして強く無い癖に飲むから」

 

「別にいいじゃないのよ」

 

「送ってくか?」

 

「一人で帰れるわよ…」

 

「この間酔っぱらったスタッフが甲板から落ちる事故があったろ? 送ってくよ…」

 

「もう…あんまり優しくしないでよ……ますますあなたに夢中になっちゃうでしょう…?」

 

 自身より背の高いエグゼに肩を抱きとめられるUMP45、紅潮した頬の色はお酒のせいかあるいは…。

 酔ったUMP45はこれ見よがしにキスをねだってみるも、エグゼに人差し指で唇を抑え込まれてしまう……その後は諦めて、エグゼの腕に自分の腕を絡めて自室までの道のりをゆっくり歩いていくのであった…。




はい…(憤怒)


しかしくっつかねえな……こんなラブコメしてるけど、どっちも片想いなんやで(錯乱)

エグゼを改めて考えた時、こいつも平和に馴染めない存在なんだよね。
戦争があるからこそ平和のありがたみがあるって、エグゼはガチで思ってそう。

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